「『竜の子』? ってなに、叔母様?」「帝国の皇帝の子のことよ。実はね。帝国の皇帝というのは人ではないの。黒い竜なのよ」 意外なことを聞いて呆然とするジゼルを気にすることなく、フラヴィは帝国の話を続ける。 竜は不思議な力を持つ存在だが、人との間に子を成した竜は子に与えるため大半の力を失う。 代わりに生まれた子は大いなる力を持つ『竜の子』であり、成長してからは新たな竜になる。 そしてその子が次代の皇帝となり、つがいとなる人間を見つけて結ばれて子を授かり、こうして帝国は続いて行く。 つまり帝国の皇帝というのは全員が竜であり、人の間に生まれた『竜の子』なのだと。「私は子どもの頃から分かっていたわ、自分が竜のつがいとなる運命として生まれたのだって。だから私の息子は、大いなる力を秘めた『竜の子』。……どう、ジゼル? あなたは従弟が『竜の子』であっても、ずっと仲良くしてくれる?」「それは、もちろん……」 かすれた声で答え、ジゼルは夢見るような目つきのフラヴィを悲しく見つめる。「……だけど叔母様。お話が本当なら、あの子はいつか皇帝になるのよね? この小さな花の国で生きる私からすると手の届かない人物だわ」「平気よ。今日、あなたが仲良くしてくれたあの子は『竜の子』だけど皇帝にはならないし、竜にもならないの。今回はかなり不規則なことが起きているのよ。帝国の長い歴史を紐解いてみてもありえなかったことが。私には分かってるわ。あの子は花の国へ来る運命なの。大好きな私の故郷、いつかあなたが治めるこの国へ、あの子はきっと来る」「そう……」 ようやくジゼルに視点を合わせて叔母は微笑む。それがあまりにも美しかったので、ジゼルは鼻の奥がツンとしてくる。「周りは反対していたけど、なんとか押し切って花の国へ来て本当に良かったわ。ジゼル、これからもあの子をよろしくね」 嗚咽をこらえるジゼルは何も言えなかった。返事の代わりとして引き攣った頬になんとか笑みを浮かべると、フラヴィはジゼルの口の前に自身の人差し指を立てて片目をつぶる。「このことは時が来るまで誰にも言わないでおいてね。あなただから教えたけれど、本来なら竜のことは他国には絶対に秘密の話なの。帝国の最重要機密なのよ」 フラヴィはそう言い残して部屋を去った。 もちろんジゼルはフラヴィから聞いた内容を誰にも話さない。特に父
Terakhir Diperbarui : 2025-06-03 Baca selengkapnya