今日は、神谷慎吾(かみや しんご)との五十二回目の結婚式だった。けれど、今回は誰も招待しなかった。参列したのは、私たち双方の家族だけ。高熱を押して、私は式場の演出を担当するディレクターと細かい確認をしていたのに、慎吾はまるで私の存在など気にも留めなかった。その頃、新郎控室では、慎吾が急いで駆けつけてきて、足を捻ってた修習生の白石花音(しらいし かのん)の脚をずっと揉んでいた。それを見た両親は、何度も首を振って私に同情した。「何度もこんなに頑張ってるのに、あの人は一度でもあんたのことを大事にしたか?」みんな知っていた。私はこの式にどれだけ思いをかけているか、どれだけ本当に幸せな結末を願っているか。でも、式が始まる直前になっても、慎吾はまたしても姿を現さなかった。そして、今回も突然、式をキャンセルすると言い出した。急いで外に出た私を、彼は腕でとめた。「花音の足、まだ治ってないんだ。病院に連れていかないと」「今回の式も中止にしよう。次は、次こそはちゃんとするから」そう言って、私の手を振り払うと、彼は花音を助手席に乗せて走り去った。付き合って五年。これで五十二回目。花音のために、彼はまた私との結婚式をキャンセルした。もしこれが前だったら、私はきっと声を荒げていた。「どうして式の時ばかり花音を優先するの?」って。でも今回は、私はただ黙ってその場に立ち、静かに笑った。「大丈夫。花音さんの足、確かに放っておけないよね」慎吾は一瞬、驚いたように私を見た。私が素直に納得したことに、意外そうな顔をした。「そう思ってくれてよかった。夜には、君の好きなあの苺ケーキを買って帰るよ」「うん」と私は頷いた。そして、彼が車の窓を閉めて去っていくのを見届けたあと、すぐに表情を戻した。彼は忘れていた。私は苺が嫌いだし、ケーキも嫌い。苺のケーキが好きなのは、私じゃない。昔、私を元気づけようと彼が一度だけ買ってくれたことがあった。私は彼の気持ちを無駄にしたくなくて、吐き気をこらえて一口食べた。あとで正直に「苺もケーキも苦手」と伝えた。彼はその場でスマホを取り出して、メモ帳に書き込んだ。「絶対に忘れない」って。それから、たった一年しか経っていないのに、「絶対」はもう過去のものになっていた。頭上に照りつける太陽が、私の身体
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