All Chapters of クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した: Chapter 561 - Chapter 570

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第561話

「静雄、本当にすごいわ。こんなに早く南商事の内情を掴んで、しかも買収まで進めるなんて......すごい」芽衣は心から感服したような口調で言い、瞳には感服の色が浮かんでいた。その言葉を聞き、静雄はわずかに口角を上げ、得意げな視線を向けた。「当然だろう。深雪の小細工なんて、俺の前では通用しないぞ」芽衣は内心で笑った。完全に舞い上がってる。彼女はさらに追い打ちをかけた。「ほんとよ。深雪なんて、何様のつもりなのかしら。静雄と並べて語ること自体、おこがましいわ。あなたの元を離れた時点で、彼女は何者でもない。今さら結局、あなたに買ってもらおうとしてるじゃない」露骨に深雪を貶めて、静雄を持ち上げた。静雄はそれに応じることなく、短く言った。「もういい。先に部屋へ戻って」芽衣は一瞬驚いたが、素直に頷き、その場を後にした。松原商事・社長室。静雄は机の向こうに座り、前に並ぶ弁護士団を見据えていた。その表情は、先ほどまでの余裕が嘘のように厳しくなっていた。「南商事への買収意向書は、正式に提出したか?」「はい、社長。ご指示どおり、本日午前中に南商事へ送りました」代表弁護士が恭しく答えた。「......深雪の反応は?」静雄の声には、期待と同時に、わずかな焦りが混じっていた。弁護士は一瞬言葉を選び、慎重に口を開いた。「...... 少し、迷われているようです」「迷っている?」静雄の眉がきつく寄った。「今の南商事の状況が分からないはずがない。何を迷う必要がある?」「明確な拒否ではありません。ただ......重大な案件なので、検討する時間がほしいとのことです」静雄は鼻で笑い、指先で机を叩いた。鈍い音が、室内に響いた。「考える?ただの時間稼ぎだ。値を吊り上げるつもりだろう」その瞳には、露骨な軽蔑が浮かんだ。「伝えておけ。松原商事の忍耐にも限度がある。本気で協力する気があるなら、誠意を見せろ。駆け引きなど、俺には通用しないとな」脅しにも似た口調だった。「承知しました。その旨、南商事へお伝えします」弁護士団は一斉に頭を下げ、退室していった。南商事・社長室。深雪は椅子に腰掛け、手にした買収意向書を指先でなぞっていた。唇には、かすかな嘲笑が浮かんだ。そばに
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第562話

「情報を流して。『南商事は松原商事の買収提案を前向きに検討しているが、同時に資金繰りの面で、いくつか課題も抱えている』と」深雪はそう言って振り返り、大介に静かに指示を出した。大介はすぐに意図を理解し、口元に含みのある笑みを浮かべた。「承知しました、社長。どう動けばいいか、よく分かっています」その目には、計画が動き出すことへの期待が宿っていた。数日後。松原商事の弁護士チームが再び南商事を訪れ、大介と買収条件についての初期協議が行われた。会議室の空気は一見穏やかだが、水面下では緊張がせめぎ合っている。まず口を開いたのは、松原商事側の弁護士代表だった。「大介さん。当社の買収意向について、御社ではどの程度ご検討いただいていますか?」どこか圧を感じさせる口調。大介は微笑みを崩さず、丁寧に答えた。「松原商事からのご提案、誠にありがとうございます。弊社も非常に重く受け止めており、現在、慎重に精査しているところです」弁護士代表は眉を寄せ、声の調子を強めた。「検討には、どれほどの時間が必要でしょうか。当社としても、無期限に待つわけにはいきません」それでも、大介は慌てることなく冷静さを保っていた。「買収は両社にとって重大な決断です。最良の条件で協力関係を築けるよう、熟慮したいと考えております」その時間稼ぎを察し、弁護士代表の表情が険しくなった。「率直に申し上げますが......現在の南商事に、交渉で主導権を握れる余地がどれほどあるのか分かるでしょう。資金繰りが厳しいことは、業界では周知の事実。このタイミングで手を差し伸べる松原商事の姿勢は、最大限の誠意だと思いますが」大介はその言葉を受けても、笑みを消さなかった。ただ、その声音には、どこか含みがあった。「いえ、誤解なさらないでください。南商事の経営は、これまで一貫して堅実です。確かに最近、資金の回転に関して少し調整が必要な局面はありましたが......それも、近いうちに解消できる見込みです」「少し」という言葉に、弁護士代表は即座に反応した。「少しとは、具体的にどういう意味でしょうか?我々の把握では、資金ギャップは決して小さくないようですが」大介は一瞬、言葉を選ぶように間を置き、まるでうっかり口を滑らせたかのように声を落とした。「実
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第563話

静雄はしばらく思案したあと、ゆっくりと首を振った。その声には、わずかな迷いが滲んでいる。「その可能性も否定はできないが......深雪は無意味なことはしない女だ」「下瀬産業......」静雄は低く呟き、視線を落とした。「やはり一度、深雪と下瀬産業の関係を徹底的に調べる必要がありそうだな」その目が、次第に鋭さを帯びていく。頭の中では、すでに次の一手が組み立てられていた。一方その頃、静雄が深雪と下瀬産業の関係を探り始めたと知り、延浩はわずかに口角を上げた。「ようやく下瀬産業に目を向けたか......」低く呟くその声には、どこか愉しげな響きがある。「だが、それでいい。真実に一歩近づいた『つもり』になってくれれば」深雪は延浩の自信に満ちた横顔を見て、軽く微笑んだ。「静雄は何か掴めると思う?」延浩は首を横に振り、答えた。「いや、何も掴めない。僕の下瀬産業での立場は、長年きれいに隠してきた。静雄がどれだけ調べても、僕に辿り着くことはない」その言葉に、深雪の胸にあった不安がすっと消えた。「それなら安心ね。静雄は調べれば調べるほど疑心暗鬼になる。何も見えないからこそ、不安は膨らむもの」そう言って、深雪は小さく笑った。その瞳には、はっきりとした嘲りが宿っていた。「それが、次の段階に進むための最高の下地になるわ」下瀬産業・社長室。約束どおり、深雪は下瀬産業を訪れ、社長の雅弘に買収交渉の進捗を報告していた。雅弘は終始にこやかで、自ら茶を淹れながら深雪を迎えた。「最近は大変でしょう。松原商事との交渉は、順調ですか?」深雪は少し困ったように表情を曇らせ、静かにため息をついた。「正直に申し上げますと......今回は、あまり順調とは言えません」その言葉に、雅弘は眉を寄せた。「何か問題が?もし差し支えなければ、聞かせてください。下瀬産業としても、できる限り力になります」深雪は感謝の意を込めて一礼し、慎重に言葉を選んだ。「松原商事は、今回の買収に非常に積極的で......その分、条件もかなり厳しいのです。それに......」一瞬、言い淀んだあと、意を決したように続けた。「私たち南商事が、現在、資金面で多少の困難を抱えていることにも、気づいているようで......そ
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第564話

深雪はその言葉を聞き、内心ではほくそ笑みながらも、表情には感極まった様子を浮かべた。「......本当にありがとうございます。心から感謝いたします!」声には、感激と敬意が溢れている。雅弘は朗らかに手を振り、穏やかな口調で応じた。「深雪さん、どうぞお気遣いなく。下瀬産業と南商事は戦略的パートナーです。互いに支え合い、共に成長していくのは当然のことですよ。それに、あなたの手腕を信じています。必ずや南商事を率いて、困難を乗り越え、さらに輝かしい未来を切り開いてくれるでしょう」その率直な励ましに、深雪は改めて深く頭を下げた。「ありがとうございます。下瀬産業のご支援があれば、南商事は全力で立て直し、買収交渉も早期に決着させ、目前の資金問題を必ず解決いたします」雅弘は満足げに微笑んだ。「ええ。互いに協力し合う関係ですから」雅弘を見送ったあと、深雪は自室に戻った。その唇には、計画が思惑どおり進んだことを示す、かすかな笑みが浮かんでいる。室内には、すでに延浩が待っていた。「うまくいった?」静かな問いかけに、深雪は頷いた。「ええ。静雄は......ますます有頂天になるはずよ」二人は視線を交わし、言葉を交わさずとも意図を共有した。深雪は声を潜めて続けた。「次は、下瀬産業の支援がもっと現実味を帯びるようにしないと」延浩も同意するように頷いた。「静雄に、南商事の背後には下瀬産業がいると完全に信じ込ませる必要がある。そうすれば、必ず油断する」深雪の瞳が狡猾にきらめいた。「支援どころじゃないわ。下瀬産業が南商事に出資する意向があると流すの」延浩は眉を上げ、興味深そうに彼女を見た。「それはいいね。その噂を聞いたら、静雄は落ち着いていられないだろう」深雪は立ち上がり、デスクへ向かうと受話器を取った。「部下たちに知らせるわ。下瀬産業が出資に動くって」噂はまるで翼を得たかのように、瞬く間に社内を駆け巡った。「聞いた?下瀬産業がうちに出資するらしいよ!」「本当?あの下瀬産業が?」「間違いないって。大介さんが話してたのを聞いた人がいるらしい。社長と下瀬さん、相当親しいみたいだよ」「それなら、うちも助かるじゃないか。松原商事の買収話も、状況が変わるかもしれないな」ざわめきは広が
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第565話

芽衣は頃合いを見計らって社長室に入ってきた。静雄の陰鬱な表情を目にし、柔らかな声で問いかけた。「静雄、どうしたの?また......深雪のことで悩んでいるの?」静雄は顔を上げ、苛立ちを隠さず答えた。「南商事が、下瀬産業から出資を受けるって噂を流している」芽衣は鼻で笑い、露骨に軽蔑した口調で言った。「下瀬産業が出資?まさか、本気で信じてるわけじゃないでしょう?」静雄は眉を寄せ、芽衣を見た。「......やはり、深雪のハッタリか?」芽衣は静雄のそばに歩み寄り、甘えるように腕に触れながら言った。「もちろんハッタリよ。考えてみて、静雄。下瀬産業がどんな存在か」買収目前の小さな会社に、本気で出資すると思う?深雪は、下瀬産業の名前を利用して、少しでも条件を吊り上げたいだけよ」自信満々の口ぶりだった。その言葉を聞き、静雄の表情は次第に和らいでいく。胸にあった疑念も、少しずつ薄れていった。確かにその通りだ。下瀬産業ほどの大企業が南商事のために動くはずがない。深雪は追い詰められ、虚勢を張っているだけなのだ。静雄は冷ややかに笑った。「深雪......その程度の小細工で、俺を欺けると思うなよ」さらに確かめるため、静雄は再び深雪に電話をかけた。「検討は進んだか?こちらの買収意向書は、もう確認しただろう」上から目線の声。電話の向こうで、深雪は相変わらず落ち着いた声で答えた。「はい真剣に検討させていただいております」静雄は満足そうに口角を上げた。「それは結構。松原商事の忍耐にも限界がある。誠意を示す意味も込めて、今日の昼、当社系列のレストランで昼食を食べよう。買収の詳細について、ゆっくり話そうか」いかにも恩を着せるような言い方だった。少しの沈黙のあと、深雪が淡々と答えた。「かしこまりました。松原社長のお心遣い、ありがたく受け取らせていただきます。予定どおり伺います」電話が切れた。深雪は受話器を置き、隣にいた延浩を見た。唇には、冷たい笑みが浮かんでいた。「昼食に誘われたわ。どう考えてもわざとね」延浩の目に、わずかな懸念がよぎった。「ろくな意図じゃないな。僕も一緒に行こうか?」深雪は即答した。「もちろん。一人じゃ、静雄の厚意を受け止めきれないもの」
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第566話

延浩が頃合いを見て口を開いた。その声は穏やかだが、わずかな圧を帯びていた。「松原社長。私たちは今日、ただ買収案を伺いに来ただけです。どれほどの誠意をお持ちなのか、それを確かめたいだけですよ」静雄はその言葉を聞き、胸の奥で怒りがさらに燃え上がるのを感じた。しかし、必死に感情を押し殺し、深く息を吸ってから、再び笑みを貼り付けた。「もちろんです。もちろん。買収案については、十分に準備しております」静雄は弁護士団に合図を送った。すぐに分厚い書類が差し出され、深雪の前へと置かれた。「こちらが、御社のために特別に用意した買収プランです。どうぞ、じっくりご覧ください」静雄の声には再び自信が戻り、まるで主導権を取り戻したかのようだった。深雪は書類を受け取り、数ページだけ無造作にめくった。その口元には、嘲るような微笑が浮かんでいた。「松原社長の誠意を、確かに拝見しました」意味深な言い回しに、静雄の顔色が一瞬で強張った。胸の内で渦巻く怒りが、今にも噴き出しそうになった。だが、ここで取り乱すわけにはいかない。深雪と延浩の前で、無様な姿をさらすわけにはいかなかった。「おっしゃる通りです。誠意なら、誰にも負けません」そう言って、再び弁護士団に視線を投げた。意を察した弁護士たちは一歩前に出て、深雪に向かって説明を始めた。「こちらは、松原商事が御社の現状と将来性を十分に考慮したうえで策定した、特別な買収案でございます。現在の経営状況、そして今後の成長余地を踏まえ、当社は最大限の誠意をもって、御社を買収させていただく所存です」条項の一つひとつが読み上げられ、その言葉の端々には、静雄の寛大さと施しが滲んでいた。「買収価格につきましては、専門機関による評価を経て、1株あたり10%のプレミアムを上乗せしております。これは現行市場においても最高水準であり、当社の誠意を十分に示すものです。買収完了後は、松原商事が南商事の全事業・全資産を引き継ぎます。ブランドおよび既存チームは維持し、円滑な移行をお約束いたします。もっとも、経営効率向上のため、経営陣については一部調整を行う予定です」弁護士は言葉を切り、意味ありげに深雪を見つめた。「深雪社長は、創業者としての役目を終え、悠々自適な生活をお送りいただくことも可能です。ある
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第567話

「深雪、少しは分別を持ったほうがいい。今の南商事は、すでに逃げ場がない。俺の買収を受け入れる以外、選択肢は残されていないんだ。分かっているだろう。商いの世界は戦場だ。勝者が王となり、敗者は去る。それが永遠の真理だ。負けたのなら、素直に認めるべきだ。無意味な抵抗はやめて、南商事を俺に売る。それが今の君にとって唯一の道であり、最善の選択だ。それとも......彼のもとを離れて、俺のところへ戻るか。以前、南商事と松原商事が協業していたことを考えて、もう一度だけチャンスをやろう。最初から、やり直せばいい」その瞬間、深雪がふっと笑った。澄んだ笑い声だったが、そこには冷たさと嘲りが混じっている。静雄はその唐突な笑いに一瞬戸惑った。眉をひそめ、瞳の奥にかすかな疑念と不安がよぎった。やがて深雪は笑みを収め、顔を上げて静雄を真正面から見据えた。「松原社長......本気で、私を追い詰めたつもりですか?」声は大きくないが、その一言ははっきりと場に響き渡り、強烈な存在感と圧迫感を伴っていた。静雄は言葉に詰まった。胸の奥に芽生えた不安が、一気に膨れ上がった。それでも、彼は平静を装った。深雪に逆転の切り札などあるはずがない。ただの虚勢に違いない。「違うのか?」静雄は鼻で笑い、強い口調で言い放った。「南商事に、まだ形勢を覆す手段が残っているとでも言うのか?今や、業界中が知っている。南商事は資金繰りが断たれ、破綻寸前だ。完全に袋小路だ。それでも、なお無駄な抵抗を続けるつもりか?」深雪はその問いに答えなかった。彼女は静かに視線を移し、隣に座る延浩を見た。二人は目を合わせ、自然と笑みを浮かべた。そこには、揺るぎない信頼と自信があった。深雪は視線を戻し、立ち上がった。延浩もまた席を立ち、二人は並び立った。その場の空気が、一気に引き締まった。深雪は見下ろすように静雄を見据え、冷ややかに告げた。「あなたの買収案は、すべて拝見しました。ですが、申し訳ありません。その誠意に、私はまったく興味がありません」そう言い残すと、深雪はもう静雄を振り返ることなく、個室の外へと歩き出した。延浩も迷いなく後に続いた。残された静雄は、椅子に固まったまま座り尽くし、顔色を暗く変えながら二人の背を見送るしかなかった
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第568話

深雪は少し真剣に考え、それから自然な口調で答えた。「これからのこと?もちろん、南商事をこれからも経営していくわ。もっと大きく、もっと強く育てていく」それは、彼女がずっと抱いてきた目標だった。今日まで歩み続けてこられた理由の一つでもある。延浩は彼女を見つめ、その瞳の奥に複雑な感情を宿しながら、声をさらに柔らげた。「......それだけ?じゃあ......この先も、ずっと国内にいるつもり?」慎重で、探るような問いかけだった。まるで、自分が受け入れられない答えを恐れているかのように。深雪は、ようやく彼の言葉に滲む不安に気づいた。延浩の眼差しの奥に潜む、かすかな揺らぎを敏感に捉え、胸が小さく動いた。彼女は先ほどレストランで何気なく手にしていた書類を脇に置き、身体ごと彼に向き直った。そして、そっと彼の手を包み込んだ。指先から、温もりと確かな力が伝わっていた。「先輩......」深雪はやさしく問いかけた。「何を心配してるの?私が、どこかへ行ってしまうと思ってる?」図星を突かれ、延浩の視線がわずかに揺れた。彼は彼女と目を合わせるのを一瞬ためらったが、否定はしなかった。やがて、静かにうなずいた。「......怖いんだ」声は低く、かすかな脆さを帯びていた。「復讐を終えたあと、君がこの街を離れて......僕の前からもいなくなってしまうんじゃないかって」いつもは冷静で、何事も掌中に収めているかのような延浩は、今この瞬間、深雪の前では、すべての仮面を外し、心の奥の不安をさらけ出していた。深雪の胸に、じんわりと温かいものが広がった。強くて頼もしいと思っていた彼にも、こんなにも繊細な一面があるのだ。その正直さと弱さが、かえって彼女の想いを確かなものにした。深雪は腕を伸ばし、そっと延浩を抱きしめた。彼の肩に額を預け、やさしい声で囁いた。「ばかね......何を考えてるの?」くすりと笑いを含んだ声には、揺るぎない安心があった。「どうして私が離れるの?ここには、私の会社がある。私の仕事がある。それに......」一瞬、間を置いてから、彼女は言葉を続けた。「......あなたも、いるでしょう」最後の三文字を、ゆっくり、はっきりと。そこには、わずかな照れと、確かな決意
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第569話

静雄は顔色を青黒くし、深雪と延浩が去っていく背中を睨みつけていた。胸の内で渦巻く怒りは、今にも彼自身を飲み込んでしまいそうだった。弁護士団は互いに顔を見合わせるばかりで、誰一人として前に出ようとはしない。空気は一瞬にして冷え切った。「役立たずめ!全員クビだ!」静雄は突然、机の上の書類をなぎ払った。紙の束が、派手な音を立てて床に散乱した。弁護士たちは凍りついたように身をすくめ、息をすることさえ憚られる様子だった。そこへ、芽衣が慌てて駆け込んできた。室内の惨状と、静雄のあまりにも陰鬱な表情を目にし、胸がざわついた。「静雄......どうしたの?交渉、うまくいかなかったの?」芽衣は慎重に声をかけた。柔らかく、気遣うような口調だった。だが、その一言で、静雄の怒りは一気に矛先を見つけた。「全部お前のせいだ、この愚か者!」静雄は怒鳴りつけた。「下瀬産業は虚勢だなんて言っていたな?じゃあ今の状況はどうする!深雪があそこまで強気に拒絶できるのは、背後に下瀬産業がついているからに決まっている!」八つ当たりと苛立ちが、言葉の端々に滲んでいた。芽衣は、突然浴びせられた叱責に耐えきれず、目に涙を浮かべた。「静雄......私はあなたのためを思って......まさか深雪が、本当に下瀬産業とつながっているなんて......」声は震え、今にも泣き崩れそうだった。芽衣のその姿を見て、静雄の怒りはわずかに鎮まったものの、口調はなお荒い。「泣き真似はやめろ。今さら何を言っても無駄だ。深雪には完全に拒絶された。買収計画は水泡に帰したんだ!」言葉には、苛立ちと敗北感が色濃く滲んでいた。芽衣は慌てて一歩近づき、そっと静雄の腕にしがみつく。声を落とし、甘えるように囁いた。「静雄、そんなに怒らないで......たった一度の失敗じゃない。深雪に下瀬産業がついていようと、松原商事だって負けてないでしょう?方法を考え直せば、きっと南商事は手に入るわ」その声には、慰めと同時に、露骨な取り入りが混じっていた。芽衣の柔らかな言葉に包まれ、静雄の怒りは次第に収まっていく。彼は深くため息をつき、なお不機嫌そうに言った。「方法だと?どんな手が残っている?深雪は今や、脅しも懐柔も通じない。完全
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第570話

「大丈夫。あの人が簡単に諦めるはずがないことは、最初から分かってる」深雪はきっぱりと言い切った。その瞳には、自信と覚悟がはっきりと宿っている。「静雄は自尊心が強くて狡猾な人で、負けを認められない。だから必ず、また何か仕掛けてくるわ。でも、来るなら受けて立つだけ。彼が勝負を望むなら、私は最後まで付き合うから」延浩は深雪の目に宿る光を見つめ、安堵と同時にわずかな不安を覚えた。彼女の胸に、静雄への憎しみと復讐心があることは分かっている。それ自体は無理もない。だが同時に、その感情が彼女の視野を狭め、衝動的な判断へと導かないかのが気がかりだった。「深雪。君が復讐したい気持ちは分かる」延浩は穏やかに、しかし慎重に言葉を選んだ。「ただ、油断は禁物だ。静雄は長いあいだ戦ってきたのだ。追い詰められても、反撃する力は残っている」深雪は静かにうなずき、少しだけ声の調子を落とした。「分かっている。侮ったりはしないわ。静雄が簡単な相手じゃないことも、よく理解している。だからこそ、一歩ずつ確実に進める。万に一つの隙も残さないように。それに、今は下瀬産業の後ろ盾もある。以前より、ずっと自信があるの」そう言って、深雪は未来を思い描くように微笑んだ。その笑顔を見て、延浩の胸にあった不安は、わずかに和らいだ。彼女の力量を信じているし、二人なら必ず静雄を打ち破れると思う。「そういえば」深雪はふと思い出したように尋ねた。「下瀬産業の件、下瀬社長は何と言ってた?」延浩は軽く笑い、肩の力を抜いた様子で答えた。「問題ないよ。下瀬社長は全面的に協力してくれる。静雄が『下瀬産業が南商事に出資する』と、完全に信じ込むよう、しっかり動いてくれるそうだ」その言葉に、深雪は満足そうにうなずいた。「それはいいわね。静雄が信じれば信じるほど、警戒心は薄れる。そうなれば、致命的な一撃を与えやすくなる」声には、期待と高揚が隠しきれなかった。延浩もまた、彼女の自信に満ちた姿を見て、胸が高鳴るのを感じた。この復讐は、きっと成功するという確信が芽生えていた。その後数日、南商事の内部では、「下瀬産業が出資する」という噂が広がっていった。数十億規模の資本注入だという話もあれば、全面買収に踏み切るという説、さらには、
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