18話 曖昧な記憶 お互いの今までを離し終えると、薫の頭を撫でながら言った。 「よく頑張ったね、待っててくれてありがとう」 何度も諦めようと思っていた過去の自分を恥ずかしく思いながら、目の前にいる伊月の目を直視出来ない。恥ずかしさが広がっていく。そんな薫の手を重ねると、トクントクンと脈が伝わってくる気がした。この温もりをもう二度と離さないと誓いながら、二人の失った時間を取り戻していく。 「ある程度は、分かったけど……これからどうするつもりなんだ?」 ざっくばらんに説明していた伊月から詳しい話をもっと聞きたいと思ったが、どうやら薫に言えない事も多いらしい。何度か買わされると、空気を読んだ薫は、あえて触れずにいた。 「僕は伊月として動く事は出来ない。だから正体を隠したままで、生活を続ける気だよ」 「そうなのか。一緒にいれると思ったのに、残念」 昔のように、一緒にいる時間を取れないのは仕方のない事だ。それでも、出来る限りは一緒にいたい気持ちを否定するつもりはなかった。項垂れながら、しょんぼりしていると、子供を見るような目で見つめながら、苦笑いをする。 「僕はね、ずっと薫を見てきたんだ。君は気づいていないかも知れないけど、側にいたんだよ」 初めて聞く情報に、驚きながら聞き返すと、簡単に白状した。 「君の後輩の和田っているだろ。あれ僕だよ」 「え」 「それと君が熟睡している時に、何度も家に忍び込んだし、気づかないの凄いよ」 「は?」 口を大きく開けたまま、静止する薫を見て、吹き出す伊月。予想以上の反応に新鮮さを感じて、笑い転げている。ずっと心配していた薫の気持ちは、簡単に砕けると、時間を返せと言わんばかりに、彼の頬を抓った。 「なあにふんだよ」 思い切り抓
Huling Na-update : 2025-06-22 Magbasa pa