All Chapters of ゆるきゃん〜俺がハマったのは可愛い幼なじみでした: Chapter 21 - Chapter 30

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8話 忠告と憎しみ

8話 忠告と憎しみ 和田との1日が終わろうとしている。短時間で終わらすつもりが、和田が離れようとしなくて、この時間まで一緒にいる事になってしまった。告白されて悪い気はしないが、引き下がる気のない和田に対して、ため息が出そうになる。 「こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。凄く嬉しかった」 最初は敬語で話していた和田も、徐々に慣れてきたのだろう。いつの間にか敬語がなくなってきている気がする。フランクに話すように努めているが、もしかして変な期待をさせてしまったのだろうか。 「もうこんな時間だし、明日仕事だから、そろそろ帰ろう」 仕事を理由に切り上げようとしている薫の様子を観察しながら、何やら企みを感じる表情へと変化していく。和田は顔に出るタイプのようで、隠すのが苦手みたいだった。嫌な予感のした薫は、逃げようとする。 「先輩、そんなに僕といるの、そんなに嫌なんですか?」 キュルリンとどこからか効果音が聞こえてくるような背景を見せられ、固まってしまう。本人はわざとあざとく見せているようで、体制のない薫はどうしたらいいのか分からずに、硬直するしかなかった。 その表情をされると、どうも断りづらい。ある意味、天性の才能だ。 「あざとくするな。そんな顔されても、無理だから」 勇気を出して、本心を伝える。泣かしてしまうかもしれあいが、こんな事を何回も繰り返されては困る。その表情に弱いのは認めるしかない。それでも、時間は永遠にある訳ではないのだから── ◻︎◻︎◻︎◻︎ ドット疲れが出た薫は、やっと落ち着けた現実を噛み締めながら、肩の荷を下ろすと、缶コーヒーをゆっくり味わっていく。和田から逃げるように、切り上げてきたが、無理矢理だったので、明日から職場に行くのが憂鬱だ。 「今日、行けなかったなぁ」
last updateLast Updated : 2025-06-12
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9話 噂話

9話 噂話 書類整理をしているのに、身が入らない。妙に現実帯びていた、あの夢が原因なのかもしれない。 「はぁ……」 伊月との久しぶりのキス。まだ唇に感触が残っている。目が覚めた時も、コロンの匂いが充満していたし、妙な事ばかりだった。自分も持っているコロンから匂いが漏れたのだと、自分に言い聞かせると、両手で顔をパンと挟んだ。 「仕事しなきゃな」 気合いを入れると、現実逃避をする為に、心の奥底に封印していく。自分の願望が形になったのだろうと、無理矢理納得させ、仕事へと向かい合う。 「失礼しまぁーす」 そうはいかないと邪魔をするように、可愛い声が耳を掠めた。一瞬、心臓が飛び跳ねると、動機のようになっていく。振り向きたいが今は振り向きたくない。もやつく心情を隠しながら、冷静さを保とうとする。 「おー、和田。どうしたの?」 「頼まれていた資料を持ってきました。それと狭間先輩いますか?」 「ありがとうな。いるぞ、呼ぼうか?」 「お願いします」 聞こえたくないやりとりが聞こえた。知らないふりをしたかった薫だが、和田はそうはさせてくれないようだ。スタスタと近づいてくる足音に頭を抱えながら、表情を曇らしていく。 「先輩、昨日はありがとうございました。凄く楽しかったです」 後ろからハイテンションな和田の声が聞こえると、振り向くしかなかった。自分に向けられているのに、シカトなんてしたら、職場の印象が下がりかねない。これがプライベートなら、まだやりようはあるのに、と心の中で思いながら、笑顔を作り、振り向く。 「いえいえ、こちらこそありがとう」 どんな言葉がいいのか考えたが、一番、無難な選択をする。その言葉は社交辞令そのもので、本心からそう思っている訳ではなかった。その事に和田も気づいているようだ。 和田の視線が首筋に注がれると、満足したように微笑んだ。そんな和田の様子に気づく事のない薫は、クビを傾げると、早めに会話を終わらせ、自分のする事に集中し始めた。 怪しい雰囲気に包まれながら、その場を去る和田は、そそくさとトイレに入り込むと、満足そうな表情をしている。 自分の思惑通りに事が進んでいる事に喜びを隠せない様子。ふと伊月としての表情が出そうになるが、気を引き締めながら、マスクで隠されている事を再確認すると、心を踊ら
last updateLast Updated : 2025-06-13
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10話 裏切りと繋がり

10話 裏切りと繋がり 確認する必要があると考えていた天田は自分の仕事が終わると、すぐさま薫の元へと駆けつけた。今日は何も考えたくないと、思考を停止させながら、新しい企画の資料を作成していた薫は、自分の事が噂になっている事実を全く、知らない。 「お疲れ、まだ仕事してんのか?」 仕事に追われていた天田が薫の元へと足を運ぶのは久しぶりの事だった。スナックを紹介されてから、最初の方は様子を見る為に、一緒に行っていたが、環境に慣れた薫を見て、これなら大丈夫だろうとついていくのをやめていた。 薫に合わせて仕事を分配していたから、いつの間にか自分の抱える仕事が増えていたのも原因だった。 「お疲れ様です、先輩」 「最近付き合えなくて、悪いな。最近はどうよ?」 噂が真実か嘘かを確認するように、問いかけると、いつもよりも必死な天田の様子を不思議に思いながらも、いつもと変わらない趣旨を説明する。 二人が向き合った時に、天田の視線が首筋へと移る。じっと観察するように、食い入る視線は、心地悪い。何を見ているのかと思いながら、問いただすと、呆気に取られながらも、指差していく。 「首元確認しろ。そういうのは気をつけろよ……」 「えっ? 何の事ですか?」 こいつは、と鈍すぎる薫に呆れながら持っていた手鏡を渡す。何を言いたいのか理解出来ない薫は、天田の言う通りに確認してみると、虫刺されのようなものがついている事に気づいた。 「虫に噛まれたのかな」 ポツリと呟いた言葉を天田は簡単には逃さない。どう見てもうっ血している。虫刺されでこんなふうには、ならないだろう。誰かに強く吸われなうと、ここまでにはならない。 「どう見ても、キスマークだろ。俺はショックだよ……伊月一筋だった、お前が」 以前まで、伊月の事を忘れて、次の恋愛をした方がいいとか言って
last updateLast Updated : 2025-06-14
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11話 仕組まれた罠

11話 仕組まれた罠 天田は急ぎの用事があるからと、店を出て行った。置き去りになった薫は、久しぶりに天田と話せると楽しみにしていたが、その目論見も崩れてしまった。 「あまちゃん、忙しそうだね」 「そうだな、色々話したかったんだけど、仕方ないよ」 相談出来る相手の中に天田も含まれていた事を、すっかり忘れていた薫は、二人に色々と意見を聞こうとしていた。ノビラだけに聞くのもいいが、視野を広げて物事を見る為に、複数の意見が欲しかった。 「悩んでいるなら、俺が聞くよ。天田には後日、意見を聞いてみればいいし」 「そうだな。じゃあ頼むよ」 昨日の経緯を話すと、真剣に話を聞いてくれる。所々、表情が固まっているように見えるのは、何故だろうか。和田の事は勿論、夢か現実か分からない伊月との話も会話に混ぜていく。二人の名前はノビラに言うつもりはない。そこはうまく隠せれていると思う。 「そうだなぁ、話を聞くと、その後輩ちゃんは薫くんの事を諦めるつもりはないって事だね。拒否すればする程、燃えるタイプなのかもしれないね。後、もう一人の方は薫くんの欲望が具現化した感じかな。体は寝ているんだけど、頭は起きている状態で、混乱しているのかもしれない」 自分の欲望が具現化された。白昼夢のようなものだろうか。難しい事は分からない薫は、そういうイメージを持つ事にした。狐につままれたのかもしれないと笑い話に変えていくと、少しスッキリしたようだった。 「薫くんは溜め込みやすいタイプなんだと思う。そう言う時は、信用出来る人に話したらいいよ」 「ありがとう。次からそうするよ」 純粋に嬉しかった。普通なら、何を言っているんだと真剣に受け取ってくれない事が殆どだろう。そんなはっきりしない話も、聞いてくれるノビラの評価は断然上がっていく。出してくれたウィスキーを嗜みながら、満足のある空間に酔いしれていく。楽しくて、この時がずっと続けばいいのに。
last updateLast Updated : 2025-06-15
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12話 オークファン

12話 オークファン 長い間、寝ていた薫は何かに呼ばれたように目を覚ます。自分が何故、寝ているのか、その前の記憶が抜けていた。思い出そうとするが、ズキンと頭に脈打つ。 数分ボッとしていると、やっと眠気が和らいだ。目を擦ると、辺りを確認してみる。見た事のない部屋にいる事を知った薫は、自分に何が起こっているのか、理解出来ない。 「ここは……」 黒い部屋の中は、簡易的なものしか置かれていない。長い間眠っていたような、古いベッドを中心に、イスとランプくらいしか見当たらなかった。窓は全開にされているが、小窓な為、体が入るスペースはない。真っ黒な闇から溢れる三日月の明かりがベッドに向けられて、注がれている。薫が感じた明かりは、月明かりだったようだ。 「起きたんだね。まだ時間あるから、ゆっくりしてていいのに」 薫の背後から声が聞こえてくる。慌てて振り返ると、ドアを開け、様子を見ていた仮面の男がいた。服装はまるでドラキュラ伯爵のような装いと、不気味な獣の仮面が、違う世界に入り込んでしまったのでは、と思い込みそうになる。 「声だけじゃ分からない? じゃあ、これはどうかな」 ゆっくりと仮面をのけていくと、そこにはノビラの姿が見えた。薫の知っているノビラとは雰囲気が違う事に気づいた、彼はごくりと唾を飲み込むと、緊張を逃がそうとしていく。服装は勿論、同じ顔なのに、別人のように目つきの違う彼の姿を、初めて見た魔物のように、見ている自分がいる。 「来てくれてありがとう。君は俺のコレクションの一つ。客達は君に高値をつけるだろうね。俺はこの時をずっと待っていたんだ」 ノビラの言っている事が何を指し示すのか、分からない薫は、声を出そうとしたが、何故だか発する事が出来ない。ヒューと息の音だけが、虚しく響くと、笑い出した。 「ははは。無駄だよ、君には新薬を試している。声は半日出ないよ。そして、今見ている現実も、本物とは限らないかもしれないね」 パクパクと金魚のように、口を動かす事しか出来ない。喉を抑えようと右手を動かそうとすると、ジャラと何かが巻き付いた音が聞こえた。 まるで蛇のように、巻き付いてくるのは鎖だった。いつの間にか自由を奪われていた薫の頭は簡単についていけない。 「さぁ、ショーの始まりだ」 ノビラの声を中心に部屋がぐるりと回っていく
last updateLast Updated : 2025-06-16
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13話 跳ね上がる金額

13話 跳ね上がる金額 金額が吊り上がっていく。民衆が刺激を求め、この会場へと足を運んでいる。オークファンは一部の人間にしか知られていない、闇市場の拠点でもある。莫大な金を自分達のものにする為に、開かれていた。一度、入ると抜け出す事が出来ない中毒性もあった。この空間に充満しているお香の匂いが原因だろう。伊月は仮面を被っているので、通常よりも匂いを感じにくくなっている。それでも、これを吸収する可能性がある為、マスクを着用していた。側から見たら浮いているかもしれない。 ──だからこそ、納得させられる風貌でもある。 「今日はいつもより騒がしいな」 「ああ。上玉が入ったからね」 伊月はゼロから情報をもらうと、建物の地図を手に入れた。迷路をイメージしている作りになっていて、付人がいないと辿りつかないように設計されているようだ。商品は、その建物に隣接するように、からくりを用いた設計になっているらしい。まるでダンジョンのような世界に驚きながらも、歩みは止めない。 「俺が手招き出来るのは、ここまでだ。後は地図に記載されている通りに行けば、会えると思うよ」 「会える?」 不気味な笑顔を振りまきながら、風に急かされるように去っていくゼロ。何かを言いたいようにも聞こえたが、考える暇より、前に進む時間のほうが大事だと結論づけた。 「何に会えるのか、楽しみにしておくよ」 伊月は知らない。この先の会場に薫が居る事を。全てを知っているゼロは、あえて語らず、余韻をヒントに変えていたんだ。 時は戻って、現在に至る。薫が攫われていた事を知った伊月の怒りはマックスに跳ね上がっていく。ノビラが彼に目をつけていた事を把握はしていたが、まさかこんなに早く行動を起こすとは思いもしなかった。 なるべく監視出来るように、動いていたのに、目を離した所で、こんな仕打ちをされる事になるとは考えもしなかったのだろう。 たまらず声をかけてしまった。周囲の声にかき消されて、敵に気づかれる事はなかったが、どうしても納得出来ない。 「僕の薫に手を出すとは……ふざけんな」 周りに人がいようが関係ない。自分の大切な宝物が奪われるなんて、そんな現実をこの手で壊してやる、と誓う伊月だった。 隣で笑っている富豪を脅すと、自分の代わりに札を上げさせ、最高金額の3億円と跳ね上げた。勿
last updateLast Updated : 2025-06-17
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14話 二つの戦い

14話 二つの戦い 本来ならこの場を荒らして、全てをなかった事にするのが一番なのかもしれない。それでもここに忍び込んでいるのは伊月以外はいないのが現状。一人で飛び出すのはリスクがある。囚われている薫を危険に晒すわけにはいかなかったんだろう。 「このまま終わってくれよ」 期待を 持ちながら、刻々と時間が過ぎるのを待っていると、一人の人物が札をあげ、金額を吊り上げていく。 「おおっと3億5千万。これは今日最大の高値です」 司会はテンションが上がっているのを見せつけるように、大きく叫んだ。マイクからは急に出してしまった声を震わしながら、ノイズが溢れていく。このまま引き下がる訳にはいかない。躊躇ってしまうと、ここで僕を奪われる可能性が高まるからだった。 「よし、あげろ」 「え……でも」 「いいから、それとも僕の言う事が聞けない訳?」 機嫌が悪い伊月は、ロウの襟元を掴み、威嚇をする。ここで断ってしまえば、後がどうなるかを想像してみると、嫌な予感しかしない。自分の身の危険も感じているロウは、仕方なく受け入れる。 「これ以上は無理ですよ。出せても4ですかtらね」 「それで充分だ。時間稼ぎにはなる」 一度落札されてしまうと、表に戻る事は難しくなる。とりあえず自分達が主導権を握る事が重要だった。忍び込んだ味方はいないが、伊月とゼロが仕掛けていた爆弾と引き抜いていた裏切り者達がノビラを襲うだろう。 細かく刻みながら、金額が上がっていく。一気にあげる所まであげて、余計なライバルを振り落とす。そして二人の戦いに持ち込む事で、時間稼ぎをする為に、細かく指定していく。相手が吊り上げる可能性もあったが、思惑通りにこちらに合わして上げているようだった。 「相手も金額の上限があるんだろうな。こっちの様子を見てると言った所か……」 人間を攫って、裏で捌く。ありえないやり方に伊月は嫌悪感を抱いている。例え、裏は裏であっても、やり方や礼儀は必要と考えている彼からしたら、理解出来ない思考だ。 「おおっと?4億だ。これ以上はどうなるのでしょうか」 ロウが最後の札をあげた瞬間、全てのライトが消灯していく。参加者達は、真っ暗な闇に飲み込まれたことにより、パニックを引き起こしていた。 奴らがこちらの思い通りに動くかどうかは確証がない。それでもノ
last updateLast Updated : 2025-06-18
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15話 混ざり合う二つの新薬

15話 混ざり合う二つの新薬 誰も気づかない所で独断で動いているゼロは、ある研究者に提案をしていた。ノビラは自分の気に入った人間をコレクションにしたいだけ、そして省かれた存在は新薬の実験体へとなってしまう。その中でも葉月は違った。一研究員だが、ノビラに対して憎しみを抱く存在だった。葉月に目をつけたゼロは、自分の計画に彼女を引き込み、ある二つの新薬を手に入れる事が出来た。 「助けがいないなら、自分で壊せばいい」 誰かが全体に響くように放送を使っている。誰に向けられている言葉なのか理解出来ない逃げまどう人々は、揉めながら会場から抜け出そうとしていた。 ゼロが放送室を使うとは思っていなかった伊月は、イライラしながら舌打ちをする。自分からこの状況を作ったと証言するようなものだからだ。ゼロの性格上、目立つ行動はしなかったはずだ。それなのに、何故、今回に限って大胆に動いたのだろうか。 「裏切った……のか?」 元々はノビラの事で手を結んだだけ。深読みすれば、自分を嵌める為に、提案に乗ったのかと疑う心が表面化していく。信頼関係なんてないはずなのに、いつから期待してしまうようになったのじゃ、と伊月は自分の心の変化に戸惑ってしまう。 薫の存在が自分を変えてしまった事に、なんとなく気づいていたが、ここまで影響されているとは思わなかった。 ◻︎◻︎◻︎◻︎ 体に違和感を感じた薫は、次第に息を荒げていく。内側から何かが蠢いているような感覚が全身に広がっていく。これも新薬も影響なのだろうか。ノビラが言うには声が半日出せないと説明していたが、明らかにそれだけではない。自分の体から、底知れない力が湧いていく。その様子を放送席から見ているゼロは、また言葉を伝えていく。 「君は力を出せるよ、潜在能力が君を助けてくれる」 キィィィンとマイクのノイズが薫の耳へと届いた。言葉に操られるように、壁を殴ると、頑丈だったはずの壁が、牢屋が全て粉々に崩れていった。 「なんだ……コレ」 掠れてしか出せなかった声も、普通に出るようになっている。自分の中で確実に何か異変が起きている事に驚きを隠せない。ノビラが与えた新薬は肉体の弱化と声を半日出せないものになる。しかしゼロは葉月を自分の計画に引き込んだ事により、その新薬を無効化し、潜在能力と腕力を底上げする別の新薬を開発し
last updateLast Updated : 2025-06-19
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16話 覚悟と安心

16話 覚悟と安心 「早く行かなきゃ」 伊月は薫の元へと走っている。急激な力を手にした薫の様子を心配したのと、変な胸騒ぎがしたからだった。 ロウを放置プレーすると、感情のまま突き進んでいく。この姿で、何を話したらいいのか、どこまで説明すればいいのか、そんな事はどうでもよくなっていた。ただ、薫が無事ならよかった。 「はぁはぁ」 人々は自分が助かる為に、散っていく。流れに逆らいながら進む伊月は、まるで過去を遡っているような錯覚を感じた。 「薫、無事か?」 舞台の上で紹介されていた薫は、自力で鎖を断ち切り、人間とは思えないような技で、オークファン会場を破壊していく。中心で好き放題、暴れている薫に突っ込むと、大声で自分の存在を示していく。 「僕だよ、伊月だよ。もう大丈夫だから」 「いつ……き?」 「そうだよ、迎えに来たよ」 他の言葉なんて思いつかない。作った言葉は薫には届かなかっただろう。ただただ心のままに言葉を創造して言った。それで薫が、自分を取り戻せるのかは分からない。それでも、自分の出来る事はなんでもしたい。 暴走していた薫は伊月の姿を捉えると、安心したように、いつもの薫へと戻っていく。新薬は完璧ではない。その弱い部分と薫の精神面が戦いながら、自我を取り戻していった。 長い夢を見ていたような気がして、目の前に現れた伊月の姿が本物なのかを確認しないと、心臓の音が安定しない。現実を思い出す為に、弄るように抱きしめた。 「いつ……き、伊月」 今までの我慢が爆発しそうな薫を、優しく包み込むと、安心したのかスッと意識を手放した。あれから七年の月日が経っている。伊月もあの時よりも体格がしっかりしている。抱き上げられるのか、不安に感じたが、自分お力を信じて、薫を抱き抱えた。 「戻ろう、僕達の日常に」
last updateLast Updated : 2025-06-20
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17話 副作用の正体

17話 副作用の正体 体が凄く重たい。まるで自分の体じゃないように、固まって動く事が出来なかった。そんな薫を誰かが見下ろしている、もしかして攫った奴らかもしれない。 視界が歪んで、ぐるぐる回っている。目眩のようで違う、違和感を感じながら、息だけが上がっていく。 「薫、大丈夫?」 遠くで聞こえたのは、懐かしい声だった。薫はその声の主を知っている。何度も、何度も求めては離れていく伊月の香りを感じながら、涙が溢れた。手に触れた感触が広がると、自分でも聞いたことのない甘い声が出てしまう。 「薫?」 その声がたまらない。欲情を抑えながらも、自分との戦いを受ける薫は、額にじっとりと汗を滲ませると、ゴクリと唾を飲み込んだ。何がきっかけで、こんな事になっているのか理解出来ない、これ以上考えると、自分じゃなくなりそうな薫は、噛み付くように伊月の首元に歯を立てていく。 ずっと感じていたい。この夢を。現実では出来ない欲望をここでなら、存分にぶち撒ける事が出来る。そう、自分に言い聞かせながら、貪り始めた。 「ちょっ……薫」 優しい薫しか知らない。獣のように、伊月を欲望のまま、痛みつけている目の前の人は知らない人のように感じる。落ち着いたと思ったのに、時間差で副作用が発動してしまったようだ。 この状況になる数分前にゼロが入れていたメッセージを確認していた伊月は、どんな副作用が起こるのかと覚悟していたが、こういうふうになるなんて、どう収めたらいいのか分からない。 拒絶すれば、きっと薫は傷つくだろう。例え、新薬の影響だとしても、微かに残る記憶の中には刻まれるはずだ。だからこそ、これ以上傷つけないように、出来るだけ受け止めたいと心からそう思っていた。 こんな姿の薫を他の人に見られなくてよかったと心の中で呟きながら、欲望に埋もれた薫を抱きしめていく。何時間で元に戻るのか分からないが、それでも思う存分、痛みと欲望を受け入れ、自分もその中に沈んでいった。 「伊月、伊月、あああ」 「薫、僕がいる。大丈夫だよ」 噛み跡からぷっくりと血が滲んでいる。薫は吸血鬼のように、彼の血を舐めると、次は無な元へと唇を這わせていく。ぴくんと歯がゆい痛みと気持ちよさを感じながら、瞳を濡らした。 「っつ……そこ、ダメ」 「いい、凄くいい」 ズボン越しに擦り
last updateLast Updated : 2025-06-21
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