貴志「……」林貴志って、誰のこと?誰が林貴志っていうんだよ!……いや、確かに自分の本名は林貴志だが、まさか彼女、今それを呼んだなんて!貴志は何か言いたげだったが、真夕は周囲を一瞥すると、そのままくるりと背を向けて歩き出した。佳子が「ぷっ」と吹き出し、貴志を一瞥した後、真夕を追いかけた。「真夕、待って」華と舞は呆然としていた。「林先生、今彼女って、先生のこと、何て呼びました?あの子ったら先生の本名をそのまま呼んだなんて、正気じゃないわ!」ふたりとも完全に衝撃を受けていた。貴志は無言のままだった。これで、もう二度目だ。自分でも、なぜ彼女が自分の本名を、あんなに自然に呼び捨てできるのか理解できない。敬意も礼儀もあったものじゃない。師を敬う心ってものが、あの子にはないのか?自分の師匠であるケー様だけが唯一、自分のことを「くん」で呼べる人間なのに!しかも、「林貴志くん。この件、あなたに任せて安心だ」って!あれは一体どういうつもりだ!司は真夕の去り際の美しい背中を見つめながら、ほんの少し眉をひそめた。彼女は、本当に怖いもの知らずだ。まさか自分のおじさんの名前まで呼べるとは。そのとき、清がそっと近づき声をかけた。「社長、今夜七時に彩さんとのキャンドルディナーのご予約があります。フレンチレストランの席はすでに確保済みですので、そろそろ戻らないと」今のこの二人は無事に和解した。今夜はそのお祝いとして、司は彩とディナーの約束があった。司は貴志の方を見やった。「ケー様の講演、いつから始まる?」貴志「明日の朝だ」ならば、明日の朝また来よう。ケー様が一体どんな人物なのか、自分の目で確かめてやる。一方、真夕と佳子は女子寮に向かって歩いていた。佳子はまだ笑いが止まらなかった。「真夕、あなたって私の……林先生を名前で呼ぶなんて、笑い死ぬかと思った!」真夕は「林貴志くん」と呼ぶことに、特に問題があるとは思っていなかった。その時、真夕はふと足を止めた。前方に、見覚えのあるシルエットが見えたからだ。「池本真夕さんって、この寮に住んでますか?」寮の管理員「はい、そうですけど……あなたは池本さんの?」「彼女のおばあさんです」「まあまあ、お孫娘さんってとっても綺麗な子ね」「でしょ?私の孫娘は天から舞い降りた
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