All Chapters of 俺ともう一人の私、どちらが好き?: Chapter 11 - Chapter 20

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第5話 第二人格の依頼(03)

「!?なんの冗談だ……」大介は自分の耳を疑った。「冗談じゃないわ。昨日、あなたに置き去られた悠治は人生を諦めました」「その誤解されそうな言い方をやめろって言っただろ……」大介の無力な抗議を無視し、悠子はひとため息をついて、真面目そうに続けた。「十数年の引きこもりで、雪枝を守ることだけが生きがいの彼は、あなたへの復讐に全てをかけていました。なのに、あんな無惨な形で終わらせてしまって、彼にとってどれほどショックのことなのか、あなたにも分かるでしょう」「分からないんだ……変態シスコンの考えなんて」「とにかく、彼が生きる意欲を失ったから、私はこうして外に出なければなりません。昨晩から一生懸命生きる理由を探し続けていた結果―――あなたへの恨みというピンポイントが浮かび上がりましたわ」「なんでオレへの恨みが生きる理由に繋がるんだ!」(あまりにも理不尽だろ!)大介の喉は不平で燃やそうになる。「本来なら、雪枝の幸せを守ることにすべきだったけど、雪枝は今、あの身分詐欺彼氏とラブラブじゃないですか。悠治がそれを思い出すだけで余計につらくなって、死にたくなるの。ですから、しばらく彼の思考の焦点を雪枝から逸らす必要があります」「だから何故オレなんだ……?」「事情がおかしくなったのは、あなたが現れてからです。とにかく、私はあなたがすべての元凶という暗示を自分にかけました。この暗示は悠治の潜在意識にも影響します。これで、あなたへの復讐心は、彼の生きる意欲へと繋がるでしょう」もう聞いていられない、大介は床を叩いで起き上がった。「逆恨みでもほどがある!あいつは生きる意欲がないなら、それでいいんじゃないか!お前がいるし、その体はもうお前一人のものでいいだろ!」「そんなのできませんわ」悠子は目を伏せてに頭を横に振った。「悠子は、悠治が生きるために必死に生みだした人格。もし、彼は完全に生きる意欲を失ったら、この悠子の人格も長く存在できないでしょう」「……」人助けのために、自分が悪役に
last updateLast Updated : 2025-06-04
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第6話 憎ませるために(01)

 「俺、なぜ、ここに……?」悠子が退却してから一分も足らず、寝ぼけ目の悠治が戻った。「悠子のこと、覚えていないのか?」まだ少し疑いがあるが、大介は慎重そうに声をかけた。「ああ、悠子様か。また、いらっしゃったのか……」(なんで自分の別人格に「様」をつけるんだ!?)というツッコミは差し置いて、まず悠子のわがままを果たそうと大介は決めた。失敗したら、小説だけではなく、リアルでクズにされる危険性がある。下手にすれば、見殺しという罪を背負わせられる。「その悠子様が、お前の保護者として、オレと約束をしたんだ」「約束?」(それでも、憎まれ役を演じるのは、神経を使うものだ……)憎ませるために、大介は知恵を絞って、雇員の自由意思と労働者権利を無視するブラック会社社長のような陰険なドヤ顔を作った。「お前はこれから、オレのところで働くことになる。そのデタラメ小説の文字数と同量のシナリオを書き終えるまでにな」「はぁ……」悠治はただぼんやりと息を吐いた。「給料ゼロ、休日なし。もちろん保険も手当もつけない。職場でオレの命令に従う、オレが呼んだらいつでも駆け付けてくる、オレがOKを出すまで書き直しつづける」「……」「文句があるなら言え」「……」(無反応?せめて、デタラメだ!と叫べ……)大口を叩きながらも、大介は密かに緊張した。「悠子様に迷惑をかけたみたい……」すると、悠治がぼそぼそと一人言を始めた。「この間も、引きこもりで小説を書かないで、取材とでも思って何処かに遊びに行こうって勧められた。目が覚めたら最頂上から落下しているジェットコースターの上……小説の件をきっかけに、人との交流を増やしてほしいというお気持ちは分かるけど…今回はさすが無理だ……こんな憎々しい男のために文字を書くくらいなら、死んだ方が楽なんだから……」 だめだ。も
last updateLast Updated : 2025-06-05
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第6話 憎ませるために(02)

シスコンにとって、一番我慢できないのはやはり妹のことだろう。でも悠子は言った、雪枝のことを思い出すと余計につらくなる……でも、さっきほど、悠治は確かに雪枝の名前を口にした。もしかして、彼氏のことに触れず、雪枝単独で行けるかも!そうと思えば、大介はさっそくスマホで雪枝に電話をかけた。 「雪枝さんですか?昨日の反町大介です」「!」大介の思った通り、雪枝の名前を聞くと、悠治が一瞬で目を開いた。「雪枝に何を……」大介は反応早くて、取り掛かってくる悠治をやり過ごしたら、悠治が勢いでバランスが崩れ、床に突っ込んだ。「……」どうやら、悠治は悠子のような身体能力と反射神経がない。それをいいことに、大介は悠治を下敷きに床に座り、片手で悠治の両頬を掴んで、彼の呻きを殺した。「大丈夫、荷物が倒れた音です。」悠治にも聞こえるように、大介はスマホのスピーカーをオンにした。「実は、お兄さんがオレのチームに入ることになりました」「えっ、お兄ちゃんが!?」雪枝はを驚きの声を上げた。「オレはリアル脱出ゲームを作っています。お兄さんに、ぜひゲームのシナリオに携わってほしいと頼まれたので、50本ほどのシナリオを依頼しました」「50本も!?」「ううぅ……!!」「完成しましたら、雪枝さんにチケットを送るから、ぜひ、遊びに来てください」「は、はい!リアル脱出ゲームが好きです!とても楽しみにしてます!」「ううぅ……!!」 電話の向こうに、微かな喚きらしい不調和音があったけど、引きこもりの兄が仕事に出たことに興奮する雪枝にとって、気になることではなかった。 「雪枝さんもたまにうちのスタジオにいらっしてください。雪枝さんの応援があれば、お兄さんも喜ぶでしょう」「はい!応援しに行きます!お兄ちゃんのこと、ぜひ、ぜひよろしくお願
last updateLast Updated : 2025-06-06
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第6話 憎ませるために(03)

悠治の件が一旦落ち着いたので、大介はアシスタントたちを呼び戻した。改めて、悠治をシナリオライターとしてみんなに紹介した。 「グラフィックデザイナーの彩夏です」「道具模型担当の辰です」「建物模型担当の小春です」三人の親切そうなアシスタントに対して、悠治は目を下に向いたまま「どうも」って挨拶を終わらせた。それ以上は期待できないと分かって、大介は話を別方向に誘導した。「さきほどお前たちが入ったとき、ちょうど、アクションのポーズを試しているところだった。変な誤解をするなよ」「アクションか……」三人の中で、一番落ち着いた雰囲気を持つ辰は何かを心得たようで、恥ずかしそうに頭を掻いた。「大介さんがそう言うのなら……」「アクション?今作っている奴の中でそんなものがないような気がするけど、新作か?どんなテーマ?」「小春!」模型青年よりスポーツ青年に見える小春が聞き返したら、彩夏に肩を叩かれた。「そんなの、聞いちゃだめじゃない!」高校生の雰囲気が残っている彩夏だが、三人の中で頭の回転が一番速い人だ。「……」(その態度だと、やっぱり誤解したな……)理不尽だと思うが、大介にはもう説明する気力がない。これからは、このとんでもない迷惑なシナリオライターの対応を最優先しければならない。 三人が各自に仕事を始めたら、大介はソファでゾンビ化中の悠治に一ダースの資料を投げた。「検討中の企画だ。興味あるものがあったらそれから始めよう」「……興味?」悠治は片方の口元を上げて、資料に目もくれなかった。「ねえよ」「ないなら、新しく企画してもいい」「じゃ、落ちこぼれのゲームデザインナーが悪徳ホストの道に踏み入れて、無知な少女たちを魔のハウスに誘い込む……」「それしかないのか!」大介が思わず悠治に吠えたら、作業中の三
last updateLast Updated : 2025-06-07
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第7話 兄妹愛に感動されたら、肝心なことが言えなくなる(01)

 とあるテーブルの広いカフェで、大介と雪枝は対面で座っている。雪枝が一応おしゃれ女子、アレルギー防止のため、大介はわざと机の広い店を選んだ。「すみません。そんなことは、できません」雪枝に小説削除の件を頼んでみたら、大介は失望の返事をもらった。「大介さんに申し訳ないですけど、あの小説は、お兄ちゃんが私のために書いたものです。私から削除を頼んだら、お兄ちゃんはきっと傷付けます。やはり、大介さん本人からお兄ちゃんを説得したほうが一番いいかと思います」「……」(さすが兄妹だ。外見が似ていないけど、断る時の頑固な表情はそっくりだ……)大介はなんとなくそううまく行かないと予感した。「だから、オレが頼んでも断られた。このままだと、お兄さんを訴えなければならない」「たぶん、お兄ちゃんはまだ気持の転換ができていないからです」「気持の転換?」「お兄ちゃんはずっと引きこもりで、クリック数2桁の廃小説をだらだら書くしかやることがないです」(妹に廃小説と言われた…どれほど悲惨なものか……)不本意だが、大介は微かに悠治を同情した。「あの留学生小説から、お兄ちゃんの情熱を感じました。いままで、あれだけ続けられる小説はありませんでした」(その情熱は、オレへの誤解と理不尽な名誉棄損から湧いてくるものだけど……)「ですから、いきなり『削除して』と言われても、お兄ちゃんはきっと受け入れません」「せめて、主人公を改名してほしい」大介は一歩譲った。「それも、お兄ちゃんの気持次第だと思います。お兄ちゃんはあの小説への情熱が消えない限り、他人から何を言われても頷いてくれないと思います。ああ見ても、お兄ちゃんはかなりの頑固ものですから」「そうだな、その頑固さは痛いほど分かる……」大介は嘆いて、目の前の
last updateLast Updated : 2025-06-08
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第7話 兄妹愛に感動されたら、肝心なことが言えなくなる(02)

悠治の自堕落の行動に我慢できず、ある日、大介は「1万文字を提出するまで帰らせない」と脅かした。すると、悠治はサクサク作業しはじめて、2時間で1万文字のプリントを提出した。だけど、その内容を見たら、大介は目を洗いたい気持になった。「このゴミみたい文章はなんだ……?いやがらせか?」「知ってたらもう聞くな。今日はもういいだろ」悠治はソファに置いてあるカバンを拾おうとしたら、大介にカバンを没収された。「言っただろ、オレがOKを出すまで書き続けてもらう」その鷹が獲物を定めたような目に睨まれても、悠治はゆっくりとあくびをした。「じゃ、我慢比べしようか。こっちは引きこもりでゴミ書き歴14年だから、負ける気がないぞ」「まともなものを書いて、実力勝負でオレに勝つ考えはないのか……」 (この人、どれだけ負的な思考回路だ……)悠治に出会ってから、大介は一生のため息を使い果てたような気がした。だけど、ゴミとは言え、2時間でこれだけを書けるなら、真面目になれば、そこそこのものを書けるはずだ。それに、個人的な理由を除けば、あの留学生小説のできは悪くないと思う。見事に純愛の名の下でドロドロな関係を求める読者層の心理に刺さったからこそ、人間の低レベル欲望をあおる悪質プロモーションが効き、小説が人気になったんだ。 憎まれるのが目的だけど、今の悠治の状態じゃ、仕事妨害にしかならない。ボスを憎めるが、仕事を憎めないというルートはないかな……雪枝の言ったように、仕事に夢中させたら、デタラメ小説への情熱も薄くなるかもしれない……そう考えると、大介はもう一度交渉に出た。「オレは構わないが、妹さんにこんなものを見せるつもりか?」「残念ながら、雪枝は俺の実力を知っている。所詮こんなもんだ」「あのデタラメ小説を書く力さえ出せば、こんなゴミにならないだろ?」「あれは、邪道プロモーションのおかげで人気になったんだよ。
last updateLast Updated : 2025-06-09
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第7話 兄妹愛に感動されたら、肝心なことが言えなくなる(03)

雪枝がスタジオに入って見たのは、悠治が真剣そうにパソコンに集中している姿だ。「!!」(お前、誰!?)その見たこともないまともな姿に、大介は驚いて、言葉も出なかった。「あら、お兄ちゃん、張り切ってるのね!」「雪枝、いつ来たの?」悠治は今に気づいたように、眉間を揉みながら腰を上げた。「お邪魔になった?」「そんなことはない、雪枝ならいつでも歓迎だ!」「……」(お前のスタジオじゃないだろ……)大介は主導権を主張したかったが、雪枝を「チアガール」として招いたのは彼自身。いつでも歓迎のことは間違いない。「この男が作ったものはね、あんまりにもひどいから、修正するのに結構神経を使うんだ。雪枝が来てくれたら、心の癒しになるよ!」「……」(誰がひどいものを作ったって…!)「雪枝は北欧神話が好きだろ、ちょうど、それをモチーフに何かを企画しようと思うところだ」(さっきまでゴミ文字を積み上げていたばかりだろ……)ツッコミところがあまりにも多くて、いちいち突っ込んだらきりがないので、大介はとにかく、黙ったまま悠治の演技披露を拝見した。 「ちょっと、なんでお前が雪枝を見送るんだ!兄の俺がやることだろ!」お見舞いお時間が終わって、大介が帰ろうとする雪枝をビルの外まで送ると言い出したら、悠治に抗議された。悠治を治める方法をずっと考えていた大介は、やっと反撃のチャンスを掴んだ。「悠治くんは今日中北欧風企画を10本提出するという目標があるだろ?時間が厳しいから、代わりにオレが雪枝さんを送ってあげるよ」「そ、そんなのう――」悠治が嘘だと言おうとしたら、雪枝は嬉しそうな声を上げた。「偉い!お兄ちゃん!お仕事に夢中するお兄ちゃんはとってもかっこいい!応援するわ!」「……」自分が掘った穴だから、自分で埋めるしかない。悠治は憎々しい目線で雪枝と一緒に外に出る
last updateLast Updated : 2025-06-10
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第8話 夜光の蝶(01)

雪枝がスタジオを離れたら、悠治はまたゾンビ状態に戻った。なんとなくそれを予測した大介はさほど驚かなかった。それでも、毛布で体を巻き、床で芋虫のふりをする悠治に我慢できなくて、そのお尻を蹴った。「どうした。妹にいいとこを見せつけるためにエネルギーを使い切れたか?」「……1万文字も10本の企画書も無理だから、今日から、帰らないことにする」悠治はびくともしなく、毛布を口にかけたまま悶々と答えた。「……」このスタジオは大介の自宅でもある。脅かしで悠治に1万文字のことを言い放ったが、本当に帰らなかったら、大介のほうも困る。「1本だけでも、真面目なものを上げれば、好きなところに行っていい」仕方がなく、大介は譲った。「面倒だし、お前の言いなりになりたくない……ここで引きこもりをするほうが楽だ……」「#妹さんはその企画に期待しているんだ!失望させてもいいのか?」「じゃあ、雪枝が来る時にやればいい」「……はやり、まともなものを書けないわけじゃない……書かないだけだな」大介の顔色は一層暗くなった。「知ってたらもう聞くな……寝る……」「今は午後5時だ!」午後5時から悠々と寝落ちの悠治と違い、大介は夜中まで奮闘した。小林から催促のメールがあったので、この前の企画の三稿目をもう一度チェックしてから彼に送った。悠治の騒ぎのせいで、シナリオライター探しの件を完全に忘れていた。悠治をシナリオライターとして雇ったのは悠子に頼まれ、いいえ、脅かされたため、もともと期待していない。さっそく募集要項を作って、クリエイターエイジェンシーのサイトに掲載した。それからSNSでいろいろ探って、ベッドに上がったのはもう深夜2時。夢の中で、何か重いものが腹に乘っているのを感じた。「……?」確かに、前から猫を飼おうと思って、飼育知識についていろいろ勉強した。猫はなついている飼い主の腹に乘るのが好きのようだ…………でも、まだ猫を飼っていない……じゃあ、一体、何が……(!!)いきなり、スタジオに人型の「芋虫」が一匹いることを思い出した。大介はパッと目を開いて、身を起こそうとしたが、重い何かにベッドに押し付けられて、動けなかった。「!!」目の前にあるのは悠治の顔だけど、その顔から感じたオーラは悠子の物だ。悠子は片膝を大介の腹に押し付けて、両手で大介の両肩を
last updateLast Updated : 2025-06-11
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第8話 夜光の蝶(02)

「いますぐ悠子を出せ。話はまだ終わっていない」大介はなんとか悠子の仕業だと説明して、芋虫に戻ろうとする悠治を呼び止めた。「俺だけじゃなく、悠子様までいじめるつもり?」悠治は冷笑した。「どっちがどっちをいじめてたのか、自分の胸に手を当ててみろ……」その厚かましさに大介は仰天した。「言っておくけど、悠子様に何があったら、俺は死んでもお前を道連れにするからな」「……」ああ、やっぱり同じ人間か……大介は頭を抱えて、自分の不運を嘆くしかできなかった。 あれから、カフカ小説のように悠治の芋虫化が進んでいる。夜中に悠子がでてきて、お風呂や着替えをするけど、やはり大介の家から離れないし、ロクな文字も書かない。小説削除や写真返還の件に触れる度に、悠子は秒で消える。その我慢比べの状況を打破するために、大介はいろいろ試みた。食事で誘惑、言葉で精神攻撃、体を叩く……けど、どれも雪枝の一通の応援電話に敵わなかった。ある日、雪枝と15分くらい電話をする間に、悠治は布団から出てきた、信じられない速さでパソコンを叩いて、一本の企画ラフを完成した。やはりこれしかないかと悟った大介は、善良な人間としてのプライドを捨てて、徹底的にシスコンの弱みを利用すると決意した。 数日後、雪枝の3D印刷等身大パネルが突如にスタジオに現れた。「雪枝さんが見てるぞ、さっさと真面目にやれ」大介は悠治を布団から引っ張り出して、パネル雪枝を見せた。更に、手元のスピーカーのリモコンを押して、パネル雪枝を喋らせた。「お兄ちゃん、頑張って!ずっと応援しているから!」「……」悠治が肩が震えて、パッとリモコンを叩き落とした。「こんなものに騙されるものか!妹の写真と声を使って変態みた
last updateLast Updated : 2025-06-12
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第9話 お願い、妹のそっくりさん(01)

「へぇ~本当にあたしとそっくりですね」大介が雪枝の写真を見せたら、小日向穂香という応募者も驚いた。「こちらの雪枝さんのお兄さん、悠治くんはうちのシナリオライターです。悠治くんは、雪枝さんの結婚相手に気に入らないせいで、かなり落ち込んでいて、仕事が全然進まないです」大介は適当に話をいじって、事情を穂香に伝えた。「あらら、大変ですね。でも、分からないことでもないですわ。お父さんやお兄さんによくある気持ちですね。実は、私も恋人のことで家族と揉めたことがあります」穂香はふんわりと笑った。雰囲気からすると、彼女は明るくて、優しい性格の子だと大介が判断した。「ああ、だから、予め説明しておきたいと思います。最近、オレはいろいろ試していて、悠治くんを励んでます。そのうち立ち直ると思いますが、その前に、ご迷惑をかけるかもしれません。ご理解をいただけると助かります」「反町さんはいい人ですね。落ち込んでいる仕事仲間を切るのではなく、励むのですね」穂香は優しく微笑んだ。大介が彼女を「回復のカギ」として使おうとすることに全く気付いていないようだ。「これも何かのご縁だと思います。厚かましいですが、小日向さんも適当に悠治くんを励んいただけますか?雪枝さんとそっくりの小日向さんの励みがあれば、彼はもっと早く立ち直るでしょう」「ええ、もちろんですよ。仕事仲間ですもの」穂香は快諾した。こんないい子を利用することからの罪悪感が半端じゃないが、大介にはほかの方法がない。それに、雪枝にそっくりの穂香に巡り合うことは、きっと神様が不運の彼に授かった助け船だと、大介は何処かで信じている。 「雪枝!?」スタジオに入った穂香の姿を見たら、悠治は慌てて床から起きた。「紹介します。今日から、チームに参加する小日向穂香さんです」「!!」「雪枝、じゃない…?」悠治は数秒間戸惑ったけど、すぐに大介の企みに気づいた。「よくもここまで……!」
last updateLast Updated : 2025-06-13
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