お母さんの冷ややかな声に、お父さんはしばらく沈黙して――そのまま、そっけなく電話は切れた。だけど、その直後。今度は、私のスマホが鳴った。ディスプレイに表示されたのは――蓮くんの名前。「……紬、君とママ、なんで別荘にいないの?どこ行ったんだよ」私は肩をすくめるように言った。「行きたいとこに行っただけ。あんたには関係ないでしょ?」「なっ……!」今までなら、絶対に言えなかった。そんな言い方、私が蓮くんにするなんて――きっと彼もびっくりしたんだと思う。言い返そうとして、でもなぜか、言葉を飲み込んだみたいだった。少しして、声のトーンを落としてこう言った。「……別にいいよ。ママはそっちにいるのか?」その様子に、私は少しイライラして、やや語気を強めた。「で?用件は何なの?話があるならさっさとして」向こうは、数秒間沈黙した。その間に、私は通話を切ろうとしたんだけど――その直前、彼がぽつりとつぶやいた。「……僕、ママに会いたい。謝りたいんだ。あのとき、ひどいこと言って……でも、ほんとに後悔してる。僕のこと、本当に心配してくれるの、ママだけだったって……今になって、わかったんだ」――その言葉に、一瞬、私の中のなにかが揺らいだ。でも……私はお母さんの顔を見た。するとお母さんは、ふっと首を横に振った。それだけで、私はすべてを理解した。よし、出撃だ。「……よくそんな恥ずかしいこと言えたね。まだ自分が被害者ヅラしてるつもり?はっきり言ってやるよ。お母さんは、あんたのことなんか、これっぽっちも思い出してないよ。私たち、今すっごく幸せ。あんたは、お母さんに捨てられた、ただの『かわいそうな子』なの。お母さん会いたいなら、朝倉おばさんにでも甘えてれば?」私の声はだんだんヒートアップしてて――もう、どこにも淑女なんかいなかった。育ちの良さ?藤崎家の教養?そんなもん、全部ぶっ飛ばして。お母さんと目が合った。そしてふたりして、吹き出すように――「ははっ!」って笑った。「……うわ、スッキリした!」
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