常ならば慈悲深い光をたたえているはずのその人の茶色い瞳は、なぜか深い悲しみに満ちあふれていた。 僅かに年齢を感じさせる手は卓の上で固く組み合わされ、その前には一枚の紙が置かれており、視線はそこに固定されている。 その紙こそが、その人の悲しみの元凶だった。「……いかがなさいました、猊下(げいか)?」 不意に声をかけられ、ルウツ国民の心の支柱である大司祭カザリン=ナロード・マルケノフははっとしたように顔を上げる。 部屋の戸口にはいつの間にか、神官騎士だけが身にまとうことを許される白銀色の甲冑姿の一人の男性がたたずんでいた。ほかでもない、ルウツの神官騎士団団長の座を預かるアンリ・ジョセだった。 ジョセからいつになく不安げな灰色の瞳を向けられて、大司祭は目を伏せゆっくりと頭を左右に揺らす。 次いで、今目の前で起きていることが信じられないとでも言うように切り出した。「これは一体、どういうことなのでしょう。人の心は複雑で、簡単に割り切れるものではないものとは理解していたつもりだけれど……。一体何が起きているのか私にはさっぱり理解ができなくて……」 震える手で差し出されたそれを前にして、ジョセは思わず眉をひそめる。 刹那、穏やかな面差しがわずかに曇った。 それは紛れもなく皇帝直筆の署名が入った反逆者の手配書だった。 無理もない、そこに描かれていた青年は、紛れもなくこの二人にとって何物にも代え難く、かつかけがえのない存在だったからである。 以前からこの手配書の存在を知っていたジョセは、この書類が大司祭の目に触れぬよう尽力していた。しかし、どうやらその努力は徒労に終わってしまったことを理解した。 さて、何をどこから説明すればいいのだろうか。 沈思黙考するジョセの前で、大司祭は目尻ににじんだ涙を白く細い指先で拭った。 すべてを報告するのならば、今をおいて他はない。たとえそれが、残酷な現実であっても。 しばしためらった後、そう決意した
Terakhir Diperbarui : 2025-07-09 Baca selengkapnya