48話 彼が伝えたい事 まるでシキタリは自分の兄のようだった。見た目も何処か伊月と似ている。雰囲気はどちらかと言うと近いのが夏樹なのかもしれない。感覚的に、本当に実の兄なんじゃないかと思ってしまうくらいだった。彼の瞳は青がかっている。見ていると吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗な瞳だった。「……そうですか。パートナーの方が彼に化けてここにいた、と」 無意識に自分の内情をペラペラと喋ってしまった伊月は、後の事を考えずに口走っているように見えた。その姿を見ていると、まだ若さが見え隠れしている。何が起こっているのかを把握する事で、見えない不安から逃れようとしているのが明白だった。例え、知っている人でも、決められた婚約は、彼には重たいのかもしれない、と心の中で感じている。何を言えばいいのかは出てこないが、シキタリは今の自分に出来る事は、伊月の話を聞く事だと納得していく。伊月がシキタリの存在を無意識の中で兄と認識しようとしている事にも、気づいている彼は、実の弟の心の不安を取り除く事に集中する事にしたようだった。「私には状況を変える事は出来ません、しかし話を聞く事は出来ますよ」「……でも親父に報告するんでしょ」 自分の素直な気持ちを言葉に変えたシキタリは、親父のことを持ち出してきた伊月の様子を見て、首を横に振る。それで彼が信用してくれるかは彼次第。実際に何かあった時には報告をするように命じられているが、それ以外には規定はなかった。何処かに吐き出してしまいたい伊月は数分考えると、決心出来たようにシキタリの目をまっすぐ見つめながら、信じてみる事にする。 伊月はベッドの上に座ると、その光景を見守るように側に近寄っていく。決して気を抜く事のない表情で、その場で立っているシキタリがいた。 昔の自分の環境の事、学園時代の薫との関係、そしてここまで至った経緯を全て話していく。薫が側にいても、知ってしまえば巻き込まれると考えていた伊月には言えなかった。それでもその世界に沈んでいるシキタリには、隠さず全て言う事が出来ている。「……スッキリしましたか?」「ありがとう。僕の話ばかりですまない」「いいんで
Terakhir Diperbarui : 2025-07-12 Baca selengkapnya