All Chapters of フォールン・イノベーション -2030-: Chapter 81 - Chapter 90

98 Chapters

81. 灰色

 次は一人じゃない、出来ない事なんて⋯⋯無い!『普通ニ死ネルト思ウナァァァァッ!! オ前ラハコノ3階ニ吊ルシ上ゲテヤルカラナァァァァッ!!』「吊るし上げられるのは、あんたの方ッ!!」 ⋯⋯恐れず前へ! ルイだって、頑張ってる!「ユキ姉、右!」「⋯⋯よし!」 私とノノが前に出てヤツを抑えようとする。シロイズノウから2つを組み合わせ、新たなズノウから一撃を仕掛けた。『ソウダヨナァ!? 人間ハソレニ頼ルシカネェヨナァ!?』 そう言った大臣の剣から突然青い光が放たれ、私の鎌を強烈に照らした。すると、なんとあの剣は"私の鎌と全く同じ姿"になった後、あの黒い鬼鎌へと取り込まれ、"灰色の鬼鎌?"へと変わった。『私ハ全テヲ超エルッ!!』 そこから激しい反撃が開始された。ヤツが振るうだけで、さらに"半透明の刃先"が追加され、1回が4回分もの攻撃へとなっていた。ヤバいと感じてすぐ下がった私は、なんとかギリギリで避ける事ができている。「⋯⋯ノノ! 近付いちゃダメッ!!」 ちゃんと言う事を聞いたノノも傍に寄り、ヤツの様子を伺う態勢へと変える。ヒナとニイナの援護もあり、なんとか4人並行になるまで下がる事が出来た。『コレガ怖イカ? 離レタトコロデ意味ハ無イガナァ!?』「ッ!?」 突如、"半透明の灰色鬼"が数体現れ、鎌で一気に私たちを襲ってきた。ヤツは近距離に強いだけではなかった。『コレカラハ私タチAIガ食物連鎖ノ頂点ニ立ツッ!!!』 ⋯⋯最悪すぎる 選択を誤った、接近戦の方がまだ可能性があったかもしれない。 これが想像以上に苦しかった。私たちなら何とか対抗できると、ルイを見て慢心してしまっていた。こっちはEL4人なのに、それでも大きな差を感じる。とうとう限界で手の感覚が無くなり、鎌が弾かれると、1体が私の両足に目掛けて猛スピードで鎌を振るってきた。 動いて⋯⋯動かないと⋯⋯足が⋯⋯!! でも足が言う事を聞かない。手だけでなく、身体も、もう⋯⋯ 諦めた時、なぜかヤツの動きが"物理的におかしく?"なった。動きが途端にゆっくりになり、さらには逆再生されてるかのような動きになっている。『(ユキ、このズノウをお前に渡す)「(? この声!?)『(お前ならすぐ使いこなす事が出来る。だってお前は、俺によく似てるから)「(⋯⋯ルイ。でも、もう私は⋯⋯)」
last updateLast Updated : 2025-06-20
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82. 白空

「さぁ、これでいけそう?」 『わるいな。ここに頼む』  伸ばされたルイの左腕に七色のL.S.を付ける。すると強烈に光り、その大きな七色の光に包まれた。「⋯⋯ユキ⋯⋯!」  眼を開けると、ルイが私を掴んで必死な表情だった。 「⋯⋯ん⋯⋯身体、元に戻ったのね」 「あぁ、それはいいんだが⋯⋯」  なぜか私たち二人以外、誰もいなくなっていた。そもそも、"さっきまでいた羽田空港"と全く違う。上下左右のどこまでもが真っ白。こんな場所、いたはずが無い。 「なんなの⋯⋯? ここ」 「⋯⋯分かんねぇ」  二人して少し歩くと、七色の霧に覆われた謎の場所を発見した。そこから突如、"白いフードを被った人?"が現れ、こっちへと近付いてきた。  その人物の顔は、"ルイと瓜二つの顔"をしていた。 「⋯⋯お前ッ!」  突然ルイが叫び、銃剣を構える。その銃剣は前に見た物とは"全くの別物"になっていた。 『俺はお前に"L.S.を取り戻せば、実体化してまだ戦える"と伝えた方だ、安心しろ。お前がL.S.を取り戻した瞬間、"UnRuleに存在しない歪み"が起きたようだ』 「⋯⋯"UnRuleに存在しない歪み"?」 『こんな事、どんな時も起こる事は無かった。俺が生きてきた"2035年までの世界"でもな。それほど、今のお前は大きく違う。その右腕にあるL.S.も、左腕のL.S.と合わせ、UnRuleが続く限りは"本物と同等"の使い方が出来るだろう』 「⋯⋯なんでそこまで分かる?」 『一応、研究室の所長だからな。これまでの経験と知識で何となく分かる。そいつらを駆使すれば、あの"操られた俺"を倒す事ができると信じてる。もう今の俺は、それを祈る事しかできないからな』 「本当に、あなたが"未来のルイ"なの⋯⋯?」  綺麗な金髪、七色に光る瞳、そしてあの変わらない顔、どう見てもルイだ。 『⋯⋯久しぶりだな、ユキ。5年間一人で頑張ったんだぜ。こっちだと、誰も助けられなくて⋯⋯俺さ、できる事全部やったはずなんだけど⋯⋯悔しくて情けなくて自殺したくて⋯⋯。でも、そんな俺でも、残された方法が一つある事に気付いた。過去の死ぬ直前のみんなを助ける事。だけど、それさえも上手くいかなかった。この時間軸に着いた瞬間、何かに操られて⋯⋯』 「もういい、もう言
last updateLast Updated : 2025-06-23
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83. 一便

「まずはシンヤ君から見に行かない? ここから一番近いみたいだし」「そうだな、行こう」「なんか複雑な気分ね、友人の死を見なきゃいけないなんて⋯⋯」「特にシンヤの死なんて、想像できないしな」 第一の出発ロビーの中が見えてきた。 上に巨大なホログラムサイネージが浮かんでおり、そこに"有川シンヤの死"と真っ赤な字で書かれている。横の壁には、"有川シンヤの紹介"といった謎のPVがずっと流れている。「⋯⋯不思議な場所ね」 奥に進み、エスカレーターを上って行くと、搭乗ロビーへと出た。 そこには、"SHINYA's LOST GATE"と表記されている特殊な搭乗口があった。どうやら、ここから機内に行くらしい。「まさかこんな目的で、乗らないといけない日が来るなんてな」「どこに飛ぶんだろうね」 不意にルイが手を伸ばした。「何かあるといけないし、一旦手を繋いでおかないか?」「あ、うん。珍しいね、ルイがそんな事言うなんて」「⋯⋯また変なとこに飛ばされたら大変だろ! ⋯⋯ほら!」 手を握ると、いつもの温もりを感じる事ができた。彼はちゃんとここにいる、それを実感して安堵する。「それじゃ、行くぞ」「うん」 特殊な搭乗口を潜り、搭乗橋を渡って行く。 この先、何が待ってるんだろう。不安と使命感と、いろんな気持ちに駆られる。 でも、隣にルイがいる。それだけですぐ、安心へと変えてくれる。やっぱり私はこの人が好き、初めて会った時からずっと。 長い搭乗橋の先、機内へと辿り着いた。なんと、全席がスーパーファーストクラス仕様へとなっていた。どこでも自由に座っていいみたい。 まぁでも、旅をする訳じゃないだろうから、どこへ座っても結局は同じ。すぐ近くの席へ座ると、アナウンスが流れ始めた。『本日は、白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。当機はNJA航空、有川シンヤ様の死因確認行き、001便でございます。まもなく離陸致しますので、シートベルトの方をよろしくお願い致します』 なんとも聞き慣れないアナウンス。 私がルイの手を強く握ると、同時に飛行機は動き始めた。"シンヤ君の死"を見に。「離さないからね、何があっても」「俺も、絶対に」 目の前が白い光に包まれていく。その光が収縮する時、辺りが
last updateLast Updated : 2025-06-24
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84. 二便

 第二の出発ロビーに入ると、上の大きなビジョンに"町田ヒナの死"と書かれていた。 壁全体にはヒナを紹介するPV、さっきのロビーと全く同じ状況になっていた。「全部こんな感じなのか⋯⋯?」「2つこうだと⋯⋯後もそうかもね」「最後にユキのを見る事になると思うけど、こんな感じで出てくるって訳か」「⋯⋯それ言われると、見たくなくなってきた」「俺だけで行ってこようか?」「やだ、一緒に行く」「なんだそりゃ」「だって離れたら⋯⋯」「⋯⋯まぁ」 話しながら歩いていると、今度はエスカレーターを下って行く形になっていた。結構長いエスカレーターの先、搭乗ロビーへと出ると、"HINA's LOST GATE"を発見した。さっきと同様、機内に繋がっていると思われる。「ユキ」 伸ばされた右手。また手を繋いでいこうの合図。 もちろんすぐに手を取る。「なんか、積極的になったね」「い、今だけな!」 できれば、ずっとこうしてたい。何も気にする事なく、ずっとこうして。ルイもそう思ってくれてたら、嬉しいな。 今度の搭乗橋はねじったような形状をしていた。まるで飲み込まれていくような、実際の羽田空港にもこんなのがあるのだろうか。正直ちょっと怖い。 次はどんなのを見せられるんだろう。ヒナが死ぬなんてのも、あまり想像が付かない。だって彼女には≪天魔神の超重力≫や≪天魔神の超反撃≫といった、特別な常時付与型のズノウがある、スキルでいうバフに当たるもの。 私たち第三者にまでも付与できて、その適応時間はヒナが起きてる限りほぼ無限に続いてくれる。紀野大臣の時くらいまでは完全に扱えなかったみたいだけど、今では精度も上がって凄い助かってる。 あの力の元は、ルイが一人で倒してしまった、あの力。それが"Another ELECTIONNER"として頼りになるなんて、あれが無ければ銃に撃たれたり、奇襲に対応できなかったり、危ない場面は多かったように思う。攻撃時の火力も相当高いし、バランス型のヒナに合ってる。 そのヒナが死ぬなんて、どんな事があったんだろう?  考えていると、いつの間にか機内へと入っていた。「ここも同じか」「だね。そこに入ろ」 スーパーファーストクラスにこんな何回も座るなんて、今後もうなさそう。ルイが一緒に乗ってくれたら、何回でも乗るけど。「なぁ、落ち着いたらリア
last updateLast Updated : 2025-06-25
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85. 三便

 2階へ降りると、雰囲気が全く違った。  一定間隔で"地面が波打っている?"ようで、私たちの足元だけはなぜか波に飲まれない不思議な場所。 「この流れてくる"黒い波"、なんだろう⋯⋯」 「身体に影響は無さそうだし、一旦放っとくぞ」  私たちは、近くにある"ノノの便"から向かった。 「なぁ、ノノって⋯⋯昔よく遊んでた"あのノノ"だよな?」 「気付いた?」 「大きくなっても、目元に面影が残ってるというか」 「なんだ、薄っすら気付いてたのね」  歩いていると、ノノの立ち絵が見えてきた。どの出発ロビーにも、手前に各々の立ち絵が浮かんでおり、それを目印に私たちは進んでいる。  第三の出発ロビー。  そこでは、流れる波の面に"三船ノノの死"と赤字で書かれている。黒い波が赤字をより強調させ、壁には相変わらず謎の紹介PVが流れている。 「⋯⋯ちょっと変えてきやがったな」 「全部同じではないのね」  さらに奥へ行くと、螺旋状のエスカレーターが待っていた。  この上に搭乗ロビーがあるって事⋯⋯?  エスカレーターに足を乗せた瞬間、黒白に光り始め、上へと動き始めた。  着いた搭乗ロビーは3階の時と特に変わらず、"NONO's LOST GATE"があった。 「ここは⋯⋯さすがにもういいか」  彼が小さくそう呟き、手を引っ込める。もう手を繋がなくてもいい、それの表れだった。だけど、私は無理やり手を取った。 「やだ、これで行こ」 「お、おい」 「この後も同じとは限らないでしょ、ほら」  今度は私が前を行く。芯まで握って、離さないようにして。  ここの搭乗橋の中にまで、黒い波が蠢いていた。まるで私たちを吸い込むかのように。怖く感じて足が止まった時、彼がそっと前に出た。 「大丈夫だ、行こう」 「⋯⋯うん」  私を連れて歩き始める。その背中を見るだけで、恐れが飛んでいくのが分かる。  機内も3階の時と変わりなく、全席がスーパーファーストクラス。気分転換に前の席へ座ろうという彼の提案があり、違う場所へと座ってみる事にした。 「俺たちだって、変えてみた方がいいかもしれないしな」 「それ、ルイのやり方って感じする」 「どんな感想だよ」 「ふふっ」 『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用
last updateLast Updated : 2025-06-30
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86. 四便

「とうとうアスタか。あいつが死ぬなんてありえるのか?」「⋯⋯一番想像できないわね」 第四の出発ロビー。 先に入ると、「きゃぁっ!?」「なんだ!?」 こんなのビビるに決まってるでしょ!? 薄暗いロビーの中心に"巨大な黒能面"が飾られてあって、大声を上げてしまった。「んだこりゃ、アスタが付けてるからか?」「もう、こんなの置かないでよ⋯⋯」「まぁでも、なんかしてくる訳じゃなさそうだな」 ぐるっと黒能面の周りを回ってみると、裏側に"白石アスタの死"と赤字で書かれていた。 こんなとこに書くなんて、まるで"これのせい"って言ってるみたいじゃない⋯⋯? 壁には、やっぱり謎の紹介PV。だけど、ここではニイナとカイ君までも映っている。 黒能面の背後に続く通路を行くと、"青い霧?"が流れてきた。「この青い霧の中に、エスカレーターがあるっぽいな」 ルイの指差す上の方、微かに見えたエスカレーターの一部が露出している。 その他はどうなってるか、霧が濃くて分からない。「行くしかねぇよな。待ってても時間が来ちまう」「そうね⋯⋯」 勇気を出して、青い霧の中へと一歩踏み入れる。人体への影響は⋯⋯特に無さそう。 エスカレーターはというと、案外すぐ近くだった。足を乗せた瞬間、青く光って動き出し、身体は勝手に上っていく。 そこからは、いつもの搭乗ロビーへと繋がっていた。"ASUTA's LOST GATE"の文字が記されたゲート。「はい」 私はそっとルイへ手を差し出す。彼は何も言わず、私の左手を取ってしっかりと握る。 ここまで来たら、最後までしてもらわないとね。もしかしたら私、この時間を楽しみに今頑張ってるのかもしれない。 ここの搭乗橋にも、また"青い霧"が漂っていた。でももう、恐れたりなんてしない。私たちがみんなを助けなきゃいけないんだから。「なんか、強くなったな」「そう?」「さっきと違う、ずっと前を向いてる」「慣れたからかもね」 あなたがいるから、なんて言ったらどんな顔するかな。それは現実に帰ってからに取っておく。 機内は変化なく、相変わらず全席スーパーファーストクラス。だけど一席、青色に光る席があった。「合わせて青にしてみるか」「いいんじゃない?」 座ると、アナウンスが流れ始める。『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)
last updateLast Updated : 2025-06-30
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87. 中間

 他に方法は無いのかな。未来ルイを助ける、他の方法は。走り続ける中、ルイと考え続けた。 でも、今の私たちに出来る事は無い。ただ今を生きるのに精一杯なままで⋯⋯「あいつと俺は枝の分かれ目で繋がってる。だから分かる、あいつは簡単に消えたりしない」「うん⋯⋯」 話し合っていると、最後の出発ロビー前へと辿り着いた。私の立ち絵が用意されている。水色のパーカー、水色のプリーツミニスカート、白のショートブーツ、左に纏めた長髪、今の私の格好まんまだ。 ここに私の死因が⋯⋯ ⋯⋯ん、なに? 私の横を"半透明の何か"が通り過ぎていく。 灰色の⋯⋯蝶⋯⋯? それは誘うように、ロビー内へと入って行った。私とルイは顔を合わせ、中へと入る。そこには、灰色蝶が何匹も上で漂っていた。 さらに目線を上にすると、天井には大きな赤字で"新崎ユキの死"。壁際には、立体プロジェクションマッピングで私の紹介PV。 「ユキのはこんな感じか」「⋯⋯あんま見なくていいから」 すると、一匹の蝶がゆっくりと上から降りてきた。 この蝶だけ、他と違う⋯⋯?「付いて行ってみましょ」 先導するように進む"光った灰色蝶"、身体からは"残像のような灰粒子"を発している。 これ、私の"灰涅槃の鬼鎌"から出る粒子と同じ⋯⋯? 付いて行った先、"灰色のリフト?"がぽつりとあった。その上で蝶が舞っている。 ⋯⋯それに乗れって事?「行くしかないな」「みたいね」 乗った瞬間、リフトは下へと降り始めると同時に、目の前に【07:00】という謎の時間が表示された。「⋯⋯なにこれ?」 【06:59】【06:58】【06:57】と時間が減っていっている、何が始まったの⋯⋯?「ユキ! 上見ろッ!」「え!?」 上を向くと、なんと上の方が少しずつ砂のように消えていっていた。 まさかこのタイムリミット⋯⋯この世界の終わりってこと!? リフトが搭乗ロビーへと着く頃、"YUKI's LOST GATE"を直線先に見つけた。「走るぞッ!」 【06:30】【06:29】【06:28】、時間が刻々と過ぎていく。搭乗橋を駆け抜けると、中間地点の広い空間へと出た。 そこには⋯⋯「!? なんでヒナ、ノノ、アスタ君が!?」「⋯⋯どうなってやがる」『(たぶん⋯⋯これが最後の話に⋯⋯なる)』 これ、未来ルイの
last updateLast Updated : 2025-07-01
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88. 赤陽

 佐野大臣に使った≪灰涅槃の楽園≫は1日1回しか使えないらしく、他で何とかしないといけない。 だったら、至近距離でぶつかるべき⋯⋯! 私の鎌と赤ヒナの槍が衝突し、鈍い音が強烈に響く。適当にズノウは使えない、≪天魔神の超反撃≫でとてつもないカウンターを食らう可能性がある上、遠距離攻撃は≪天魔神の超重力≫で無効化される。 あなたはフィジカルはそれほど強くなかった。補うために、少し離れたところからいつも戦ってる。つまり、この距離の物理戦にそれほど慣れてないはず。 私は散々ルイとシンヤ君に鍛えられてきた。 高校の時、あの二人に置いて行かれないよう、どれだけ一緒にトレーニングしたか。圧倒的な速さを前に、私は自分の限界を気にしてばっかりで⋯⋯ ルイには追い付けないとしても、せめて、せめてシンヤ君の背中は捉えていようって。だけど、その見える背中はあまりに小さい。米粒ほどの大きさが見えていればラッキーくらいで、それはきっと私が調子良い時。 その調子の良さをたった今感じてる、ルイが戻って来てくれたおかげで。好きな人が傍にいるってだけで、全てが良くなっていく。 あなたに見せてあげる、それがどれだけの事なのかを⋯⋯! 槍をはじき返すと、彼女はズノウを使ったのか、上から"数えきれないほどの白と黒の槍"が降ってきた。「⋯⋯まだ知らないみたいね、私の事」 降る白黒の槍は一瞬にして、"灰色蝶の銀河空間"へと吸い込まれていく。ハイネハンノズノウの一つの≪灰空の天の川≫は、吸い込んだそれらを"灰色の閃光槍"へとアップデートし、彼女へと降り返した。 しかし、それをまた彼女は超反撃によって返そうとしてくる。その繰り返しが空中で行われる中、また私と赤いヒナが零距離で睨み合った。鎌と槍の擦れる音が、タイムリミットを焦らせる。 【04:30】、【04:29】、【04:28】。「いい加減に⋯⋯しなさいッ!!」「⋯⋯」 彼女は諦めてくれない、槍の姿を黒く変えて。まるでこの光景が、"いつか彼を取り合う日が来る"、そんな風にも感じた。だったらより負ける訳にはいかない。 ここは恋の戦場。この土俵から落ちれば、大好きな彼の全てを奪われる。そう思い込むと、想像以上の馬鹿力が湧き上がって来た気がした。 毎日彼の声を聴きたくて。 毎日彼の顔を見たくて。 毎日彼の生活の一部になっていたく
last updateLast Updated : 2025-07-02
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89. 終便

 すぐに座ると、アナウンスが響いた。『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"新崎ユキ様の死因確認"行き、00X便でございます。当機が離陸するには、"操縦席にての操作が必要"となります』 え、操作!? どういう事!? "操縦席で操作が必要"ってなに!?「⋯⋯くそッ! っざけやがって! ユキ、前行くぞッ!」「うん!」 【02:30】、【02:29】、【02:28】、私たち間に合うの!? タイムリミットが足を強張らせる。「きゃぁッ!!」 焦ってこけそうになった時、ルイが私の全身をキャッチした。「ごめ⋯⋯! 足がつって! ⋯⋯置いてっていいから!」 なんでこんな時に⋯⋯早く治ってよ、私の足ッ! 【02:00】、【01:59】、【01:58】、私たちを貪るかのように、カウントダウンは進み続ける。 いや⋯⋯こんなところで⋯⋯消えたくない!「⋯⋯ッ! 今は文句言うなよッ⋯⋯!!」「えっ!?」 私の太ももと背中を抱え、彼は走り出した。 絶対見捨てた方がいいのに、それでも二人で行こうとしてくれている。正直、ピンクのショーツ丸見えだと思うけど、そんなの今はどうでもいい。というか、ルイだったら別に幾ら見られても⋯⋯って、こんな時に何考えてるんだろ、私。「⋯⋯ごめんね、いつも迷惑かけて」「何言ってやがんだ、俺を蘇らせてくれただろ」「それは⋯⋯それだから」「んな事より! "秋葉駅の時"と! 同じだなッ!」 彼は少し息を切らしながら、そう発した。その顔は少し、笑っているようにも見えた。 この"新経済対策の洗礼"を受けた最初の日。初めてネルトに遭遇した私は、足をつって動けなかった。置いて行ってって言ったのに、それでも彼は私を抱えて、電車の3階へと飛び乗った。 あの時の彼の顔、ずっと覚えてる。そっか、やっぱルイはルイなんだ。「⋯⋯変わらないね」「まぁ結局! イーリスマザーだのなんだの! 変わんねぇよッ! 俺はッ!」 なんか安心した。あのルイも変わらないんだって事に。もし他の人が"イーリス・マザー構想の成功者"だったら、彼のようにいられるだろうか? 自分の力を振りかざし、好き放題しているの違いない。ホテルで私とヒナが襲われた時だって
last updateLast Updated : 2025-07-03
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90. 紫界

 ボタンを押した先、終便で私たちが見たもの。それは⋯⋯ ― あのAI総理の姿だった 場所は、ここは国会議事堂じゃ無い⋯⋯? 突如、総理の背中から"羽?"が生えた。左には白い日本列島、右には黒い日本列島の形をした、見た事も無い羽らしきもの。それだけで全身に悪寒が伝った。 そう感じた時、"あっちの世界の私"に異変が起こった。急に体内から血が噴き出し、倒れてしまった。何が起こっているのか全く分からないまま、その様子を見る事しか出来ない。 倒れた私を"あっちの彼"が抱えると、なんと私の身体が総理の中へと取り込まれていった。取り込まれる直前、あの私が何か言ったように見える。 そして、一人になった彼が"2つの銃剣"を取り出し、総理へと立ち向かっていく。左手に持っているアレは、前にルイが使っていた"虚無限蝶の銃剣"⋯⋯? 意味不明な事柄だけが揃い、また眩い光に包まれた。明けた先、目の前に広がった光景は―「ここ⋯⋯渋谷⋯⋯よね?」「⋯⋯渋谷サクラステージか?」 夜の渋谷サクラステージが広がっていた。数回しか来た事ないけど、位置関係はなんとなく分かる。「テラスの場所ね、ここ」 二人歩き、辺りを散策する。誰一人いない渋谷の夜、"紫に光る夜景"だけが目に入る。「俺があの時見た夜景と全く同じだ」「それじゃ、やっぱりここが⋯⋯」 閑散とした中、渋谷ストリームへと続いた通路を歩いて行く。目指しているのは、渋谷スクランブルスクエア屋上、渋谷スカイ。彼が言うに、あの場所に未来ルイがいるという。「さっき見た"ユキの死因"、訳分からなかったな」「ね。何が何やら」「総理とやり合うとこまで分かったってのに、"あいつ"はもう、対処法を教えてくれないんだよな」「うん⋯⋯」 未来ルイはもういない。もう何も教えてもらう事はできない。この、彼のズノウが作り出した渋谷世界に、私たちは閉じ込められたまま。 なんだろう、この感覚。現実感の無い、フワフワした感じ。まるで山登りを続けているみたい。あまり長居はできなそう。でも今は、耐えなきゃ。「ん? あれ、誰かいないか?」 確かに、奥に誰か一人立っている。長い黒髪、ニットワンピっぽい服、黒のロングブーツ⋯⋯女性? 向こうから近付いてきた。敵⋯⋯じゃないよね?『待ってた、二人を』 少し遠くから、その女性は話しかけてきた。待っ
last updateLast Updated : 2025-07-04
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