All Chapters of 強引な後輩は年上彼女を甘やかす: Chapter 71 - Chapter 80

92 Chapters

07_4 ケンカ 姫乃side

どうしても気になってしまって、私は飲み会を早めに切り上げて樹くんの部屋を訪ねた。 ガチャリと玄関が開いて出てきた樹くんは、首にタオルをかけて髪の毛がまだ濡れている。どうやらお風呂上がりのようだった。タイミング悪かったかなと思い、私は袋を差し出し早口で言う。「今日ごめんね、一緒にご飯食べなくて。これ、お土産。じゃあ」「待って。上がってって」すぐに去ろうと思って背を向けたのに、腕をつかまれて私の足は止まる。「一緒に食べよ」「……うん」いいのかなと思いつつも、樹くんが私を部屋の中へと引きずり込む。 テーブルの上にはビールの空き缶が二本。 飲みかけが一本。「一人で飲んでたの?」「姫乃さんいないからやけ酒してた」「やけ酒って。でも私だって友達と出掛けることはあるよ。樹くんもそうでしょ? 明日は一緒にご飯食べよう?」樹くんは私から視線を外すと深く息を吐き出す。「なんか、俺だけ余裕ないなってやけ酒。姫乃さんのせいじゃない」「どうかしたの?」「別に」樹くんは缶ビールを手に取ると、一気にグビグビと煽った。「樹くん、飲み過ぎじゃない?」止めさせようと腕を引っ張ると、逆に手を掴み返される。そのまま見つめられ、その真剣な眼差しに心臓がドキン跳ねる。「なんか俺だけ子供みたいだ。姫乃さんが取られたみたいで悔しかった」「大げさだよ。祥子さんも真希ちゃんも、仲のいい同僚ってだけ」「わかってるよ。困らせてごめん」掴んでいる手に力が込められる。 ぎゅっと握られる手から樹くんの体温が伝わってくる。 あたたかくて優しい温もり。
last updateLast Updated : 2025-07-24
Read more

07_5 ケンカ 姫乃side

「仲直りしよ」「……別にケンカしてないでしょ」「でも仲直りしたい」まるで寂しくて泣いている子犬みたいな表情をする。樹くんでもそんな表情するんだ。「仲直りって、どうやって?」「こうやって」樹くんは私の手を握ったまま反対の手で私の頭を軽く引き寄せる。えっと思った瞬間、唇に柔らかい感触が走る。なんだか、ちゅっと可愛らしい音が聞こえた気もする。え。 これって。一気に体温が上がり、その全てが顔に集まるようだ。きっと真っ赤。いや、絶対間違いなく真っ赤になっている。遅れて心臓がドクドクと鳴り出し、私の血液が沸騰しそうに大騒ぎしている。それなのに樹くんはなんでもないようにケロッとしていた。「わ、わたし初めてだし。いいい、いいいい樹くんは慣れてるかもしれないけど。は、初めてだったのに」「じゃあ、もっかい練習する?」「れ、練習なんていらないよっ。ばかっ」とんっと胸を押し返して距離を取る。 動揺で何も考えられない。ドクドクと心臓が壊れそう。自分がここにいるようでいないようなふわふわした気持ち。真剣な眼差しの樹くんはじりじりとこちらへ寄る。「か、帰る!」どうしたらいいのかわからなくなって、私は樹くんを置いて逃げるように自分の部屋へ戻った。
last updateLast Updated : 2025-07-25
Read more

08_1 セクハラ? 姫乃side

いつも通り出勤すると、突然早田課長とグループ長に呼ばれ、会議室で面談が行われた。IT管理課はいくつかチームに分かれていて、私はインフラチームの庶務とヘルプデスク業を主として働いている。課全体の取りまとめは管理チームがしていて、当然課長の秘書的な役割も管理チームが行う。ところが管理チームの庶務が突然辞めてしまったそうだ。「すぐに人を入れるのは難しいし、入ったとしても新人を課長秘書にするわけにはいかない。そこで朱宮さん、兼務という形で課長のサポートをお願いしたいんだ。君なら経験豊富で信頼もあるし、お任せしたい」「僕は本当は専属でお願いしたいと思ったんだけど、甲田グループ長が君を離さないんだよ」にこやかに話をする甲田グループ長と早田課長を交互に見る。私でいいのだろうかと思ったのだけど……。「インフラチームには朱宮さんが必要だからね。易々と異動させるわけにはいかないですよ」「というわけだよ」「はい、わかりました」これはいわゆる抜擢というものだろうか。突然呼ばれて何事かと緊張したし驚いたけれど、話の内容からするに、頼られているんだ評価されているんだと感じられて嬉しく思う。じわじわと心が弾む気持ちと共に、これからも頑張らねばと気合いを入れ直した。
last updateLast Updated : 2025-07-26
Read more

08_2 セクハラ? 姫乃side

メールチェックをしていると、早速早田課長からの依頼が入っていた。【LANケーブルのオスを向かい合って挿せるメスのアダプタがほしい】意味がわからず私は首をかしげる。 LANケーブルの”オス”って何? “メス”のアダプタとは?インターネットで「LANケーブル オス」と入力して検索してみると、普通のよく知っているLANケーブルが出てきた。これを“オス”と言うのだろうか?「姫乃さん、テレコン貸してください」ちょうど樹くんが備品を借りに来たので、私は樹くんに聞いてみることにした。「ねえ、LANケーブルのオスとメスって何?」「は? 姫乃さん、セクハラですか?」樹くんが怪訝な表情になるので、私はキョトンとしてしまう。「え? どういうこと?」まったく理解できない私に樹くんは深いため息をつくと、声を潜めて言った。「オスは挿す方、メスは挿される方。……大人なんだからわかりますよね?」ああ、そういう……。 って、そういうこと?! 一気に体温が上がり顔が真っ赤になるのがわかった。 そんな私を樹くんは冷ややかな目で見る。「言っとくけど、セクハラされたのは俺の方ですからね」「いや、ごめん。そんなつもりじゃ……」「てか、何でそんな話?」私は真っ赤になった頬を押さえつつ、早田課長からのメールを指差して見せた。 樹くんはさっと目を通すと、なおさら冷ややかな視線で私を見る。「姫乃さん、セクハラされてますよ。普通、会社で、しかも女性社員に向かってこんな言い方しないから」「そうなんだ? ああ、びっくり。聞いたのが樹くんでよかったよ」「本当にね。気をつけてください」樹くんは私に釘を刺すと、テレコンを持って足早に去っていった。私はしばらく動揺が抑えられず、ひとり胸のドキドキを抑えるのに必死だった。
last updateLast Updated : 2025-07-27
Read more

08_3 セクハラ? 姫乃side

午後一で会議があるため、私は早田課長に命ぜられて昼休憩を早めに切り上げて会議室内で機材や資料の準備をしていた。「昼休みを潰してしまって悪いね」「いえ、大丈夫です」「オンラインで参加するメンバーもいるから、できればパソコンの画面を使いたいんだけど」「それなら画面共有がいいかと思います」「なるほど。操作教えてくれる?」「はい、じゃあ一度やってみますね」私はパソコンを起動する。早田課長は私の横に立ち、パソコンを覗き込んだ。一通りレクチャーした後、早田課長はおもむろに私の肩に手を置いた。「ねえ、恋人と別れたんだって?」「え? ええ……」突然のことにビクッと動揺する。早田課長にまでそんな噂が流れていて、しかも直接聞かれるなんて思いもよらなかった。早田課長は私の耳に口を寄せると、囁くように言った。「じゃあ今は一人? 僕が慰めてあげようか?」「慰める?」「大人なんだからわかるだろ?」言われた意味がわからなくてきょとんとなった。だけどすぐに樹くんの言葉を思い出した。──大人なんだからわかりますよね?──セクハラされてますよぶわっと一気によみがえり、とたんに顔が熱くなる。「い、いえ、結構です。間に合ってます」「そう? いつでもおいで」ふっと耳に息がかかり、思わず身をすくめた。そんな私の態度を楽しむかのように、早田課長は隣に座る。私はガタッと席を立ちペコリと一礼して、逃げるように会議室を出た。ドキドキと心臓が落ち着かない。ゾワゾワと嫌な感じがして一日心が落ち着かなかった。
last updateLast Updated : 2025-07-28
Read more

08_4 セクハラ? 姫乃side

夜、樹くんの家で夕飯を一緒に作りながら、今日の出来事を思い出していた。思い出しただけでもゾワッとする。「樹くん。私は早く恋人を作らなくてはいけません」「年齢的に?」「ぐっ。それもあるけど」樹くんは痛いところを突いてくる。 それはそうなんだけど、今回はそうじゃない。「焦ると失敗するっておみくじに書いてありましたよ」確かにおみくじにはそう書いてあったし気にもしてる。でも焦るものは焦るのだ。だって今日あんなことがあったし……。「恋人がいないと早田課長の慰めに合うんだもん」「は? なんだそれ」「そうやって言われた。だから早く彼氏がほしい」テーブルに箸とコップを並べながら軽く言うと、樹くんの眉間にシワが寄った。「またセクハラ受けたの?」怒ったような口調に私は少しビクビクしながらも、コクンと頷いた。 樹くんは大きなため息をつく。「課長と二人きりにならないこと」「でも会議の準備とか断れないし」「訴えていいんだよ」「だって上司が課長だもの。誰に相談したらいいか」樹くんはまた大きなため息をつくと、ソファーにどっかりと座った。「姫乃さん。ちょっと」手招きされるので、不思議に思いつつもほいほい寄っていく。「なあに?」「あのさ、」「きゃっ」言うや否や手を取られ、そのまま強い力で引き寄せられてソファーに押し倒された。両腕を押さえられ身動きできない。樹くんは私の腕を押さえたまま、上から見下ろしてくる。「こうされたらどうするの? どうやって逃げるの?」「え、えっと……?」確かに、腕をほどこうにも男の人の力には全然敵わなくて、私にはどうすることもできない。「姫乃さん無防備にも程がある」冷たく言われ、ずんと心が落ち込む。自分ではそんなつもりじゃないのに、そんな風に思われるなんて。「ねえ、わかってる?」「え?」両手は押さえられたまま、樹くんの顔が近づいたと思ったら、唇に触れる柔らかな感触。それがキスだと理解した瞬間、さらに激しく唇を奪われた。「んんっ!」角度を変えて何度も何度もするので、私の息は絶え絶えになってしまう。そんな私を楽しむように、樹くんは不敵に笑った。「キスくらい簡単にできるからね。肝に銘じて」
last updateLast Updated : 2025-07-29
Read more

08_5 セクハラ? 姫乃side

ようやく腕がほどかれたのに、私は衝撃のあまり動けなくて、結局樹くんに起こしてもらった。なんだかいろいろ情けなくてため息が出てしまう。私はもうアラサーで、樹くんよりも年上で、いい加減立派な大人なのに。 こんなんじゃダメだよね。ソファーにぼんやり座ったまま一人反省会をしていると、樹くんが私の乱れた髪を優しく整えてくれた。頭を撫でてくれる、その手の動きが心地いい。「ねえ、俺とのキスは嫌じゃないんだ?」「えっ?」「抵抗なし?」「いや、だって。抵抗なんてできなかった」「もっとする? してほしい?」思わず唇を見てしまって慌てて目をそらした。 たぶん顔真っ赤だ。 もっとしてほしいだなんて、一瞬でも思ってしまった自分に驚く。 ドキドキと心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど鼓動が激しい。樹くんが私の頬を包んで顎をくいっと上げる。「キスだけで止まらなくなったらごめんね」何かを考えるよりも早く、また唇に柔らかな感触。それはすぐに離れたかと思うと、おでこ、ほっぺ、耳、首筋、どんどん降り注ぎ、体の奥からぞくぞくと痺れていく。「い、つき、く……んっ」名前を呼ぶとすぐに唇を塞がれた。 甘い吐息が漏れる中、樹くんは私のブラウスのボタンに手をかける。え、え、え、ぼ、ぼたんっ。 ど、ど、ど、どうしようっ。この先のことを考えるだけでカアアっと体が熱くなった。 樹くんは余裕な表情で甘く微笑む。
last updateLast Updated : 2025-07-30
Read more

08_6 セクハラ? 姫乃side

もう一度、唇が触れるときだった。ピンポーン突然のインターホンに、はっと我に返る。 それは樹くんも同じだったようで、二人で顔を見合わせると気恥ずかしくなって目をそらした。ピンポーンなおも鳴るインターホン。 慌てて身なりを整える。それを確認した樹くんが、モニターを確認して通話ボタンを押した。「お兄ちゃん、早く開けて。もー、彼氏とケンカしたー!」元気な明るい声。 玄関を開けると、なぎさちゃんが頬を膨らませながらずかずかと上がり込んでくる。「またかよ」「ちょーむかつくし」ぷりぷり怒りながら入ってくるなぎさちゃんは私と目が合うと、ぴたっと動きが止まる。「姫乃さんいたんだ? ごめん、お兄ちゃん」「ほんとお前タイミング悪いのな。狙ってんのかよ?」私は先ほどのドキドキが止まらず、たぶんまだ赤い顔をしている。なぎさちゃんは私と樹くんの顔を交互に見ながら、バツの悪そうな顔をした。「何か私お邪魔だったよね? 帰る、ね」何かを察したであろうなぎさちゃんは慌てて靴を履く。やばい、何を察したというのだ。だけど今また樹くんと二人きりになるほうが気まずい気がする。「いやいやいや、待って。一緒にご飯食べよ?」私は慌ててなぎさちゃんを呼び止め、中へ引きずり込んだ。
last updateLast Updated : 2025-07-31
Read more

08_7 セクハラ? 姫乃side

「えっ! 姫乃さんセクハラされてるの?」改めて、なぎさちゃんの分も夕飯を準備して三人で食卓を囲む。しょうが焼きを食べながら、なぎさちゃんが驚きの声を上げた。「やっぱりセクハラなのかなぁ?」「セクハラだろ」「自覚なしはヤバイですよ。大事にならないうちに対処しないと」「大したことないんだって」あははと笑うと、樹くんに鋭く睨まれた。 とたんに先程のキスを思い出して私は項垂れる。「はい、すみません」「ぼやっとしすぎ。もっと危機感を持って行動して」素直に謝っているのに、樹くんはぷりぷりと怒ったままだ。「お兄ちゃんが守ってあげなよ」「守るのは当たり前だろ。なぎさも社会人になればわかるけど、四六時中見守ってあげられるほど、暇じゃない。ある程度自己防衛をだな……」「はい、ごめんなさい。もっとしっかりします」樹くんの説教が始まったので、私は被せるように謝った。もうこれ以上は怒られたくないもの。でもそうだよね。 樹くんは彼氏の練習に付き合ってくれてるだけで、あれやこれやお願いするのは間違っていると思う。 ましてや守ってもらうなんておこがましいにも程がある。 もう二十九歳なんだから、しっかりしなくちゃ。私は改めて気合いを入れ直したのだった。
last updateLast Updated : 2025-08-01
Read more

09_1 異論は認めない 姫乃side

会社のレクリエーションでバーベキューが開催された。我が社の年一の大規模イベントだ。他部署との交流イベントでもあるので、毎年大盛り上がりする。「今年は姫乃さんにくっついてますね」真希ちゃんが私の隣を陣取り、意気込んだ。その意味がよくわからなくて、私は尋ねる。「どうして?」「姫乃さんがフリーだと知れ渡ってるので、引く手あまたに男性陣が寄ってくることを予想してます」「まさか?」「私はおこぼれに預かります」真希ちゃんがぐっとガッツポーズをするので私は苦笑いだ。こういうのを肉食系というのだろうか。本当に男性陣が声をかけてくれるのなら、私も真希ちゃんみたいにガツガツ行く方がいいのかもしれない。そんなことをひとり考え込んでいると、さっそく声がかけられた。「どう? やっとるかね?」顔を上げるとそこにはイケメン……ではなく、部長がにこやかに立っている。私は慌てて姿勢を正す。「部長、ご無沙汰しております。ビールいかがですか?」「朱宮くんは相変わらずよく気が利くね。でも遠慮しておくよ、最近尿酸値がやばくてねぇ、酒は控えてるんだ。あっはっはっ」「そうなんですか。じゃあ代わりにお肉をたくさん食べてくださいね」私が部長と話し込んでいると、真希ちゃんがボソリと呟く。「まさか部長が来るとは予想外だったわ。部長が姫乃さん占領して、他の男が近づかない」静かにビールを飲んでいた祥子さんが、お腹を抱えて笑い出す。「残念だったわね、真希ちゃん。姫ちゃんが入社したときの上司が今の部長なのよ。だから仲がいいわけ」祥子さんはあきらめろと言わんばかりに、真希ちゃんの肩をバンバンと叩いた。
last updateLast Updated : 2025-08-02
Read more
PREV
1
...
5678910
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status