All Chapters of 元夫、ナニが終わった日: Chapter 151 - Chapter 160

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第151話

彼女がいないことで、かえって華が引き立つ結果となった。華は生徒たちにサインをしてあげてから、上機嫌で真夕の前にやって来た。「真夕、洲崎さんに拉致されたって聞いたわよ。あなたって、いつも問題ばかり起こしちゃうよね?本当に池本家の恥さらしなんだから!」彼女に何かあっても、池本家の人々はただ責めるだけで、誰一人として心配してくれない。けれど真夕は全く怒らなかった。もう慣れっこだったのだ。彼女は羽のようなまつげをパチリとさせ、逆に華を褒めた。「池本家の恥だろうがなんだろうが別に構わないよ。どうせ池本家には華がいれば十分でしょ?」その一言は華の心をくすぐった。彼女はすぐさま赤い唇を吊り上げ、得意げに笑った。「私の学術論文が医博館に選ばれたって、もう聞いた?明日には正式に展示されるのよ。池本家中が大騒ぎよ。明日はおばあさんと両親も一緒に医博館で私の栄光の瞬間を見届けてくれるんだから」池本家の老婦人まで行動を取るとは、華がどれほど誇りに思われているかがわかる。彼女はC大の誇りであるばかりか、池本家の誇りでもある。だからこそ、老婦人は三男家と医博館に赴き、華の栄光の瞬間を見届けるのだ。真夕は眉を少し上げ、顔を向けなくても池本家の喜びぶりが目に浮かぶようだった。真夕は微笑んだ。「じゃあ、明日私も医博館に見に行こうかな」「あなたが?」華は真夕を見下すような目つきで値踏みした。「別に来てもいいけど、田舎から出てきたくせに、世間見たさで付いてくるんでしょ?でも問題を起こさないで。恥さらしな真似はしないでよね。そうしたら、医博館の人に追い出させるから!」真夕は唇の端を上げた。「わかったわ」華はハイヒールを鳴らしながら、傲慢に立ち去った。佳子は訳わからないふうに聞いた。「真夕、本当に明日医博館に行くの?あいつら、絶対に侮辱するわよ?」真夕は佳子の小さな手を軽く叩いた。「大丈夫、ちゃんと考えがあるから」真夕はスマホを取り出し、先輩三郎である逸夫を探し出した。「先輩、池本華の医博館に選ばれた論文を送ってもらっていい?」逸夫からはすぐに【オッケー】という返信が来た。一方、堀田グループにて。司は一日中、社長室で仕事をしていた。彼は最近ずっと真夕のことで忙しく、仕事が山積みだったのだ。夜になり、辰巳がやって来た。彼はソファに座ると文句を
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第152話

聞き慣れた声が響いた。辰巳はソファから飛び上がった。「くっそ!」武器を構えて一歩踏み出した瞬間、真夕が空中で回転しながら斧を振り下ろし、彼を地面に叩き伏せた。死んだ!まさかの敗北だなんて!あまりの衝撃に興奮しきった辰巳は、司の注意を引いた。司は鋭い瞳で彼をちらりと見上げた。辰巳は納得がいかず、【真夕、もう一局だ!】と向こうに送った。真夕はそれに応じた。第二ラウンド開始。二秒後、司はまたしても辰巳の叫び声を耳にした。「くっそ!くそくそくそ!」ゲームオーバー。また負けてしまった。それでも辰巳は食い下がらなかった。【真夕、もう一局!】真夕は返した。【あら、ちゃんと考えてからにしてね。次負けたら、ランクは降格よ?】彼のランクはずっと王者だったが、真夕に連続で負けてしまい、次の一戦でまた負けたらランクダウンは避けられない。本当に降格になってしまうのだ。そのとき、耳元で司の低く魅力的な声が響いた。「そんなに騒いで何してる?」あった!辰巳はまるで救いの神を見たように司のもとへ駆け寄った。「兄貴、真夕とのゲーム、代わりにやってくれよ!」司はふと視線を落とし、辰巳が真夕とゲームしていたことに気づいた。そして当然、辰巳の戦績も目に入った。辰巳は真夕にはほぼ瞬殺されたのだった。前回も真夕の操作スピードに驚いた。彼女の手の動きは異常に速い。だが司は、彼女とゲームなどしたくなかった。昨夜、彼女は黙って姿を消し、一枚の「ありがとう」のメモを残しただけだった。今日は電話でちゃんと「ありがとう」と言ったものの、すぐにお礼がしたいとか言い、ほしいかなどと言い出した。彼女はいつも二人の関係を肉体と欲望の取引としか思っていない。まるで自分が彼女を助けるたび、見返りとして彼女の体を求めていると思われているようだった。自分は確かに欲望があるが、それなら並んでる女はいくらでもいる。別に彼女じゃなくてもいい。あいつったら、一体誰に駆け引きしてるつもりなんだ。「兄貴、早く!代わりにやってよ、池本をボコボコにして!」……確かに、彼女には一度、思い知らせてやるべきかもしれない。司はスマホを受け取った。司はゲーム界の大物だ。彼は、かつてゲーム市場の将来性に目をつけ、自らソフトを開発して初めての資金
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第153話

司は、彼女のスピードが速いことは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。ゲームで無敵を誇ってきた司が、初めての対等な相手に出会った。それが真夕だった!真夕との勝負はまさに互角だった。これは司にとっても完全に想定外だった。辰巳は異変を感じた。「ヤバい、兄貴!池本はまさか兄貴の対戦相手になれたとは……落ち着け、頼むから落ち着いてくれ。この一局を落としたら、俺が降格しちゃうよ!」その言葉が終わるや否や、清が部屋に入ってきた。「社長、さきほど本家からお電話が……」本家?何かあったか?司の意識が一瞬逸れた。次の瞬間、ゲームオーバー。司の美しい指先が止まった。彼が負けた。その一瞬の隙を突かれ、真夕の斧が振り下ろされ、彼は地面に叩き伏せられた。なんと、真夕に負けた!本来なら、真夕にちょっとした教訓を与え、泣かせてやるつもりだったのに。「うわああああああ!」と、辰巳から絶望の叫びが響いた。彼は自分のゲームアカウントを見つめながら信じられない声を上げた。「兄貴、負けたのか?マジかよ、俺、マジランクが下がったぞ。うぅぅ……」三年かけてやっとここまで来られたというのに、そこから下がるのは一瞬だった。それも真夕一人のせいで。どうしてこんなことに?辰巳の胸は痛みでいっぱいだった。司「……」司は、真夕に負けたことが、むしろ可笑しくなってきた。彼は舌先で右の頬を押しながら、ひとつ笑みを漏らした。彼は彼女を見直さずにはいられなかった。司は綺麗な目尻を上げて清を見た。「おばあさんに何かあったのか?」「社長、先ほど本家からお電話がありまして、奥様が大奥様に残したお粥のレシピがなくなったそうで、大奥様がもう一度そのレシピをもらえないかと……」おばあさんは無事だった。ただ、真夕が残していったレシピが見当たらないだけだった。司はスマホを取り出し、真夕のラインを探し出した。彼はそのまま彼女にビデオ通話をかけた。女子寮の部屋では、真夕は今回の勝利に満足していなかった。勝ちはしたが、どう考えても正々堂々の勝利ではなかった。対戦相手は突然神のような強さを見せ、まさに一戦で伝説級のプレイを披露したのだ。何度挑んでも倒せなかった相手が、最後の一瞬だけフリーズしたようになり、彼女は隙を突いてなんとか斧を当てて
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第154話

司「君がおばあさんに渡したお粥のレシピ、なくなったそうだ」なんだ、そんなことだったのか。真夕はすぐにペンを手に取った。「ちょっと待って。今すぐ書き直すから」彼女はうつむき、紙の上にレシピを書き始めた。その瞬間、白いキャミソールの中から思わず目を引く谷間がちらりと現れた。丸みを帯びてふっくらとしたラインに、司は目が離せなかった。司の喉がひくりと鳴った。彼女のスタイルの良さがこれだけではないと、彼は知っている。あの腰は柳の枝のように細いのに、上半身はふんわりと丸く、女性らしい曲線を描いている。まさに男を惹きつけるために生まれてきたような体だ。生まれつきの誘惑そのものだ。司は低く、かすれた声で彼女の名を呼んだ。「真夕」真夕は顔を上げ、きょとんとした目で彼を見た。「どうしたの?」彼女は本当に分かっていなかった。澄んだ瞳は無垢そのもので、純粋で邪気がなかった。その無防備さが、男の中の欲望に火をつけた。司は喉の奥で唾を飲み込みながら言った。「書き終わったら写真を送ってくれ」真夕は彼が大手会社の社長だということをすっかり忘れていた。確かにこんなに暇じゃないだろう。彼女は頷いた。「分かった。忙しいだろうし、いったん切るね」彼女はビデオ通話を切ろうとした。司は何も言わなかった。その時、外から佳子が駆け込んできた。「真夕!早く、バニラアイスだ」佳子は自分のアイスを食べながら、もう一つ持って真夕に手渡した。二人に一つずつだった。アイスは少し溶けており、真夕は急いでそれを受け取った。「ここ、溶けてきちゃってる!真夕、早く舐めて!さっき売店で買ってきたんだけど、すっごく甘いよ」真夕は溶けかけたアイスを小さな口に含んだ。バニラのミルクの香りが口いっぱいに広がり、彼女の目元が綻んだ。「うん、甘い」甘い物好きの女の子二人が、笑い合った。佳子はビデオの向こうにいる司に気づき、明るく挨拶した。「堀田社長、こんにちは!」司は一瞥だけ佳子に目をやり、再び真夕に視線を戻した。彼女は嬉しそうにアイスを持ち、小さな舌でちょんと舐め、まるで無邪気な子どものように満足そうだった。まるで、アイス一つで簡単に男に騙されてしまいそうな、そんな女の子だ。騙されやすいだろう。司の喉はますます詰まり、そこを熱い火が這うようだ
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第155話

真夕は、自分が何を言っているのか、まったく分かっていなかった。司は彼女の手にあるアイスクリームを見てから、その白くて幼い、まるで天女のような顔をまたじっと見つめた。そして、彼はしゃがれた声で質問には答えず、逆に問い返した。「……何を食べるって?」真夕の頭の中は真っ白で、彼が何を言いたいのかも分からなかった。ドクン、ドクンと、心臓の音がやけに大きかった。二人の間の空気は、今にもとろけそうなほど濃密だった。真夕はこの空気を断ち切ることにした。「私もう寝るから、先に切るね」彼女は手を伸ばし、ビデオ通話を切った。佳子はシャワーを浴びる準備をしていたが、真夕の顔を見て思わず声をあげた。「真夕、顔が真っ赤だよ?」真夕は自分の頬を触ってみた。「たぶん暑さでこうなったのよ。佳子、早くシャワーに行って」「うん、行ってくるね」佳子はシャワールームに入っていった。真夕は一人ソファに座り、うつむいたままアイスを食べていると、ゆっくりと気持ちが落ち着いてきた。さっきは、なぜあんなに慌てていたのだろう?今朝、彼に電話でほしいかと聞いたときは、彼に即座に電話を切られたじゃないか。あれだけ冷たかったのに。あれだけ素っ気なかったのに。それが今夜は、なぜあんな風に見つめてきたの?真夕の心の奥では、彼に「お礼」を受け取ってもらいたい気持ちがあった。そうすれば、もう借りも貸しもなくなるから。彼女はレシピを書き終えると、ラインで司に送った。このラインのアカウントは堀田家の奥様の名義だ。彼女はずっと司を「旦那」として登録していた。だが、司からの返信はなかった。いつも通りの、冷たい態度だけだった。チャット履歴をさかのぼっても、すべて彼女からのメッセージだけだった。まるで独り芝居のようだった。このアカウントは、彼女のあの惨めで滑稽な結婚生活の証人でもあった。真夕はふと、ちょっとしたいたずら心が芽生えた。彼女はスマホを手に取りながら、ポーズを決め、カシャッと一枚のセルフィーを撮った。そして、それをラインのストーリーに投稿した。司は社長室の椅子にもたれかかっていた。彼はすでに真夕から送られたレシピを受け取っていたが、返信はしていない。資料を読もうとしても、頭の中はさっきの真夕の姿でいっぱいだった。彼は、彼女がアイス
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第156話

これまでの数年間、司の周りには常に女性という誘惑に溢れていた。彼は高レベルの手練手管を持つ女たちに出会ったこともあった。したがって、真夕が彼を焦らしていることくらい、彼はすぐに分かった。彼女は、自分がどこまで司を惹きつけられるかを試しているのだ。彼が釣られるかどうか、彼女は見極めようとしているのだ。司は唇の端を意味ありげに吊り上げ、ふっと鼻で笑った。小悪魔め!そのとき、澄んだメロディーの着信音が鳴り響いた。電話がかかってきたのだ。スマホの画面には彩の名前が浮かんだ。「彩」という名前を見るだけで、司の熱はすっと冷めた。さっき真夕に炙られた体の火照りも徐々に消えていった。彼は通話ボタンを押した。電話の向こうからは、柔らかく甘い声が聞こえてきた。「司、まだ怒ってるの?ごめん、私が悪かった。あんなに怒鳴って、物を投げて……だって、やきもち妬いちゃったの。司が真夕に優しくするのが羨ましくて。司、お願い、もう怒らないで。司のことが好きなの。本当に、本当に大好き……」これまでの年月で、彩は彼に甘やかされ、わがままになっていた。しかし彼女は今プライドを捨て、素直に謝り、優しくなだめてきた。何度も「好き」と囁いた。司の心が揺れずにはいられなかった。なにせ、彩は彼一人の女の子なのだから。彩は彼一人の女の子なんだ。「俺にも悪いところがあった」と、司は穏やかな声で答えた。彩は一気に明るくなった。「じゃあ、この話はこれで終わりにしよ?明日は和也の誕生日パーティーだから、みんなでお祝いしに行こうね」司はうなずいた。「ああ」二人は通話を切った。ちょうどその時、辰巳が洗面所から戻ってきた。彼はさっき水で顔を洗っていたが、それでも降格になった現実を受け入れられずにいた。「兄貴、俺ランク下がっちゃったよ……池本のせいで!」司はちらりと彼を見た。「ゲームばかりやらずに、恋でもしろ」「俺だって恋したいのさ!」「今度は誰が気になるんだ?」辰巳は急に上機嫌になり、ニヤニヤしながら司に囁いた。「兄貴、その天才な後輩の子、綺麗だと思う?」司は剣のように鋭い眉をぴくりと上げた。辰巳は、どうやら彼のあの後輩に目をつけたらしい。辰巳は嬉しそうに言った。「じゃ、俺もう行くよ。明日の和也の誕生日パーティーでまたな!」司は、辰巳が自分の後
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第157話

華は自信たっぷりに微笑んだ。「おばあさん、これはまだ始まりに過ぎないの。これから、もっと遠くへ行くつもりよ」池本家の老婦人は笑いが止まらなかった。彼女は、自分の孫娘がただ者ではなく、きっと池本家に栄光をもたらしてくれるに違いないと確信していた。忠行と直子もとても嬉しそうだった。娘が優秀であればあるほど、将来もっと良い家に嫁ぐことができるのだから。そのとき、老婦人は後ろにいた真夕に気づいた。彼女は表情が一変した。「真夕、誰にここへ来いと言われたの?」実は真夕も来ていたが、この一家は喜びに夢中で彼女の存在に気づいていなかった。華は真夕をちらりと見て言った。「おばあさん、私が真夕を呼んだの。彼女も一緒に来て少し見識を広げたかったみたいだし……まあいいじゃない。ここにいさせてあげて」老婦人は真夕の顔など見たくもなかった。華と彩は池本家の名を上げてくれる存在だが、真夕だけは池本家の恥だと、彼女は考えていた。彼女の心の中で、真夕は一度も孫娘として認められたことはなかった。だが、華がそう言った以上、老婦人も仕方なく言葉を向けた。ただしその口調は冷たかった。「真夕、おとなしくしていなさいよ。ここの物には絶対に触らないで。汚したり壊したりしたら、自分で責任取りなさい!」老婦人は真夕の実のおばあさんでもあった。それなのに、その言葉を吐き出した。真夕の心はすっかり冷えてしまった。しかし真夕は何も言わず、ただ笑って見せた。「華先輩!」そのとき、C大の数人の学生たちが駆け寄ってきた。彼らはみな華に憧れており、昨日は彼女のサインまでもらっていた。「どうして来てくれたの?」華は嬉しそうに尋ねた。数人の学生たちは真夕を押しのけ、彼女を最後列の隅へ追いやった。そして華を囲むように立った。「華先輩、今日は先輩の学術論文の公開展示の日ですよね。お祝いに来ました!」「華先輩は私たちの誇りです!」「一緒に写真撮りましょう!」みんなが華の学術論文の前に整列した。華が中央に立ち、老婦人、忠行、直子が左側に、学生たちが右側に並んだ。華は真夕にカメラを手渡し、命令口調で言った。「真夕、私たちの写真を撮って!」これは彼女の栄光の瞬間だった。しっかり記録しておきたかったのだ。真夕は手の中のカメラを見つめ、にっこりと微笑んだ。「そんな写真、た
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第158話

これで自分のことを陰で噂する人がどれだけいるのか、想像もつかない。プライドが高い華は、こういうことが一番耐えられなかった。「おばあさん、お父さん、お母さん……私だって、どうしてこんなことになったのか分からないのよ」忠行と直子は慌てて口を開いた。「華、もしかして……ケー様を怒らせたりしてないよね?」池本家の老婦人は大げさに太ももを叩いた。「これはまずい、まずいわよ!ケー様は神のような医術を持ったお方、そんなお方を怒らせたら、うちなんかひとたまりもないって!これからどうすれば……」その様子を、真夕は一歩引いた場所から冷ややかな目で眺めていた。この一家がケー様のことで慌てふためく様子に、内心では失笑すら浮かべていた。華の目には涙が浮かび、明らかに動揺していた。そのとき突然、直子が口を開いた。「華、ケー様って……男なの?それとも女なのかしら?」忠行がすかさず反応した。「君、何が言いたいんだ?」「もしケー様が男なら、こんなに綺麗で優秀な華に、一目惚れする可能性だってあるでしょ?」老婦人は一気に表情を明るくした。「そうよそうよ!もし華がケー様の奥様になったら、池本家は本当にご先祖様のご加護を受けてるってことよ!そうなれば、ケー様と、堀田社長が婿になってくれれば、私の人生、これでもう思い残すことはないわ!」実際、忠行と直子は以前から華のために良い結婚相手を探していた。次男家の彩には絶対負けられないと思っていたので、早くからケー様をターゲットにしていたのだ。ケー様だけが、司と並ぶにふさわしい男だ。華の心もすでにぐらついていた。彼女は司に恋しているが、司の心には彩しかいない。だからこそ、彼女は司と同じくらい優秀な男を見つけると心に決めていた。そしてケー様は、そのすべてを満たしていた。華は少し勝ち誇ったような笑みを浮かべた。「おばあさん、お父さん、お母さん、実は……ケー様がもう浜島市に来てるって、内部情報を手に入れたの」「ほんと?ケー様は今どこに?」向こうは興味津々だった。「それは私に任せて。必ずケー様を見つけてみせるから。いい知らせを待っててね」華は微笑みながら言った。池本家の人々はまた明るい表情を取り戻した。彼らのそばに立っている真夕は黙ったままだった。彼女は心の中でつぶやいた。「まあ、ご健闘を」そ
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第159話

御曹司たちはすぐに囃し立てた。「どんな友達かよ?男?それとも彼女か?」「常陸、こっそり恋愛してたんじゃないの?」「まさか今日、誕生日の場を借りて彼女のお披露目とか?心を射止めたのはどのお嬢様なんだ?」和也は口元に笑みを浮かべ、軽く罵るように言った。「あとで君ら、声小さくしろよ。ビビらせて逃げられたらどうする!」「うおおおっ!」これでは全員が大騒ぎだった。司はソファに腰を下ろし、隣に座っていた彩が微笑みながら言った。「司、和也が待ってるその人って……もしかして真夕じゃない?」辰巳が頷いた。「絶対彼女だよ。和也、あいつに夢中だもんな」舞は明らかに嫉妬の表情を浮かべていた。彼らのような上流サークルには、一般人はそう簡単に入れない。司が彩を連れてくるのは分かるとして、今日の主役である和也が真夕を呼んだことからも、彼が真夕をどれほど大切に思っているかが伝わってきた。司は黒のシャツに黒のスラックスという出で立ちだった。高貴なその顔立ちには、特に感情の波が見えず、まるで他人事のような雰囲気だった。そのとき、豪華な個室の扉が開き、清楚で美しいシルエットが現れた。真夕が来た。和也はすぐに立ち上がった。「真夕、来てくれたんだな」真夕は手に持っていたギフトバッグを差し出した。「常陸さん、お誕生日おめでとう」和也はそれを受け取り、真夕をソファに案内して座らせた。「真夕、ここにいるのはみんな俺の友達だ」その瞬間、個室内の視線が一斉に真夕の顔に集中した。「常陸、まさかこんな天女と付き合ってるとは思わなかったぞ」「なるほどね、常陸の好みは天女系か」「天女さん、こんにちは」みんながフレンドリーに真夕へ挨拶を投げかけた。真夕も礼儀正しく一人ひとりにうなずいて応えた。するとすぐに、向かいのソファに座っている司と彩の姿が目に入った。彼らも来ていた。当然、冷たい視線を向けてくる辰巳と舞の存在もあった。彼らは真夕をじっと見つめていた。誰かが紹介役に立った。「天女さん、堀田社長と彩さんって聞いたことある?この二人はうちらのサークルのゴールデンカップルなんだ」舞は意味ありげに口を添えた。「司兄さんと彩姉さんは長年の恋人同士なの。誰かが彩姉さんから司兄さんを奪おうなんて考えるの。正気の沙汰じゃないわよね」真夕は舞が自分を侮辱してい
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第160話

他の人からのプレゼントには目もくれなかった和也だったが、真夕の贈り物には明らかに興味を示した。「俺も気になるな」辰巳がギフトバッグをテーブルに置くと、和也は中からプレゼントを取り出した。真夕は、自分の贈り物では彼をがっかりさせるかもしれないと思い、口を開いた。「常陸さん、急いで来たので、大した物は買えなくて……」「財布」と言いかけたその瞬間、真夕が止まった。なぜなら、和也がプレゼントを取り出したからだ。そして和也の手に握られていたのは、財布ではなく、一通の手紙だった。真夕は思わず固まった。「常陸、天女さんから手紙をもらったのか!早く読んでみんなにも聞かせてよ!」和也は手紙を開き、声に出して読んだ。「常陸さん、今日はあなたの誕生日だね。私は特別なプレゼントを贈りたいと思う。実は私は、あなたに初めて会った瞬間から好きだったの。あなたの彼女になるから、これから正式にお付き合おう」真夕「……」それは自分が書いたものじゃない。自分のプレゼントは、誰かにすり替えられていた。さっき、自分のギフトバッグは辰巳の手を経ていた。真夕は辰巳を見上げた。彼はまさに「やってやったぞ」と言わんばかりの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。間違いない。これは彼の仕業だ。向かいに座る彩も、にこやかに彼女を見ていた。真夕はすぐに気づいた。これは彩の指示だったのだ。辰巳は、彩の言うことをよく聞く。つまり、今日の誕生日パーティーには、こんなパフォーマンスも仕込まれていたというわけだ。場内は一気に騒然となった。「常陸、誕生日にラブレターもらえるなんて!」「常陸はついに彼女ゲットか!付き合っちゃえ!付き合っちゃえ!」みんなが一斉に盛り上がりはじめた。「真夕」と、和也は喜びを隠しきれずに真夕を見つめた。「本当に、俺と付き合ってくれるの?」真夕はいたたまれなくなり、小声で和也に耳打ちした。「常陸さん、誤解だ。この手紙、私が書いたものじゃなくて……」和也は口元に笑みを浮かべ、真夕の耳元にそっと顔を近づけ、恋人の甘い囁きのように小さく言った。「知ってるよ」真夕は目を見開いた。知ってるの?「じゃあ、あなた……」和也はウィンクしてみせた。「真夕、今日は俺の誕生日だろ?君も俺がこんな場で恥かくの、見たくないよな?もし君が断ったら、
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