くるくるくる、と頭の中で一瀬さんの言葉が回る。それを正しく理解するには、少しの時間を要した。これは、もしかして……デートのお誘いなのだろうか?それとも昼休憩的な。あ、でも。今、仕事が終わったら、って、言った。そう気づいた途端、ぶわわっと体温が上がって体中から汗が噴き出した。「あ、あああのっ、えっと」「今日のご予定は?」一瀬さんの声は至極淡々としたもので、私一人が体温を上げているような気がしてならない。「予定は、ない、です。ここだけ」だけど私がどもりながらもそう返事をしたら、ほんの少しだけ眼鏡の向こうで目元が緩んだのが、わかった。とても小さな変化だ。私じゃなければ、きっと見落としていた。早くしなくちゃ。せっかく誘ってくれて、手伝いにまで来てくれているのに余り待たせちゃいけない。それからは、急いで支度をした。広げたレジャーシートの上に、順に花を広げて汲んできてもらったバケツの水で水切りをする。明日の個展初日は勿論、期間中できるだけ長く花を保たせてあげないといけない。丁寧に仕上げたいけれど、もたもたすると逆に花を傷めてしまう。広げたデザイン画と実際の花を見比べながら、茎の長さを整える。てきぱきと作業をするうち、はじめは見られながら仕事をするのに緊張していたけれど、そんなことはすっかり気にならなくなっていた。途中から、一瀬さんの存在も忘れるくらいに集中していて。「できた……」全体像を眺めデザイン画と照らし合わせ、ホッと息を吐いた時、「綺麗ですね」と声をかけられて、思い出したくらいだった。わっ、と控えめではあるが、驚きの声を上げた私に、一瀬さんが苦笑いをする。「……忘れてました?」「いえ、そんな! その、ちょっと夢中になりすぎて」「集中されてましたからね」そうだ、すっかりお待たせしてしまったと、慌てて足元を見た。早く、片づけてしまわなければ。切った枝や葉があちこちに散らばっているのを、持参のミニ箒とちりとりで集めていて、ふと一瀬さんが微動だにしていないことに気が付いた。「一瀬さん?」振り仰ぐと、じっと私の創作した花を見つめたままで、不思議に思って名前を呼ぶ。呼ばれて初めて我に返ったかのように、一瀬さんは足元の私を見て同じようにしゃがんだ。「片づけますか。ゴミは私がまとめます」「どこか、変ですか?」「と
Terakhir Diperbarui : 2025-06-06 Baca selengkapnya