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転生吸血姫 のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

103 チャプター

ep72 放課後の出来事(2)

「じゃあ待っててやるから、さっさと行ってこい」レイナードはリザレリスへ早く行けとジェスチャーする。レイナードとしては特別リザレリスへ優しくしているわけでもなかった。ただ、彼は女性への最低限の気配りは自然にできる男だった。彼のような男がやると、時に女性からは「私にだけ優しくしてくれる」と勘違いされることもあった。当のレイナードにそのつもりはまったくないのだが。「ふむふむ」とリザレリスは認識を改める。レイナードの気配りには、計算も打算もまったく見えない。ましてやリザレリスと彼は仲が良いわけでもない。むしろ仲は悪いかもしれない。そんな相手に対してもこういう気遣いができるのは、本当は良い奴だからなのかもしれない。そのようにリザレリスは真面目に思った。遊び人男だった前世の人格を持っているからこそ、より強く思った。かつての自分だったら、仲悪い女にまで、しっかりとした気遣いができたかどうかは疑問だ。「おい田舎女。どうした。行かないのか?」レイナードが怪訝な表情を浮かべた。リザレリスが物思わしげに見つめていたからだ。「あっ、なんでもない。行ってくる」リザレリスは心の中で、レイナードに対する態度を少し改めた方がいいかなと思った。彼にも色々と抱えているものだってあるのかもしれない......そんなことまで思った。とその時。
last update最終更新日 : 2025-06-07
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ep74 放課後の出来事(4)

ふたりが連れて行かれたのは、校舎の地下にあるゾルダーンの研究室だった。室内にはたくさんの棚があり、様々な器具や形容しがたい物が並んでいる。雰囲気は陰気で暗く、不気味でおどろおどろしい。「てゆーか、地下ってあったんだなぁ」リザレリスの受けた校舎案内には、地下は含まれていなかった。教師や生徒からも話を聞いていない。「知らない生徒も結構いる。特に一年生はほとんど知らないだろう。そもそも普通の生徒は来る機会がないからな。まあ俺は知っていたが」そう返しながらも、実際にゾルダーンの研究室に来たのはレイナードも初めてだった。ゾルダーンという人間から何となく想像はできたが、いざ来てみれば想像以上だった。長居はしたくない場所だ。「お待たせ」研究室へ着くなりリザレリスたちを待たせて部屋の奥へと消えていたゾルダーンが戻ってきた。手には大きめの鳥籠を持っている。リザレリスとレイナードはギョッとする。「コウモリ??」「ああ、そうだよ」ゾルダーンは、何かの作業用と思われる台の上に鳥籠を乗せた。リザレリスとレイナードは、ゾルダーンに手招きされて台に近づいていった。
last update最終更新日 : 2025-06-09
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ep76 昼の出来事(1)

【13】 昨日の魔法授業で鼻を明かされたシルヴィアンナは、やや拍子抜けした。昨日の今日で増長すると思われた王女が妙に大人しいからだ。「なんだか逆に不自然ですね......」取り巻きのひとりが不思議そうに小首を傾げる。シルヴィアンナも気にはなったが、ムカつく女が勝手に静かになってくれたのは好都合でしかなかった。「大人しいほうが没落王女らしくていいんじゃないかしら」シルヴィアンナは冷笑を浮かべて席に着いた。「......」今日のリザレリスとエミルは、挨拶以外の言葉をほとんど交わしていない。何となく気まずいからだ。理由はやはり昨日のことだった。エミルは昨日、リザレリスと再会を果たすなり怒涛の勢いで心配と謝罪をしてきた。「何かあったのですか!?大丈夫ですか!?護衛を任されていながら大変申し訳ございませんでした!」そんなエミルを見るにつけ、リザレリスは本当のことが言いづらくなってしまった。レイナードの血を吸ってしまったことに、にわかに罪悪感を覚えたから。それに恥ずかしさもある。吸血姫として、報告しなければならないことであろうとは思った。思ったのだが......。「道に迷っちゃって......」リザレリスから出てきた言葉はそれだけだった。嘘ではないが、ま
last update最終更新日 : 2025-06-10
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ep77 昼の出来事(2)

「あ、あの、リザさま、どこに......」戸惑うエミルを連れてやってきたのは、裏庭の端の一角だった。そこを目指したわけではないが、人気のない場所に進んでいったら辿り着いた。リザレリスはエミルを大きな木に追い詰めて、いわゆる壁ドンみたいな体勢になる。「エミル!」「な、なんでしょうか」リザレリスは至近距離でエミルを睨む。リザレリスの方が背が低いので、上目遣いになった。「おまえの気持ちを正直に言ってくれ!」「ぼ、ぼくの正直な気持ち、ですか」「だってなんも言ってくれないとわかんないじゃん!」リザレリスはエミルに迫りながら、奇妙な気分に陥っていた。前世の頃、付き合っていた彼女に、同じことを言われた経験があった。経緯や状況は違ったが、セリフは一緒だ。その時の自分は、ただメンドクサイとしか思わなかった。そんな自分が、今は女として言う側になっている。今さらながら、あの時の彼女の気持ちが少しわかった気がした。「ぼ、ぼくは......」エミルは視線を逸らした。「ぼくは??」リザレリスは迫る。「だ......」「だ?」「大丈夫です」とエミルはまた、本日何度目かわからない、あの微笑を浮かべた。リザレリスの胸には、怒りと寂しさが広がった。いても立ってもいられなくなった。このままじゃダメだ。「!!」この時、リザレリスの取った行動はエミルを驚愕させた。リザレリスはつま先立ちになっている。「り、リザさま?」エミルは狼狽する。リザレリスが首元に噛みついてきたから。だが吸血ではない。リザレリスは、愛犬のようにエミルの首元をあむあむと甘噛みしていたのだ。「こ、これでリセット、みたいな?」口元を離し、リザレリスはエミルに問いかける。彼女の顔は桃色に火照り、困惑した女の表情になっている。恥ずかしいから。エミルがどういう顔をしているか、リザレリスは確認できなかった。なぜならエミルがぎゅっと抱きしめてきたから。「リザさま!」「え、エミル?」「ぼくはもう、片時もリザさまから離れません!」「う、うん?」「お手洗いの時も、必ずついて参ります!」「つ、つれションしたいってこと?」「なにをする時も、必ずリザさまの傍らにいます!どんな時も!」「えっ、一緒に便所にまで入ってくるつもり?」「必要とあらば!」「ヘンタイか!」リザレリスはエミルの頭をポンと叩いた。エミ
last update最終更新日 : 2025-06-11
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ep79 サプライズ

【15】放課後の教室は、内外でざわついていた。原因はシルヴィアンナでもリザレリスでもない。それは一日の授業が終了し、皆が帰り始めた頃に起こった。「一年生のみんな、授業おつかれさま」教室の入口に、金髪の美男子が現れたのだ。突然の第一王子の出現に、誰もが驚きを隠せない。すでに第三王子のフレデリックは教室を後にしていたので、ここに来る理由が見当たらない。そこへ我こそはと躍り出ていったのはシルヴィアンナだった。「まあ!フェリックスさま!こんなところまで何の御用でございますの?」いつもの毒っ気がすっかり抜け、完全な淑女モードになっていた。恋する女の顔つきで目を輝かせ、両手を握り合わせて王子を見つめるシルヴィアンナ。まるでロミオを待っていたジュリエットのようだ。シェイクスピアさながらのロマンス劇でも演じるつもりだろうか。「やあ、シャミナード嬢。元気そうだね」王子の笑顔がシルヴィアンナに向けられた。相変わらず素敵、と叫ぶのを我慢しつつ、シルヴィアンナは膝を折って挨拶(カーテシー)をする。それから花のような微笑みを浮かべた。「シルヴィアンナは今、フェリックスさまにお会いして、幸福の極みでございます」「それは良かった」「でも、もっとわたくしを幸せにしていただけません?」シルヴィアンナはあくまで上品に、可愛らしくねだるような上目使いをする。「一体なにかな?」とフェリックスに訊かれ、シルヴィアンナはそっと自分の胸に手を当てた。「そろそろわたくしのこと、シルヴィアとお呼びくださいませんか?」「大貴族のシャミナード家の御令嬢であられる君を、そんなに簡単に気安く呼ぶことは控えられるよ」「そ、そんな、だってあなたは王子殿下であられるのに!」「おっと、それは学校ではやめてと言ったよね?」フェリックスは、シーッと口元で人差し指を立てた。シルヴィアンナは悲しそうに「はい......」と頷き、しおらしく引き下がった。その光景をエミルとともに教室のうしろから眺めていたリザレリスは唖然としていた。「なんなんだあれ?」「いえ、それよりも......」エミルが気にしたのはシルヴィアンナではなかった。そしてそれは、予想通りに起こる。フェリックスの視線が、シルヴィアンナから本来の目的となる人物へと移った。「やあリザ、調子はどうだい?」フェリックスは、普通の男子学生のような
last update最終更新日 : 2025-06-13
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