All Chapters of 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした: Chapter 11 - Chapter 20

34 Chapters

第11話 全く記憶にありません

 私は夢を見ていた——何故か分からないが、私にはこの世界が夢であるということを認識していた。夢の中の私は薄暗い霧が立ち込める森の中を立っていた。そして森の中へ一歩を踏み出す。そこで私の目が覚めた——****「ユリアお嬢様……今朝は随分と眠そうですね?」朝食を食べながら今朝4回目の欠伸をしていると、向かい側の席に座るジョンが声をかけてきた。「ええ……色々考えることがあって、なかなか寝付けなくてね」テーブルパンにマーマレードを塗っているとジョンが首を傾げる。「考え事ですか? 一体何を考えることがあるのです? ひょっとすると悩みでもあるのですか?」「え……?」私はその言葉に驚き、ジョンを見た。彼は美味しそうにオムレツを食べている。「ねぇ、ジョン」「何ですか?」「ひょっとして、私には悩みがないと思っているの?」「はい、勿論そう思っていますが……え? ひょっとするとユリアお嬢様は今悩みをお持ちなのですか?」言い終わるとジョンはベーコンを口に入れた。「あるに決まっているじゃないの。命は狙われているし、記憶は戻らない。家族からはどうやら嫌われているらしいし、何か夢を見た気がするのに全く覚えていない……」するとボソリとジョンが言った。「嫌われているのは家族だけでは無いのに……」「え? 何? 何か言った?」「いえ、何も言ってません」「嘘、今『嫌われているのは家族だけでは無いのに』と言ったじゃないの」「聞こえているなら問い直さないで下さいよ」「あのねぇ……」言いかけたたけれども、ジョンは視線も合わせずに食後の珈琲を飲んでいる。それを見ていると何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。「別にいいわ。私が嫌われているかどうは登校すれば分かる話だものね」わざとジョンに聞こえるように言うと、ミルクを飲み干した。そう、今私が一番頭を悩ませているのは嫌われているかどうかよりも記憶を失っていると言うことなのだから——**** ガラガラガラ……走り続ける馬車の中、私はジョンと向かい合わせに座っていた。私もジョンも高校の真っ白い制服を着ている。「ジョン、その制服姿……中々似合っているわね」するとジョンは謙遜することもなく言う。「ええ、私は何を着ても似合いますから」ジョンは馬車から窓の外を眺めつつ、返事をする。「…」確かにジョンは悔しい位にハンサ
last updateLast Updated : 2025-04-28
Read more

第12話 敵意の込められた視線

 学園に到着して馬車から降りると早速ジョンに尋ねた。「ねぇ、私は何年何組なのかしら?」するとジョンは溜息をつく。「何故そういう大事なことを今頃尋ねるのですか? 普通記憶が無いのでしたら前日には確認をとるものではありませんか?」確かに言われてみればそうかもしれないけれど……。「だ、だって……校舎を見れば記憶が戻るかもしれないと思ったのよ……」「ご自分の部屋を見ても、鏡でご自分の姿を確認しても何一つ思い出せなかったのに、今頃校舎を目にして記憶が戻ると思ったのですか? 甘い考えですね」きっぱり言い切られてしまった。だけど私にだって言い分がある。何もそんな言い方をしなくてもジョンの方から私のクラスを教えてくれたっていいようなものだと思った。しかし、唯一私の今の所一番? の理解者である彼の機嫌を損ねたくないので、ここはグッと我慢した。「そうよね……言われてみればその通りだったわ……それで私は何年何クラスなの?」「ユリアお嬢様は3年Cクラスです。校舎はあの大きな時計が取り付けられているのと同じ建物で3階にあります。あ、ちなみに私も同じクラスに編入することになっていますからね」「……」私はじっとジョンを見る。「何ですか?」「……今更、学生に戻るの嫌じゃない? それよりも先生になってこの学園に入って来た方が良かったのじゃないのかしら?」まさか26歳にもなって学生に戻るなんて。私だったら折角学校を卒業して社会に出られたと言うのに、もう一度高校生をやり直すなんて絶対に嫌だけど……。「生徒達に授業を教える? 冗談じゃありません。そんなことをしたらサボれないじゃないですか」「サ、サボるって……」「私は頭脳も優秀ですからね、今更誰かに教えを請うつもりも、教えるつもりも毛頭無いですから。私がこの学園に通うのはあくまでユリアお嬢様の護衛の為です」「あ……そ、そうなのね」「それでは私は職員室に行ってきますが……先程も言っていた通り、学園内では対等な口を聞かせてもらいますからね」「ええ、いいわよ」するとジョンはニヤリと不敵な笑みを浮かべった。「それじゃユリア。また後でな」そしてクルリと背を向けると、恐らく? 職員室のある方角へと行ってしまった。「そ、それにしても……何て変わり身の早さなのかしら…」呆然としていると、私のそばを大勢の学生たちが通り過ぎ
last updateLast Updated : 2025-04-29
Read more

第13話 責められても何の事だか分りません

 今の声は先程の学生の声なのだろうか?一体誰が彼をそんなに苛つかせているのだろう? しかし、触らぬ神に祟りなし……。私はそのまま教室目指して歩いていると、今度は先程よりも強い口調で呼び止められた。「おい! 聞こえているのか! ユリア・アルフォンスッ!」名前をハッキリ呼ばれてしまった。え? 嘘! まさか呼び止められていたのが私のことだったとは……。恐る恐る振り向くと、先程の5人組が私を険しい目で睨みつけている。ただ1人、銀の髪の女性を除いては。「あ、あの……何か御用でしょうか?」何故この人達はこんなにも私を睨みつけているのだろう? 心当たりも何も記憶がなければどうしようもない。おまけに私は彼等の名前すら知らないのだ。「何? 何か御用だと……?」金の髪の青年が美しい眉をしかめた。うん……確かに彼はハンサムかも知れないが、今の私の中ではジョンの方がハンサムだと思う。「お前、昨日はテレシアに嫌がらせのつもりで学校を休んだのだろう!?」いきなりその人物は私を指差すと、訳の分からないことを言ってきた。え? テレシアって一体誰のことだろう?その時、私の目に銀の髪の女生徒が目に入った。彼女は金の髪の青年にしがみつくような格好をしている。「あの……もしかして、その人がテレシアさん……?」「な、何!?」「え!?」私の発した言葉に何故か驚く青年と女生徒。おまけに背後にいる青年3人もギョッとした顔で私を見る。「な、何だ? お前……その言葉使いは……」声を震わせる青年に私は言った。「あ、申し訳ございません。言葉遣いが悪かったでしょうか?」慌てて謝罪する。この人達に学生たちは通路を譲っていたから、もしかすると私よりも高貴な身分なのかもしれない。私は公爵家の者だから、王族なのだろう。「お前、ひょっとするとふざけているのか? 昨日お前が学園を休み、俺がお前の様子を見に行かなかったことに対するあてつけのつもりでそんな態度を取るのか? どうせ昨日の休みも命を狙われていると思い込んでいる妄想癖と、テレシアに対する嫌がらせで休んだのだろう?」青年は今にも血管が切れそうなくらい顔を赤くさせている。え? 私はこの人物にも命を狙われていると相談していたのだろうか?「ベルナルド様……」テレシアはベルナルドと呼んだ青年に擦り寄った。「うん? どうした。テレシ
last updateLast Updated : 2025-04-30
Read more

第14話 ここでも悪女扱いですか?

 教室へ入ると、既に大勢の生徒達が集まっていた。そして何故か私の姿を見て一瞬シンと静まり返り、私から視線をそらす学生たちが続出した。中には私を見ながらヒソヒソと話しているグループの女生徒達の姿も見える。ハイハイ……。ええ。分かっております。私は恐らく悪女として名高く、きっとこの教室でも嫌われているのでしょう? でも記憶喪失真っ只中の私にとってはある意味好都合だった。この様な状況であれば誰もが私に話しかけてくることはないだろうから。ところで私の席は何処なのだろう……? 教室を見渡しても自分の席が何処なのかさっぱり分からない。そこですぐ近くに誰とも話もせずに読書をするメガネをかけた比較的大人しそうな女生徒に尋ねてみることにした。「あの、ちょっといいかしら?」私の言葉に教室がざわめく。「え? あ、あの私ですか?」女性とは本を閉じると驚いた目で私を見る。「ええ。貴女に尋ねたいことがあるの。私の席を教えてもらるかしら?」「ええっ!? ユリア様、本気で言ってらっしゃるのですか?」しかし、次の瞬間女生徒の顔色が一瞬で変わる。「あ……も、申し訳ございませんでした! 私としたことが、ユリア様になんて口の聞き方を……! ユリア様の席は窓際の一番後ろの席になります」女性とは私の座っている席を指差す。……その身体は気の所為だろうか? 小刻みに震えていた。「え? ちょ、ちょっと待って。同じクラスメイトなんだからそんな言葉遣いなんか気にしないで」すると益々教室のざわめきが大きくなる。「信じられない……! あのユリア様が……!」「席を教えてって……。一体どういうつもりなのかしら?」「それより、ノリーンに話しかけたぞ。そっちの方が驚きだ……」あの……皆さん、全て丸聞こえなんですけども……。私は目の前のメガネの女生徒をじっと見つめた。そうか、彼女はノリーンと言う名前なのか。友達もいなさそうだし、何より大人しそうなのが良い。……彼女と友達になれないだろうか……?その時。キーンコーンカーンコーン……校舎内にチャイムの音が鳴り響く。「あ、授業が始まるみたいね。また後でね」ポンポンとノリーンと呼ばれた女生徒の肩を叩くと、自分の座席に着席した。そしてここから、ある問題が生じてしまったのだ。私としては親愛の意味を込めて彼女の肩を叩いたのだが、ノリーンは肩
last updateLast Updated : 2025-05-01
Read more

第15話 責任取れば?

「皆さん……いきなりですが、本日は転校生を紹介致します。さぁ、君。自己紹介しなさい」頭が禿げかかった男性教師に促され、ジョンは一歩前に進み出た。「皆さん、初めまして。ジョン・スミスです。どうぞよろしく」ジョンが挨拶すると、女生徒たちは全員ポ~ッとした顔で彼を見つめている。うん、うん。その気持ち……よく分る。何しろジョンは性格は最悪だが、外見だけは驚くべき程の美形の持ち主なのだから。私がジッと見つめていることに気付いたのか、ジョンがパチリとウィンクした。すると、途端に女生徒の間から黄色い歓声が沸き起こる。「キャッ! 見た見た? あの人……私にウィンクしたわ」「何言ってるのよ! 私にしたに決まっているでしょう!?」「ああ……何て素敵な方なのかしら……」一方、気に入らないのは男子学生達。彼らは皆つまらなそうな顔をしているか、もしくは敵意のある目でジョンを見ている。「き、君達……静かにして下さい……」一方、一番情けないのは禿げ教師の方だった。オロオロしながらも必死で女生徒達を静かにさせようと試みるも、誰一人言うことを聞かないのだから。そんな教室の様子を興味無さげに見渡しているジョン。全く……こんなに大騒ぎにさせたのだから責任を取ればいいのに……。退屈だった私は窓の外から見える景色を眺めていた。……それにしてもなんて美しい景色なんだろう。まさか学校の中に噴水があるなんて……。その時、突然教室がシンと静まり返った。え? な、何!?慌てて教壇の方を振り向くと、そこには呆然とした顔の教師の他に驚いた様子で私を見るクラス中の生徒達。い、一体何なの……? 何故皆私に注目しているの? わけが分からず、緊張しながら椅子に座っていると禿げ教師が言った。「え~……そ、それでは君の席は……アルフォンスさんの席の隣がいいと言うことなので……どうぞ席に行って下さい」「ありがとうございます」ジョンは笑みを浮かべると、教室中に女生徒達のうっとりした溜息が響き渡る。そしてジョンは私の方へ向かってツカツカと歩いて来る。嘘でしょう? 私の隣の席には……別の男子学生が座っているのに!?隣を見ると、気弱そうな青年がオドオドしながら近づいて来るジョンを見ている。やがてジョンは青年の前でピタリと止まった。「君、悪いけど……何所か空いている席に移動してくれないかな?」「は、は
last updateLast Updated : 2025-05-02
Read more

第16話 悪意の目

「ごめん。君達には悪いけど、俺は彼女に案内を頼むことにしたよ。それじゃ早速行こうかい? ユリア」「え? 私!?」何故かジョンは私に声をかけてきた。そ、そんな……。折角この居心地の悪い空間から解放されると思っていたのに……。「い、いえ。あの、私は……」するとジョンが言った。「つれないなぁ……俺達、今朝一緒に学校へ馬車で来た仲じゃないか?」「ヒッ!」明らかに好意を寄せる女生徒達の前でジョンはとんでもないことを言ってきた。「まぁ! ユリア様と一緒にですか!?」「一体それはどういうことですの?」「教えて下さいませ!」「大体ユリア様は王子様の婚約者ではありませんか?」「それなのに別の殿方と同じ馬車に乗るなんて……!」彼女達は私の方をチラチラと見ながらジョンに詰め寄っている。その様子に私はある違和感を抱き始めていた。確か私は公爵令嬢で、この学園に通う王子様の次に爵位が高いはず。普通、こういう場合……爵位が私より低い彼女たちは私のことを時折睨みながらこんな台詞を言えるのだろうか……?すると、ジョンもそのことに気付いたのだろう。「ねぇ、君達……」「はい、何でしょうか? スミス様!」リーダと思われる金髪の長い髪の女生徒が頬を赤らめて返事をする。「君達の爵位は何だい?」いきなりその女生徒を指さした。「え? あ、あの、私は……」恐らく今まで人に指など差されたことは無いのだろう。焦りの表情を浮かべながら彼女はジョンを見つめている。「どうしたんだい? 俺は君に尋ねているんだけど?」「あ……わ、私は……侯爵家の一人娘の……マリーベルですわ……」マリーベルは名前を聞かれてもいないのに、ちゃっかり自分の名前を言いつつ爵位を告げる。「ふ~ん……君は侯爵家か……? それじゃそこの君は?」続けてジョンはマリーベルの隣に立つ女生徒を指さした。「あ、あの私は……伯爵家です。名前は……」しかし、ジョンは待たずに次の女生徒を指さす。「今度は君だ」「伯爵家です……」そして残りの2人も伯爵家の女生徒だった。「ふ~ん……」ジョンは冷たい目で腕組みしながら彼女たちを一瞥した。「つまり君達は、全員ユリアより爵位が下だってことだね? それなのに、仮にも公爵家のユリアを睨み付けたり、貶めるようなことを言える立場なのかな? あ、それともこの学園の中では爵位
last updateLast Updated : 2025-05-03
Read more

第17話 事前に教えて

「ねぇ、ジョン! 良かったの? あんな真似をして」ジョンに追いつき、並んで歩きながら尋ねた。「あんな真似って?」ジョンは私の方を見向きもしない。「だから、折角親切心で話しかけてきた彼女たちをあんな邪険にして良かったの? 転校初日だって言うのに居心地悪くなるんじゃないの?」するとジョンはピタリと足を止めて、私の事を穴でも開くのじゃないかと思うほどにじ〜っと見つめてきた。「な、何よ……」「はぁ〜……!」ジョンは大袈裟な位に大きなため息をつくと、いきなり私の左腕を掴んでスタスタと廊下を早足で歩き始める。「ちょ、ちょっと! な、何よ……!」「人のいない所へ行くんだよ」「ひ、人のいないところって……」しかしジョンは私の質問に答えず、ずんずんあるき続け……気付けば静かな庭へやって来ていた。「全く……」ジョンは庭に設置してあるベンチにドサリと座ると、私を見上げた。「ユリアお嬢様、もしかして肝心なことを忘れていませんか?」ジョンの口調は元に戻っている。「肝心なこと……? 何?」私も隣に腰掛ける。「いいですか? 私は何の為にこの学園へ入学してきたと思っていますか?」「そんなの忘れるはずないじゃない、私の護衛をする為にでしょう? 私が命を狙われていることがはっきり分かったから学園でも守れるように入学してきたのよね?」「ええその通りです。転校初日に居心地悪くなっていいのかと尋ねてきたので、てっきり私が何の為にこの学園に入学してきたのかお忘れになったのかと思ってしまいましたよ」「失礼ね。いくら記憶を無くしているからと言って、何でもかんでも忘れたりしていないから」「だったらいいのですけどね……とりあえず、私はクラスの誰とも仲良くする気はありません。大体同じ年齢ならまだしも、私は仮にも26歳なのですよ? 出来れば極力誰とも関わりたくありませんからね」「はぁ〜やっぱり貴方って友達いないでしょう?」「そういうユリアお嬢様だって随分皆さんから嫌われていますよね?」「うん、そうなのよね……でもおかしいのよ。私……以前は友達がいた気がするんだけど……」自分でも不思議な感覚なのだが、何故か教室に足を踏み入れた途端、一瞬そんな感覚に襲われたのだ。「ユリアお嬢様はとうとう記憶喪失だけでなく、偽の記憶まで作り出してしまうようになったのですか?私が護衛につ
last updateLast Updated : 2025-05-04
Read more

第18話 公爵令嬢なのに

 ジョンと一緒に教室へ戻ると、今朝初めて教室へ入った時よりも冷たい視線を投げつけられた……気がした。原因は分っている。恐らくジョンに無理やり私に謝罪するよう命じられたマリーベルとその一味達の仕業だろう。その証拠にじっと意味深な目でこちらを睨み付けているからだ。一応私は公爵令嬢。それなのに何故クラスメイト達はこんな態度を私にとれるのだろうか……?俯きながら自分の席に着席したものの、非常に居心地の悪さを感じていた。隣に座るジョンだって私同様男子生徒達から妬みの目で見られているのに平然としている。……これが大人の余裕なのだろうか?「だけど……本来なら私だって……」思わずポツリと呟き、我に返った。その後、何を言おうとしていたのだろう?何を言おうとしていたのだろう? ほんのついさっきのことなのに頭に靄がかかっているようで、まるで思い出せないのが悩ましい。「はぁ~もう何なのよ……」小さくため息をついたときに、2時限目と3限目の授業を受け持つ女教師が教室に現れた。そして2時限通しで間に休憩時間が入ることも無く、『魔法学』という訳の分らない授業が開始された――**** 12時15分―キーンコーンカーンコーン…… チャイムの音と共に、ようやく2時限立て続けの授業、『魔法学』が終わりを告げた。この授業、魔法が一つも使えない私に取っては、もはや『悪夢の授業』と呼んでも過言では無かった。何しろ誰でも出来るとされている指先から炎を出す魔法すら使えなかったのだ。クラスメイト達が次々と合格を貰っていく中、私とノリーンだけが魔法を使うことが出来ずにいた。そして、そんな私達を見てクラスメイト達が嘲笑う様子を『魔法学』の女教師は冷淡な笑みを浮かべて黙認している。その有様に流石のジャンもこの状況に我慢が出来なくなったのだろう。とうとう禁断の手法……つまり自分のお得意の変身魔法? を使い、私の代理で試験を受けてくれた。そのお陰でいかさまだけど合格することが出来たのだったが……。「つ、疲れた~…」ようやく悪魔の授業から解放された私は机の上につっぷしていた。そんな私を隣の席で見ているジョン。「ユリア、昼休みなったから一緒に食事に行こう。その分だと、どうせ場所も分らないだろう?」「ええ。そうね……ところでジョンは学食の場所を知っているの?」「当然だろう? 俺は一カ月の間、
last updateLast Updated : 2025-05-05
Read more

第19話 一体何の真似?

「入口付近に立っているな。通行の邪魔だろう?」金色の髪の青年は私をジロリと睨みつけた。……確かに言われてみればそうかもしれない。「はい、どうも申し訳ございませんでした」素直に頭を下げた。「何!?」「え!?」すると青年と女性が意外そうな声を上げる。……どうしたのだろう? 自分の方から退けと言っておきながら、いざ私が頭を下げただけで驚いた顔をするなんて。首を傾げつつ邪魔にならない様に彼等から離れた場所に移動した。そして先程の青年の方を見ると、唖然とした顔でこちらを見ている。全く何なのだろう? あのグループはどう見ても私に敵意を持っているようなのでなるべく関わりたくは無かった。そこでわざと視線をそらせてジョンの姿を探していると、何故か彼等がこちらに向かって近づいてくる。そして私の真正面に立つと金の髪の青年が意地悪そうな笑みを浮かべた。「おい、ユリア。何故そんなところにつっ立っているのだ? こちらに構わず空いている席を探してさっさと座れば良いじゃないか? それともいつものように俺たちがテーブルに付くのをここで待つつもりだったのか?」「え?」あまりにも突拍子も無いことを言われ、私は正面からじっと青年の顔を見た。一体この人は何を言い出すのだろう?「あの……それは一体どういう意味でしょうか?」私は彼の言っている意味が分からずに恐る恐る尋ねた。すると金の髪の青年が腕組みをする。「とぼけるな。まさか俺たちが今迄何も気づいていないとでも思っていたのか? もしそうだとするとおめでたい女だ。いいか? 知っているんだぞ? お前がいつも俺たちをこの場所で隠れて待ち伏せしているのを。そして着席した頃を見計らって、さも偶然を装って近づいてきては図々しく同じ席に座ってきているではないか」「え……?」その言葉に耳を疑った。まさか記憶を失う前の私は1人で食事をするのが嫌で、恥ずかしげもなくそんな厚かましい真似をしていたのだろうか? むしろ今の私にとっては、招かれざる場所に顔を出すくらいなら、1人で食事をしたほうが10倍マシだ。過去の自分がとても恥ずかしくなり、私は素直な気持ちで謝った。「それは大変申し訳ございませんでした。もう二度とその様な恥ずかしい真似は致しませんし、あなた方には極力近づかないと約束しますのでどうぞお許し下さい」私はこの学園で嫌われている。低姿勢
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

第20話 恨むわよ?

「ああ、何だ。そういうことだったのか……確かにあの場所は通行の邪魔になったかもしれないね。どうもユリアがご迷惑を掛けてしまったようですみませんでした」ジョンが素早く私に目配せしたので、私も彼にならって頭を下げた。「申し訳ございませんでした」顔を上げたジョンは私の肩をグイッと抱き寄せた。「ユリア、良い席が取れているんだよ。一緒に行こう」「ええ、そうね」呆気にとられている彼等に背を向け、歩きかけた時……。「ちょっと待て!」背後から鋭い声を投げかけられた。すると再びジョンが私の耳元で囁く。「ユリアお嬢様は何も話さないで下さい」「え? ええ……」一体ジョンは何をするつもりなのだろう? けれど私はあの人達のことをまるきり知らないので、ここは全てジョンに委ねることにした。「はい、何でしょうか?」ジョンは私の肩から手を離すと、振り向いて返事をした。「お前……一体何者だ?」金の髪の青年は何故か敵意をむき出しにした目でジョンを睨みつけている。「俺ですか? 今日からこの学園に転校して来たジョン・スミスと言います」明らかに偽名と思われる名前を堂々と名乗るジョン・スミス。しかし、そんな名前を疑いもせずに金色の髪の青年は私を指さしながら厳しい声でジョンに尋ねた。「何故、その女にかまう?」「かまうも何も俺とユリアは同じクラスメイトになったので、2人で一緒にお昼ごはんを食べにこの学食へ来ただけですけど?」すると金の髪の青年は腕を組むとニヤリと笑った。「そうか……君は転校生だからその女のことを何もしらないのだろう? いいだろう、教えてやろう。その女はなぁ……」この人は私のことを知っている……。一体何を話すのだろうか? 緊張しつつ、次の言葉を待つ。すると——「いいえ、結構です。別に知りたくありませんから」ジョンが即答した。「何!?」「え?」私と金の髪の青年が同時に声を上げる。「な、何故だ? お前はその女がどんな人間か知りたくないのか!?」青年はジョンに訴えかけるように語る。はい! 私も勿論そうです。自分のことが知りたいのに……何故、何故止めるの? ジョン!私はじっとジョンを見つめ、目で訴えた。私の護衛なら気持ちが伝わるでしょう? 私は自分が何者なのか知りたいのよ!それなのに……。「おい、ユリア。お前……何故そんなすがるような目で
last updateLast Updated : 2025-05-07
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status