庭園で話したとおり、ライナーは本当に急いで用意を済ませたらしい。翌日には出立の準備を終えていて、彼はもう帝国へ向かうことになった。 よほど菜の花の女性に会いたいのだろうと思うとジゼルは寂しい気持ちになるが、対するライナーはとても嬉しいはずだ。彼の気分に水を差すわけにはいかない。ジゼルは無理にも微笑む。「ライナー、気をつけて行って来てね。誕生日のお祝いを用意して待っているわ」「ありがとうございます、義姉様。二か月の間お別れです……」 きゅっと手を握ったライナーは続けて何かを言おうとしたように見えた。しかし結局、小さく首を振って口をつぐむ。不思議に思い、ジゼルは小さく首をかしげた。「どうかしたの?」「いえ、何でもないんです。……すべては、帰ってから。必ず」 ジゼルに向けるような、自分に向けるかのような。 そんな調子で言って、馬に乗ったライナーはわずかな供を連れて帝国へ向かった。 彼が居なくなってみると城は急にがらんとしたようにジゼルには思えた。(……あの頃は、お父様がいらしたものね。でも……そう、これが一人きりになってしまうということ……) ライナーがこの城に来て約八年が経つ。ジゼルが完全に家族のいない状態になったのはこれが初めてだ。 ジゼルは改めてピエールの心遣いに感謝した。もしもピエールがライナーを呼び寄せてくれていなければジゼルはとっくに一人きりになっていて、悲しみと空虚さと寂しさとで押しつぶされていたに違いない。(だけど、平気よ。今回の寂しさは一時的なものだもの) ジゼルは二か月だけ待てばいい。そうすればライナーが『菜の花の女性』を連れてくる。二人が結婚し、子どもができれば、きっと城はたくさんの笑顔で溢れるだろう。(それは、いいことよ) そう自分に言い聞かせながら、ジゼルは『菜の花の女性』関連の準備を進めはじめた。 まずは彼女の部屋の準備だ。ライナーの部屋にほど近いこの部屋は眺めがいいが、しばらく使っていなかったのでいろいろと準備が必要になる。 召使たちを呼んだジゼルが清掃の指示を出すと、中の一人、侍女頭が進み出て頭を下げる。「かしこまりました、女王陛下。ところでこちらのお部屋は、どなたのためにご用意するのですか?」「ライナーの妃よ」 話を聞いた召使たちは一斉に息をのむ。 驚くのは無理もない、と思いながらジゼルは微
Last Updated : 2025-06-23 Read more