ホットプレート『煙出ないくん』からは、ジューっといい音がし、お肉の焼けるいい香りが漂う。私はトングでお肉をひっくり返しながら、なぎさちゃんに聞いた。「で、今日はどうしたの?」「彼氏とケンカしたの」「ケンカ?!」樹くんのため息が聞こえたような気がしたけれど、ここは女同士の会話、ひとまず無視をして進める。「卒業旅行しようって言われたんだけど」「わあ、素敵!」「うん、それ自体はいいけど、私は友達とも行きたいし約束してて、彼の都合と友達との旅行の日付が被るんだよね。で、俺より友達かよみたいな。いや、友達とのほうが先約なんですけど? っていうケンカ」「確かにね、先約優先よね」「でしょ。もーむかつく」なぎさちゃんは頬杖をつきながらダルそうに愚痴をこぼす。やってらんねーと悪態をつきながらお肉をモグモグ頬張った。「でも羨ましいなー。そんなケンカしてみたい」「いや、むかつくだけだからやめた方がいいですよ」私が羨ましがると、全力で否定してくるなぎさちゃん。だけどそういう悩みって、やっぱり彼氏がいるからできることだと思う。「なんていうか、自分のためにヤキモチ妬いてほしい。そういう経験したいなーってこと」「姫乃さんないの?」「ないの」「まあ、姫乃さん優しいからなー」「俺はいつも嫉妬してるけどね」黙々とお肉を食べていた樹くんが突然会話に参加し、私は首をかしげる。「嫉妬? 何に?」「姫乃さん会社で人気だからさ、いろんなやつがあの手この手でしゃべろうと試みてるわけ。それを端から見てる俺の気持ち」「それのどこがヤキモチ?」「こういうことだ、なぎさ。わかるか? 姫乃さんは鈍感なんだ」「ちょっと、鈍感って失礼な」抗議の声を上げるけれど、なぎさちゃんまでしっかりうんうんと頷いている。そして樹くんを憐れむように、ぽんっと肩に手を置く。「お兄ちゃん、まあ、頑張れ」「気長に行くよ。ね、姫乃さん」「うん? お肉追加する?」よくわからない兄妹の会話についていけず、私は煙でないくんにお肉を追加した。
Last Updated : 2025-07-13 Read more