平穏な日常を壊す影は、気が付かない間に真後ろに迫っていたりする。 気が付いたのは八月上旬、仕事にも護との二人暮らしにも慣れてきた頃合いだ。 滅多に人が訪れないマンションに招かれざる上司が尋ねてきたのが始まりだった。 「よぅ、お二人さん。仲良くやってる? って、聞くまでもねぇか」 呆れ顔の清人に、一番驚いて慌てふためいていたのは護だった。 直桜に口移しで邪魅を吸い上げてもらっていた最中だったからだ。 インターフォンも押さずに入ってきた清人が、二人を気に留める様子もなくソファに座った。 顔を真っ赤にして取り乱す護を余所に、直桜は何事もなかったようにコーヒーを淹れて差し出した。 「清人が事務所に来るなんて珍しいね」「そりゃ、上司だからねぇ。来ることもあるだろ。普段から、そういう心持でいてほしいけどなぁ」 清人がニヤついた目を護に向ける。 「いえ、その、今のはただ、直桜に邪魅を吸い上げてもらっていただけで」「そういうの、オフの時に部屋でしたらいいんじゃないのぉ」 ぐうの音も出ないといった顔で、護が押し黙る。 「来てもいいけどさ、せめてインターフォン押したらいいんじゃないの?」「お前は揶揄い甲斐がねぇなぁ、直桜。護くらい慌ててくれたら可愛げもあるのに」 がっかりした顔を向けられても、困る。 「|疚《やま》しいことはしてないよ。護の体に邪魅を溜めとく方が、害だろ」 清人がニタリと笑んだ。 「護、ねぇ。ふぅん。俺の前では無理して化野って呼んでた? もしかして俺が思うよりずっと仲良くなってる感じなのかな?」「うっさい。バディを名前で呼んで、悪いのかよ」&
Terakhir Diperbarui : 2025-06-14 Baca selengkapnya