「私が何とかしなければ……」 アリシアは震える声で呟いた。──セラの鉱石では、もう追いつかない。 喰い花の中心から噴き上がった毒の霧が、まるで生き物のように広場を覆い尽くしていく。 黒紫色の波がゆっくりと、しかし確実に地面を這い、逃げ場のない壁となって町民たちを包囲していった。空気は重く淀み、喉を刺すような痛みと共に、視界がじわじわと霞んでいく。 逃げ場のない障壁、複雑に絡み合う蔦── 誰かが転び、誰かが叫び、誰かが泣き崩れる。──このままでは、全員が毒に侵されてしまう。 アリシアはゆっくりと身体を起こし、ふらつく足で前に進んだ。胸元にしっかりと鉱石を抱きしめたまま── 倒れている町民たちが目に入り、アリシアの肩を小さく震わせた。過去の記憶が脳裏をよぎり、思わず立ち止まりそうになる。 幼い頃、アリシアは戦争の中で多くの苦しみを目の当たりにした。 瓦礫の中で倒れていた人たちの姿、助けを求めて差し伸べられた手、途方に暮れた表情。それらは今でもアリシアの記憶に深く刻まれている。 あの時の私には何もできなかった。その無力さが今も胸の奥を締め付ける。──私が皆を救わなければ。 そんな思いがアリシアの胸の内に湧き起こった。 アリシアは必死に前を向こうと、唇を固く結んだ。目の前の現実から目を逸らすことはできない。「アリシア、どこに行くの?」 セラの声が背後から届いた。 しかしアリシアには、その声が聞こえなかった。意識のすべてが、目の前で倒れている町民たちに注がれている。セラの声は遠くで風にかき消されるように薄れていき、アリシアの世界から切り離された。 今のアリシアには、助けを求める町民たち以外のすべてが霞んで見えている。 心の奥で動揺が渦巻く中、自分にできること──それだけを何度も胸の中で繰り返し思い描いていた。 今、ここでじっとしていても、状況は何も変わらない。自分が動かなければ、誰も救えない── そんな思いを込めながら、アリシアは崩れた瓦礫と倒れた人々の間を進んで行った。──絶対に誰も失わせない。 胸の奥でそう強く願い、アリシアは今、自分にできることを必死で考えた。 アリシアの手のひらに包まれた鉱石がアリシアの想いと共鳴するように、じんわりと温もりを帯び始める。 鉱石の奥に微かな光── 淡い輝きがアリシアの周囲を包み始め、
Last Updated : 2025-10-12 Read more