その瞬間、冬翔は雷に打たれたようなショックを受けた。ぼんやり浮かんでいた疑いが、今ではっきりした。私は、本当に彼と別れようとしているーーでも、どうして?今日は二人の結婚式の日。私が二十年も夢見てきた願いを、そんなに簡単に捨てるはずがない。混乱する頭の中で、冬翔の脳裏に浮かんだのは、家を出る直前の私の、あまりにも静かな顔だった。何かを伝えようとしていたように見えた。でもその時の冬翔は、夏蓮の様子を見に浜城市医療センターへ向かうことで頭がいっぱいだった。私が何を言おうとしていたのか、結局最後まで聞かなかった。玄関のドアを閉める前、ソファに座る私の姿が目に入った。その顔には、結婚を控えた花嫁の喜びも、結婚式の直前に婚約者が他の女性に会いに行くことへの怒りもなかった。まるで静かな湖みたいに、全然波が立っていなかった。まさか、あの時に言いたかったのは「別れよう」ってことだったのか?冬翔は力が抜けてソファに崩れ落ち、頭の中はぐちゃぐちゃだった。リビングのテーブルに置かれたスマホが何度も鳴り、両親や友人たちから次々に電話がかかってきた。でも、出る気力なんてなかった。どうして私が別れを決めたのか、どうしても理解できなかった。スタッフによれば、私はもう半月も前に式場の予約をキャンセルしていたらしい。半月前ーーその瞬間、冬翔の頭に浮かんだのは、ちょうど半月前、夏蓮が人工授精で妊娠したと知った日のことだった。その日、冬翔は本当はもう一度人工授精の話を持ち出して、私に納得してもらおうと思っていた。でも、夏蓮から【検査結果が出た。もう妊娠してる】とメッセージが届き、嬉しさのあまり思考が吹っ飛んで、その話を途中で切り上げて病院へ急いでしまったのだった。その後の半月、徐々に記憶がよみがえってくる。ウェディングフォトの撮影をキャンセルし、夏蓮と旅行に行って……私は、そんなことがあってもまるで関心がないように見えた。前なら、絶対怒ってたはずなのに。冬翔の胸に、焦りと戸惑いが広がる。まさか、あの時すでに私は別れを決めていた?でも私は、夏蓮が命の恩人だってこと、知ってるはず。だからこそ、冬翔がしたことは全部恩返しのためだって、理解してくれると思ってた。最初にこっそり人工授精を決めたのも、そんなにうまく
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