沙耶〈さや〉の引っ越しから二週間が過ぎ、暦も3月から4月へと変わっていた。 新生活の季節。 悠人〈ゆうと〉は小鳥〈ことり〉の入学式に、保護者として同伴した。 小鳥の大学は、悠人の家から電車とバスで一時間ほどのところにある。 キャンパスで楽しそうに話している学生たちを見て、ここなら小鳥も楽しくやっていけるだろう、悠人はそう思った。 小百合〈さゆり〉は入学式にやってこなかった。 一人娘の入学式。顔を出すと思っていたのだが、小百合はなぜか一年前に携帯を解約していて、連絡が取れずにいた。 学生時代、悠人に携帯を持つよう言っていた彼女の心境の変化に、相変わらずマイペースなやつだなと悠人は思った。 小鳥の話だと、先日公衆電話から連絡があり、陸奥〈みちのく〉女一人旅を延長する、楽しくやってますと言っていたとのことだった。 初恋の相手である自分が悠人と会えば、きっと悠人の心は乱れてしまう。娘の恋を応援する親として、今悠人と会う訳にはいかない。ラスボスは最後に登場するものだから、との意味深なメッセージに、小百合らしいと苦笑した。 * * * 小鳥は沙耶と共に、バイトに勤しんでいた。沙耶と一緒に働くようになってから、小鳥は今まで以上に楽しい様子だった。 沙耶はと言えば、接客の方は相変わらずだが、バイトを始めて三日ほど経った頃には、商品の名前と値段、場所全てを記憶していた。 そして一日の店の売り上げ、売れ筋の商品や売れ残りなどをチェックし、店長山本に店の大幅なディスプレイ変更を申し出た。 最初は首をかしげていた山本だったが、理路整然とした客の流れや購買心理・商品の見せ方の説明に聞き入るようになり、その申し出に乗った。 翌日から、商品の売れ具合が激変した。これまで売れていた商品は勿論、売れなかった商品も次々と売れ、売り上げが一気に上がっていった。 更に沙耶は、客一人あたりの単価を上げる次の策として、商品によって、セットで買うと翌日から使える商品券の発行を提案した。例えば弁当と一緒にお茶を買うと50円の商品券
Last Updated : 2025-05-09 Read more