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転生吸血姫 のすべてのチャプター: チャプター 81 - チャプター 90

103 チャプター

ep88 マデリーン・ラッチェン(1)

【20】マデリーン・ラッチェンは、新興貴族の家に生まれた。野心家の母は、娘のマデリーンに対して、徹底的にある教えを説いた。結婚する相手は、自分よりも位の高い貴族でなければならないと。それは、母親自身がそうやって成り上がってきたからに他ならなかった。「いいこと?貴女は将来、私以上の美貌を備えるでしょう。その美しさは何よりも武器になります。言いたいことはわかりますわね?」まだ恋も知らない少女の頃から、そうやってマデリーンは育てられた。母親はこうも付け加えた。「くれぐれも、自分よりも身分の低い男性とは関わらないこと。恋や恋愛などはもってのほかです」誰よりも厳しい母に、マデリーンは従うしかなかった。母の厳しさは、時に夫である父でさえも狼狽えることがあったほどだ。それでも母は絶対に曲げることはなかった。子どもをマデリーンひとりしか授からなかったこともあるだろう。一人娘のマデリーンは、そんな母親の操り人形のように生きるしか道はなかった。ところが......。マデリーンに不幸が訪れる。彼女は、平民の少年に恋をしてしまった。九歳の時だ。相手は、街で偶然出会った雑貨屋の息子だった。器量が良く、器用で、子どもにしてはよく物を知っていた。何より、美しい少女のマデリーンに、彼はとても優しかった。彼女が関わってきた貴族にはない、素朴なあたたかさがあった。「これ、マデリーンにあげる」ある日、少年はマデリーンに贈り物をしてきた。指輪だ。一生懸命、何日も何日も店の手伝いをして、売れ残りの物を親に頼んで譲ってもらったらしい。当然、安物だった。子どもと言えど貴族がするには憚かるレベルの、おもちゃみたないもの。しかし、マデリーンにはダイヤモンドよりも輝いて見えた。「ありがとう。一生大事にするわ」マデリーンは指輪をはめ、幸せいっぱいだった。サイズの合わない指輪の隙間は、愛する彼との時間で埋めていこうと思った。それが儚い夢だとも知らずに......。「これは何ですか?」指輪を母に見つけられてしまったのは、あれからすぐのことだった。すでに母は、少し前から娘の様子が違うことに気づいていた。おそらく初恋をしているのだろうと、そこまで気づいていた。ただ誤算だったのは、恋の相手が平民だったことだ。「誰からもらったのかしら?」「そ、それは自分で買ったのです」 「こんなガラクタ、まだ子供
last update最終更新日 : 2025-06-22
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ep89 マデリーン・ラッチェン(2)

初恋から五年が過ぎた頃になると、マデリーンは女の美貌を纏い始めた。社交界に顔を出せば、ちょっとした注目を浴びるようにもなっていた。まだ社交界デビューには早い年齢だったが、母の命令だった。母の考えは、ある意味で正しかった。気がつけば若い貴族の男子たちは、彼女の大人びた美貌に目を奪われていた。彼女に言い寄ってくる者も少なくなかった。中にはそれなりの大物貴族の子息もいたマデリーンはすべての者に丁寧に接し、丁重に躱していた。誰とどうしようが、結局のところ決めるのは母だ。母が良い政略結婚だと思うかどうかがすべてだ。そう思うと、燃えるものも燃えなかった。そもそもマデリーンにとって、貴族の男どもはすべからず魅力的に思えなかった。初恋の彼を、超えられる者などいない。「つまらない......」夜の部屋でひとり、窓腰掛けに座り、外を眺めてぼんやりすることが多くなった。そんなある日だった。ある社交界で、マデリーンは王子と出会うことになる。「あれがラザーフォード王子......」さすがに王子は、輝きが違っていた。特に第一王子のフェリックスは、何もかもが他を圧倒的に凌駕していた。遠目に王子たちを眺めながら、彼女は近づいていこうとはしなかった。いくらなんでも、新興貴族の娘の自分が関わっていい存在じゃない。そう思ってマデリーンは、彼らと自分を切り離していた。とはいえそれ以外の貴族の男たちと会話したところで、虚しくなるだけだった。
last update最終更新日 : 2025-06-23
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