「祭りでもないのに、いつもこんなに賑やかなんだね」 リノアは目を輝かせながら言った。 アークセリアの空気は森の静けさを引き継ぎつつ、街の活気を帯びている。 三人は互いに視線を交わし、城門をくぐった。 街の活気が三人を包み込む── 石畳の道には行き交う人々の足音が響き、店先では朝の仕込みを進める商人たちの威勢のいい声が飛び交っている。 遠くからかすかに流れる楽器の調べが、アークセリア特有の文化を感じさせる。クローブ村や周囲の村々では聴くことのない音楽だ。 使っている楽器も異なるのだろう。音に粗さが見当たらない。その洗練された音色は単音でも心の奥底にまで響いてくるかのようだ。 各地から集まる旅人や学者、そして職人たちが新しい技術や思想を持ち込み、それがさらに磨かれて発展していく。 きっと市場では異国の言葉が飛び交い、広場では詩人が新しい作品を披露し、劇場では見たこともない舞台が繰り広げられているのだろう。そうした文化の交流が日常の一部として息づいているに違いない。 この街は単なる交易地ではない。芸術と知識が螺旋のように交差する場所なのだ。 リノアはゆっくりと息をつき、耳を澄ました。 今、聴こえているこの音楽も、きっとどこか遠い地から伝わり、アークセリアで磨かれたことで、ここでしか味わえない特別なものへと昇華されたのだ。「こっちです」 セラが軽やかな足取りで路地へ入っていく。「いつも泊まっている宿に行きましょう」 セラに促されるように、リノアとエレナも後に続いた。 石畳の隙間から草が顔を覗かせ、古びた建物の壁に陽の光が柔らかく降り注いでいる。 広い通りとは異なる光景に、二人は心を奪われた。 路地の内部には時の流れがそのまま残されている。 壁に刻まれた古い文字や、かすかに色褪せた看板の装飾── 年月を重ねたレンガは所々補修されながらも、その質感にはかつての職人の手仕事が息づいている。積み重ねられた記憶まで消えてはいない。 リノアはゆっくりと歩を進めながら、周囲を見渡した。 路地に足を踏み入れる前は、アークセリアの活気にばかり気を取られていた。 市場の賑わい、交わる異国の言葉、芸術に満ちた広場── けれど、この静かな一角には、それとは違う魅力が息づいていた。喧騒から少し離れたこの場所に歴史が残されている。 リノアは路地の両側
Last Updated : 2025-06-02 Read more