大体のことの成り行きを説明すると、なんとなくそれだけで少しほっとしてしまってつい深いため息が落ちた。一瀬さんに話したからって、どうにかなるわけではないのだけれど、ただ話すことで感情の折り合いをつけたかった。「次、娘さんが来られたらありのまま伝えるしかないですね」「……そう、ですよね」「貴女の責任ではないでしょう。家族の問題にまで深入りは出来ませんよ」「はい……」一瀬さんの言うことは、もっともだ。わかってるのに、ついつい、首を突っ込んでしまいそうになる理由はなんだろう。あの女性に対しても、親近感が湧くというか、つい応援したくなるというか。黙り込んだ私を心配してか、信号待ちで一瀬さんが少しハンドルに凭れ掛かり様子を窺うように私の顔を覗き込む。「咎めているわけではないですよ? 貴女が自分を責めることはないということです」少し、目尻が下がってる。心配してくれているのだと思うと、嬉しくて口元が緩んだ。「大丈夫です、わかってます」「なら、良いですが。私はいつも、言葉が足りない気がして」と、少し意外な言葉が付け加えられて、驚いて目を瞬く。そんなことを気にしているとは、思ったこともなかったから。「そんなことは、ないです」本当は、今の私達の関係の曖昧さに関して言えば、確かに、もっと言葉が欲しいと思う。だけど、言葉で欲しいと伝えて、無理に聞きたいわけでもない。それに、それ以外の事柄で言えば、一瀬さんの表情の変化は確かに乏しいけれど、私はわかる。出会ったばかりの頃は、確かにいつも不機嫌そうに見えて、あまり話してもくれないし怖かったけれど。あれからもう、四年近く経つのだろうか。そういえば、あの見るからに不機嫌そうな最初の印象といい、清瀬さんは一瀬さんと少し印象が似ている。思い出してクスクス笑っていると、むす、と今度は確かに不機嫌な声が返ってきた。「……そんなにおかしいですか」「あ、いえ。すみません、おかしい、というか、少し似てるんです」「似てる?」「清瀬さんと、一瀬さんが。初対面の時の雰囲気とか」私がそう言うと、なぜだか彼は少し複雑そうな、困惑気味の横顔を見せた。「そんなに似てますか」「いえ、私がちらっと思っただけですけど……結構、素敵な方ですよ?」何か失礼な言い方をしただろうかと、慌てて取り繕ったような言い訳をしてしまう。
Huling Na-update : 2025-08-27 Magbasa pa