Semua Bab 仄暗い灯が迷子の二人を包むまで: Bab 21 - Bab 30

53 Bab

第20話 連続失踪事件

 平穏な日常を壊す影は、気が付かない間に真後ろに迫っていたりする。 気が付いたのは八月上旬、仕事にも護との二人暮らしにも慣れてきた頃合いだ。 滅多に人が訪れないマンションに招かれざる上司が尋ねてきたのが始まりだった。 「よぅ、お二人さん。仲良くやってる? って、聞くまでもねぇか」  呆れ顔の清人に、一番驚いて慌てふためいていたのは護だった。 直桜に口移しで邪魅を吸い上げてもらっていた最中だったからだ。 インターフォンも押さずに入ってきた清人が、二人を気に留める様子もなくソファに座った。 顔を真っ赤にして取り乱す護を余所に、直桜は何事もなかったようにコーヒーを淹れて差し出した。 「清人が事務所に来るなんて珍しいね」「そりゃ、上司だからねぇ。来ることもあるだろ。普段から、そういう心持でいてほしいけどなぁ」  清人がニヤついた目を護に向ける。 「いえ、その、今のはただ、直桜に邪魅を吸い上げてもらっていただけで」「そういうの、オフの時に部屋でしたらいいんじゃないのぉ」  ぐうの音も出ないといった顔で、護が押し黙る。 「来てもいいけどさ、せめてインターフォン押したらいいんじゃないの?」「お前は揶揄い甲斐がねぇなぁ、直桜。護くらい慌ててくれたら可愛げもあるのに」  がっかりした顔を向けられても、困る。 「|疚《やま》しいことはしてないよ。護の体に邪魅を溜めとく方が、害だろ」  清人がニタリと笑んだ。 「護、ねぇ。ふぅん。俺の前では無理して化野って呼んでた? もしかして俺が思うよりずっと仲良くなってる感じなのかな?」「うっさい。バディを名前で呼んで、悪いのかよ」&
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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第21話 反魂香と生神様

 事務所を出て自室に戻ろうとした護の足が止まった。 反魂香と聞いてからの清人の態度は明らかに様子が変だった。 いつもなら受け身の直桜が、やけに積極的に見えた。 それらの違和感は、護の胸に痞える不安の種を芽吹かせた。  護の足は自室ではなく、事務所の扉に戻っていた。 そっと耳をそばだてる。気配を消して二人の会話にだけ集中した。 「どういうつもりで言ってんだ。バディだからって、なんでも話していいわけじゃないだろ」  直桜に向けられた清人の声が、明らかに焦燥と苛立ちを含んでいる。 「隠し事するつもりはないよ。護が他言しなきゃいいだけの話だろ」「そりゃ、そうだけど。護の前でうっかり直桜様って呼ぶところだったぞ。本気で反魂香に関わるなら、敬語使っても怒るなよ」「それとこれとは別だと思うんだけど。ちゃんと気を付けてよ」  ドキリ、と心臓が嫌な音を立てた。 (直桜、様? 敬語? 二人は一体、どういう関係で……)  二人の会話の内容が、よく理解できない。 ただ、護が知らない関係性が存在しているらしいことだけはわかる。 「桜谷集落が俺に課したミッションは、反魂儀呪に下った|八張《やばり》家の追跡と盗まれた反魂香の奪還だよ。情報収集は過程の副産物みたいなもの。清人なら、知ってるんじゃないの?」「知ってるよ。だからこそ、集落に帰りたくない理由を聞いたんだ。あの場所が嫌いなのは本音だろうけどな。お前は、守るためにも動いてる。意外だと思ったんだよ」  会話が途切れた。 護は一層に耳を扉に押し当てた。 「集落に戻れば、俺は生神として一生、社に祀られて終わりだ。誰も触れられない孤高の存在になるんだよ。そんな場
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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第22話 彼方の記憶

 護が13課の存在を知ったのは、十五歳の時だった。 鬼化などしなくても喧嘩で負けたことはなかった。差別には暴力で抗うしかない。それが己を守る唯一の方法だと信じていた。  価値観を粉々に打ち砕いたのは、東京からやって来たおかしな連中だった。嵯峨野を荒らしまわっている鬼がいると聞きつけて退治しに来た男に、護は完敗した。 「それだけの力を無駄に使うな。天が与えた才を使う場所をくれてやる」  笑いもせず、蔑みもせず言い放った男は、警察庁公安部特殊係13課の班長・|須能《すのう》|忍《しのぶ》と名乗った。 「天が与えた、才?」  鬼の力を才能と呼んだ人間に、初めて出会った。自分自身ですら、煩わしいとしか感じていなかったのに。 褒められたわけでも評価されたわけでもない。その、たったの一言で、この男に付いて行ってみようと思った。 忍の計らいで故郷の嵯峨野を離れ、東京の高校に進学した。 この場所で生き直そうと思った。  高校に通いながら、護は13課の仕事を始めた。 霊・怨霊担当部署では、バディを組まされた。初めて一緒に仕事をする男は、忍と一緒に嵯峨野に来ていた奴だ。 妙にチャラくて軽いのに、やけに親切で隙がない。 「藤埜さんはやめろって。清人でいいよ」  急に距離を詰めてくる人間は好きではない。蔑まれる鬼に寄ってくる人間は、大体が下心を持っている。 だが、この男はどうやら違うらしい。 仕方がないので清人さんと呼ぶことにした。  この頃は清人も大学生で、学生コンビだったので、然程大きな仕事が入ることもなかった。 東京に来て半年ほどが経過し、土地にも仕事にも順調に慣れた頃、大きな捕り物があった。 怪異対策担当部署、通称妖怪退治部が巨大反社の摘発をするの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
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第23話 惟神が嫌いな男

 一つのピースを見付けてはめ込んだことで、バラバラだった総てのピースが繋ぎ合わさったような感覚。 唐突に、頭の中が整理された。 これまでに得た情報の総てが、直桜に一つの可能性を示唆する。 「確か、半年前の集会の時って、他部署が出払っていたせいで護たちも呼ばれたんだよね?」「ええ、大規模な集会が関東各地でいくつも行われていて、人手が足りずに」「何ヶ所くらい? いや、そうじゃないな……。13課全員が出払った?」「そう、ですね。ほぼ総動員で、残っていたのは班長と副班長くらいだったと思いますが」  直桜の表情を眺める護のが、戸惑いがちに答えた。 (場所は、どこでも良かったんだ。護と未玖がどこに来ても良いように、総ての場所で同じ実験を準備していた。集会の数は護と未玖を確実に動かすための、ブラフ)  十年前の集会で生き残った少年に、仮に呪術が残っていたとして。 13課の人間に保護され成長しながら、呪術が彼の中で育っていった。 初めからの計画であったとしても、偶然に生存を知ったのだとしても。 半年前に行われた実験は、未玖を完成させるためのものだったのではないのか? (血魔術を解くのなんか、簡単だ。浄化をしながら未玖が血に触れるように仕向ければいい。未玖が|血《穢れ》を浴びれば、呪詛は完成だったんだ)  反魂儀呪の目的は、人の霊を使った呪詛を作ることに留まらなかった。 更にその先、作った呪詛を鬼の体に宿すこと。 それこそが、実験の本当の目的だったのではないのか。 「未玖は穢れに弱い体質だったわけじゃない。穢れを引き寄せ吸い込む呪術に犯されていたんだ。取り込んだ邪魅がキャパオーバーだったんだよ」  護の、鬼の血が呪詛を完成させる最後の··だった。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-17
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第24話 大切なものを作る覚悟

 直桜は隠し持っていた呪詛の石を取り出した。 「これ、未玖が現場に残した呪詛の欠片だ。槐ですら回収できなかった。だから、残ってた。俺が、見付けて持って帰ってきた」  手を伸ばし触れようとする護から遠ざける。 「触れたら呪詛が完成する。だから護には触れさせない。なんで未玖がこんなことしたか、わかるだろ?」「呪詛を、完成させないため。俺を、守るため」  直桜は頷き、石を握った手を目の高さに掲げた。 (本当は、もっと違うやり方をするつもりだったけど)  呪詛の石を軽く握る。掌大の石に亀裂が入った。罅割れた隙間から光が溢れる。軋む音がして、石が粉々に砕け、砂になって消えた。 「これで呪詛は完成しない。その代わり、魂魄はもう、祓うしかない。霊には戻してやれない」  直桜は護の腹に手をあてた。 「今ここで、俺が祓う。未玖の霊を殺すのは、俺だ。俺のこと、恨んで良いよ」  護の腹を強く押す。 直桜の手から、清浄な光が溢れ出す。 「直桜! 待って、待ってくださ……」「動くな」  狼狽える護を一度だけ睨む。 目が合った瞬間、護が言葉を失い、動きを止めた。  ゆっくりと目を閉じる。 自分の手を護の腹の中に沈めていく。 体内で拍動する魂魄を包むように握った。 温かな熱と冷たい呪詛が混ざり合えずに、直桜の手の中で蠢いた。 (未玖。お前も俺のこと、恨んで良いよ。その代わり、これからは俺が護の傍にいる。嫌われても避けられても、俺が守るから) 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-18
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第25話 【R18】神紋の儀式

 化野護は、困惑していた。 いつもベッドで自分の下にいる愛しい恋人が、自分に跨り雄の顔をしている。何と返事をすればいいのか、どう動くのが正解なのかわからずに、フリーズした。 そうしている間にも、直桜は護の唇を食んで、耳を食んで舐めあげる。「ぁっ……、直桜、待って。ここ、事務所。せめて、部屋に」 胸を押し退ける手に力が入らない。「どうせ誰も来ないよ。清人はもう帰ったし。てか俺、今移動したら意識飛ぶから、このままさせて」 シャツを捲り上げて肌に触れる直桜の指が熱い。 耳に掛かる吐息も早くて、熱を帯びている。(惟神の力をこれほどに消耗して……。こんな直桜、初めて見た) 未玖の清祓は護が思っていた以上に直桜の負担になったらしい。それほどに難しい魂魄だったのだろう。 今まで他の惟神でも、浄化師でも清祓師でも成し得なかった術を、この短時間でやってのけたのだから、当然だ。「直桜、休みましょう。神紋の定着は、今でなくてもいい。後でゆっくり、とっ」 思い切り、下唇を噛まれた。 流れた血を、直桜の舌が舐め挙げた。「ダメだ。後回しには出来ない。逃がさないって言ってるだろ」 開けたシャツを邪魔そうに退けて、鎖骨に噛み付く。 ビクリと震える護の肩を抑え込んで、肌を強く吸われた。びりっと甘い痺れが走って、力が抜ける。「でも、直桜がこれ以上、神気を消耗しては……んっ」 鎖骨を食んでいた唇が胸に降りて乳首を弄る。 舌先でコリコリと捏ねられて、腹が疼いた。「今は、良いんだってば。素直に俺に抱かれててよ」「直桜……、どうしたん、ですか。何か、焦って……」「別に焦ってない。いいからもう、黙って」 唇と強く押しあてられる。 舌が割り込んで、上顎を強く舐め挙げた。 息ができない程なのに、指で胸の突起をつねられる刺激
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-19
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第26話 呪術の現場

 清人が仕事を持ち込んでから三日後、直桜と護は栃木県小山市に来ていた。郊外にある廃墟のアパートは立ち入り禁止のテープが張られている。 「邪魅の濃さが桁違いですね。浄化は済んでいるはずですが、元々、邪魅が溜まりやすい場所でもあるのでしょう」  辺りを見回す護の横顔を眺める。 未玖の魂魄を祓って以来、護が邪魅に中てられることはなくなった。 (むしろ邪魅の多い所にいると調子良さそうに見えるな。鬼って本来、そういう生き物か)  安心する反面、少し残念にも思う。 (もう、邪魅を吸い上げてやる必要はないんだな)  頭の片隅でそんなことを考えながら、直桜は護の後ろについて歩いた。 アパートの外階段を昇っていく。錆びかけた鉄製の階段は、一歩踏み込むたびにギシギシと音を立てて揺れる。 二階の一番奥の部屋の前に立つと、籠った邪魅の気配だけで吐き気がした。 「本当に浄化、済んでるのかよ」  口元を覆い、思わず漏らす。 「辛ければ、待っていてください。私が確かめてきますから」  直桜を下がらせようとした護の手を押しのけて前に出た。 「行くよ。俺が入れば、それだけで清祓できるし。中の様子、実際に確認しないと意味がないから」「そうですね。では、こうしましょう」  護が直桜の手を握った。 顔を見上げたら、ニコリと微笑まれた。 「これは何か意味があんの?」「私が盾になれば、直桜に向く邪魅が減るでしょうから」  護が嬉しそうなので、手を握ったまま、部屋の中に入った。 現場は呪術が行われた状態そのままで保管さ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-20
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第27話 狭量で稚拙な嫉妬心

 次に向かった茨城県猿島の現場でも、同じ呪符が見つかった。 陽はすでに傾きかけていた。栃木から茨城を経て八王子への車移動は流石に時間が掛かる。 その間も直桜はずっと考えを巡らしていた。 何も聞かずにいた護が重い口を開いたのは、八王子の現場に着く直前だった。 「今日一日、何を考えていましたか?」「何って、あの呪符のこととか、神降術のこととかだよ。枉津日神を降ろしてどうするつもりなのか、とか」  反魂香と神蝋があれば、神は降ろせる。だが、器をどうするつもりなのか。御霊と違って神は、どんな人間にも憑依するものではない。 降りる先は、神が決めるのだ。 (そんな特別な|人間《器》を用意できるとは思えない。少なくとも一朝一夕には無理だ。だとしたら、繋ぎとめる鎖が必要になる)  鎖もまた儀式だ。だとすれば、近いうちに反魂儀呪がまた集会を行うはずだ。 「本当に、そうですか?」  護の言葉に、直桜は思考を止めた。 「八張槐のことを考えていたのではないですか?」  確かに、考えていた。 これだけの儀式を執り行えるのは槐しかいない。あの男が何を企み、何を成したいのか。枉津日神を降ろしてやろうとしていることは何なのか。考えないはずはない。 だがきっと、護が言いたいことは、そうじゃない。 「直桜が初めてバイトの面接に来た時、どんな顔をしていたか、自分でわかっていましたか? 私はよく覚えていますよ」  護が、ちらりと直桜の顔を窺った。 「今のような顔をしていました。眉間に皺を寄せて、苛々している様子を隠そうともしないで。不本意に怪異に関わる時、君はきっと、そういう顔をする。そう思っていました」 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-21
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第28話 罠に飛び込む

 八王子の現場は前の二か所とは明らかに様相が違っていた。 民家やアパートの廃墟を使って儀式を行う反魂儀呪にしては珍しく屋外だ。しかも今までの儀式跡より規模が大きい。 何より最も異なるのは、視認できるほどの結界が敷かれていたことだった。 「一応確認だけど、あの結界の壁は13課が現場保管のために敷いているものじゃないんだよね?」「違います。直桜なら視認しただけで、わかりますよね。私が気付くくらいです」  護が驚きを通り越して呆れた声を出す。 「まぁ、そうなんだけどね」  げんなりした声が自然と漏れた。 つまりこの場所だけ、他とは違う呪術が行使されていたということだ。 (この流れでいけば、神を繋ぐ鎖の儀式。神置か神封じのどちらかだ)  桜谷の集落でも、時々行われていた儀式だ。惟神に相応しい人間が現れなかった時のために、その場所に神に留まってもらうための場所を作るのが神置だ。 神封じなら文字通り、人間以外の入れ物か場所に封印する。 どちらであったとしてもあまり良い想像は出来ない。 「念のため、清人に連絡入れてくれない? この場所に枉津日神がいる可能性が高いから」  直桜の言葉に護が表情を強張らせた。 「もしいたら持ち帰るね、って伝えて」「そんな、荷物か何かみたいに……」  スマホでメッセージを打ちながら、護が呆れる。 「俺的にもかなりの大荷物だけどね。さすがに一人の|人間《器》に二柱の神は降ろせないからさ」  メッセージを送信し終えた護が、表情を変えた。 「現場保管用の結界も解かれています。13
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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第29話 八張槐という男

「やぁ、招待状を貰ったから、来てみたよ。久しぶりだね、槐」  穏やかな声音とは真逆に気を尖らせた直桜に、護が息を飲んだ。 「ああ、久しぶり。十年振りくらいかな。随分と背が伸びたな。俺が集落を出る前はまだ小さな子供だったのに。時の流れを感じるよ」  槐が不自然なまでに穏やかに笑む。 「そっちは随分、ガタイが良くなったね。集落にいた頃は、ヒョロ長の優男だったのに。反社のリーダーって筋肉必要なんだね」「元々リーダーだった母親が死んだからね。引継ぎやら儀式やらで体力がいるんだ。気が付いたらガチムチになっててさ。男前になっただろ?」  まるで正月に久々に会った親戚のような会話に、うんざりする。 (槐の母親、死んだのか。俺を異端と罵った、集落の術法を盗んで逃げた女。外で再婚したって聞いてたけど、やっぱり反魂儀呪に残ってたんだな)  槐が集落を出るより早く、槐の母親は集落を裏切った。そのせいで八張家の肩身が狭くなり、槐への長たちの当たりがきつくなったのは事実だった。 「前の方が良かったよ。あんまりガチムチだと気持ち悪い」  直桜の返事に、槐は吹き出した。 「そっか、直桜の好みは優男の方か。だから、化野護を好きになった? けど彼も鬼化したらガチムチだろ?」  直桜の隣にいる護が反応して前に出ようとするのを、止める。 「どうやら俺、見た目で人を好きになるタイプじゃないらしい。それに、好きになったら一途っぽいから、護はあげないよ」  護の前に出る。 槐の目が、笑んだまま暗く座った。 「狡いなぁ。俺の方が先に目を付けていたのに。13課に奪われて直桜にまで持っていかれちゃった
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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