お母さんの声が静かに落ちたとたん、みんなの視線が一斉に彼女に向いた。バースデーハットをかぶったお兄ちゃんが、人だかりの中心で真っ先に顔をしかめた。「……何なの?もう謝ったでしょ?それでもまだ足りないって、わざわざ僕の誕生日に水差すつもり?」その顔には、軽蔑と冷たさが浮かんでて。まるでお母さんが、注目を集めたくて騒いでるだけみたいに見てた。でも――私は気づいてた。お母さんの目の奥には、悔しさと、それでも折れない強さがあった。今日は、私とお兄ちゃんの10歳の誕生日。おばあちゃんは、私たちにそれぞれ大きなケーキを用意してくれた。ただ、様子はまるで違った。お兄ちゃんのまわりには、おばあちゃんと、お父さんの代わりに来た朝倉おばさん、それから大勢の人が集まってて「何のお願い事するの?」なんてにこにこしながら話しかけてる。それに対して、私のそばにいたのは、ろうそくをつけてくれてたお手伝いの杉山さん。誰も私の願いなんて聞かなかったけど、それでも私はワクワクしてて「早く火つけて!」ってせかしてた。……だけど、まだ吹き消す前に、お母さんが少しかすれた声で言ったの。「私の子どもでいたくないなら、私ももうあんたの母親ではいたくないわ」その言葉にお兄ちゃんは鼻で笑った。「は?調子に乗るなよ。朝倉おばさんの方がよっぽどママにふさわしいし。僕、本気であの人がママだったらよかったのに」その後ろで、朝倉おばさんが凍りついたみたいにうつむいて、まるで大きな秘密がバレたみたいに気まずそうにしていた。おばあちゃんは最初こそ驚いた顔をしてたけど、すぐに落ち着いて、指にはめたエメラルドの指輪をなでながら、いつもの偉そうな口調でこう言った。「澪(みお)、うちの暮らしはうまくいってるでしょう?藤崎家はあんたに何も不自由させてないわよね。それなのに、これはどういうことかしら?離婚って言うなら、それなりの理由を示してもらわないと」
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