窓の外がうっすらと白みはじめ、森の梢を抜ける風がさわさわと葉を揺らしている。小屋の中はまだ深い静けさをたたえており、木の壁からはかすかに甘い香りが立ちのぼっていた。 夜が残した気配を朝が一枚ずつ剥がしながら光に溶かしてゆく。 リノアはゆっくりとまぶたを開けた。 聞こえるのは、自分の呼吸──それだけ。 しばらく天井を見つめてから、ゆっくりと身を起こした。 肩を包んでいた薄いブランケットがふわりと滑り落ち、朝の冷たい空気が素肌を撫でる。その感触が夢の名残を静かに追いやっていった。 小屋の隅に置いた荷袋の横に、昨日、ルシアンから受け取ったあの石がひっそりと佇んでいる。 その透明に近い表皮の内側で朝の光と戯れながら、ゆらゆらと揺れる霧の粒。ほのかなゆらめきが空間に溶けていく様は、言葉にならない何かを語ろうとしているかのようだった。 リノアはそっと手を伸ばして石に触れた。 冷たい――けれど、どこか懐かしいような、馴染んだ触感。遠い昔からここにあるものに、ようやく手が届いたような不思議な感覚がする。 目覚めと共に胸の奥に芽吹いた緊張が、ゆっくりと形を持ち始めていった。──これから、この島は私たちに一体、何を語るのだろう。 リノアは息を整えて、小屋の扉へと歩を進めた。扉の向こうには、まだ見ぬ朝の世界が広がっている。 すべては、ここから始まるのだ。 リノアは扉をそっと開けた。冷えた空気が頬をかすめる。 焚き火の跡に腰を下ろしていたエレナが振り返った。長い髪が朝の風に揺れ、その表情にはどこか思案の色が滲んでいた。「おはよう、リノア。昨日はゆっくり眠れた?」 その問いかけは柔らかいが、目の奥にはわずかな翳りがある。 リノアは頷き、エレナの隣に腰を下ろした。「うん。……だけど、少しだけ胸がざわつくかな」「私も。理由はよく分からないけど、不意に胸の奥が痛むような……そんな感じがする」 エレナは視線を火の消えた灰へと戻した。 言葉は少ないが、ふたりの心には何か共通するものが芽生えている。「これが関係してるのかな」 リノアはそっとポケットからあの石を取り出した。 霧を閉じ込めた不思議な石──「見たことはないはずなのに……どこか、懐かしい感じがするの」 鳥のさえずりが静寂を破り、遠くで梢をゆらす音と重なる。 地に足を着けているはずなのに、
Last Updated : 2025-06-20 Read more