《クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した》全部章節:第 601 章 - 第 610 章

690 章節

第601話

深雪は顔を上げ、静かな目で言った。「分かったわ。静雄はやっぱり落ち着いていられなかったのね」大介は続けた。「松原家の資金繰りはすでに逼迫しています。複数のプロジェクトが赤字に転落し、静雄さんは資金をかき集めて何とか状況を保とうとしています」深雪の唇がわずかに上がり、冷ややかな笑みが浮かんだ。「資金を調達?どれだけ集められるのかしら。松原家の資金なんて、とっくに彼が使い潰しているのに」「これからどう動きますか?」大介が慎重に尋ねた。深雪は目を細め、興味深そうに言った。「予定通り進めるわ。静雄の資金の穴をもっと大きくして、完全に立ち直れないところまで追い込む」「承知しました」大介の目にも期待の色が宿っていた。深雪は彼を見つめ、含みのある声で言った。「大介、このところ本当に頑張ってくれているわ。松原家の動きは、これからもあなたに頼ることになる」大介は慌てて首を振った。「そんな......これが私の務めです。お力になれることは光栄です」深雪は微笑み、再び書類へ視線を落とした。大介が退室すると、深雪は手を止め、スマホを取り上げて延浩に電話をかけた。「延浩、松原家の財務状況は、私が想像していた以上にひどいわ」「こちらにも情報が入った。静雄は松原商事を救うために、松原家の資金をかなり引き抜いている」と電話の向こうで延浩が答えた。「焦っている証拠ね」深雪の声には皮肉が混じっていた。延浩は軽く笑った。「いいね。焦れば焦るほど、隙が増える」「次はどう動くべき?」深雪が聞いた。延浩は少し考え、提案した。「今の松原家は自分のことで手一杯だ。動くなら今が絶好の機会だ。このタイミングで、松原家の散らばった株を秘密裏に買い集めておこう。将来のために」深雪の目が輝いた。「株の買収?つまり......」延浩は説明を続けた。「松原家の株は分散していて、松原家以外にも多くの株主がいる。その散らばった株を少しずつ買い集めれば、いずれ大きな力になる。十分な株を握れば、将来の取締役会で発言権を持てる。最終的には、松原家の支配権を奪うことも可能だ」深雪はしばらく考え、うなずいた。「いいわね。確かにリスクも低い。ただ、資金が必要だし、静雄に気づかれないよう慎重に動かないと」
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第602話

陽翔のことなど、芽衣はとうの昔に頭の片隅へ追いやっていた。むしろ、陽翔が二度と現れなければいいとさえ思っていた。せっかく手に入れた幸せを壊れたくなかったのだ。一方その頃、静雄は危機から抜け出すため、本気でリストラと資産売却の案を検討し始めていた。彼は大介をオフィスに呼び、対策を話し合った。「大介、会社の状況は分かっているだろう。早急に損失を止め、支出を抑えなければならない」静雄の声は重く沈んでいた。大介はデスクの前に立ち、恭しく答えた。「おっしゃる通りです。現在の松原商事の財務状況は非常に厳しいです。リストラと資産売却は、有効な手段かと思っています」静雄はうなずき、問いかけた。「どこから手をつけるべきだと思う?」大介は少し考え、分析を述べた。「リストラについては、部門の統合や人員の最適化で、不要なコストを削減できます。資産売却については、非中核事業や赤字プロジェクトを切り離し、資金を回収することが可能です」静雄は眉を寄せた。「だが、リストラは社員の反発を招く。資産売却は会社の総合力を削ぐ。もっと良い方法はないのか?」大介は意味深に微笑んだ。「方法は必ずあります。大事なのはどれを選ぶかのことですね。確かにリストラや資産売却にはリスクがありますが、会社を救えるのであれば、必要な痛みとも言えます。むしろ、やり方次第では、危機をチャンスに変えることも可能です」静雄の目がわずかに光った。「危機をチャンスに?どういう意味だ?」大介はさらに誘導するように言った。「松原商事は今こそ苦境にありますが、痩せてもなお大きい企業です。優良資産はまだ多く残っています。事業構造を見直し、不良資産を切り捨て、核となる事業だけを残せば、再び活力を取り戻せるかと思います。リストラや資産売却は、いわば生き残るための切り捨て。守るべきものを守るために、捨てるべきものを捨てるという戦略です」静雄は深くうなずいた。大介の言葉に、心が動かされたのだ。「......確かに一理ある。リストラと資産売却は、避けられないかもしれないな」大介は内心ほくそ笑んだが、表情には出さず、さらに「忠誠心」を装って言葉を続けた。「静雄さんの判断は正しいです。静雄さんが率いてくだされば、松原商事は必ず再び立ち上がれます」
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第603話

静雄は指先で机を軽く叩き、しばらく考え込んだ末、ゆっくりとうなずいた。「言われてみれば確かにそうだ。松原商事の古参社員は、どうにも頭が固くて扱いづらい」彼は大介に視線を向け、決断を含んだ声で言った。「まずはそこから手をつけよう。リストラ候補の名簿を作れ。勤続年数が長く、役職が低く、管理に従わない者を優先しろ」大介の胸に喜びが湧いたが、表情は変えず恭しく答えた。「さすがです。すぐに取りかかります」静雄は手を振り、大介を下がらせた。大介が出ていくと、静雄は椅子にもたれ、疲れたように眉間を押さえた。リストラ、資産売却、どれも身を削るような痛みを伴う決断だった。だが、松原家を守るためには、もう迷っている余裕はない。松原商事の内部では、リストラの噂が瞬く間に広がり、社員たちは不安に包まれた。特に長年会社に尽くしてきた古参社員たちは、動揺を隠せなかった。「なんで俺たちが切られるんだ!会社のためにどれだけ働いてきたと思ってる!」「そうだよ!松原家から来た連中なんて何も分かってないくせに、偉そうに指図して......結局、切られるのは俺たちか!」「聞いたか?技術部もまた何人か辞めさせられるらしいぞ。もうダメだ、この会社......」怨嗟の声は社内に広がり、ただでさえ不安定だった空気はさらに重くなった。昼休み。芽衣は静雄が喜ぶ顔を想像し、胸を弾ませながら、心を込めて作った弁当を手に、静雄のオフィスへ向かっていた。だが、ドアの前に立った瞬間、中から会話が聞こえてきた。「資産売却について、何か案はあるか?」静雄の疲れた声。「資産売却にも戦略が必要です。中核資産は絶対に売るべきではありませんが、周辺事業や赤字プロジェクトは早めに手放すべきです」「例えば?」静雄が聞いた。「例えば......松原商事が郊外に持っている倉庫です。立地が悪く、利用率も低い。維持費ばかりかかっています。売却候補としては最適かと」リストラ?資産売却?芽衣の胸に、妙な期待が芽生えた。これは......私が役に立てるチャンスじゃない?そう思った瞬間、彼女は勢いよくドアを押し開けた。「静雄、あなたにお弁当を持ってきたの!」満面の笑みで、甘えるような声。静雄は眉をひそめ、思考を遮られた不快感を隠さず芽衣
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第604話

芽衣はその言葉を聞いた瞬間、目を輝かせ、すぐさま前に出て申し出た。「静雄、リストラと資産売却の件、私に任せてくれない?」静雄は一瞬驚き、芽衣を見つめた。その目には、明らかな疑いが浮かんでいる。「お前が?本当にできるのか?」芽衣は胸を張り、自信満々に言った。「静雄、心配しないで。私は松原商事の副社長よ。会社の状況は誰より分かってる。リストラも資産売却も、会社の生死に関わる大事な仕事。私は絶対に全力でやり遂げて、あなたを助けてみせる!」静雄はまだ迷っていた。芽衣の能力に信頼があるわけではない。むしろ逆だ。芽衣は焦り、さらに言葉を重ねた。「静雄、お願い。私を信じて。私は南商事の副社長なんだから、本来こういう仕事は私がやるべきなの。それに......あなた一人に全部背負わせたくない。少しでもあなたの負担を減らしたいの」その目は必死で、献身そのものだった。静雄は芽衣を見つめ、そして今の松原商事の惨状を思い返した。誰かがこの混乱を処理しなければならない。芽衣は能力こそ平凡だが、肩書きは副社長。彼女に任せるのは、表向きにも筋が通る。何より、芽衣が自ら手を挙げた以上、断れば冷たく見える。そう考えた静雄は、ついにうなずいた。「......分かった。そんなに言うなら任せる。ただし、リストラも資産売却も非常にデリケートな課題だ。絶対にミスは許されない。慎重にやれ」芽衣は大喜びで、何度も何度もうなずいた。「静雄、ありがとう!絶対に綺麗に片付けてみせる。あなたを絶対に失望させない!」芽衣は得意満面で宣言した。ようやく静雄に信頼されたと思い込んでいた。しかし実際には、彼女はただ、静雄が苦境で掴んだ都合のいい駒にすぎなかった。芽衣は「リストラ・資産売却責任者」として動き始めると、途端に副社長の威厳を振りかざし、強硬な姿勢で改革を進めた。人事部と財務部を呼び出し、会議室で高圧的に宣言した。「リストラ名簿はもう決まってるわ。人事部はすぐに実行して。三日以内に、対象者全員の退職手続きを終わらせなさい!」人事部長は青ざめ、震える声で言った。「......今回のリストラ、規模が大きすぎます。しかも対象はほとんど古参社員で......反発が出るのでは......」芽衣は鼻で笑い、軽蔑の目を向け
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第605話

カフェの中は重苦しい空気に包まれていた。いくつかのテーブルを寄せ集め、その周りに十数人が座っている。彼らは皆、南商事からリストラされた技術部の元社員たちだった。「まさか、本当に会社がダメになるなんてな......」若い技術員が沈黙を破り、落ち込んだ声で言った。「そうだよ。ついこの前まで南商事を立て直すって言ってたのに......数日でこうなったんだ」別の社員がため息をついた。「全部、松原家のせいだよ。あいつらが来てから、会社はずっと落ち着かなかった」誰かが怒りを込めて言った。「しっ、声を抑えろ」鈴木が眉をひそめて注意した。「今さら文句言っても仕方ない。これからどうするか考えないと」「どうするって......仕事探すしかないだろ」誰かが自嘲気味に笑った。「でも今の景気じゃ、そう簡単に見つかるわけない」「全部あの芽衣のせいよ。静雄の威光を借りて、会社をめちゃくちゃにした」ある女性社員が毒づいた。「そうだ。今回のリストラも、あいつが主導したって聞いたぞ。しかも狙い撃ちされたのは、俺たち古参ばかりだ」怒りの声が続いた。不満と嘆きが渦巻き、カフェの空気はさらに重くなっていった。その時、カフェの扉が開き、柔らかな声が響いた。「皆さん、失礼します。こちらは、元・南商事技術部の皆さんで間違いありませんか?」全員が声の方を向いた。入口には、穏やかな笑みを浮かべた品のある青年が立っていた。延浩だった。社員たちは互いに顔を見合わせ、戸惑いの表情を浮かべた。鈴木が立ち上がり、延浩をじっと見つめた。そして、延浩が軽くうなずくと、はっと気づいたように声を上げた。「あなたは......深雪さんの恋人の江口さんですか?!」延浩は柔らかく微笑み、歩み寄った。「覚えていてくださって光栄です」少し間を置き、穏やかな声で続けた。「今日は皆さんに、今後の江口商事の進路についてお伝えしたいことがあって来ました」「江口商事......?」誰かが驚いたように呟いた。延浩はうなずき、全員を見渡した。「皆さんは南商事の技術を支えてきた優秀な人材です。今回の件は非常に残念ですが......皆さんの才能が埋もれるのを見過ごせません。そこで、江口商事を代表して、皆さんに正式なご
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第606話

他の人たちも次々と賛同し、さっきまで沈んでいた空気は一気に喜びと興奮に包まれた。延浩は満足げにその様子を見つめ、穏やかな笑みを浮かべた。江口商事のオフィスに戻ると、延浩はデスクに座り、助手の報告を受けた。「プロジェクトチームがすでに立ち上がりました。元・南商事技術部のメンバーは全員出社済みです」助手は恭しく続けた。「技術の中核となる人材については、鈴木さんをプロジェクトリーダーに任命しました」延浩は満足げにうなずき、口元をわずかに上げた。「よし。対外発表は済んだか?」「ご指示通り、発表しました。業界の反応も大きく、江口商事はスケールが違うと話題になっています」延浩は満足そうに笑った。「それでいい。狙い通りだ。それから、松原プロジェクトチームの待遇は、グループ最高基準で。江口商事の誠意をしっかり感じてもらえるように」「承知しました」助手は深く頭を下げ、部屋を出ていった。南商事・社長室。深雪が書類を処理していると、スマホが震えた。延浩からのメッセージだった。「君にサプライズだ。南商事の技術部の旧メンバー、全部引き受けておいたよ」深雪は一瞬驚き、メッセージを開いて内容を確認した。延浩は、リストラされた全員を受け入れただけでなく、江口商事内部に「南プロジェクトチーム」まで設立し、さらに元技術部の中心人物をリーダーに据えていた。深雪は画面を見つめ、胸が熱くなった。ここまでしてくれるとは思わなかった。これは単なる救済ではなく、南商事の未来のための布石だった。深雪はこみ上げる感情を抑えきれず、すぐに返信した。「延浩、ありがとう。あなたはいつも私を驚かせてくれる」その夜、深雪は延浩を夕食に招待した。場所は雰囲気の良い落ち着いたレストラン。「今日は本当にありがとう」深雪はワイングラスを持ち上げ、真剣な眼差しで言った。延浩は優しく微笑み、グラスを合わせた。「礼なんていらないよ。君が前を向けるようになったのが、何より嬉しい」深雪はグラスを置き、延浩を見つめながら、探るように尋ねた。「最近すごく忙しそうね。何か大きな仕事をしてるの?」延浩は軽く笑い、肩をすくめた。「まあね。会社の案件が多くて。今、大きなプロジェクトを交渉しているところなんだ」「大きなプロジェクト?」
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第607話

延浩は深雪を優しく見つめ、揺るぎない声で言った。「心配しなくていい。すべては掌の中だ。松原商事なんて、どうあがいても覆せない。もう手は打ってある。あとはゆっくり見物していればいい」その自信に満ちた表情を見て、深雪の胸にあった不安は少しだけ軽くなった。スマホを見つめながら、深雪の唇に柔らかな笑みが浮かんだ。延浩の動きは、いつも驚くほど迅速で、そして的確だった。彼女はスマホを置き、助手に指示を出した。「松原商事の動向を密に追って。特に資金の流れを重点的に」「承知しました」深雪は立ち上がり、窓辺へ歩いた。夜景を見下ろすその瞳は、冷静で鋭かった。延浩の助けは確かに心強い。だが、復讐の道を歩き切るのは、自分自身だ。松原商事・社長室。静雄は怒りに任せ、机の上の書類を床へ叩き落とした。「無能どもが!全員役立たずだ!」そして怒りの矛先は芽衣へ向けられた。「技術部の連中、全員延浩に引き抜かれた!お前は何をしていたんだ!」芽衣は震え上がり、涙が溢れた。「静雄......私、そんなつもりじゃ......あなたの負担を減らしたくて......役に立たない人を早く整理して、コストを下げようと......」「コスト削減?」静雄は怒りに震え、冷笑した。「削減しすぎて人がいなくなったんだよ!技術部が空っぽで、誰がプロジェクトを回すんだ?南商事を潰すつもりか!」芽衣は泣きじゃくりながら訴えた。「違うの......本当に......助けたかっただけ......」静雄は冷たい目で見下ろした。「助ける?お前はいつも邪魔しかしない」その言葉は刃のように鋭く、芽衣の心を深く切り裂いた。怒りの矛先を別の場所へ向けるため、芽衣はそのまま技術部へ乗り込んだ。南商事・技術部オフィス。芽衣は勢いよく扉を開け、怒鳴りつけた。「どういうこと?なんでこんなに仕事が遅いの?こんな簡単な作業、まだ終わってないなんて!」技術部主管は疲れ切った顔で説明した。「......新しい管理システムは、私たちの業務と合わない部分が多くて......手続きも増えて、どうしても効率が......」「言い訳はいらない!」芽衣は怒鳴り返した。「結果だけが重要なの!松原商事の管理方法は実績があるのよ。あなた
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第608話

芽衣の「コスト削減」案が発表されるやいなや、松原商事の内部は完全に大混乱に陥った。社員たちは不満を爆発させ、退職願がたくさん出されて、会社の士気は崩壊寸前だった。松原商事にとっては、確かにコスト削減にはなった。だが、ここは元々深雪の会社。やりすぎれば、深雪の機嫌を損ねかねない。そこで静雄は、深雪をなだめるためにロマンチック作戦を開始した。街で一番高級なレストランを予約し、高価なプレゼントを用意し、昔のような関係を取り戻そうと必死だった。「深雪、この店のフォアグラは絶品だよ。食べてみて」静雄は丁寧にフォアグラを切り分け、深雪の皿に置いた。深雪は優雅に一口食べ、淡々と答えた。「ありがとうございます」静雄の笑顔が一瞬固まった。だがすぐに取り繕い、明るい声を出した。「俺たちの間でそんなに他人行儀にならなくてもいいだろ?」そして、さりげないふりをして切り出した。「そういえば......最近、会社の運営で少し問題があってね。何かいいアドバイスはないかな?」深雪はナイフとフォークを置き、皮肉を含んだ微笑みを浮かべた。「私に聞いているんですか?私はただの顧問ですよ。あなたの決定に口を挟むなんて、とてもとても」静雄は慌てて首を振った。「違うんだ、誤解しないでくれ。君の意見が聞きたいんだ。君は南商事のことを誰より分かっているから」深雪はわずかに笑みを深めた。「そこまで言うなら......少しだけ」深雪は流れるように、的確で高度なアドバイスを並べた。静雄は「なるほど」「その通りだ」と何度も頷き、深雪への尊敬をさらに深めていく。だが深雪は、内心で眉をひそめていた。......どうせ何も理解していないでしょうね。静雄の態度を見れば分かる。彼はただ頷いているだけで、内容は頭に入っていない。こんな経営者なら、何もしなくても勝手に倒れる。深雪はワインを口に運びながら、冷静にそう判断した。その頃、芽衣はオフィスから出てきたところだった。手には新鮮なフルーツの盛り合わせ。鼻歌まじりに静雄を探していた。だが、社長室にもいない。会議室にもいない。休憩室にもいない。芽衣は不安になり、大介に電話をかけた。「静雄は?なんで会社にいないの?」「社長は今日は出社していま
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第609話

社内の空気が重く沈んでいたその時、会社の入口付近で突然ざわめきが起こった。「静雄さんが戻ったぞ!深雪さんも一緒だ!」その声を聞いた芽衣は、反射的に入口へ駆け出した。案の定、静雄と深雪が並んで歩いてきていた。二人は何かを話しながら微笑み合い、実に楽しげだった。芽衣の胸に怒りが一気に燃え上がる。数歩で二人の前に立ちはだかった。「静雄!どこに行ってたの?なんで電話に出ないの!」静雄は眉をひそめ、冷たい視線を芽衣に向けた。「......お前に報告する義務があるのか?」その一言で、芽衣は言葉を失い、顔が真っ赤になった。怒りの矛先はすぐに深雪へ向かった。「深雪!あなたって本当に図々しいわね!勤務時間に男を誘惑して......恥知らずにもほどがある!」深雪は表情ひとつ変えず、まるで聞こえていないかのように静かだった。代わりに静雄が怒りを露わにした。「芽衣、言葉を慎め。深雪は会社の顧問だ。俺は仕事の話をしていただけだ。お前には関係ない」そう言い捨てると、芽衣を完全に無視し、深雪へ向き直った。「深雪、行こう。オフィスまで送るから」深雪は軽くうなずき、静雄の隣に並んで歩き出した。二人の背中が遠ざかり、芽衣はその場に立ち尽くし、怒りで震えていた。周囲の社員たちは、芽衣の惨めな姿を見てひそひそと囁き合う。その声は隠す気もなく、ますます大きくなっていった。芽衣は耐えきれず、深雪のオフィスへ怒鳴り込んだ。深雪がオフィスに戻り、椅子に座ろうとした瞬間、芽衣が勢いよく扉を開けて飛び込んできた。「深雪!恥ってものがないの!?静雄は私の彼氏よ!それなのにベタベタして......人のものを奪うのがそんなに楽しい!?」深雪は淡々と席に座り、冷静に言った。「言葉を選んでください。松原さんは南商事の重要なパートナーです。私は顧問として仕事の話をしただけ。しつこくまとわりついたってなんのことなのか、教えていただけます?」芽衣は言葉に詰まり、顔が引きつった。それでも負けじと叫んだ。「仕事?笑わせないで!あなた延浩がいながら、まだ静雄まで狙うつもりなの!?欲張りにもほどがある!」深雪は小さく笑い、皮肉を込めて言った。「私のことをよくご存じのようですね。でも......自分の彼氏を管理できないのは、私のせい
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第610話

静雄はますます確信した。芽衣との生活は混乱と疲労ばかりで、本当に自分にふさわしい女性は深雪だと。彼はスマホを取り上げ、大介に電話をかけた。「大介、今すぐ指輪を選んできてくれ。一番高くて、俺の気持ちを一番よく表せるものでいい」静雄の声には、どこか浮き立つような色があった。大介は一瞬驚き、戸惑いながら尋ねた。「指輪......ですか?どなたに送りましょうか?」「もちろん彼女への贈り物だ」静雄は意味深に笑った。「余計なことは聞かなくていい」大介は疑問を抱きつつも、すぐに返事をした。「承知しました。すぐに手配します」電話を切った大介は、その足で深雪に報告した。「社長が指輪を買うようにと......おそらく、深雪さんに贈るつもりかと」深雪は眉を上げ、口元に薄い笑みを浮かべた。「指輪?」そして、ふっと笑った。「いいわ。彼が贈りたいなら贈らせればいい。ちょうど利用できるわ」その瞳には、鋭い光が宿っていた。「大介、こうしてちょうだい......」深雪が小声で指示すると、大介もまた意味深に微笑んだ。「承知しました」大介は深雪の指示通り、指輪を購入し、静雄が松原商事の幹部会議をしているタイミングを見計らって、そっと静雄のデスクに置いた。そして、気づかれないように部屋を出た。だが、その一部始終を、芽衣が見ていた。芽衣は大介がこそこそと出てくるのを見て、胸に不安と好奇心が湧き、そっと社長室へ忍び込んだ。そして、デスクの上の指輪ケースを見つけた。心臓が跳ね上がった。震える手でケースを開けると、眩い光を放つダイヤの指輪が、静かにそこにあった。芽衣は息を呑み、吸い寄せられるように指輪を手に取った。そして、自分の指にはめてみる。ぴったりだった。まるで自分のために作られたかのように。芽衣の目に涙が溢れた。静雄......私に指輪を?やっぱり、私のことを想ってくれていたんだ!彼女は完全にそう信じ込んだ。そして、この幸せを深雪に見せつけてやろうと、勢いよく深雪のオフィスへ向かった。深雪は仕事をしていたが、芽衣が勢いよく入ってくると、ちらりと視線を向けただけだった。芽衣は得意げに歩み寄り、指輪をはめた手を誇らしげに突き出した。「深雪、これが何だか分
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