◻︎逃亡③ 逃げても逃げても君は追いかけてくる。どうやって、まいてもすんなりとあたしの姿を捉える貴方は探偵みたい。少しの情報だけで、あたしを簡単に見つける事が出来る。有能な探偵。あたしは逃げまどいながら、表面では、あら見つかってしまったのね、なんて微笑みながら余裕の態度を見せつけ、威嚇する。そうやって威嚇する事で、相手の内面と性格、そして人間関係の作り方、長所と短所、全てを把握する為に挑発するの。それにのっかかってくれば『ボロ』が出るのが人間。そうやって色々な情報を集めながら、あたしは繋がりを把握していく。 貴方は『本当』のあたしを見つける事は出来ないよ。心の中の言葉と口の言葉では若干違うのが現実。それでも、心の呟きと頭脳の呟きを混ぜながら、曖昧な自分を自らが作り上げ、自分と言うブランドを確立していく。 『琥珀が何を考えているのか分からない』 弥生は時々あたしに本心を漏らしてしまう。それは弱さに繋がり、あたしの心を支えれるのか微妙なラインなのにね。反対に言えば心を開いてくれてる。そして違う目線で言えば10年以上の付き合いなのに、それだけしか心を開けないと言う事にもなる。 まぁ、あたしが弥生を責めれる立場ではないんだけどね。弥生は優しい、あたしの心の奥底に獣が住み着いてて、破壊を望みながら『ある計画』を進めようとしているのにもきっと気づいている。止められない、止まらない、止めようがない。無力な自分を責めている弥生の姿が浮かんでくる。 10年以上の付き合いがあるのに、本当の自分を出せれてないのはあたしの方。抱え込むだけ抱え込んで、そして蒸発する。空気に混ざりながら、溶けてなくなるように、姿を消すの。 怖いんだと思うよ。旅人のあたしが急に昔みたいに『いなくなる』んじゃないか、ってさ。 ――大丈夫だよ。 心の中ではそう呟くけど、言葉では違う。また違う言葉を作り出しながら、闇の闇。心の獣のいる場所まで堕ちて、染まろうとする。 意識がふわりとして心地いい。この空間はあたしとそして獣だけももの。他の誰も入り込めない空間なのだから。
Huling Na-update : 2025-06-17 Magbasa pa