All Chapters of 愛されし者の囚われ: Chapter 21 - Chapter 25

プロデューサーは言った。「グレイスがヒロインに一番合ってると思う」しかし、監督は首を振って反論した。「いや、エミリーだ！絶対に彼女の方がいい！」二人は顔を真っ赤にして言い争い、もう少しで掴み合いになりそうな勢いだった。そして、同時に凛音の方を振り返る。「吉永さんはどう思う？君の意見を聞こう！」突然の大役に、凛音は少し戸惑った。思わず礼司の方を見ると、彼は彼女の頬を優しく支え、顔をまっすぐ前に向けさせて言った。「僕を見るなよ。君こそが全てのキャラクターを創造した神だ。君が決める、それが正しい」凛音は手に持っていた服をぎゅっと握りしめ、少し不安そうに言った。「もし、選んだ人の演技がよくなかったら、どうするの？」礼司は軽く笑って答える。「そしたら交代すればいい。そんなの、怖がることじゃないよ。僕は投資者の一人なんだ。誰かが文句を言って出資をやめたって、僕がカバーする。それだけのこと」彼は常に余裕たっぷりで、迷いや恐れなど微塵も感じさせない。凛音は彼を見ていると、自然と心が落ち着いてくるのを感じた。「じゃあ、もう少し後ろの候補も見てみたい。さっきの二人、ちょっとイメージと違う気がするの」まだ完全に自信があるわけじゃなかった。だから、彼女の声は柔らかく、どこか遠慮がちだった。強い断言なんて、まだ慣れていなかった。けれど、それから数週間後。キャスティングが本格的に進む中で、凛音はついに机を叩いて声を張り上げるようになっていた。「あなたたち、わかってない！この脚本は私が書いたのよ！このキャラは、美しいけど、見た目は清楚で無害そうなんだ。派手な美女じゃない！」礼司はいつも凛音に寄り添い、何でも受け入れてくれるが、キャスティングに関しては別だった。彼もまた頑固者だ。監督、プロデューサー、礼司、凛音この四人、毎回喉が枯れるほど言い合いをして、一つの役が決まると、また次の役で同じように……そして、凛音はまさかここで拓斗と再会するとは思わなかった。彼はすっかりやつれて、頬はこけ、目の下には深いクマができ、かつての華やかさは跡形もなかった。拓斗も凛音を見て驚いた。「凛音？どうしてここに？まさか、市村さんに連れてきてもらったのか？」その言葉の裏にあるのは今もなお、彼女を下に見ている態度だった。自力ではここまで来られるわ

秀太をはじめとする拓斗の親しい友人たちは、皆、芸能界に身を置く人間だった。これまでは拓斗の会社に頼り、何とか華やかな暮らしを保っていたが、今や彼自身が立ち行かなくなった。彼らの生活も、急速に傾いていた。そんな中、彼らはあらゆる手段を使って、凛音に会う機会を得た。かつて彼女を「田舎者」と罵り、冷笑を浴びせていた彼らが、今はまるで尻尾を振る犬のように、媚びへつらう。「吉永先生、以前お会いしたこと、覚えていらっしゃいますか？僕、先生の作品が本当に大好きで特にこの映画、最高でした！」「本当にそう！あんな脚本、書けるなんて先生はやっぱり天才です！」「若くしてこれだけの実力、将来はきっと映画界の女王に……」凛音は一度も顔を上げずに、冷たく言い放った。「彼らに招待状を送った覚えはないわ。誰が入れたの？」すぐに警備員が現れ、何度も頭を下げながら、彼らを静かに連れ出していった。この一件はすぐに業界内に広まり、以降、拓斗、芽衣、秀太らは、ほとんどすべての関連イベントから名指しで排除されることとなった。今の凛音に、彼らが直接会うことなど、もはや叶わぬ夢だった。そして迎えた凛音の三十歳の誕生日で、礼司が彼女をそっと誘い出し、二人きりで話をした。「凛音、僕と付き合ってくれないか？絶対に君を怒らせないし、何があっても君を一番に考える……君が食べたいものを食べて、子どもを産むかどうかも、全部君の自由。僕は君を愛してる。君と結婚したい。一生を君と過ごしたいんだ！」彼は黒のタキシードを着て、手にはピンクの百合の花束を抱えていた。普段は冷静で、どんな時も余裕を崩さない男の額には、うっすらと汗が滲んでいた。言葉も、どこかぎこちない。その姿を見て、凛音は胸がじんわりと熱くなった。すぐに「はい」と答えたくなるほど、彼が愛おしかった。でも、どうしても聞いてみたいことがあった。「ねえ、私のどこが好きなの？初めて会ったとき、私のこと、臆病で、泣き虫で、敏感って思わないか」普段なら、誰かが彼女を貶せば、礼司は容赦なく言い返してくれる。今は、彼女自身が自分をそう言った。それが我慢ならなかったのか、彼はきっぱりと否定した。「敏感なのは、人より深く物事を見つめられるから。だから、あんなにも細やかな脚本が書けるんだ」「臆病なんかじゃない。君はた