ジメジメした日が続き、時期に梅雨が到来しそうな頃。佐藤宗次こと佐久間宗太郎は、妻・鮎子を宿に残し、一人で鳥取の街へ繰り出してた。享保年間の旅で博多を拠点に評を広め、江戸の暗殺未遂を偽名で逃れた宗太郎は、山口で弟子・太郎を失い、広島で鮎子と結婚。島根の出雲そばを味わった後、鳥取に到着した。黒崎藤十郎の陰謀は遠ざかり、沙羅の協力で暗殺計画が中止されたが、旅の緊張は続いている。鮎子との穏やかな日々の中、宗太郎は一人で街を歩き、自身の心を確かめたくなった。鳥取の繁華街は活気に満ち、魚介の香りと商人の声が響き合う。宗太郎は路地裏に佇む小さな料理屋「海鮮蔵」に目を留めた。古びた看板に「蟹料理」と記され、店内からはカニの香ばしい匂いが漂う。宗太郎は暖簾をくぐり、カウンターに座った。店主の三郎が迎えた。「いらっしゃい。珍しい旅の風態だな。蟹を食うか? 今日の松葉ガニは新鮮だぞ。」宗太郎は頷き、注文した。「三郎殿、松葉ガニの刺身と焼き物をお願いする。」三郎は慣れた手つきでカニを捌き、調理を始めた。宗太郎は店内の賑わいを見渡し、旅の疲れを忘れるように深呼吸した。程なくして、松葉ガニの刺身と焼き物が運ばれてきた。 松葉ガニの刺身は、白い身が透き通るように輝き、醤油とわさびが添えられる。 松葉ガニの焼き物は、殻ごと炭火で炙られ、香ばしさが立ち上る。 宗太郎はまず刺身を手に取り、香りを嗅いだ。カニの甘い香りが、わさびの刺激と混じり合い、口に入れると濃厚な旨味が広がった。次に焼き物を味わうと、殻から溢れる汁と炭火の香りが、鳥取の海の力を感じさせた。宗太郎は筆を取り、評を書き始めた。松葉ガニ、鳥取の海の誇り。刺身は甘みが舌に溶け、わさびが海の風を呼ぶ。焼き物は炭火の香りが殻に宿り、鳥取の力強さを刻む。旅の途中で出会った味は、俺の心を満たす。評を書き終え、宗太郎は源太郎に見せた。三郎は目を細め、笑顔で頷いた。
Terakhir Diperbarui : 2025-06-28 Baca selengkapnya