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転生吸血姫 のすべてのチャプター: チャプター 91 - チャプター 100

103 チャプター

ep93 前世の思い

リザレリスには、転生してからずっと気になっていたことがあった。それは残された家族や友人のこともあるが、それだけではなかった。今さら考えても仕方がないことであり、考えないようにもしていた。憂鬱な気分になるからだ。しかし今回、愛憎に燃えるマデリーンを見て、思い起こさざるをえなかった。ある人のことを。それは誰か。前世で自分を刺し殺した女のことだ。 自分を殺した彼女に対して、恨みたい気持ちがなかったといえば嘘になる。だが、それ以上に申し訳ない気持ちもあった。前世の行いが、決して褒められたものではないことは自覚していた。特に今世でエミルと出会い、彼の純真さに触れてからは、ますます省みる思いは強くなった。だからこそ、より明るくしてフザケていた。元々そういう性格ではあったが、努めてそうした。せっかく転生したのに、前世の思いに縛られたくなかったから。それでも、マデリーンを見ると、やはり見て見ぬ振りはできなかった。彼女のことも、自分の思いも。そう......。転生してからもずっと気になっていたこと。それは、自分を刺殺した女の人生がどうなってしまったかということ!間違いなく彼女の人生は狂ってしまっただろう。彼女は加害者であり自分は被害者だ。でも、自分の行いがそれを引き起こしたのなら、彼女は被害者だ。死んでしまった自分より、よっぼど悲惨な目に遭っているかもしれない。だから
last update最終更新日 : 2025-06-26
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ep94 裁決(前篇)

「マデリーン先輩を許してください!ブラッドヘルム王女として、このとおりお願いします!」リザレリスはひたすら懇願し続けた。一国の王女が、自分を傷つけた他国の女を必死に助けようとする姿は、皆にどう映っただろう。少なくとも、当事者の心を打たないはずがなかった。「うっ、うぅ、うぅ......」マデリーンが顔を押さえて嗚咽を洩らした。「リザさま......」エミルは王女の慈悲深さに感動していた。正直、マデリーンのことは殺してやりたいとさえ思っていた。裁かれる程度でも足りないと。しかし今、目の前の光景を目の当たりにして、そんな思いも吹き飛んでしまった。「ブラッドヘルムさま......」クララは口を押さえて、泣いてしまうのを堪えていた。こんな優しい人に自分は酷いことをしてしまったのかと思うと、胸が苦しくなって仕方なかった。「リザレリス。お前は......」レイナードは、リザレリスに対して尊敬と感謝の思いでいっぱいだった。そして、ひとつの覚悟を決めた。「ブラッドヘルムさんの主張はわかりました」おもむろに理事長が口をひらいた。「しかし、いくらブラッドヘルム王女の頼みであっても、学校秩序の....いえ、我が国の秩序の観点から彼女を不問に伏すということはできかねます」「で、でも!」とリザレリス。理事長は溜息をつくと、話を続ける。「マデリーン・ラッチェンに殺意はなかった。その点に関しては本人の主張どおり認めます。特にブラッドヘルムさんに対しての傷害行為は偶発的なものだった。この点も認めます。しかし、レイナード・ヴォーン・ラザーフォードくんに対して暴行の意思があったことは本人も認めています。つまり、彼女は第二王子に対して暴行の故意、あるいは傷害の故意があったということです」「け、結果的に何もなかったからいいじゃないですか!」「もし、ブラッドヘルムさんが間に入らなかった場合どうなっていたのか。我が国の王子殿下が傷つけられた......いえ、それどころじゃない。もしかしたら殺害されていた可能性があるのです。つまり、マデリーン・ラッチェンのやったことは、事情や経緯はどうあれ外形的には『王子殺害未遂』となってしまうのです」「!!」「それはもはや学院内で処理できる問題から逸脱してしまいます。加害者の死罪もありうるのです。だからこそ我々も今、非常に頭を悩ませているのです。その
last update最終更新日 : 2025-06-27
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ep96 クララの胸中

【23】 マデリーン・ラッチェンによる『ブラッドヘルム王女傷害事件』は、内密に処理されることとなった。放課後の出来事で、クララの治癒魔法による迅速な処置もあり、他の目撃者が生まれなかったのは幸いだった。リザレリスをはじめ当事者および関係者には厳密な箝口令が敷かれた。この結果にリザレリスは満足していたが、クララは複雑な思いを胸に抱えていた。「シャミナードさんと私は......」事件の日の帰り、クララはリザレリスに打ち明けていた。シルヴィアンナがマデリーンと共謀していたことを。そしてシルヴィアンナに命令されて、自分も協力してしまったことを。エミルには少し話していたが、リザレリスにも自分から伝えなければならないことだった。だが......。「クララはわたしを助けてくれたじゃん」リザレリスから返ってきた言葉はそれだった。実にあっけらかんとしていた。当然、クララは引き下がれなかった。「で、でも、シャミナードさんと私はお咎めなしになってしまいました。こんなのは......」「マデリーン先輩がシルヴィアンナのことを理事長に話さないまま自分だけ罪を被ったのは、クララを守るためだったんじゃないかな。シルヴィアンナの罪が問われれば、ヤツは絶対クララのことを話すだろうから。マデリーン先輩はそれを望まなかった。だって、わたしを救ったクララはマデリーン先輩を救ったことにもなるから」
last update最終更新日 : 2025-06-29
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ep97 焦燥の悪役令嬢

【24】 シルヴィアンナと取り巻きは、教室で呆気に取られていた。あの日の翌日以降、リザリレスが何も気にしていないからだ。怒るでもなければ怖がるでもなし。文句すら言ってこない。ただ何事もなかったように、教室でも外でも普通に明るく楽しく過ごしている。「どういうことなんでしょう......」取り巻きが言うと、シルヴィアンナはふんと鼻を鳴らす。「それよりもラッチェン先輩の停学処分が気になるわ。あの人、いったい何をやったの?」「さあ。あのあと私たちはそのまま帰ってしまいましたから......」「そういう約束だったからそれは仕方ないわ。ただ、あの人の停学処分の理由がわからないと、何となくわたくしたちも大人しくせざるをえないじゃない」マデリーン・ラッチェン停学については、一年生の間でも噂が広がっていた。何せマデリーンは第二王子の恋人だった女。その彼女が停学処分となったのだから、何かと勘ぐられ、囁かれてしまうのは仕方がないことだろう。ただし噂はどれも憶測レベルで、信憑性に欠けるものだった。 「し、シルヴィア様の、おっしゃるとおりです」おずおずと取り巻きは答えた。そうとしか答えようがなかった。シルヴィアンナは苛立ちを滲ませる。
last update最終更新日 : 2025-07-02
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ep99 王女のおかげ

放課後、肩を落として校舎から出てくるリザリレスを待っていたのは、レイナードとフェリックスだった。このタイミングでこのふたりが待っていたということは、理由はひとつだろう。「リザも聞いていると思うけど」とフェリックスは前置きして、リザレリスの反応を窺ってきた。リザリレスは無言で頷く。それを確認すると、彼は申し訳なさそうな顔を浮かべた。「彼女が自分自身で決めたことだから、これ以上は僕にもどうにもできない」そんなフェリックスに、レイナードは言う。「いや、兄貴は最大限のことをやってくれた。俺なんか最初からなんもできてねえ」レイナードは悔しさに唇を噛んだ。空気が重くなっている彼らを、周囲の生徒たちは不思議そうに眺めていた。いったい王子ふたりが一年生と何を話しているんだろう、という目で。マズイと思ったエミルとクララが視線を交わし合う。「早く参りましょう!」エミルとクララに促され、リザレリスたちは歩き出した。一行が乗り込んだ馬車がリザリレスの屋敷に到着すると、クララが遠慮がちに口をひらく。「ほ、本当に、私までよろしいんですか?」「当たり前じゃん。こんな日だからこそ今日はみんなで楽しみたいんだよ。クララもいてくんなきゃ困る」
last update最終更新日 : 2025-07-04
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