All Chapters of 強引な後輩は年上彼女を甘やかす: Chapter 61 - Chapter 64

64 Chapters

06_2 指輪 姫乃side

ホットプレート『煙出ないくん』からは、ジューっといい音がし、お肉の焼けるいい香りが漂う。私はトングでお肉をひっくり返しながら、なぎさちゃんに聞いた。「で、今日はどうしたの?」「彼氏とケンカしたの」「ケンカ?!」樹くんのため息が聞こえたような気がしたけれど、ここは女同士の会話、ひとまず無視をして進める。「卒業旅行しようって言われたんだけど」「わあ、素敵!」「うん、それ自体はいいけど、私は友達とも行きたいし約束してて、彼の都合と友達との旅行の日付が被るんだよね。で、俺より友達かよみたいな。いや、友達とのほうが先約なんですけど? っていうケンカ」「確かにね、先約優先よね」「でしょ。もーむかつく」なぎさちゃんは頬杖をつきながらダルそうに愚痴をこぼす。やってらんねーと悪態をつきながらお肉をモグモグ頬張った。「でも羨ましいなー。そんなケンカしてみたい」「いや、むかつくだけだからやめた方がいいですよ」私が羨ましがると、全力で否定してくるなぎさちゃん。だけどそういう悩みって、やっぱり彼氏がいるからできることだと思う。「なんていうか、自分のためにヤキモチ妬いてほしい。そういう経験したいなーってこと」「姫乃さんないの?」「ないの」「まあ、姫乃さん優しいからなー」「俺はいつも嫉妬してるけどね」黙々とお肉を食べていた樹くんが突然会話に参加し、私は首をかしげる。「嫉妬? 何に?」「姫乃さん会社で人気だからさ、いろんなやつがあの手この手でしゃべろうと試みてるわけ。それを端から見てる俺の気持ち」「それのどこがヤキモチ?」「こういうことだ、なぎさ。わかるか? 姫乃さんは鈍感なんだ」「ちょっと、鈍感って失礼な」抗議の声を上げるけれど、なぎさちゃんまでしっかりうんうんと頷いている。そして樹くんを憐れむように、ぽんっと肩に手を置く。「お兄ちゃん、まあ、頑張れ」「気長に行くよ。ね、姫乃さん」「うん? お肉追加する?」よくわからない兄妹の会話についていけず、私は煙でないくんにお肉を追加した。
last updateLast Updated : 2025-07-13
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06_3 指輪 姫乃side

「ところでお兄ちゃんのカバンについてるこれ、何?」なぎさちゃんが手に取るそれは、今日博物館で購入した金色に輝くストラップだ。「金印」「なんで金印っ!?」「漢委奴国王印の特別展に行ったから」「はい?」さっぱりわからないといった顔でこちらを見るので、何だか可笑しくて笑ってしまった。「私が行きたくて、博物館についてきてもらったの」「今日二人で出掛けてたの?」なぎさちゃんが私と樹くんを交互に見る。すると樹くんがあからさまにチッと嫌そうに舌打ちをする。「そうだよ、このお邪魔虫め」「ごめーん」なぎさちゃんは手を合わせてごめんなさいのポーズをした。 私は自分のカバンも手繰り寄せてなぎさちゃんに披露する。「私も付けてるんだよ。お揃いなの。可愛いよね」手のひらに収まるサイズの金印。 キラキラ輝くそれは、レプリカなのに昔の息吹が感じられてとても素敵だ。「なんていうか、金印よりも姫乃さんが可愛い……かな」「わかる」なぎさちゃんと樹くんは顔を見合わせて力強く頷いた。「えっ、なに? 私わかんないんだけど。兄妹で納得し合わないでくれる?」首を傾げてみるも、「わからなくていいです」と取り合ってくれない。 金印可愛いのに、この魅力がわからないなんて、ちょっとばかり残念だ。
last updateLast Updated : 2025-07-14
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06_4 指輪 姫乃side

なぎさちゃんの左手の薬指にはキラリと光る指輪がはまっている。実は出会った時から密かに気になっていたのだいけど、やっぱりそういうものって彼氏にもらったのだろうか。「ねえ、なぎさちゃんの指輪って、もしかして彼氏にもらったの?」「もらったというか、一緒に買ったペアリングだよ」「ペアリング! なんて素敵な響き!」その言葉を聞いただけでうっとりしてしまう。 私にとって、ペアリングなど夢のまた夢だ。結婚指輪ではなく、まだ恋人同士のうちにお互い指輪をはめるなんて、憧れでしかない。いつか私もペアリングをはめたいなぁ。そんな欲望がムクムクとわき上がる。そんな気持ちのなか、自分の右手を見た。私の右手の薬指には、細身の指輪がはまっている。これは正真正銘、ただのおしゃれリングだ。入社三年目のとき大きなプレゼンをしなくてはいけなくなり、『右手の薬指に指輪をすると緊張が和らいで上手くいく』というおまじないを真に受けて付け始めた指輪だ。そのおかげかどうか、プレゼンは上手くいったものの、『朱宮姫乃には彼氏がいる』と誤解されるきっかけにもなったいわくつきの代物。おまじないを信じたせいか、なんとなく外しずらくなり、今でもファッションとしてはめているのだけど。もしかしてこの指輪を外せば、わざわざ彼氏と別れましたと言わなくても、『朱宮姫乃は彼氏と別れた』と察してもらえるのではないだろうか? これって名案なのでは?!試しに指輪を外してみる。何もなくなった手はすっきりとし、なんだか軽くなった気がしてすこしそわそわする。右手も左手も、アクセサリーはなにもない。いつか左手の薬指に指輪をはめることができたら、どんなに幸せだろう。憧れがまた一層大きくなる。「ねえ、椎茸焼いていい?」「あ、はいはい、今焼くね」はっと現実に戻される。妄想していたことに、頬が緩んでいなかっただろうか。慌てて気を引き締めて、椎茸を焼くことに集中した。
last updateLast Updated : 2025-07-15
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06_1 指輪 樹side

帰りがけに寄ったスーパーで、姫乃さんは肉やら野菜をカゴに入れる。どうやら家で焼き肉をすると、なぎさと約束したらしい。だからって、姫乃さんが買い出しに出向くこともないだろうに、お人好しというかなんというか。でもまあ、姫乃さんとスーパーで買い物も、悪くない。どの肉の部位が好きかとか、野菜は何を焼こうとか、そんな食材の話で盛り上がるのが地味に楽しい。パンパンの買い物袋を量手に下げて帰ろうとするので、慌ててひったくった。こんな重いもの、俺に持たせておけばいいものを、すぐに全部自分でしようとする。「持つよ?」「いいから」「えへへ、ありがとう」ニコっと笑った姫乃さんの顔が見られるだけで、得した気分になる。なんて単純なんだろう、俺。アパートの前ではなぎさが待っていて、こちらに気づくと「姫乃さーん」と笑顔で手を振る。そして俺を認識したとたん、あからさまにしかめっ面になった。「なんでお兄ちゃんもいるの?」「姫乃さんが焼き肉にするっていうから。俺も食べたいじゃん」ていうか、むしろこっちが「なんでなぎさがいるんだ?」と文句を言いたいところだ。姫乃さんの手前、ぐっと堪える。なぎさはすでに俺のことは眼中にないようで、姫乃さんにくっついている。ずいぶんと懐いているものだ。「家で焼き肉って、臭い大丈夫?」カーテンやソファに臭いが付くのを心配したのだが、なぜか姫乃さんは待ってましたとばかりに瞳をキラキラさせる。「えへへ、じゃじゃーん! 煙でないくんってホットプレート買ったの」なんだそりゃ、と思ったのは俺だけで、なぎさは 「あー、知ってる! 今話題の!」と大はしゃぎだ。「使ってみたかったんだー。でも一人だと何だかなぁって思って。やっと日の目を見ることができた。なぎさちゃんありがとう」よっぽどそのホットプレートが使いたかったのか、姫乃さんは満面の笑みで箱から取り出して準備を始めた。確かにホットプレートって、一人じゃなかなか使わない。一人で焼肉も、なかなかしないよな。「やったー! 焼肉パーティー!」「ね、パーティーだねっ! ビールもあるよ」「飲む飲む! やったー!」姫乃さんとなぎさがキャピキャピしている。実に楽しそうだ。妹が姫乃さんと仲良くしてることが嬉しいようで、ちょっと悔しい。
last updateLast Updated : 2025-07-16
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