君と花を愛でながらー消えない想いを胸に閉じ込め、私はそっと春を待つー

君と花を愛でながらー消えない想いを胸に閉じ込め、私はそっと春を待つー

last updateLast Updated : 2025-08-27
By:  砂原雑音Ongoing
Language: Japanese
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受験の失敗で自分に自信が持てず、閉じこもりがちだった綾。 そんな綾が再び外の世界に目を向けたのは、通りすがりに一目ぼれした花屋カフェがきっかけだった。 臆病だけど本来は明るい性格の綾が人と触れ合い、関わって成長していく。 再び歩きはじめるために 必要なものは何でしょう アルバイト店員 三森 綾 19歳 元は大手商社のエリートだったらしい オーナー兼マスター 一瀬 陵 30歳 無表情で一見冷ややかなその人 時折見せる優しさに 綾は少しずつひかれていく パティシエ 片山信也25歳 チャラい外見と言葉遣いで不真面目に見られがちだが 実は案外気遣い屋 失恋したばかりの綾に わかりやすい程真っ直ぐな愛情表現を示してくれる

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Chapter 1

1話 チョコとパンジー《1》

前面がガラス張りのその店は、緩やかな傾斜のバス通りから店内の様子が良く見えた。

ウッド調の内装、入口から左側はたくさんの花で無数の色が溢れ返り、右側のカフェスペースは通りの並木が程よく日差しを和らげて、内装と同じく無垢材のテーブルとイスが並べられている。

高校三年生の時、志望大学のオープンキャンパスに向かう途中で、私はそのカフェに目が釘付けになった。

大学までは、バスがある。

けれど歩けないほどでもなく、少し早めに家を出たための時間潰しにと徒歩で向かっていた。

「あ、明日がオープンかぁ」

扉に貼られた張り紙を見て、肩を落とした。

ガラスを通して見える店内の様子は、左側がカフェの装飾というには余りに花に溢れている。

不思議に思ってもう一度張り紙に視線を戻すと、明日の日付にOPENの文字。

そして、『花屋カフェflower parc』と書かれていた。

―――あ、こっちはお花屋さんなんだ。

出入り口の左側がきっと、花屋としてのスペースなんだろう。

花は種類ごとに分けて入れられ花の名前と値段が書かれたポップが貼られていた。

よく見ると、まだ何も置かれていない空いたスペースもある。

きっと開店当日の明日にはそのスペースも花で埋められる。

右側のカフェスペースとは中央のレジのあるスペースで分けられているが、遮るものは少ない。

あのテーブル席から、この花で溢れたスペースはきっとよく見えるだろう。

―――こんなにたくさんの花を見ながら、お茶を飲めるなんて。

元から花が大好きな私は想像しただけで胸が躍って、明日のオープンにもう一度来てみようか、なんて。

その時の私は、考えていた。

***

「結局、そのオープンの日には来なかったんですけどね」

「へえ。それはなんで?」

「大学に受かったら、来ようと思って! 願掛けのつもりだったんです」

店内には、静かにクラシックのBGMが流れている。私がこの店に一目ぼれしたのはもう一年以上前の話で、その時の感動を思い出しながらついうっとりと熱弁してしまっていた。

相槌を打ってくれている厨房スタッフの片山さんは、白い制服姿で客用スツールに腰かけている。私はカウンターの中で、プラスチックの平たい番重からケーキをガラスのショーケースに移していた。

「あ、じゃあ綾ちゃんって大学生? てっきりフリーターだと」

「……フリーターですよう。そこは聞かないでくださいよ」

あんまり古傷を抉らないで欲しい。

試験に落っこちた時の衝撃を思い出して、私はつい唇を尖らせてしまった。

バイトを始めたきっかけを尋ねられると、どうしてもその時のことを話すことになる。

「おお、悪い。しかし気にするな、俺も落ちた」

「えっ、そうなんですか。けど片山さんはすごいじゃないですか」

けらけら笑って言う片山さんは、近くの商店街のケーキ屋さんの息子さんだ。

このカフェではその店からケーキを卸してもらっていて、片山さんが朝出勤してくる時に一緒にケーキを運んで来てくれる。

「パティシエの修行中なんでしょう?」

「んー……まあ。家庭環境から、そんな流れにね」

そう言った片山さんは少し複雑な表情をしていた。

「そうなんですか」と首を傾げて曖昧に返事をしたけど、なんとなくその複雑な感情には私も覚えがあり、ちくりと胸を刺した。

周囲の環境に、なんとなく流される。

私の大学の志望動機が、それそのものだった。

だけど。

「でも、やっぱり片山さんはすごいと思います」

私は入試に失敗したあとも、何をするでもなくただ時間を消費しただけだったから。

このカフェに、再び訪れることになるまでは。

会話が途切れてなんとなく黙り込んだまま、私は再び手の中のトングに集中した。

番重から、ひとつひとつケーキを移す。

それほど難しくない単純作業だけど、ケーキを壊さないようにと思うとつい手がぷるぷると震えてしまう。

「貸して」

すぐ近くで声がして、少し驚いた。

顔を上げると、さっきまでスツールに座っていたはずの片山さんが真後ろに立っていて、私の手元を覗き込んでいて。

「びくびくしながらやるから、余計に危なっかしいんだよ。別に一個くらい落っことしたって誰も怒らないから」

そう言いながら、私の手からトングを抜き取ると、私の倍以上の速さであっという間にケーキを移し終えてしまった。

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