Semua Bab 仄暗い灯が迷子の二人を包むまで: Bab 1 - Bab 7

7 Bab

第1話 わかりきった怪異

 岩槻駅からの道を歩きながら、瀬田直桜はスマホの地図を開いた。バイトの面接場所が、いまいちよくわからない。 アプリには真面に表示されないし、近隣を知る大学のゼミ仲間に聞いても、「そんな場所にマンションはない」と言われるばかりだ。 仕方なく行けるところまで、と来てみた訳だが、案の定、道に迷った。「やっぱり、やめとくべきだったよな」 普段の直桜なら、こんな如何にも怪しいバイトには絶対に手を出さない。だが、今回ばかりは何故か、ずるずるとここまで来てしまった。(条件が良かったってのもあるけど) 国委託の非常勤勤務だが、三カ月続けは準公務員、半年続けば国家公務員扱いになるらしい。 今時、国家公務員というのも、正直良い職業とも言えないが、故郷の親類は喜ぶことだろう。集落を説得できれば、大学卒業後も関東に残れる。(あんな地獄みたいな場所、二度と戻りたくない。説得できる強い材料、何でもいいから探さないと) 地元に戻らずに済む口実が得られるのなら、仕事の内容など何でもよかった。(上手くいきそうだったら今の内定蹴って、こっちに鞍替えしてもいいよな) 今、内定を貰っている企業も悪くはないが、説得のためには些か弱い。国家公務員くらいわかり易ければ、きっと納得してくれるだろう。確証はないのだが。 正直、何だったら納得してくれるのかもわからない。考えれば考えるほど面倒だ。 面倒くさすぎて、頭痛がしてくる。 思い出したら苛立たしくなり、ガリガリと頭を掻きむしった。「ん? あれ……?」 全体的に黒い建物が視界に入り込んだ。 さっきまで、こんな建物は無かったはずだ。 直桜は小さく息を吐いた。「やっぱ、《《そっち系》》の仕事かな。だとしたら、一発採用だろうなぁ」 躊躇うことなく、直桜は突然現れたマンションに足を踏み入れた。 自動ドアを潜り、面接に指定された部屋の部屋番号を押そうとパネルの前に立つ。 押す前に、エントランスの自動ドアが開いた。 奥に進み、エレベーターに乗ってみる。やはりボタンを押す前に3階のボタンが点滅した。 エレベーターを降り、303号室の前に立つ。 インターホンを鳴らす前に、扉が開いた。「本日、面接予定の瀬田直桜さんですね。怪異には慣れたご様子ですね。時間通りの到着も好ましいです」 眼鏡にスーツ姿の、如何にも公務員といった格好の
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第2話 神様と鬼①

 中はマンションの一室を改築した事務所のようだった。 ソファに座って待っていると、眼鏡の男が茶を運んできた。「他に誰か、いないんですか?」 事務所の中は静かだし、人気もない。「ここは私一人で使っています。同じ業種の仲間は多くいますが、各地方に一組か二組といったところです。関東ブロックは今のところ、二組で切り盛りしています。そのうちの一つの事務所がここ、埼玉支部です」 眼鏡の男が名刺を差し出した。「警察庁公安部特殊係13課 霊・怨霊担当 化野護です。今後、君は私とバディを組むことになります」 手渡された名刺を眺めて、直桜は目を細めた。「霊・怨霊担当……」「驚かないんですね」 呟いた直桜に化野が何の感慨もない声を掛ける。「いや、採用の速さには驚きましたけど」「そうではなく、こっち」 化野が名刺の肩書を指さす。 直桜は頭を掻いた。「俺、ちょっと霊感あるんですよ。怪異って割と身近だし、国が公にしていない処理部隊とかあっても不思議じゃないかなと思うから、別に」「嘘ですね」 目を上げると、化野がじっと直桜を見詰めている。「貴方の霊感は、ちょっとどころではない。怪異にも慣れ過ぎだ。13課の存在も、最初から知っていたんじゃないですか?」 この目はまずい、と思った。 敵意を孕んだ疑いの視線、直桜が最も面倒と感じる嫌いな目だ。 何より、目の前の男は恐らく自分と同類だ。「はい、嘘です。13課、最初から知ってました。多分俺、化野さんと同じ類の人間です。でも別に、アンタらが敵視する存在じゃない。そこは信じてください」 両手を上げて、あっさりと降伏する。 化野が姿勢を整え直し、改めて直桜に向き合った。「履歴書を拝見したところ、地元は滋賀県の大津市だそうですね。あの辺りは惟神が生まれやすい土地だと聞きますが」 直桜は心の中で、げんなりした。(やっぱ、そういう話になるよな。来なきゃよかったな)「身内にいますよ。13課の話は、そこで聞きました」 生まれながらに神の御霊を宿す惟神は稀有な存在として集落単位で大事にされる。 大昔は神様の生まれ変わりとして、生神という名の神社の御神体になっていたらしい。 近代になってからは、ある程度の年までは神社に仕え、成人すると国の機関に所属して仕事をするのが専らだ。「貴方自身は? 惟神ではないのですか?
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第2話 神様と鬼②

「なぁ、アンタ。いつから一人なの? 前のバディは?」 確か13課は、どんな担当でも二人一組で仕事をするのが常であるはずだ。「半年ほど前に、仕事中の事故で殉死しました。それ以降は、良いバディが見つからず一人です。13課は常に人手不足ですからね」 表情筋をどこかに忘れてきたのかと思うほど、さっきから顔は動かない。だがよく見れば、顔色が悪い。肌の色も心なしか赤黒い。(化野って姓は、確か……。京の外れの死体置き場、墓守の鬼、だったか) 直桜は化野の腕を掴み返した。「別に助けようと思ってるわけじゃないけど。ここで見捨てるのは、俺が気分悪いだけだから」 化野の腕を引き、頭を引き寄せる。 唇を重ねて、悪い気を根こそぎ吸い上げた。「ん! ……ぅっ」 声を漏らして閉じようとする口を無理やりこじ開けた。 舌を差し込んで、更に吸い付く。 化野の中に溜まった邪魅が直桜の中に流れ込んでくるのが分かった。 ひとしきり吸い尽くして、ごくりと飲み込む。 唇を離すと、化野の体が傾いた。「おい、ちゃんと座れよ」 ソファに促し、隣に腰掛ける。 背もたれに身を預けた化野が、呆けた顔で速い息をしている。「霊や怨霊を相手にしてたら邪魅なんか堪り放題だろ。鬼化したくないなら、他の奴らに都度都度祓ってもらえよ」 迷惑そうに言い放って、息を吐く。「祓戸大神の惟神の浄化は、すごいですね」 呼吸を整えながら、化野が感心した声を出した。「俺は祓戸四神の惟神じゃないから正確には浄化じゃないよ。直日神だから、聞食した。そのまま清祓も浄化も出来るけど」 化野が顔を上げて、直桜を見詰める。 その目は先ほどまでの敵意ではない、まるで尊敬と憧憬の目だ。 化野が、がっしりと直桜の手を握った。 咄嗟に逃げようとするも、化野の手が吸い付いて離れない。(こいつ、見た感じ細身の優男のくせに、力強すぎ。鬼の末裔だからか) 化野が直桜の両手を掴んだまま、顔を寄せてきた。「結婚しませんか。一生大事にします。君がどんなに性格が悪くても愛し抜く自信があります」「はぁ? アンタ馬鹿なの? 男同士で結婚なんかできないだろ。第一、性格悪いって最初から決めつけんなよ!」 腕をぶんぶん振って、何とか化野の手を振り解く。「そう、ですね。手を握っただけで私の中の邪魅に気が付いて聞食してくれたのだから、
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第3話 ハイスぺと憧れ

 普段はあまり見ないスマホを何度もタップする。 指の動きがイライラしていると、自分でもわかる。 一昨日、バイトの面接に行って以来、化野からは連絡がない。(そりゃそーだ。俺はバイト蹴ったんだし。今頃、新しいバイトでも探してんだろ) 自分が閲覧していた求人サイトからは広告が消えている。別のサイトに掲載しているのかもしれない。さすがに、それを探す気にはならないが。 スマホの画面を閉じて、息を吐いた。「何でこんなに、気になってんだろ」 会ってそうそう、プロポーズまがいなことを言われたからだろうか。 それとも、普段なら絶対に話さない自分の秘密を打ち明けてしまったからだろうか。直桜の秘密が化野から13課に流れる可能性はある。 さすがにそれは気になるし、心配だ。 今思えば、怪しいと思いながら、あの場所に向かってしまった。(これも縁、だったのかな) 化野とは、会うべくして会った。なんて、そんな漫画やアニメみたいなご都合主義的な考え方は好きではないが。 自分の唇に触れる。 邪魅の清祓や浄化は、何も口移しでないと出来ない術ではない。(溜まりまくってたから、アレが一番手っ取り早かったけど。よく考えたら俺、初めてキスした。今、気付いちゃった) 意識した途端、顔が熱くなった。(一昨日は全然、考えていなかったけど。普通、初対面の男にキスなんかしないよな。何やってんだ、俺。きっと雰囲気に流されまくったんだ) 好きだとか愛してるとか言われて、違和感がなくなっていたのかもしれない。 改めて、昨日の自分は何もかもが軽率だったと思い知った。「マジでらしくない……」「何が、らしくないの?」 独り言に返事をされて振り返る。 同じゼミの|枉津《おうつ》楓が直桜に微笑み掛けていた。「いや、別に……」 仲の良い楓相手でも、さすがに昨日のことは話せない。「確かに、直桜がスマホに向かってイライラしてるのは、らしくないかもね」「楓、何時から見てたの?」「歩いてくる間、ずっと見てたよ」 楓が後ろを指さす。 校舎から正門に向かう道は広い一本道だ。良く見えたことだろう。「おーい、直桜! 楓!」 楓が指さした方向から、田中陽介が走ってきた。 二人の間に割って入ると、肩に腕を回した。「今日、飲み行かね? 久々に遊ぼうぜ!」 いつもの明るい声でにっかりと笑う。
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第4話 なりゆき

 直桜は化野が運転する車の助手席に座っていた。 必死に懇願する化野を無碍にできなかったというのもあるが。 ちらり、と化野の左腕を窺い見る。 隠しきれない邪魅が纏わり憑いていた。(一昨日、祓ったばかりなのに、何でこんなに憑いてんだ。そもそもコイツ、鬼だろうに) 化野の墓守は、平安の昔、陰陽師によって捕らえられ朝廷に仕えることを余儀なくされた鬼の一族だ。 縛りを持つ代わりに強い力を許された上、死という穢れの中に身を置いていた一族だけに、邪魅には耐性があるはずだ。 邪魅を操ることはあっても、蝕まれることなど本来ならないはずなのだ。(会った時から微妙に違和感はあったけど、なんか隠してそうだな。話してくれれば、全部祓ってやれるのに) そこまで考えて、我に返った。 まだ二回しか会っていない男のために、そこまでしてやる義理はない。惟神の力を使うことだって、本当なら望まない。「突然付き合わせて、すみません」 直桜の視線を感じ取ったのか、化野が気まずそうな声で謝罪した。「別にいいけど。この車って、どこに向かってんの?」 直桜の問いかけに、化野がわかり易く黙った。「アンタの清祓なら引き受けるけど、仕事は手伝わないよ」「承知しています」 直桜には視線すら向けずに、化野はまっすぐ前を向いて車を走らせる。「……瀬田くんは、13課に関わるのは、やっぱり嫌ですか?」 ぽつり、と化野が呟くような問いを投げた。「嫌だよ。ていうか、怪異に関わるのも惟神の力を使うのも嫌だ。俺は何もない、普通の人間として生きたいんだよ」 ふい、と窓の外に顔を背ける。 不貞腐れた自分の顔が窓に映って、我ながらガキ臭いと思った。「普通、ですか。では何故、私の清祓を申し出てくれたんですか? 惟神の力は使いたくないんですよね?」 直桜は、答えに窮した。そんなこと、自分でもよくわからない。 ただ、あのまま化野との縁が切れてしまうのは嫌だと、少しだけ思った気がする。気がするが、そのまま言葉にする気にはなれない。「私が、墓守の鬼の一族であると、気が付いていますよね」「ん、まぁ、何となくは」 話の向きが変わって、直桜は正面を向いた。 車は街中を通り過ぎ、人気がない場所に向かって走り続けている。「私は生まれた時から、普通じゃない人間でした。普通じゃない人間が普通の輪の中で生きる
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第5話 神喰いの惟神

「瀬田くん、もう目を開けていいですよ」 化野の声に促されて、目を開く。 ゆっくりと頭を上げると、目の前にログハウスがあった。 化野の手が、直桜の腕から離れる。「これでしばらくは、時間が稼げます」 車から降りた化野に続く。 周囲の木々は静かだ。さっきまでの殺伐とした気配は、どこかに消えていた。 ログハウスの中は、綺麗に整理されていた。「掛けて待っていてください。飲み物でも淹れます」 キッチンに立つ化野は、勝手知ったる様子だ。「ここって、化野の別荘なの?」「別荘、ですかね。一人になりたい時に使っている場所です。ここは現世から隔離された空間ですから」 化野が言う「一人になりたい」とは13課の人間の干渉を離れたい、という意味なんだろうと、すぐに理解できた。 普段からほぼ一人で仕事をしている化野が、わざわざあの事務所を離れる理由はなさそうに思ったからだ。(前のバディとは、上手くいってなかったのかな。……別に、どうでもいいけど) 13課は救いになったと話していても、離れたい時もあるんだろうか。「早速ですが、本題に入ります。あまり時間がありませんので」「時間、ないんだ」 化野が真面目な面持ちで頷く。 現世から隔離した空間に逃げても、すぐに見つかるということなんだろう。 そもそも、ずっとここにいる訳にはいかない。化野にも直桜にも、生活があるのだから。「その前にさ、こっち何とかしとこうよ」 直桜は立ち上がり、化野の腕に手を掛けた。 車に乗っていた時より、邪魅が膨れ上がっている。(この辺りに怨霊や霊の気配はないのに、なんで邪魅が増えるんだ) 直桜は無意識で化野の腹に手をあてた。 何かが拍動する気配がする。(なんだ、これ。腹ン中に、まだこんなにデカい邪魅、……いや、違う。これは、魂魄?)「待ってください、瀬田くん!」 大袈裟に体を捻ると、化野が直桜の体を突き放した。「なん、だよ」 驚く直桜に気が付いて、化野が気まずそうに顔を背けた。「いえ、今は、瀬田くんの話をしないと。ここもすぐに嗅ぎつけられてしまうでしょうし」 明らかに何かを誤魔化している態度が、気に入らない。 直桜は再び化野の手を取った。「憑いてる邪魅を祓うだけだよ。すぐに終わる。それとも、祓われたら困る理由でもあるの?」 目を逸らしたまま、化野が俯いた。「
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第6話 霊・怨霊担当統括 藤埜清人

「瀬田くん! ダメです!」  化野が後ろから直桜の体に抱き付いた。 吐息も手の温度も、やけに熱い。 「それ以上は、清人さんを殺してしまいます!」  直桜の耳元で、化野が必死に叫んでいる。 化野の腹が背中に触れた瞬間、直桜の体から神力が吸い取られた。 神力と一緒に溢れていた怒りが沈んでいく。 直桜は化野を振り返った。 「化野、そこ、座って」  声は冷静だったと思う。 化野は直桜の言葉に従い、素直に椅子に腰かけた。 邪魅を纏った腕と腹に手を添える。 「瀬田くん! 待って……」「魂魄は祓わない。無駄に増えてる邪魅だけ祓う。このままにしてたら、化野が鬼化するだろ」  あてた手のひらから邪魅を吸い取る。 体の中に取り込んで聞食すと、清浄な気だけが体外に流れた。 化野の手を取って、自分の頬に添える。まだ、熱い。 「ありがとうございます。……あの、瀬田くん?」  困惑した声が頭の上から聞こえる。 「化野の手って、いつもこんなに熱いの?」「……前は、冷たいくらいでした」  気まずい声だが、黙り込まずにちゃんと答えてくれた。 「そっか。やっぱ、そうだよな」  腕を伸ばして化野の腰に巻き付けると、腹に顔を寄せた。 「え⁉ 瀬田くん⁉」  更に困惑した声が降ってくるが、気にしない。 手を伸ばして、化野の手を握り締めた。 (何で俺が一昨日、あのマンショ
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