「南無阿弥陀仏、白石様はすでに懺悔を済ませ、心に迷いはございません」僧侶は両手を合わせ、敬虔な面持ちでそう告げた。後ろから足を引きずるように歩いてきた影が、ようやく追いついたその瞬間、冷たい声が飛んできた。「乗れ」車のドアが開き、白石礼香(しらいし れいか)は強引に中へ押し込まれた。高級レザーのシートには一人の男が座っていた。黒のオーダースーツを身にまとい、隠しきれない気品を纏っている。整った顔立ちに深い瞳、通った鼻筋と薄い唇、鋭い顎のラインには、冷徹さと長年トップに立ってきた者の威圧感が滲んでいた。彼の名は望月誠矢(もちづき せいや)。海城市の実質的ナンバー2にして、街の経済を握る男だ。彼女にとっては名目上の叔父であり、十年間想い続けてきた男だった。「その目をやめろ、二度と俺の前でそんな顔すんな」誠矢の声は鋭く、容赦がなかった。礼香の顔から血の気が引き、うつむいたまま彼を見ようともせず、身体を小さくして隅に縮こまった。誠矢は腕時計に目を落とし、短く命じた。「ホテルへ行け」彼の手首にあった腕時計は、もう彼女が贈ったものではなかった。代わりに着けていたのは、白川遥(しらがわ はるか)がよく愛用していた安物のブランドだった。三年かけて貯めたお金で買った時計は、遥の一年にすら敵わなかった。彼の口調は冷ややかだった。「寺の清らかな空気で、お前の穢れた考えは消えたか?」礼香は拳を強く握り、なんとか笑顔を作ってみせた。「おじさん、何のことか分からないよ」「おじさん」その一言が、二人の間に決定的な線を引いた。かつて彼女は、誠矢、誠矢と名前で呼び続けていた。どれだけ罰を受けても、その呼び方を変えることはなかったのに。でも今の彼女は違う。誠矢の目にかすかな陰りが差し、口調もわずかに緩んだ。「ああ、遥が言った通りだ。ここに預けてよかった」彼は視線を外し、手元の仕事に意識を戻したが、隣の席で礼香の顔がすでに真っ白になっていることには気づいていなかった。車は静かに寺を離れ、モリウェルホテルへと向かった。その日、ホテルは貸し切りで一般の客は入れなかった。エントランスには高級車がずらりと並び、要人たちが次々と出入りし、両側にはガードマンが立ち、写真撮影も厳しく禁じられていた。かつて礼香はこうした宴席
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