All Chapters of 私たちの絆は、ここに断つ: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

その言葉が落ちた時、雪華もようやく追いついてきた。口を開こうとした彼女が、視線は思わず人々の中心へと向かってしまった。高層ビルから飛び降りるという死に方はあまりにも壮絶で、目を背けたくなるほどの惨状だった。雪華は、夕帆なんて死ねばいいと何度も思ったことがあった。だが、いざ目の前でその光景を目にした時、思わず叫び声をあげていた。「きゃあっ!」よろめくように二歩後ずさり、その場に尻餅をついてしまった。「茂仁......」彼女は震える手で茂仁のズボンの裾をつかみ、連れて帰ってほしいと懇願するように見上げた。だが彼はその手を無情にも振り払って、半歩たりともその場から動こうとしなかった。それどころか、頑なな表情で警察に尋ねた。「いつになったら......彼女を連れて帰れるんですか?」「死因が判明した後です」警察は事務的な口調で答えたが、別に意地悪でそう言ったわけではない。もっとも、死因など明白だった。警察側も必要以上に長引かせるつもりはなかったのだろう。それから三日後、茂仁は夕帆の遺体を引き取れるという通知を受けた。彼女の遺体を別荘まで迎えるその日、雪華は泣き腫らした目で彼の前に立ちふさがった。瞳の奥には、今にも溢れ出しそうな悲しみと困惑があった。「茂仁......私たちはもう結婚したのよ?彼女はもう死んだのに、なんでまだ彼女を探そうとするの?」その問いに、茂仁の瞳に困惑の色が浮かんだ。「俺たちは仮の結婚だろ?でも、雪華......夕帆は俺の彼女なんだ。本当の、恋人なんだよ」結婚して一緒に一生を過ごすはずのの人なんだ。そう言って、彼は雪華を押しのけようとした。彼のその一言で、雪華はしばし呆然となり、次の瞬間、信じられないように目を見開いた。「仮の結婚って......?」彼女は呆然と呟き、やがて、ひとりでに笑い出した。「今さら言うつもりなの?本当に愛してたのは、夕帆だって」茂仁の足が、ふと止まった。目に一瞬、迷いの色が浮かんだ。愛してる?......夕帆を?そんなことは一度も真剣に考えたことがなかった。彼の中で、夕帆への感情は「責任」に近いものだった。そして自分が愛しているのは、雪華だと思っていた。だが、今こうして改めて問われてみると、ふと気づいた。――もし本当に夕帆を愛して
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第12話

彼の動きはやはり遅すぎた。遺体が床に落ちると、音もなく、接触した部分から徐々に虚無となり、やがて全身が霧のように消え去ってしまった。ほんの瞬きの間に、二人の目前で完全に跡形もなくなった。茂仁の脳内には、鈍い鉄槌で一撃を食らわせたかのような衝撃が走り、呆然とその場に立ち尽くし、目の前の光景が信じられなかった。「きゃあっ!あれ......あれは化け物よ!」雪華の叫び声が空気を裂いた時、ようやく彼も我に返り、状況を理解した。その瞬間、彼の両目は真っ赤に染まった。彼は慌てて部屋の隅へ駆け寄り、ベッドの下からその周囲まで必死に探し回りながら、繰り返すように呟いた。「夕帆は?俺の夕帆はどこに行った?なんで......なんでこんなことに......」だが、消えたものはもう戻らない。どれだけ探そうと、遺体はもうそこにはなかった。なおも諦めず、床を掘り返そうとさえする茂仁を見て、雪華の心は限界まで追い詰められていた。彼女はついに怒りを爆発させ、彼のスマホを奪い取って床に叩きつけ、そのまま彼の頬に平手を振り下ろた。「茂仁、いい加減に目を覚ましなさい!彼女は、私たちの目の前で消えたのよ。あれは化け物よ!あなたはいつまであんな化け物に取り憑かれてるの?」荒い呼吸をしながらも、彼女の胸中にはまだ言い足りないものが渦巻いていた。嫉妬、嫌悪、恐怖、そして理解できない感情。混乱の中、彼女は彼の俯いた顔を無理やり持ち上げ、まっすぐに見つめた。「茂仁、あなたが好きだったのは、ずっと私じゃなかったの?だから私と結婚式まで挙げたんでしょ?このまま、二人で穏やかに暮らすのはダメなの?なんであんな女といつまでも縁を切らないのよ?彼女、一体あなたにどんな魔法をかけたの?どうして急にそんなに入れ込むようになったの?」雪華は、茂仁を失うつもりはなかい。何より、この三輪市で森承平と対等に張り合える男は、彼しかいなかったから。しかし、彼女のその言葉は、思わぬ結果をもたらした。彼は突然、ガツンと顔を上げ、まるで何かを思い出したかのように、雪華をギラリと睨みつけた。そういえば、どうして自分は雪華と結婚したのか?彼女が言った。自分はがんを患っていて、余命いくばくもないと。医者も、彼女にはもう刺激を与えるなと言った。だが、結婚式の後、彼女は
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第13話

その言葉を聞いた瞬間、茂仁は呆然とした。「どういう意味?結びつけるって......?」彼の雷に打たれたような表情を見て、雪華は急に気分が晴れやかになった。目を細めて意地悪く笑いながら続けた。「文字通りの意味よ。私が階段から落ちた時のこと、覚えてる?実は、彼女が私に会いに来たの。もう敵視しなくていい、全力で私たちを結びつけてみせるって言ってたわ。じゃなきゃ、自分の彼氏を別の女と同じ部屋に泊まらせるなんて、本気で信じられる?しかもその女って、ずっと彼氏の想い続けてた相手よ?まさか彼女の誕生日の宴の夜、薬を盛られたのが偶然で、私がたまたま部屋を間違えたって、そう思ってたんじゃないでしょうね?だったら教えてあげる。薬を盛ったのは彼女よ、私を呼んだのも彼女。あと、私の誕生日に、あなたにプロポーズしてほしいって願ったのも、彼女だ。ハハハ!茂仁、あなたはまるっきりバカだよ。とっくに見捨てられてたくせに、まだプロポーズの準備なんかして、『一番欲しいサプライズ』なんて思い込んで。哀れすぎて笑っちゃうわ」真実は重い槌のように、一撃、また一撃と、彼を完全に倒せようとしていた。最初から、彼女は去るつもりだったのか?いや、いっそもっと早く気づくべきだった。あるいは、彼はとっくに雪華のがんが偽りだと気付いていたのかもしれない。ただ、なぜか分からない。あの時、彼はなぜあんなにも簡単に、一切の疑いもなく、彼女の言葉を信じてしまったのだろう。彼は自分の行動が間違っていることを知っていた。それでも、何かに導かれるように、彼は雪華を選んできた。まるで心のどこかに刻まれた命令のように、「雪華を愛せ」「彼女を第一にしろ」と。夕帆は変になったのは、雪華が別荘に引っ越してきた日からだ。彼女は雪華の存在を気にせず、彼と雪華の距離が縮まっても、怒ることなく、彼女を傷つけたときでさえ、何も言わなかった。むしろ、自ら進んで結婚式の準備を整えてくれた。あのとき彼は言った。「夕帆、君みたいに優しくてわきまえのある彼女がいて、本当に幸せだ」そのとき夕帆は、何を思っていたのだろう?ようやく今、茂仁は自分の愚かさを悟った。夕帆は彼に夢中で、絶対に離れていかないと信じていたから、彼は安心して彼女を傷つけ、無視していた。雪華へ
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第14話

搭乗アナウンスが流れた瞬間、雪華はようやく張りつめていた心を解いた。彼女は急ぎ足で搭乗口へ向かい、チケットを手に検札へと進んだ。だがその刹那、突然現れた数人のボディーガードに行く手を阻まれた。「雪華、どこへ行くつもりだ?」耳元で囁かれた低くかすれた声は、まるで悪魔の囁きのようだった。その瞬間、彼女の全身に鳥肌が立った。ぎこちなく振り返ると、先ほどあれほど惨めに逃げ去ったはずの茂仁が、まるで別人のように落ち着き払った顔で立っていた。唇には皮肉な笑みすら浮かべている。彼女は答えず、ただ警戒しながら彼を見つめていた。「ご搭乗のお客様......」再び流れた搭乗案内のアナウンス。その音に茂仁が耳を傾け、やがてアナウンスが終わると同時に、くつくつと笑い出した。「コスタリカか。景色がきれいだって聞いたよ。なかなか良い選択じゃないか」彼は軽く頷き、彼女の緊急の判断に感心したように見せた。だが次の瞬間、その笑みは消え、目も冷たくなった。「だけど、雪華。夕帆の死については、お互いに責任がある。彼女は今や、骨すら残ってない。その状態で、君だけが外国へ逃げて、のうのうと暮らせると思ってるのか?君はここに残って、俺と一緒に、一生涯かけて夕帆に償うべきなんだ」......その頃、現実世界――夕帆はゆっくりと目を覚ました。目に映ったのは真っ白な天井、そして鼻を突くような消毒液の匂いが、ここが病院であることを告げていた。体を起こそうとしたが、全身がひどくこわばっているのを感じた。すぐそばに置かれていたスマホを手に取り、画面に映る日付を見て、彼女はしばし呆然とした。三年。異世界では十二年間を過ごした。けれど現実では、たった三年間しか経っていなかった。そのとき、金色に光るシステムが再び現れ、機械的な電子音で彼女の疑問に答えた。【異なる世界では時間の流れが異なります。宿主が任務を完了したのは五年前です。よって再接続された時間軸は、最初の任務完了時点に準じます】【任務完了。宿主、これが私たちの最後の会話となります。あなたの人生に幸あれ。さようなら】電子音が消えるとともに、金の光もふっと消え去った。「待って」反射的に声を出したが、システムが消えていくのを止めることはできなかった。虚空を見つめるうちに、胸の奥がぽ
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第15話

「まるで奇跡のようです!」医師が一通りの検査を終えると、険しかった表情が一変し、驚きながら言った。植物状態から目覚めただけでも奇跡だというのに、目覚めた後の各種数値までもが正常とほぼ変わらないとは、まさに奇跡の中の奇跡だ。今、その奇跡の存在となったのが、他でもない夕帆だった。「今後はしっかりリハビリしてください。大病からの回復直後ですから、数値は正常でも無理は禁物です。食事もあっさりしたものを中心に、暴飲暴食は避けてください」医師は長々と注意事項を述べた。正幸と美知子は一言も聞き漏らすまいと真剣な表情で頷きながらメモを取った。どんな小さなミスも、取り返しのつかない事態を招くかもと恐れていた。ただ一人、夕帆だけが、その奇跡の裏に「システム」と「小説世界の攻略」という信じがたい現実があることを知っていた。心の中でそっとシステムに感謝を告げ、両親に付き添われて退院手続きを済ませ、ようやく自宅へと戻った。三年も眠っていたせいで、各種の指標は正常といえども、身体の動きにはまだ多少の不自由が残っていた。だからこそ、医師はリハビリを強く勧めたのだ。「お父さん、お母さん、ごめんなさい。親不孝な娘で心配ばかりかけて......これからはちゃんと親孝行する!」家に戻ってから、両親が忙しく動き回る姿を見て、夕帆の胸には罪悪感が浮かんだ。美知子は優しく彼女の頭を撫で、慈愛に満ちた笑顔を見せた。「あなたが元気でいてくれることが、私たちにとって何よりの恩返しよ」夕帆の回復は早かった。身体が元に戻ると、まず考えなければならなかったのは、今後の仕事についてだった。事故に遭ったのは、彼女が大学院を卒業して社会に出ようとしていた時期だった。そのまま意識を失い、三年間を眠ったまま過ごすことになった。今、改めて社会に出るということは、多くの困難が待ち受けている。「心配することない。うち橋本家、娘一人ぐらいどうにでもなる。君がやりたいことがあるなら、思い切ってやってみなさい。君は優秀な子なんだから、どうしてもダメな時は父さんと母さんがついてるぞ!」不安を打ち明けた夕帆に、正幸は豪快に笑い、彼女の肩を軽く叩いた。彼女が進学する際、橋本家は一族の企業に進ませるために、金融学をアドバイスしようとはせず、彼女自身の意思を尊重してくれた。
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第16話

雪華は、ひたすらに身を低くして許しを請うたが、茂仁の心を動かすことはできなかった。彼は一言も発することなく、まるで息のない物体を見るような眼差しで彼女を見下ろしていた。彼女の前に置かれたのは、虫のたかった腐った飯一杯。彼は視線を伏せたまま、淡々とした声で言った。「これが今日の食事だ。食べるかどうかは自分で決めろ。ただし、この飯が食べきれない限り、次の食事はない」そう言い残し、彼は踵を返した。だが、一歩を踏み出したところで、足首が何かに捉えられ、動けなくなった。見下ろすと、そこには漆黒の手が絡みついていた。その手の主は、鎖につながれた雪華だ。彼女は希望を宿した目で彼を見つめ、震える声で懇願した。「茂仁......もう、こんなにも長い時間が経ったの。ずっと苦しめられてきたわ。お願い......もう私を許して。あの人があんなふうに姿を消したのも、もしかしたら、もしかしたら彼女は......まだ生きているかもしれないじゃない!」茂仁は忌々しげに足を振り払い、白いスラックスには手形がくっきりと残された。「彼女が生きていようがいまいが、千川、貴様が償うべきことは変わらない」その声は静かでありながらも冷酷で、雪華の心を凍りつかせた。七年館。彼女は暗く冷たい地下室に囚われ、犬のように扱われ続けた。どれほど泣き叫ぼうと、彼の返事はいつも同じだった。「代償を払え」彼女はついに力なく崩れ落ちた。だが、彼女はいったい何をしたというのか。いかなる罪の代償を払えというのか。彼女は乾いた笑みを浮かべ、彼の背に向かって叫んだ。「確かに私は彼女に敵意を抱いていた。でも......でも私は、彼女に指一本触れたこともない!本当に彼女を傷つけたのは、いつだってあなたじゃないの?何を今さら純愛気取ってるのよ!辻本、報いを受けるべきは、あなたの方よ!」その叫びは、魂の限りを振り絞った慟哭だった。声は耳障りで鋭く、それらの言葉が彼の胸を深く刺し貫いた。彼は沈黙したまま何も答えず、ただ立ち去り際、無意識のうちに左手の薬指に触れた。手袋の下には、すでに何もない。彼が自分の指を切り落とした。罰として。かつて彼が口にした言葉が、彼の胸中で繰り返された。夕帆の死は、誰一人として無関係ではない。だから、誰にも逃げ
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第17話

指先で絵の縁をそっと撫でながら、耳の奥にはさっき雪華が言った言葉がこだましていた。「もしかしたら彼女は......まだ生きてるかもしれないじゃない!」七年経っても未だに見つからない遺体を思い出しながら、彼の瞳には深い哀愁が浮かんで、声には寂しさが滲んだ。「夕帆......君は本当に死んでなんかいないのか?会いたい......一度だけでも、君に会いたい......」「つ......辻本社長!」呟きは、突然押し入ってきたボディーガードの声に遮られた。不快そうに眉をひそめて、彼はその人を見やった。冷ややかな視線はまるで刃のようで、実体があれば相手はすでに満身創痍になっていたことだろう。ボディーガードはその目に射すくめられ、恐がりながらも、覚悟を決めて報告した。「社長......千川さんが......千川さんが自殺を......」その言葉が落ちると同時に、胸をかきむしられるような激しい動悸が彼を襲った。猛烈で急激、ほんの一瞬で、彼の意識を朦朧とさせ、視界は次第にかすみ、周囲の騒々しい叫び声も遠のいていった。残ったのは、耳をつんざくような耳鳴りだけ。次の瞬間、彼の意識は完全に闇にのまれた。——再び意識が戻ったとき、茂仁は自分が奇妙な世界に足を踏み入れていることに気づいた。そこには金色の光の塊と、空中に浮かぶ無数の文字が存在していた。光は行き交い、互いに出会うとまるで挨拶を交わすかのように少し止まった。まるで命を宿した不思議な生き物のようだった。その瞬間、彼はふと、かつて夕帆の遺体が消えた時に目撃した光景を思い出した。身体の底から虚無へと変わっていき、消えゆく中で、微かに金色の光と文字が見えた。当時はあまりに一瞬の出来事で、記憶にもはっきり残っていなかった。しかし今、同じような文字と光を目にしたことで、彼の胸にはある一つの疑念が急激に膨れ上がった。その時、突然どこからともなく警告音が鳴り響いた。行き交う金色の光たちの動きが一斉に止まり、次の瞬間、全てが一箇所に集まり出した。彼の心は高鳴り、思わずその群れを追った。すると、タイミングよく一つのスクリーンが現れた。茂仁が見上げた先に映っていたのは、なんと彼自身の別荘の光景だった。【警報!警報!世界のヒロインが死亡。この世界が崩壊の危機に瀕して
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第18話

この茶番は、最終的に茂仁の世界の秩序維持を担うシステムが彼を識別し、拘束を解除、元の世界へと送り返すことで幕を下ろした。ようやく彼は気づいた。最初に見たあの結末こそが、本来の彼に与えられていた運命だったと。深く愛し、悔いなく、孤独のうちに死を迎える。そしてその時になってようやく、彼はすべてを理解した。なぜあの頃、雪華が現れるたび、どこかおかしいと感じながらも、それ以上考えようとしなかったのか。それは、彼の設定が「千川雪華を深く愛すること」だからだ。そしてその後、なぜ制御が効かなくなったのかも、おそらくシステムが言っていた「世界の異常」による連鎖反応だったのだろう。だが、橋本夕帆とはいったい何者なのか?彼女は本当に死んだのか?そして、自分はまた彼女に会えるのか?茂仁にはわからなかった。誰もその問いに答えてはくれなかった。元の小説世界に戻された彼が時計を確認すると、時間は雪華が死ぬ直前に巻き戻っていた。瞳がかすかに揺らぎ、彼はボディーガードたちを退かせると、再び地下室へと足を踏み入れた。雪華の反応は前回とまったく同じだった。哀願から罵倒へ。彼は一丁のナイフを取り出し、目に狂気の色を浮かべた。「雪華、恨まないでくれ。これは本来、君が夕帆に償うべきものなんだ。俺は......ただ、夕帆に会いたかっただけなんだよ......」低く押し殺した声が雪華の耳に届いた。視線はナイフに釘付けとなり、恐怖が心の底から沸き上がってくる。彼女は頭を振って必死に懇願した。しかし次の瞬間、「ズブッ」と鈍い音が鳴った。ナイフが胸に深々と突き刺さり、激痛に目を見開いた。胸元から血がじわりと流れ出し、すぐにあの眩暈にも似た感覚が再び襲いかかってきた。二度目のシステム空間への侵入。今回は迷いはなかった。茂仁は管理中枢へと一直線に向かい、姿を現すや否や、システムを睨みつけて言い放った。「夕帆に会わせろ」しかしシステムは一言も応じず、今度はあっさりと彼を元の世界へと追い返した。地下室で、雪華は死の恐怖から戻ってきたばかりだった。するとまたしても、茂仁が急ぎ足で入ってくるのが見えた。あのとき胸を貫かれた恐怖が彼女の脳裏をよぎって、思わず身をすくませた。だが、すぐに考えを改めた。恐れていても無駄だ。彼の狂気を止めるには、意表
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第19話

仕方なく、システムは少し譲るしかなかった。【彼女の世界へあなたを送ることはできませんが、スクリーンを渡すことはできます。スクリーンには、彼女がその世界でどのように暮らしているかが映し出されます。ただし、あなたは彼女と交流することはできません。ただ、見てるだけです】【その代わりとして、あなたを橋本夕帆が現れる以前の時間軸に戻します。ヒロインに危害を加えてはいけませんし、敵意を抱くことも禁止します】茂仁は不満そうに抗議したかったが、システムの「交渉の余地なし」という態度を見ると、過去に何度も小説世界に強制送還された記憶が蘇り、黙り込んだ。そして結局は、黙って頷いた。再び眩暈が襲い、茂仁は原点に戻ってきた。朗読の声が教室に響く中、突然肩をつつかれた。「茂仁、今週末みんなで食事に行くんだけど、あなたも来る?」懐かしい雪華の声が背後から届いた。彼はぼんやりと振り返りながら、窓に映った自分の姿に目を止めた。学生服を着た、若くてあどけない少年。目に浮かぶのは、ほんのりとした困惑の色。「茂仁、何ぼーっとしてるの?」返事がないのを不満に思った雪華は、再び彼の肩をつつきながら催促した。「美少女の千川様のお誘いだぞ、断るわけないじゃん!」誰かが茶化しながらそう言うと、雪華は顔を赤らめながら口をとがらせた。「変なこと言わないで。ただの友達なんだから。承平さんに誤解されたら許さないよ」その言葉に、またもや周囲からひやかしの声が上がった。会話が飛び交う中、茂仁はしばらく呆然としていたが、やがて彼らのやり取りから今が高校二年生の頃だと気づいた。そして、このパーティーで雪華が承平の告白を受け入れためのものだった。「俺は行かない」静かに発せられたその言葉に、その場の空気が一瞬止まった。雪華の誘いを、茂仁が断ったのはこれが初めてだった。「茂仁、間違ってない?これは雪華の誘いだよ......」信じられないという顔で確認する声に、茂仁は少し苛立った様子で机を押しのけ、立ち上がった。「行かないって言っただろ」そう言い残し、彼は足早に教室を出て行った――そして、授業さえもさぼった。彼はそのまま家に帰った。雪華や承平のことなどどうでもよかった。ただ、システムが本当に嘘をついていないか、確かめたかった。
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第20話

元の世界に戻ってから五年目、夕帆は結婚した。相手は啓昭だった。結婚式では、二人は笑顔を浮かべていた。長いトレーンのウェディングドレスに身を包んだ彼女と、きちんとしたスーツを着た彼。男は端正で、女は美しい。祝福の声が会場を満たしている。司会者が二人の前に立ち、同じく笑顔を浮かべながら口を開いた。「辻堂さん、あなたは橋本さんを妻とし、愛し、慰め、尊重し、守りますか?健康な時も病める時も、裕福な時も貧しい時も、自分を愛するように彼女を愛し、生涯を通じて誠実であることを誓いますか?」彼は彼女の方へ視線を向けた。その眼差しには限りない優しさが宿り、答えに一切の迷いもなかった。「はい、誓います」「橋本さん、あなたは辻堂さんを夫とし、愛し、慰め、尊重し、慈しみますか?健康な時も病める時も、裕福な時も貧しい時も、自分を愛するように彼を愛し、生涯を通じて誠実であることを誓いますか?」彼女は振り返り、眩しいほどに笑って答えた。「はい、誓います」きらめくダイヤの指輪が、啓昭の手によって彼女の薬指にはめられた。その時、彼女の瞳にはあふれんばかりの愛情が宿っていた。茂仁はその光景を、席から呆然と見つめていた。一年前、スクリーンに新しい機能が追加された。投影機能が使えるようになってからは、彼はできるだけ彼女の近く、より親密な位置から投影を観るようになった。彼女が家に帰る時、彼はその傍に立ち、そっと彼女の手を握った――まるで本当に手を繋いで一緒に帰っているかのように。彼女が啓昭と食事をする時には、必ず彼女の隣の席を占領し、わざと挑発するように啓昭を見つめた――まるで、夕帆はいまだに自分のことを一番愛しているかのように。システムによって雪華に手出しすることは禁じられ、彼自身ももはや、彼らと何の関係も持ちたくなかった。どうせ、彼の夕帆は、無事に生きているのだから。どうせ彼が関与しなくても、雪華は物語の結末において、結局承平と共に破滅の道を辿る。その時になれば、彼がいなければ、彼女の生活も決して楽ではないだろう。大学に入ってから、茂仁は雪華たちとは別の都市に行った。かつて雪華の背後に黙って付き従い、自分ではうまく隠していると思う彼が、実は彼女に好意を抱いていることなど、雪華以外の皆が知っていた。
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