大きな看板に向日葵畑の迷路全容が描いてあった。っていっても結構広くて、覚えられそうにはないけど。「結構広いですねー」「入り口二つに、ゴールがここか」「ここの真ん中でスタンプ押して、ゴールに向かう感じですね」「別々の入り口から入って、競争する?」「ええっ?」じりじりと焼けるような眩しい日差しの中、見上げた片山さんは今日初めての意地悪な顔。蟀谷に汗が滲んでいた。「スタンプ台のとこに先に着いた方が勝ち。勝った方が、一つお願いごとが言える」お昼が近くなって、わんわん、と耳鳴りがしそうなくらい気温が上がってる。片山さんは、勝ったら何を言うつもりなんだろう。それが少し怖いけど「いいですよ」と答えた私はチャレンジャーだと思う。「じゃ、私はこの入り口から。片山さんは向こう。よーい……スタート!」「えっ? うわ、ずるい! 俺が向こう着いてからにしてよ!」繋いでいた手を離して目の前の迷路の入り口に駆け出した私に、片山さんが慌てた声を出したけど。「片山さんのが足長いじゃないですか、ハンデです!」顔だけ振り向いて笑った。片山さんも急いで向こう側の入り口へと走りだす。それを確認して、私も向日葵の群れの中に飛び込んだ。風が吹かない今日は、湿気と熱を含んだ空気が身体や顔に纏わりついて余り過ごしやすいとは言えない。けど、背の高い向日葵に囲まれれば少し日陰に恵まれて、幾分暑さが和らいだ。それは私の背が低いからかもしれないけれど。走ったのは最初のほんの少しだけで、後は結局のんびりと歩きながら行き止まりになっては引き返し、また別の道を見つけてはそちらへ進む。上を向けば真っ青な空。あとは鮮やかな緑と黄色ばかりが目に飛び込んでくる。平日のせいか人も殆どいなくて、迷路のどこかではしゃぐ子供の声が聞こえるだけだ。真夏の暑さは、やがてすぐに正常な思考を奪う。大きな迷路、もう目指す方角もわからなくなってしまった。まるで、近頃の私の気持ちみたい。迷って迷って、ふらふらと不安定でどうすればいいかわからない。だけど目はいつも一人を追っかける。「はあ、暑……どっちに行けばいいんだろ」また、分かれ道。自分が後退してるのか前進してるのかもわからない。向日葵が太陽に向かって咲いている。今私が向かう先にいるのは、太陽じゃ、なくて。お水でも買ってから入れば
Last Updated : 2025-05-11 Read more