Semua Bab 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~: Bab 21 - Bab 24

24 Bab

21.遺してくれたもの

 老臣はジゼルを中へ促す。「どうぞお入りください」 この扉の向こうに父はもういない。その事実がジゼルの胸を痛ませ、足をすくませる。 だが、次期女王となる者が毅然としていなくてどうするのだ。 そう自分に言い聞かせたジゼルはぐっと顔を上げて老臣が開いた扉の中に足を踏み入れ、そして、息をのんだ。 部屋の中央には、トルソーに着付けられた一着のドレスがあった。「これ、は?」 かすれた声でジゼルが問うと、老臣が答える。「ピエール陛下のご命令でお作りしていたドレスです」「……お父様が?」「はい。今年のジゼル様の誕生日祝いにと用意しておられました。どうかお近くでご覧になってください」 声に促されてジゼルは震える足でドレスに歩み寄る。 |滑《なめ》らかな光沢をもつアイボリーのドレスには、黄金の糸を使って様々な花がたくさん刺繍されている。おかげで朝の日差しを受け、ドレスはほんのりと輝いて見えた。 開きが少なめの胸元は角形をしており、上半身はきゅっと締まったデザインだ。代わりとでもいうように腰から下はゆるやかに広がっており、長いスカートは優しいカーブを描いていた。手首まである袖口もゆったりと開いており、全体的にたっぷりと布が使われている。これを作るにはずいぶんと費用がかかっただろう。 今までだってピエールはジゼルの誕生日に贈り物をくれた。しかし今回の贈り物は今までとは違う。十六歳の誕生日を祝うために用意したと考えるにはあまりにも高価すぎる。「……このドレスは本当に、誕生日の贈り物?」「そのように仰せでした」 老臣は淡々と告げているつもりのようだが、奥には拭いきれない寂寥感がある。――それでジゼルの疑問は確信になった。「……そう。お父様が……」 もう一歩近寄るとドレスに刺繍された花々の詳細が見えた。春から冬まですべての季節のものが選ばれ、どれ一つとして同じ花はない。そしてドレスの一番上部分、右胸側には薔薇の花が、左胸側に菜の花があった。菜の花を見たときにはジゼルの胸の奥が少し痛んだが、今のジゼルにとってそれは些細なものだった。 扉の辺りで誰かが話をしている。 その声が誰のものなのかは振り返らなくても分かった。 扉が閉まり、他の人物の気配が遠のくと同時にジゼルは呟く。「お父様が用意してくださっていたの」 まだ低くはなりきらない声が返事をする。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
Baca selengkapnya

22.新たな門出に輝きと涙を

 病臥に伏したピエールは今回、どの段階かで自分の死を理解した。今まで幾度も病に倒れた彼にしか分からない予兆があったのだろう、だからあらかじめドレスを用意しておいてくれた。もしかすると父は娘が戴冠式で何も新調したがらないことまで分かっていたのかもしれない。 新しいものを用意するのは、古いものを忘れるようで怖かった。 いなくなってしまった父を悼むのではなく、喜んでいるようで憚られた。 ジゼルが自身の戴冠式に新しいものを何も使いたくなかったのはそのためだ。 視界がゆらゆらと揺れる。輝くドレスが涙の泉に沈む。まるでジゼル自身が水の中にいるような気分だ。「おとうさま! おとうさまああぁぁ!」 頭の芯がじんと痺れ、どこが地面だか分からなくなる。自分が倒れそうになっていたのだと分かったのは、思いのほか逞しい腕がジゼルを抱きしめ、ゆっくりと座らせてくれたからだ。ジゼルはそのまま相手の胸に顔をつけて子どものように号哭する。 ライナーの方からジゼルに触れてくれることは少ない。触れるのが嫌だというわけでなく、触れるのに慣れてないようで、ライナーからはいつも「どのタイミングでどう触れたら良いのか分からない」といった迷いや躊躇いを受けるのだ。 しかし今の彼は少々ぎこちないながらもジゼルの背を優しく撫でてくれていた。その手のあたたかさが、悲しみの中に深く沈んでしいまいそうなジゼルをぎりぎりの場所でつなぎとめてくれていた。 どれほどそうしていただろうか。ジゼルの耳元で密やかな声がする。「義父様は遠い所へ旅立たれてしまわれました。でも、僕がいます。僕が義姉様の近くにいます。ずっとずっと、近くにいます。僕がこの国と義姉様をお支えいたします」 そうして彼は「僕が近くにいます」と何度も繰り返す。ジゼルが泣きぬれた瞼を薄く開くと、彼の胸元で輝く黄金の菜の花が目に入った。 まだ泣き声しか出せないジゼルは胸の中だけで「嘘つき」と呟く。 嘘つき、嘘つき。 心は『菜の花の女性』のもとにあるくせに、よくも私の近くにいるなんて言えるわねと。 何度も「嘘つき」と繰り返すうち、号泣が嗚咽に変わり、呼吸が落ち着く。 そしてわななく唇を開き、ジゼルは細く声を出した。「……私の近くに、いて」 嘘でもいいと思った。誰かを想っているライナーでも構わないと思った。 寂しさでいっぱいになっている
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
Baca selengkapnya

23.戴冠式の日

 ジゼルの戴冠式が間近となった。 普段は宝物庫にしまわれている宝冠や王笏などが磨きに出され、大聖堂が華やかに飾られる。 初夏のこの時期、用意される花々は冬の葬儀とはまた違うものばかりであり、そのせいか同じ場所であってもあの悲しい空気は微塵も感じさせない。 諸外国からも式に列席する賓客が続々とやってきた。今回はその中の一人にジゼルの婚約者候補となる王子がいる。 相手国とは書面や肖像画のやりとりを何度もすませてきた。今回の式の前にジゼルと王子が顔合わせを行い、なんの問題もなければジゼルの正式な即位に続いて婚約も公になる予定だった。 王子はジゼルの一つ年下の十五歳。 絵で見る王子は細めの体つきと、利発そうな顔立ちをしている。 果たして実際に会う王子はどのような人物だろうかと皆が噂しあっていた。 しかし当の国から代表としてやって来た人物は恰幅の良い老齢の男性で、王子の風貌とは似ても似つかない。 これはどういうことなのかと困惑するジゼルや花の国の高官たちに向けて、遠国から来た男性は深々と頭を下げる。「お初にお目にかかります。私はかの国で宰相の役職をいただいている者にございます」「事前の連絡と違いますわね。王子はどうなさいましたの?」「それが……」 宰相が語った内容はジゼルたちを唖然とさせるものだった。 なんとジゼルの婚約者候補となっていた第三王子は、帝国の貴族令嬢と婚約をしたというのだ。「女王陛下をはじめ、花の国の皆様方におかれましてはご不快に思われるであろうこと、重々承知しております。ですが帝国側から強く『婚約を』と言われた我々の立場も汲んでいただき、どうかお許しを願えませんでしょうか……!」「何を勝手なことを!」「それで道理が通るとお思いか!」「おやめなさいな」 色めき立つ高官たちを片手を上げて制止したジゼルは、宰相の後ろ頭を見ながら小さく息を吐く。 確かに、ジゼルやジゼルの国が蔑ろにされたと怒りを覚えて良い話だ。 しかし一方で、相手がこの大陸で最大の版図を誇る帝国の高位女性であるのなら仕方ないかもしれないと考えてしまう。 何しろ王子の国だって大きいわけではないのだ。あの強大な帝国にはどう足掻いても敵わない。帝国側から「どうしても」と持ち掛けられた縁談を蹴って機嫌を損ねさせてしまうのは怖いだろう。 ――それによく考えずとも、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
Baca selengkapnya

24.婚約の行方

 この緊張と重苦しさをはらむこの空気の中でも堂々としている宰相はさすがなものだが、完全に冷静でいられているわけではないようだ。彼の首筋に汗が伝っているのをジゼルは見逃さなかった。「……お許しいただけるのですか、女王陛下」「ええ。まだ正式な婚約を交わす前でしたから、私たちの話は公になっておりませんもの。このような事態が起きても仕方ありませんわ」 宰相は頭をあげた。ジゼルを見つめる彼の目に一瞬の輝きが宿る。そのタイミングでジゼルは口元を扇で隠し、周囲を見回した。「――ですが当方としても、ただ黙ってお話を飲むわけには……ね?」「もちろんです。実は今回の来訪にあたって私は、我が国の王より交易に関するすべての事柄を一任されてまいりました。女王陛下の輝かしき戴冠式の後にはぜひ、そのあたりのお話をさせてください」「互いにとって良い話ができると期待しておりますわ」 扇を取り払ったジゼルがにっこり笑うと、眩しいものを見る目つきになった宰相は肩の力を抜き、もう一度深く頭を下げる。もしかすると彼は、自国へ戻れない覚悟を持ってこの国へ来たのかもしれない。(そんなこと、するものですか) 相手国は今回の件で花の国に借りを作った。血縁が結べなかったとしても、代わりとなる繋がりを手に入れたのだ。これは今後の花の国にとって大きな力となる。 それに父の部屋でライナーに抱きしめられたとき、ジゼルは自分の心をはっきりと理解した。(やはり私は、ライナーが好き。ライナー以外の男性には触れたくないし、触れられたくないの) だからこそ今回の破談はジゼルにとっても「助かった」といえるものだった。 ライナーがジゼルを見てくれることはない。彼の心には既に別の相手がいるのだから。 ジゼルは、ライナーが自身の象徴花とするほどに想っている『菜の花の女性』のことを心から羨ましく思う。そこまで愛されているのだから『菜の花の女性』だってきっと、ライナーのことを好きになる。いずれ二人は結ばれ、幸せな生を歩むことになるだろう。 今回の帝国貴族の令嬢も同様だ。 第三王子へ熱心に婚約を申し入れて叶った帝国の令嬢はきっと幸せになれる。彼女はずいぶんと深く王子のことを想っていたようだから、ぜひとも幸せになってほしいとジゼルは願った。「貴国の王子と帝国の令嬢は、どこでお知り合いになりましたの?」「それが、互
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
Baca selengkapnya
Sebelumnya
123
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status