All Chapters of 強引な後輩は年上彼女を甘やかす: Chapter 51 - Chapter 60

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05_2 おみくじ 姫乃side

個人店らしきラーメン店は入口が小さく、少し染みのできた暖簾が掲げられていた。中に入るとカウンター席しかない、本当に小さなラーメン屋さんだ。「いらっしゃい!」と大将の元気のいい声が響く。私はペコリとお辞儀をして、樹くんのあとに続いた。「ここ俺のお気に入り。メニューはラーメンだけで、トッピングが選べるんですよ」手元にメニューはなく、樹くんの視線の先をたどると壁にラーメンと大きく書かれ、トッピングの内容が手書きで貼ってあった。「俺のおすすめでいい?」「うん」見てもよくわからなかったので、樹くんおすすめを紹介してくれて頼もしい限りだ。「はい、お待ちっ」しばらくすると目の前に差し出されるラーメン丼。熱々の湯気が立ち上ぼり、美味しそうな香りが食欲を誘う。 麺の上にはチャーシューとメンマ、キクラゲ、それに味玉がのっている。「美味しそう。いただきます」ひとくち食べただけなのに、その美味しさに目を丸くする。家で作るのとは全然違う味に感動してしまった。「ん~、美味しいっ!」落ちそうになる頬を押さえながら樹くんを見ると優しく微笑んでいて、その柔らかい表情に図らずも私の胸はドキッとしてしまう。また、そんなふうに笑って……。胸のドキドキを気にしないように、目の前のラーメンに集中した。
last updateLast Updated : 2025-07-02
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05_3 おみくじ 姫乃side

「姫乃さんって見かけによらず庶民的なんだ」樹くんが意外そうに言う。「私は思いきり庶民ですー。なんか回りの人が私に抱くイメージが変なのよ。何でかな?」本当に、特に猫を被っているわけではないのに、私の見た目なのか態度なのか、よくわからないけど昔から勝手なイメージが一人歩きしていく。そんなんじゃないのに、と否定してもなかなか受け入れられてもらえない。「ふわふわしててお嬢様みたいだよね。俺も初めて見たときはお嬢様かと思ったし。名前もお嬢様っぽい。だから彼氏ができないのかもね」「どういうこと?」「姫乃さんめちゃくちゃ人気あるんだけど、高嶺の花だから手を出しにくい」「ええっ、私そんなんじゃないのに。どうしたらそのイメージ払拭できるんだろう?」「払拭したら姫乃さん今以上にモテるからやめて」「そんな。モテてないから困ってるのに」思わず頬が膨らんだ。 モテなさすぎて、いつの間にかアラサーの私。 それを高嶺の花だからなんて理由、光栄だけどとうてい受け入れられるものではない。「モテたいの?」「モテたい!」樹くんの問いに力いっぱい答えると、樹くんはお腹を抱えて笑い出した。「ははっ、姫乃さんウケる」「あー、もう、またバカにしてるー」「してないです」「してるよー」「ははは、はいはい、すみません」私は怒っているのに、樹くんはとても楽しそうに笑った。
last updateLast Updated : 2025-07-03
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05_4 おみくじ 姫乃side

ラーメンの後は近くにある神社に足を運んだ。樹くん曰く、恋愛の神様が奉られている神社らしい。それならばぜひ良縁祈願しなければ。鮮やかな新緑がほのかな風に揺れ、サワサワと耳に心地良い音を届けてくれる。木々の隙間から差し込む木漏れ日が穏やかで、とても気持ちが良い。「あー、まさか神社に来るなんて」「ダメでした?」「御朱印帳持って来たらよかったと思って。私、神社とかお寺を巡るのも好きなの」そんなに頻繁に行くわけではないけど、好みの御朱印帳を手に入れてから、御朱印を貰うことも趣味のひとつとなっている。「姫乃さんマジで渋い」「なんか年寄りじみてるよねぇ。はー、そういうのもダメかなぁ?」「何で? 俺は好きだよ、そういう趣味」「そう? 引かない?」「むしろ好感度アップ」「じゃあそういうとこ全面に出していけばいいかなぁ?」渋い趣味だけど好感度アップなら、これはアピールポイントなんじゃないかと思ったのだけど。「さすがに極端すぎ」と、一蹴されてしまった。「うーん」「そこは悩むとこじゃないでしょ」「いや、悩むとこだよ」「姫乃さんってほんと面白いね」樹くんにクスクス笑われてしまった。モテることもなかなか難しい。 私はまた頭を悩ませた。
last updateLast Updated : 2025-07-04
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05_5 おみくじ 姫乃side

社務所の前におみくじの箱があり、私はお金を入れてから一枚引いた。樹くんも続けて引く。大吉…… 大吉……心で唱えながらそろりと開いてみると残念ながら“吉”だった。 うん、まあ、凶じゃないし、よしとしよう。 私はすぐさま恋愛運を目で辿る。「恋愛、焦ると失敗します?!」おみくじを握りしめガックリと項垂れると、隣で覗き込んでいた樹くんが笑い転げた。 ちょっと、失礼だと思う。「樹くんは?」不満げに聞くと、樹くんはニヤリと笑う。 樹くんのおみくじを覗くと、”恋愛、良縁を授かります”「なんでっ! もー。信じられない」年甲斐もなく思わず叫んでしまった。 そんな私に、樹くんは優しく笑った。「焦らなければいいんですよ」「焦るよ。だってもう二十九だもん。来年は三十だよ。友達は皆結婚して、子供三人いる子だっているし。なんか私だけ取り残されてる感」「姫乃さん三十に見えないし、全然いいじゃん」「樹くんは優しいね」「そりゃ俺は姫乃さんの彼氏だから」さも当然かのように言うけれど、これは恋人の練習なのだ。 練習なのに胸がぎゅっとなってしまって焦る。「あ、ありがと……」小さくお礼を言うと、樹くんは甘く笑った。 それが余計に私の胸をドキドキさせる。と、ふいにスマホが鳴り出し、私は我に返った。 樹くんにごめんねと断りを入れてから、電話を取ると、なぎさちゃんからだった。「なぎさちゃんが、今日一緒にご飯食べたいって」「は? いつの間に仲良くなったの?」私の言葉に、樹くんは目を丸くして驚いた。
last updateLast Updated : 2025-07-05
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05_1 おみくじ 樹side

博物館を存分に堪能したら、もうすっかり昼時になっていた。姫乃さんといるとあっという間に時間が経ってしまう。「お腹すきません?」「そろそろランチの時間?」姫乃さんは腕時計を確認する。 仕草ひとつとっても女性らしい。これでしゃべらなければやっぱり高嶺の花なんだと思う。「食べたいものあります?」「特には……。あ、こういうときは食べたいもの言った方がいいのかな? 言わないと優柔不断に思われたりする?」「は?」めちゃくちゃ真剣な顔つき。姫乃さんにとってはすべてが練習だから、失敗しないための対応や対策を一生懸命インプットしているようだ。「あー、そこはそんなに気にしないかなぁ。姫乃さんってほんと真面目だよね」「……そこがダメなとこ?」「そこがいいところ!」「いいの?」「いいじゃん」ダメ要素はどこにあるんだろう。そもそも、人との関係に教科書なんてない。そんなに型にはまらなくても、姫乃さんの自然体で十分魅力的なのに。うんうん頭を悩ませる姫乃さん。俺もうんうん頭を悩ませる。姫乃さんの好みの飲食店はどこだろうか。世の男達なら姫乃さんをどこに連れて行くんだろう? 小洒落たレストランか、かっこつけて高級で有名な店とか? そんな想像をしていると、姫乃さんが「あっ」と小さく声を上げる。「そうだ、ラーメン屋さんに行きたい」たまたま近くの店の、ラーメンと書かれた幟旗を指差して目をキラキラさせる。「そんなんでいいの?」「行ったことないの」「えっ! 姫乃さんってお嬢様?」「まさか。お嬢様はカツ丼特盛買わないよ」「確かに」「なんか一人で入れなくて、友達とご飯食べるときもラーメン屋さんってなかなか行かなくない?」「俺は行くけど。まあ、女の人はそうなのかな? じゃあ行きましょうよ、ラーメン屋」そう言ったら姫乃さんはさらに顔を輝かせ、「わあ、嬉しい」とニッコリ笑った。普段でも可愛いのに、喜ぶとさらに可愛さが増す。この人の笑顔をもっと引き出したいと思った。
last updateLast Updated : 2025-07-06
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05_2 おみくじ 樹side

「少し歩きますけどいいですか?」「いいよ。食べる前の運動だね。お腹が空いてラーメンがもっと美味しくなりそう」姫乃さんの歩くスピードに合わせて、トロトロと進んでいく。日差しが暖かい初夏の陽気。うっすらと汗をかきそうだけど、姫乃さんと並んで歩ける優越感を感じている。しかしラーメン店に行ったことがないなんて、本当にどこのお嬢様だよ。そういうのが余計に高嶺の花なんて言われる要因なのだろうか。姫乃さんの知らないところに連れて行って、姫乃さんの初めてを俺の手で経験させてやりたい。そうしたら姫乃さんはどんな顔をするのだろうか。そんな妄想をしていたら、あっという間にラーメン店に着いた。個人店なので間口は小さく、外装も年季が入っている。姫乃さんは、「ここがラーメン屋さんかぁ」とかなんとか呟いている。キラキラわくわくした目。姫乃さんと関わるまでは知らなかった、姫乃さんのちょっとした変化に気づけるようになった。「ここ俺のお気に入り。メニューはラーメンだけで、トッピングが選べるんですよ」壁に貼られたメニューに視線をやると、姫乃さんもそちらを見た。見たけれど、どうしたらいいかわからなさそうな表情だ。「俺のおすすめでいい?」聞けば、顔をぱあっと明るくして「うん」と答えた。何だこれ、可愛い。高嶺の花? 俺の中で今や高嶺の花の姫乃さんは見る影もない。ただ可愛い、愛でたい、愛くるしい、そんな人だ。しばらくすると目の前に差し出されるラーメン丼。「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言いながら、また目がキラキラと輝き出した。「美味しそう。いただきます」ふうふうと冷ましながら、つるつると麺をすする。スープをレンゲですくって、口に含む。「ん~、美味しいっ!」可愛らしい声と共に、姫乃さんは左手で頬を押さえる。なんて幸せそうな顔をするんだろう。姫乃さんを見ているだけでこっちが幸せな気持ちになってくる。自然と頬も緩むというものだ。いやマジで、どこが高嶺の花? いや、ある意味高嶺の花なのか?遠くから見ているだけで、手に入れることができないもの。自分には手の届かない相手。俺は少しでも姫乃さんに近づいているだろうか。
last updateLast Updated : 2025-07-07
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05_3 おみくじ 樹side

それにしても、こうしていると普通の女性って感じだ。周りが姫乃さんを神格化しすぎている気がする。「姫乃さんって見かけによらず庶民的なんだ」「私は思いきり庶民ですー。なんか回りの人が私に抱くイメージが変なのよ。何でかな?」確かにね、それは俺も思う。だけどそれは姫乃さんとこうして触れ合ってみて、初めてわかる現実のような気がする。このギャップのような、何とも言えない安心感は多くの人に知られてもらっては困る。「ふわふわしててお嬢様みたいだよね。俺も初めて見たときはお嬢様かと思ったし。名前もお嬢様っぽい。だから彼氏ができないのかもね」「どういうこと?」「姫乃さんめちゃくちゃ人気あるんだけど、高嶺の花だから手を出しにくい」「ええっ、私そんなんじゃないのに。どうしたらそのイメージ払拭できるんだろう?」「払拭したら姫乃さん今以上にモテるからやめて」「そんな。モテてないから困ってるのに」ものすごく不満顔。 またしてもギャップ。「モテたいの?」「モテたい!」「ははっ、姫乃さんウケる」「あー、もう、またバカにしてるー」「してないです」「してるよー」「ははは、はいはい、すみません」ぷんすか怒る姫乃さんもまた可愛らしい。そんな態度や表情、会社で見たことなんて一度もない。仕事中の姫乃さんは清楚で物静かで、人当たりの良い綺麗な人だからだ。よく今までそれを隠し通してこれたなと感心してしまうくらいに。これはますます誰にも見せるわけにはいかないな。俺だけが知っていたい、姫乃さんの素の姿。「この後、どこ行きます?」「まだデート続くの?」「嫌?」「あ、そうじゃなくて、嬉しい方の質問」「俺は1日中デートのつもりでしたよ」「そっか。嬉しい!」ニコっとした満面の笑みに、ドッキンと心臓が震えた。姫乃さんの破壊力、エグい。
last updateLast Updated : 2025-07-08
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05_4 おみくじ 樹side

外は心地良い風がゆるりと吹き抜ける。暖かい日差しにうーんと伸びをした。「近くに神社あるんですけど、行ってみます? 確か恋愛成就の神様だった気が……」「わあ、行きたい!」またしても目が輝く姫乃さん。どうやら姫乃さんは、御朱印帳を持つほどに寺社仏閣巡りも好きらしい。そのギャップがたまらん。……と俺は思うんだが。「姫乃さんマジで渋い」「なんか年よりじみてるよねぇ。はー、そういうのもダメかなぁ?」「何で? 俺は好きだよ、そういう趣味」「そう? 引かない?」「むしろ好感度アップ」「じゃあそういうとこ全面に出していけばいいかなぁ?」全面に出すって、何だよ。 そういうの、他の奴らに知られたくないな。 こういうのを、独占欲とでもいうのだろうか。「さすがに極端すぎ」ひとまず牽制しておく。 姫乃さんはめちゃくちゃ残念がっていたけど、関係ない。そういうのは俺だけが知っていればいいと思う。これ以上姫乃さんのファンを増やしてたまるかよ。「神社って、空気が澄んでる気がしていいよね。私の汚れた心も浄化してくれそう」「心、汚れてるんです?」「真っ黒かもしれない」「ふっ、そんなわけない」こんな純粋な人が真っ黒とかありえない。たとえ姫乃さんが真っ黒だったら、俺は暗黒か、はたまた淀んで汚いのか。俺の心こそ浄化してもらわないといけないだろう。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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05_5 おみくじ 樹side

「おみくじ、引いてもいい?」 姫乃さんは慣れた足取りで、社務所前のおみくじ箱に駆け寄る。神社が好きと言っていたから、いつもおみくじを引いているんだろうな。 おみくじ代の100円を箱に入れて、自分で好きなおみくじを選ぶタイプ。姫乃さんは手でかき混ぜながら、めちゃくちゃ選んでいる。俺もそれに倣っておみくじを引いた。 ペラリと開いてみると、大吉という文字が目に飛び込んでくる。普段、おみくじだとか神頼みだとか信じていないくせに、いざ大吉を引くと案外嬉しいものだ。少しばかりテンションが上がる。 姫乃さんのは、と覗き込むと、吉と出ていた。でも姫乃さんの視線はそこじゃない。おみくじを握りしめ、わなわなと肩を震わせている。 「恋愛、焦ると失敗します?!」 あからさまにガックリと落ち込む。おみくじくらいでそこまで本気になるか? 面白すぎてゲラゲラ笑っていたら、「樹くんは?」と不満気な声で俺のおみくじを覗き込んできた。 何を隠そう、俺は大吉。そして恋愛の項目には―― ”恋愛、良縁を授かります” 結構良いことが書いてある。この良縁が姫乃さんとのことだったらいいな、なんて思ったりして。 「なんでっ! もー、信じられない」 姫乃さんはぷんすか怒った。怒りつつもちょっと泣きそうな顔になっていて、おみくじごときにどこまで本気になるのか、どこか子どもっぽい。そういうところも会社では見たことがないから、とんでもなく新鮮で、そして可愛らしく思える。 「焦らなければいいんですよ」 「焦るよ。だってもう二十九だもん。来年は三十だよ。友達は皆結婚して、子供三人いる子だっているし。なんか私だけ取り残されてる感」 「姫乃さん三十に見えないし、全然いいじゃん」 「樹くんは優しいね」 「そりゃ俺は姫乃さんの彼氏だから」 ……練習だけど。 でも練習にしておくのがもったいないくらいに、俺は姫乃さんに惹かれていることを自覚している。 いつか、本当の彼女になってくれたら―― そんなことを妄想していたら、姫乃さんのスマホがピロピロと鳴り出した。 「ちょっとごめんね」 申し訳なさそうに断りを入れた姫乃さんは、俺にくるりと背を向けて電話を取った。そしてまたくるりとこちらを向く。 「なぎさちゃんが、今日一緒にご飯食べたいって」 いい? とコテンと首を傾げる姫乃さんに、いいよと頷く
last updateLast Updated : 2025-07-11
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06_1 指輪 姫乃side

帰りがけにスーパーに寄ると、食材の入った袋を樹くんがささっと持ってくれる。 そして歩道の内側を私、外側を樹くんが歩く。 そんな些細な優しさも、私は内心嬉しくてたまらない。アパートの前ではすでになぎさちゃんが待っていて、「姫乃さーん」と手を振ってくれている。私もパタパタと振り返す。「なんでお兄ちゃんもいるの?」「姫乃さんが焼き肉にするっていうから。俺も食べたいじゃん」さも当然かの如く言う樹くんに、なぎさちゃんの不満顔が炸裂した。あからさますぎて思わず苦笑いしてしまう。みんなで食べた方が楽しいと思ったんだけど。「でも家で焼き肉って、臭い大丈夫?」スーパーで買った食材を袋から出しながら、樹くんが心配そうに聞いてくれる。だけど、私は待ってましたとばかりに、棚から大きな箱を取り出す。「えへへ、じゃじゃーん! 煙でないくんってホットプレート買ったの」掲げて見せると、なぎさちゃんの目が輝き、指をさして叫んだ。「あー、知ってる! 今話題の!」「使ってみたかったんだー。でも一人だと何だかなぁって思って。やっと日の目を見ることができた。なぎさちゃんありがとう」テレビで紹介されているのを見ていいなぁと衝動買いしたはいいけれど、なかなか一人で焼肉をする機会がなく今まで封印されていた『煙出ないくん』、ようやく使うときがきた。「やったー! 焼肉パーティー!」「ね、パーティーだねっ! ビールもあるよ」「飲む飲む! やったー!」なぎさちゃんがテンション高く喜び、そんな姿を見ていた樹くんは困ったように眉を下げて笑った。なんだかんだ、妹のことが気になってしかたないみたい。優しいお兄さんなんだな、樹くんって。
last updateLast Updated : 2025-07-12
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