「私はただの弁護士です。氷川さんとは、友人ですらありません。彼女がどこへ行ったかなど、私に知らせるはずがないでしょう」弁護士は、静かに、しかしはっきりと告げた。だが、陵は、受け入れられなかった。「違う。君は知っているはずだ!いくら欲しい?金ならいくらでも払う!」焦燥と恐怖に突き動かされ、彼はポケットから小切手帳を取り出した。次々と金額を書き込み、引きちぎり、弁護士に突きつける。「100万か?1000万か?1億か?!いくらでもやる!だから、叶音がどこにいるか教えてくれ!」叫びにも似た声。だが、弁護士は冷静だった。「高瀬さん、私は本当に知りません。たとえ知っていたとしても、お伝えすることはできません。それが、弁護士としてのモラルです」「モラルだと?金があれば、そんなもの——!」怒鳴りかけた彼を、弁護士は一瞥しただけで制した。「申し訳ありません。本当に、私は知りません」そして、冷たく突きつけるように言った。「高瀬さん、氷川さんの気持ちは、もうおわかりのはずです。彼女は本気で離婚を決意した。そうと決めた以上、あなたに居場所を知られるようなことは、絶対にしません。だから……私にも、彼女がどこにいるのかは教えてくれるわけがないじゃないですか?」陵は、崩れるようにソファに沈み込んだ。魂が抜けたように。「……わかった。上野先生、帰っていいよ」「承知しました。できれば早めにサインをお願いします。では、失礼します」弁護士は一礼し、静かに去っていった。ドアが閉まった直後、陵の携帯が鳴った。飛び起きるように電話を取る。——叶音か!?震える手で応答ボタンを押した。「叶音か!?」しかし、耳に飛び込んできたのは、知らない声だった。「高瀬さんですか?早見小夜さんのマネージャーです。彼女が事故に遭って、病院に搬送されました。どうしても高瀬さんに会いたいと言っていて……」「事故……?」陵は眉をひそめた。だが、今の彼には——小夜のことなど、どうでもよかった。「……重症なのか?」「ええ、まあ……」一瞬のためらいのあと、相手は続けた。「かなり深刻です。彼女は芸能人ですから、もし傷跡が残れば……しかも、ずっと昏睡状態で、あなたの名前を呼び続けていて……お願
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