「おばあさん、決めました。清吉との婚約を解消します。お誕生日を見届けたら、北城市を去ります」森青葉(もり あおば)がそう告げると、東原清吉(ひがしはら せいきち)のお祖母さん・東原友子(ひがしはら ともこ)は深いため息をついた。「清吉がこの頃ひどくふらふらしていて、あなたには辛い思いをさせたわね。ここ何年ものあなたの努力、おばあさんは全部見てきたよ。でもね、清吉の心にもあなたがいないわけじゃないと思うんだ。あの子はただ迷っているだけ。もう少し待ってみたら、きっと戻ってくるでしょう。本当に婚約を解消するつもりなのかい?おばあさんの誕生日まであと十日あるけど、もう一度考えて?」青葉は首を横に振り、きっぱりとした口調で言った。「おばあさんと私の五年の約束が、もうすぐ終わります」青葉の母が、彼女を連れて京極家という億万長者の家に嫁いだのは、七歳の時だった。「厄介者」と呼ばれた青葉は、京極家の人々から冷たく扱われ、虐げられた。母はただ「お利口にしなさい」「私の立場を理解しなさい」と繰り返すばかり。七歳の誕生日、無理やり大量の海鮮を食べさせられ、ひどいアレルギー反応を起こした。あのとき、友子が病院に連れて行ってくれなければ、青葉の命はなかったかもしれない。それ以来、友子が人前で堂々と口にしてくれたおかげで、京極家での彼女の暮らしは少しだけましになった。青葉はその恩を、ずっと忘れたことはなかった。だからこそ、友子が孫の清吉との婚約を提案し、婚約者として彼を支え、泥沼から救ってほしいと頼まれたとき、彼女は迷わず了承した。それは、彼女がずっと願ってきたことだった。彼女は、清吉を愛していた。けれども、今になってようやく気づいた。「愛だけでは、どうにもならないこともある」と。青葉はもう疲れ果てていた。だから、諦めることにしたのだ。清吉が大学二年の時、初恋の三崎真琴(みさき まこと)が突然、何の前触れもなく姿を消した。戸籍も抹消され、まるでこの世からいなくなったように。清吉は受け入れられず、あらゆる手段を使って真琴を捜し続けた。だが、真琴は煙のように消え、どこにもいなかった。ついには心が壊れかけ、精神も不安定になった。独り息子が狂っていくのを見ていられなかった東原家は、友子が青葉にこう頼ん
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