Semua Bab 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~: Bab 41 - Bab 50

51 Bab

41.フラヴィの見た夢

 部屋に二人きり。この事実がジゼルの胸を早鐘へと変える。 互いにしばらく黙って見つめあい、先にライナーが動いた。彼はジゼルの元へ歩み寄って片膝をつく。「お騒がせして申し訳ありませんでした、義姉様」「いいのよ、気にしないで。というか、謝るのは私の方なの。何しろたくさんの勘違いをしていたんだから」 ジゼルもライナーと向かい合う形で両膝をつく。 そうして『竜の子』に関する誤解を話すと、目を丸くして聞いていたライナーは最後に小さく吹き出した。「義姉様が僕のことをそんな風に思っていただなんて、ちっとも知りませんでした」「私も自分がこんなに馬鹿だとは思わなかったわ。あなたが最初に来た日に、お父様からきちんと説明をしていただくべきだったと後悔しているの」 ジゼルに事情を話そうとした父を、勝手な思い込みで遮ったのはジゼルだ。「だから、改めて事情を教えてくれる?」「もちろんです。でも、少し長くなりますから」 立ち上がったライナーが手を差し伸べてくれたので、ジゼルはその手を取る。 誘われた先は室内の長椅子だ。ジゼルがいつものように掛けると、ライナーは正面の椅子へまわろうとする。 しかしライナーはぴたりと足を止めたかと思うと、少し悩んでから長椅子の空いた部分、ジゼルの隣に座った。 今までライナーがジゼルの隣に座ったことなどない。彼の初めての行動にジゼルは息をのんだが、ジゼルが驚いているのだと知られたらライナーは長椅子から立ってしまうかもしれない。 そう考えなおしたジゼルは努めて何気ない表情を装うが、顔はきっと赤くなっているだろうし、なにより胸の音がとても大きい。いつもなら誤魔化せるだろうけど、今日はこんなに近いのだから、ライナーに動揺が悟られてしまうだろうか。「では。義姉様にはまず、僕たちの母フラヴィの見た夢の話を聞いていただきましょうか」 隣に座ったライナーの口調はいつも通りで気負った様子がない。自分の方が年上なのに、自分だけがおたおたしているのはなんだか恥ずかしいなとジゼルは思う。 しかし二度ばかり深呼吸をしたところでジゼルは気づいてしまった。正面を見つめるライナーの耳はほんのり赤く染まっている。どうやらライナーも平静を装っているだけのようだ。 それが分かって思わず笑い、おかげで緊張はほぐれた。体から力を抜いたジゼルは背もたれにゆったりと体を預
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-04
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42.小さな従弟たちの相談

 しかし、母フラヴィから話を聞いた子どもたちは全員が驚き、反発した。生まれる前から一緒だった三人にとって、誰か一人が遠くへ行くというのは絶対にありえないことだったのだ。「だから三人は花の国へ行く前に内緒の相談をしました」「内緒の相談? どんな?」「ええと……」 ライナーは少し気まずそうな表情になる。「……花の国の王女様に嫌われるための相談です。フラヴィが誰かを花の国へ行かせたくても、当の花の国の王女様が『従弟は嫌い。花の国に来てほしくない』と言えば、フラヴィも諦めるはずだと考えたんです」 一人目の子は「一切の愛想をなくそう」と決めた。 二人目の子は「ひたすら元気でいよう」と決めた。 いずれも花の国の王女に「|従弟《いとこ》は自分勝手で無礼だから大嫌い」と思わせるための作戦だった。 ライナーから話を聞き、ジゼルは当時のことを思い出す。 確かにライナーの言う通り、一日目の子はとても不愛想で、二日目の子はとても元気だった。「ですが僕は、どうしたらいいか分からなくなったんです」 成長した三人目の子は、あのときのことをそう振り返る。 二人の兄と離れたくないと思っている。だけどこのままでは、せっかく自分たちに会いに来てくれた花の国の王女に対して申し訳ないばかりだ。 どちらかしか選べないのは分かっているし、どちらを選ぶべきかも分かっているけれど、どうしたらいいか分からない。 悩んだが打開策は見いだせないまま面会時間がきてしまった。それで三人目の子は仕方なく、当初の予定通り大人しくしていようと決めた。花の国の王女が静かな従弟に呆れて帰ってしまうのを待とうと思ったのだ。 ――だが、その計画は花の国の王女と会った瞬間に崩れた。「とても美しい王女様は先の二日で嫌な思いをしたはずなのに、僕に優しく声をかけてくださったんです。なんて素敵な方だろうと思って……後はもう計画なんて頭から抜け落ちてしまいました。僕はこれが、今でも正解だったと思っています」 ジゼルの隣で語る青年は少年のような無邪気な瞳をしていた。あのときのことはジゼルにとっても楽しかった思い出として心に残っているので、同じ時間を共有できていたと知ってジゼルの胸はじんわりとあたたかくなる。 通じ合った気持ちのまま互いに微笑みあったあと、ライナーは少し眉尻を下げた。「代わりにシュテファンとブルー
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43.あのとき、もし

 ジゼルは首を横に振る。「いいえ。私には竜帝のお気持ちが分かる気がするわ。だって三人とも素敵な方だもの」「ありがとうございます。僕たち三人は、共に生まれた兄弟ですから」 口調は普段通りだというのにライナーの雰囲気は変わった。どんよりとした負の感情が彼の周りに見えるようだ。「でも、私にとってはライナーが一番よ。さっきも言ったけれど、他の二人の区別はつかなくてもあなただけは分かるの」 微笑むジゼルが言うと、漂う空気はたちまち晴れやかになった。「嬉しいです」 どことなく弾む口調で言ったライナーは、うっすらと頬を赤らめながら「ええと、それで」と呟く。「今回の竜帝の結婚はかなり変則的でした。本来ならすぐに分かるはずの“相手”の所在がなかなか分からず、最終的に帝国外から来ましたし、子は三人生まれる。しかも妃は『竜の子の誰かが帝国から出て行く』と言うのです。どれ一つとっても、長い帝国の歴史の中であり得なかったことでした」「……『竜の子』を帝国内から出さない、という選択肢はなかったの?」「ありました。ですから父上は、帝国へ戻った僕が何度『花の国へ行きたい』と言っても絶対に首を縦に振らなかったんです」 そんな竜帝でも、フラヴィが言い残した「ライナーが花の国へ行きたいと言うのなら、行かせてあげて」という頼みまでは断れなかった。フラヴィの予言を知っていたピエールから再三の要請が来たこともあり、十歳になったライナーはようやく花の国へ向けて出発する。 その際に竜帝は一つの条件を出した。「もしも花の国の王女がライナー以外の誰かと結婚したのならば、ライナーは即座に帝国へ戻らなくてはいけない」 というものだった。それは見えない鎖となって自身を縛ったとライナーは語る。「待って」 ジゼルは思わず声を上げた。「それは……ライナーがこの花の国へ残るためには、私は他の誰とも結婚してはいけなかったということ?」「はい」「ではもし、ライナーになりすましたあなたの二人の兄……シュテファンが先ほど『帝国へ帰る』と言ったとき、引き留めたくて私が結婚を申し出ていたら? それにライナーとして花の国へ残ったブルーノが求婚してきて、私がうなずいてしまったとしたら……?」 それだけではない。一番初めの出来事は六年前だ。もしもジゼルがあの第三王子と結婚していたらどうなっていたのか。 そ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-06
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44.菜の花の女性

 うつむくライナーは心からの悔いを述べているように見える。複雑な気持ちではあったが、別に王子に惹かれていたわけではないジゼルは「いいわ」と答えた。「私と王子は完全な政略結婚だもの。だからあちらも帝国を選んだのだし……それに王子だって今は幸せに暮らしているそうだから、これはこれで良かったのよ」「僕を軽蔑しますか」「しないわ。ライナーが意外に情熱的でびっくりしただけ。そこまでして花の国に残りたかったなんて、知らなかっ……」 言いかけるジゼルの語尾が小さくなった。目の前の黄金の瞳がふいに力を持ったためだ。 視線に縛られて動けなくなるジゼルの傍に、ライナーが少し体を寄せる。「僕は花が咲き誇るこの地が好きです。ここに住む、心のあたたかい人々も。でも、僕がこの国に残りたかった一番の理由は――」 懐に手を入れたライナーは何かを取り出し、ジゼルに差し出してみせた。それは先ほどまでシュテファンがしていた菜の花のピンだ。「僕の一番好きな人が、いるからです」 ライナーの手のひらの上で輝く菜の花にジゼルの目は釘付けになる。 彼が想いを寄せる女性は帝国にはいなかった。花の国に、いた。「ねえ、ライナー」 ジゼルの声はかすれる。それでもジゼルは今度こそ尋ねなくてはいけない。 どんな返事が戻るのか怖くて胸の中にしまったままだった言葉を、出さなくてはいけない。「ライナーの、好きな人……は、誰、なの」「お分かりになりませんか?」 ライナーがジゼルの手を取って菜の花のピンを乗せる。 ピンを見つめるうち、ジゼルの記憶はふっと過去に戻った。「すごい! 陽の光に照らされて花畑が金色になってますよ!」 黄色い花畑の中で少年が歓声を上げている。「この場所はまるでジゼル様みたいですね!」「私みたいなの?」「はい! だって、青い空と金色の花畑は、ジゼル様のお色と同じです! 青の瞳と、金色の髪!」 そう言って小さな従弟は嬉しそうに笑った――。 ああ、と嘆息するジゼルの視界が|滲《にじ》み始める。 揺らめく黄金のピンの後ろに、青い空が見える気がした。「菜の花は僕にとって、義姉様の象徴なんです」「ライナー……」「『竜の子はいずれ帝国へ戻ってくる』と考えていた竜帝の説得は想像以上に困難でした。でも僕は義姉様のお近くにいると約束しましたから、例え義姉様が他の誰かと結婚な
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-07
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45.いちばん近くに

 ジゼルは囁くような声で言う。「あの日、約束したでしょう、ライナー。これからもずっと、私の近くにいて。今までよりもっと、近くにいて欲しいの」「どのくらいまでお近くに寄るのを、許していただけますか?」「とても近く。私の、一番近く」「……本当に?」「本当よ」 言葉に従って体を寄せるライナーだが、途中で動きを止めた。泳ぐ彼の視線は迷いの証拠だ。「……僕たちは、竜の子です」 彼の吐息がジゼルの唇をくすぐる。「竜の子は神聖な存在だとされています。周囲の者たちは僕たちに触れることを|憚《はばか》るので、僕たちはあまり人と触れ合ったことがありません。だから、その――」 戸惑う表情が愛しくて、ジゼルは先を言わせなかった。 それはほんの一瞬だったが、永劫のようにも思うほどの時間。 想像以上に柔らかい、という言葉が真っ先に頭をよぎった。 はしたなかったかもしれないと気が付いたのはその後だ。 火を噴きそうなほど熱くなった顔を慌てて遠ざけ、離したばかりの唇を開く。「……や、やだ。私。事情を聞いたばかりなのに……」 顔を背けてしどろもどろに言うと、力強い手がジゼルの顔の方向を変える。そこには夏の日差しのような輝きを持つ瞳があった。「すみません、義姉様。僕が不慣れで不甲斐ないから、いつも義姉様から近づいてくださって。……あのときも、そうでしたよね」「あのとき?」「八年前。僕が義父様から義弟として紹介された日に、手を繋いでくださったでしょう? 本当はとても嬉しかったんです。もちろん今だって、空を飛べそうなくらい嬉しい。だから今度は、僕から義姉様に触れてもいいですか?」 首を上下させたジゼルの唇に熱が与えられた。そのあたたかさは唇から体のすべてへ伝わって行き、ジゼルを包み込む。まるで春の日差しの下にいるようだ。 それもそのはずだった。 ジゼルは今、ライナーの腕の中にいる。 初めて出会ったときにはとても小さく、華奢で、ジゼルが屈まなくては目も合わせられなかった彼は、今や布越しでも分かる逞しさを備えてジゼルにぬくもりを与えてくれている。 まるで夢の中のような目くるめくひと時は、本当はどのくらいの時間だったのだろう。ふと唇を離したライナーは、大きな両手でジゼルの頬を包む。「義姉様、好きです。大好きです」 彼は囁く。瞳には緊張と、それを上回る大きな決意
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-08
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46.残った一人

 ライナーたちが花の国に到着した翌日は、当の三人の誕生日でもあった。 普段ならばこの日の花の国は、王宮で王弟の生誕を祝う宮廷舞踏会が開かれる。しかし今回は来客があるということで舞踏会は後日開催にし、当日は王城の一角で内々の宴が催された。 シュテファンは、「十八の誕生日は成人となる重要な日だ。それをまさか他国で迎えることになるとは……」 と渋い顔をしていたが、ライナーに、「でしたら僕の邪魔をせず、帝国で大人しくしていれば良かったんです」 と言われて黙る。 そこへ割り込んだのが、蜂蜜酒のグラスを片手に持つブルーノだ。「まあまあ、ライナー。お前も“大好きなジゼル様”のことばっかり見てないで、少しはシュテファンや父上の気持ちも考えてやれって。もっと視野を広く持たないと、このあとジゼル様のご迷惑になるぞぉ!」「ちょっ、ブルーノ!」「あははははは! ほらほら、シュテファンも。そんな不機嫌そうな顔してないで、今は花の国の滞在を楽しもうぜ! 何せ今回が兄弟三人で過ごす最後の誕生日になるんだろうしさ!」「……おい」 余計なことを言ってライナーとシュテファンに睨まれるブルーノだが、彼に気にした様子は見られない。 鼻歌を歌いながら手にしたグラスの中身を口にして「お」と声を上げる。「さっきのも美味かったけど、俺はこっちの方が好きだな。すっきり苦くて、後からくる甘さが絶妙だ」 途端にライナーの目がきらりと光る。まるで獲物を見つけた獣のようだとジゼルは思った。「いい舌をしていますね、ブルーノ。それはまだ試作品なのですが、試飲をした人たちからも評価が高い品です」「なるほどなあ。……うん、うまい。こりゃ人気が出そうだ」「さすがは帝国の高貴な方。良いものはちゃんと分かっていますね」 |追従《ついしょう》する調子で言ったライナーが、続いて声をぐっと潜める。「ただ、少々問題があるんです。これを量産するには新たな施設が必要となりそうで」「うん? 施設なんかさっさと作りゃいいじゃないか」「そう簡単にはいきませんよ。建設費だって馬鹿にならないんです。ああ、せめて大口購入の当てでもあれば、先行投資ということで予算がおりるかもしれないのに」「……お前、俺に買わせようとしてるな?」「ばれましたか」「ばれるに決まってるだろうが。――で、どのくらいの予約数が必要なんだ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-09
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47.花の国の女王様と『竜の子』

 城の人々も、もしかしたらジゼルとライナーの変化には気づいているかもしれない。だけどまだ何も言わない。ジゼルもライナーも言っていない。二人にはまず、最初に報告すべき人がいるからだ。 どちらからともなく歩き出し、ジゼルとライナーは二人だけで庭園に向かった。 いつも女王ジゼルのそばにいて、一番近くで女王を護るのは騎士ライナー。それがライナーの夢だったのだとは先日聞いたばかり。 傍らを歩く花の国随一の腕を持つ騎士を見上げ、微笑み、ふとジゼルは気が付いた。「ライナー、胸元のボタンが取れかかっているわ。ほら、ここ」「あ、本当ですね。このままだと落ちて失くしてしまうかもしれません」 ボタン一つとはいえ無駄には出来ない。ライナーは小刀で器用にボタンを外し、腰に下げた物入れへ仕舞う。 そのときジゼルはライナーの服の間に黒いものを見た。両の鎖骨の間から少し下あたり。初めは汚れかと思ったのだが何か違うような気がした。不思議に思って顔を近寄せ、ジゼルは息をのむ。 ライナーの胸には親指の先ほどの大きさをした黒い鱗が上下に四枚ずつ、合計で八枚並んでいたのだ。「ライナー……それ、どうしたの……?」「ああ……」 問われたライナーはジゼルの視線の先を追って理解したらしい。少し恥ずかしそうに笑う。「ご覧になるのは初めてでしたね。これは生まれたときからあるんです」「ど、ど、どうして?」「どうしてって、父が竜だからです。僕は半分が人間で、半分が竜なんですよ」「……竜……!?」 あんぐりと口を開けるジゼルを、ライナーは盛んに瞬きしながら見つめる。「他国には絶対に内密の話ではあるのですが、帝国の皇帝は黒い竜なんです。だから竜帝と呼ばれていますし、僕たちも『竜の子』と呼ばれるんです、け、ど……」 ライナーの声は徐々に小さくなって途切れ、いっとき辺りは静かな時間が支配する。 やがてライナーはもう一度、今度は恐る恐るといった具合に口を開いた。「……フラヴィは、義姉様に、話さなかったのですか……?」「……話してくださったわ。……でも、まさか……」 竜帝と呼ばれる存在が、本当に竜だとまでは信じていなかった。 黙ってしまったジゼルをライナーはしばらく見つめていた。やがて、はだけた騎士服の間をそっと寄せてうつむき、小さな声で言う。「僕、帝国へ戻りましょうか」「駄目よ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
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『竜の子』は花の国の王女様に恋してる(前)

 今日の時計はどうしてこんなにゆっくり進むのだろう。もしかしたら壊れているのではないか。 疑いながらライナーは時計をじっと見つめ、普段通り動く針を眺めて息を吐く。 この動作を今朝から何度も繰り返している。 自分でも可笑しいとは思っているけれど、どうにも緊張で落ち着かない。 だって今日はライナーが帝国を発つ日だ。五年前から憧れていたときがもうすぐそこまでやってきているのだから、冷静でいろと言われても無理からぬ話だった。 ここへ至るまでには本当にいろいろなことがあった。 花の国で会った美しい従姉に「待っているから、必ず来て」と言われたライナーは、帝国に戻ってすぐ父に「花の国で暮らしたい」と訴えた。 しかし父である|竜帝《りゅうてい》は渋い顔で首を横に振るばかり、どうあっても許可を出そうとはしてくれなかった。 ライナーは首の下にある鱗をそっと押さえる。 竜帝が花の国行きを反対する理由の一つは、ライナーが『竜の子』なせいだ。 帝国の支配者が竜だというのは他国に絶対知られてはならない秘密。体の鱗から芋蔓式に父竜の秘密まで知られてしまう可能性を考えると、おいそれと竜の子を他国に出せないのは道理だ。 だが、今は亡き母のフラヴィは生前、「花の国のあの父娘――私の兄と姪なら絶対に大丈夫よ。秘密は必ず守ってくれるわ」と何度も竜帝に請け合っていた。だからきっと大丈夫だと、ライナーも信じている。 そして反対のもう一つの理由は、竜帝が家族を愛しすぎていること。 実を言えば花の国へ行けなかったのは、竜の子にまつわる問題よりも竜帝のワガママの方がずっと大きい。「こんな愛らしい子が三人もいると知ったら花の国は全員を欲しがるに違いない! 一人でもお断りだというのに、三人など冗談ではないわ! 駄目だ駄目だ! 花の国になど行かせるものか!」 そう叫ぶ竜帝はただの駄々っ子で、息子のライナーの方こそが丁寧に、根気強く、父を説得する必要が生じるほどだった。 竜帝が渋々ながらも頷いてくれたのは、ライナーの努力と、母の遺言のおかげだ。 自身が遠方へ嫁ぎ、三人の子を産み、そのうちの一人が生国へ戻ると夢で見ていた母のフラヴィは、自身が世を去ってからもライナーの味方をしてくれていたのだ。 花の国から来た母を思いながら、ライナーは机の引き出しをそっと開ける。ここには一枚の絵が入れたま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-11
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『竜の子』は花の国の王女様に恋してる(後)

 こんな無遠慮なことをするのは一人しかないし、そもそもライナーは自分に似ている声の聞きわけがちゃんとできる。慌てて引き出しを閉め、自分を呼んだ相手の方を振り返った。「ブルーノ」 続いてもう一人、いつも一緒にいるはずの彼の名を呼ぼうとしたが、ブルーノの後ろには誰もいない。「一人だけですか?」「そ。シュテファンにも声をかけたんだけど、『ライナーは帝国が恋しくなってすぐ戻って来るんだから、見送りの必要なんてない』って言われた」「ああ。父上も昨日、同じことを言ってましたよ」「あの二人の考え方ってそっくりだもんな」「竜帝と、次期竜帝ですからね」 ライナーと顔を見合わせて笑ったブルーノだったが、すぐにその顔を伏せ、ライナーの肩にこつんと額を当てる。「……お前、本当に行くんだな」 いつも陽気なブルーノの声が翳りを帯びている。彼のこんな声を聞いたのは、母のフラヴィが亡くなったとき以来だ。「……俺はさ。今までだって、これからだって、ずっと三人一緒にいられると思ってたんだ。なのにお前は俺とシュテファンを置いて、あんなに愛してくれた父上も置いて……一人で遠いところに行っちゃうんだな」 生まれる前から一緒だった彼にそう言われると、ライナーの心はずきりと痛む。 花の国へ行きたいと訴える反面、本当はライナーだって行っても良いのかをずいぶん迷った。 竜の子である自分が国を離れて良いのかという問題はもちろん、引き止める父や、二人の兄に背いて良いのか、何度も自問自答を繰り返したのだ。今だって本当は、頭の片隅でもう一人のライナーが囁いている。 ――父も、兄二人も、こんなに自分のことを愛してくれてるじゃないか。 今ならまだ引き返せる。一言「花の国へ行くのをやめる」と言えば、昨日までと変わらぬ日々を帝国で続けられるのだ。 その気持ちを読んだかのように、ブルーノが言う。「なあ。『やっぱり帝国に残ることにした』って言えよ。そうしたら俺が、みんなに伝えて来てやる。荷物の運び込みだって手伝うよ。だから、だからさ」 いつも朗らかなブルーノの顔が珍しく歪んでいた。まるでライナー自身が泣きそうになっているかのようだ。 ライナーは自分と同じ服を着た背中にそっと手を回し、自分と同じぬくもりを感じながら言う。「……ごめんなさい」 迷って、迷って。 それでも最後にライナーが出す答
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
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それから(前)

「シュテファン、いるかー?」 ノックと同時に扉を開くと、部屋の中では顰め面のシュテファンがブルーノを見ている。「どうしてお前は返事を待ってから扉を開けないんだ?」「俺とお前のあいだに隠すようなことなんてないからいいじゃないか。それより、見てくれよ。花の国から手紙が届いたぜ!」「……花の国。そんな小国のことなど、わが帝国からすればどうでもよいことだ。いちいち報告しなくていい」「おーおー、無理しちゃって」 ブルーノは手にした紙をひらひらとさせる。やわらかな花の香りが辺りにただよった。「無事に産まれたぞ」 その言葉を聞いた直後にシュテファンは喜色を満面に浮かべた笑みを見せる。しかしすぐに「ふん」と鼻を鳴らし、窓のほうへ顔を向けた。「それがどうした」 素っ気ないそぶりを見せているが、紅潮した頬は隠せていない。ただ、そこを追及すると彼は頑なになって手がつけられなくなるのをブルーノは知っていた。なにしろ産まれる前から、二十二年も一緒にいる兄のことだ。 それでブルーノは手元に視線を落とし、本当はすっかり覚えている文面を読み上げる。「黒い髪と青い瞳を持つ、とっても可愛い女の子だってさ。三人とも元気らしいから良かったよな」「確かに気をもんでただろうが、ライナー自身が何かをするわけじゃない。元気でいるのは当たり前だろうが」「三人ってのはライナーを含めてじゃないぜ。ジゼル陛下と、子どもたちのことさ」「……子どもたち?」「俺たちの姪は双子なんだってよ」「双子!」「そう。だから俺が準備した品も、お前が準備した品も、どっちも使ってもらえるってわけだ」「なっ……わ、私は別に、何も!」「はいはい、お前は何も用意してないんだよな」 シュテファンの部屋に子ども用品があふれているのを知っているのだが、敢えてそこには触れないままブルーノは手紙を懐にしまう。「それにしても、子どもが産まれて本当に良かった。しかもまだあの二人は結婚して四年だし、これからもまだ家族が増える可能性あるもんな」「ふん。貧乏な国の王族が増えたところで、国庫が圧迫されるだけだ」「だからお前も陰から支援してやってるんだろ? こないだの議会でも花の国の生産品を追加購入させようと――」「あれは別に花の国のためではない! 需要が高まっている品の輸入枠はもう少し拡大したほうが我が帝国のために良い
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-13
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