Semua Bab 結婚式の前に、彼は別の女に誓った: Bab 11 - Bab 20

20 Bab

第11話

電話の向こうは、ぴたりと静まり返った。葉月は、彼が何か言い出す前に通話を切った。「ごめんなさい、変なところを見せちゃって」「ブロックしないの?」葉月は一瞬ぽかんとした。茂人は変わらぬ表情で言った。「元彼に希望を与えなければ、自分も煩わされずに済む」葉月は思わず茂人の顔を見た。言い慣れてる。元カノ、多かったりして?でも、それが茂人なら、好かれて当然かもしれない。彼の言葉に背を押されるように、葉月は晴樹をブロックした。その様子を見て、茂人の目元にかすかな笑みが浮かんだ。「行こう。君をマンションまで送るよ」到着して初めて、彼が自分の隣室に住んでいることを知った。「ここのことは俺の方が詳しいから、一緒に生活用品を買いに行こう」そこまで言われては、葉月にも断る理由がなかった。買い物を終えたら、ささやかながらのお礼にと、彼女は食事をごちそうすることにした。「好きなもの頼んでね」茂人は遠慮せずメニューを見て注文したが、出てきた料理は、すべて葉月の好物ばかりだった。「偶然だね」葉月は目元を緩めた。異国の地で同じチーム、似たような好み。きっと気持ちよくやっていける気がした。食後、二人で散歩しながら帰路についた。マンションの入り口に着いたところで、葉月のスマホに夏帆からのビデオ通話が入る。画面越しに、彼女はあれこれ気遣ってきた。葉月は微笑みながら、丁寧にひとつひとつ答える。ふとカメラが揺れた拍子に、茂人の姿が映り込んだ。夏帆が大きく目を見開いた。「えっ、ちょっと待って!先輩じゃん?」葉月はカメラを少し傾け、茂人の全身を画面に入れた。彼らは同じ大学の卒業生だった。茂人は学内の王子様と呼ばれた存在で、夏帆が覚えていても不思議ではない。だが、その反応は想像以上だった。「昨日別れたって話したばっかじゃん!展開早すぎじゃない?」葉月はぽかんとした。彼女はようやく意味を理解して、茂人を見た。彼の顔色は変わらなかった。「葉月、聞いて。茂人って絶対あんたに気が……」大声で喋る夏帆の声を遮るように、葉月は通話を切った。顔が一気に熱くなる。「す、すみません、学長がそんなつもりじゃないってわかってる、夏帆がちょっと大げさで……」茂人は彼女の言葉を遮った。「謝る必
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第12話

晴樹はじっとスマホの画面を見つめていた。しかし、「追加許可」の通知は、いつまで経っても来なかった。葉月は、自分と寧音のことを知っているのか?そんなはずはないはずだ。彼は部屋を見渡した。ここは、葉月との新居として準備していたマンションだ。家電から家具、窓に貼られたステッカーまで、どこを見ても葉月の痕跡はなかった。彼は手のひらは汗でぐっしょりと濡れている。胸のざわつきが、もうどうにも止まらない。そのとき、ドアが開いた。入ってきたのは、寧音だった。「部屋にこもってばかりだから、みんな心配してるのよ」晴樹は彼女を鋭く見つめる。「教えてくれ。葉月はどうやって、あの結婚写真を手に入れた?」「ほんとに知らないの」寧音の目に涙が浮かぶ。「写真は、サブ垢で投稿しただけだったの。まさか誰かに見られるなんて」「見せろ、そのアカウント」彼女が投稿した写真は、ホテルで葉月が目にしたものと同じものだった。晴樹は一言も発せず、ひとつひとつ丁寧に写真を見ていった。最後の一枚まで確認し終えた。「晴樹、どうしたの?葉月はもう……」「この写真は偽物だ」寧音が動きを止める。「偽物じゃなきゃ困る。いいか、よく聞け」晴樹の表情は暗く、眼差しに凄みが宿っていた。寧音は思わず背筋を伸ばした。「……わかった」晴樹は立ち上がり、ドアの方へ歩き出した。「寧音。葉月が戻ってきたら、君は俺の妹に戻るんだ」バタン、とドアが閉まった。寧音は机に手をついて、やっとの思いで立っていた。そして低く冷笑を漏らした。妹ね。残念だけど、葉月の目には、寧音が晴樹の妹でいられる余地なんて最初からなかったのよ。すべて元通りになる?そんな夢、見てる方がどうかしてる。晴樹が部屋を出ると、家族や親戚たちが一斉に詰め寄ってきた。「どうなってるの?晴樹?」「話してくれよ、親戚中から電話きてるんだ」「なんで寧音と結婚写真なんか撮ってたんだ?」飛んでくる質問の嵐に、晴樹のこめかみがズキズキと脈打つ。「写真はフェイクだ。葉月が誤解してるだけだ。辞職して俺をブロックして……説明もできない」二度目の言い訳。それは、自分自身にも言い聞かせるような言葉だった。「葉月もひどいわよね。あの家族環境じゃ、ほとんど孤児みたいなもんだし。私たち
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第13話

葉月も、あの同窓グループのメッセージを見ていた。その中のひとつが、彼女の視線を少しだけ長く留めさせた。【結婚写真を撮った日、晴樹は出張だったんだよ。葉月だって知ってたはず】ひとつの嘘を、また別の嘘で塗り固めるだけ。可笑しいという感情以外、もう何も湧いてこなかった。誰もが「葉月は必ず戻ってくる」と信じて疑わない。違いは、戻ってくるのが半月のうちのどの日かという点だけ。葉月はグループ通知をミュートにした。待ちたければ勝手に待てばいい。彼女は戻らないし、影響も受けない。二年ぶりに茂人と再びタッグを組んだ。けれど、まったくブランクを感じさせなかった。まるで昨日まで一緒に働いていたかのように、スムーズだった。たった半月で、二つのプロジェクトを完璧にまとめ上げた。彼が自分への想いを見せたのは、最初の一日だけ。それ以降は、一線を越えるような素振りは一切なかった。そのため葉月は、あの日の出来事は思い込みだったのではとさえ感じ始めていた。茂人は、もともと自分に興味なんてなかったのでは、と。そんなある夜、彼はいつものように一緒に散歩し、途中まで家まで送ってくれた。そのとき、葉月のスマホに夏帆からメッセージが届いた。【あのグループ、全然見てないでしょ?】久々に同窓グループを開くと、一番下には朝方、茂人が送ったメッセージがあった。それは、半月前の投稿に対する返信だった。【口は悪いけど本音で言うね。葉月、君の条件で晴樹以上の相手はまず無理だよ】【俺は、彼よりマシだと思っていい?】葉月の足が止まる。心臓が一拍、打ち損ねたような感覚だった。茂人も立ち止まり、彼女のスマホ画面をちらりと見た。「グループなんか見てなかったよ。今朝、友人に言われて、初めて開いたんだ。「わざわざ反応しなくても良かったのに、何か言われるかも」「好きに言わせとけばいいよ。俺は気にしない」茂人は向き直り、街灯の下、長く伸びた影が葉月の足元に落ちる。「でも、君のことは別だよ。葉月、君のことは、大切に思ってる」夏の夜風が肌をなでるように吹き抜け、彼女は頬の熱が一気に上がる。葉月は思わず顔をそらし、何も言わずに歩き出した。茂人も、それ以上は言わず、静かに隣を歩く。葉月は唇を軽く噛んだが、視線は何度も茂人のくっきりとした
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第14話

「痛っ、茂人、そこじゃなくて違う、まずは……茂人、元カノ多いんじゃなかったの?」暖色のライトが、茂人の額に浮かんだ汗をやわらかく照らしていた。「いないよ。君だけだ」葉月は一瞬、言葉を失った。じゃあ、あの元恋人対処法は何だったの?彼の黒い瞳がほころび、囁く声が耳元をくすぐるように響いた。「葉月、教えてよ」彼女の思考が真っ白になる。その後起こったことは全てが混乱し、制御不能だった額をそっと寄せ合い、茂人の瞳は熱を帯びて燃えるようだった。その声は、低く甘く、耳の奥をくすぐる。「葉月、もう一回、いい?」葉月は心の奥が激しく震える。なぜか、「ダメ」とは言えなかった。翌朝。目を覚ました瞬間、茂人の顔が視界に飛び込んできた。「俺、初めてだったんだ」葉月の頭の中が一瞬、真っ白になった。茂人は笑いながら言った。「だからさ、責任取ってくれる?」責任を取らないなんて、難しかった。今のところ、葉月は彼に不満なんてひとつもない。その日のうちに、茂人はInstagramに【恋人ができた】と投稿した。葉月の名前こそ出さなかったが、例のグループでの発言との関連性に気づいた者がいて、すぐに話題になった。そして茂人は、それを否定することもなかった。午後、葉月は夏帆から電話が入る。「晴樹、頭おかしくなってる。酒飲みすぎて胃から出血して、病院に運ばれた」「ふーん」「葉月、グループでみんな噂してるよ。茂人と付き合ってるって本当なの?」葉月はちらりと茂人を見た。彼は一見落ち着いているが、持っていたペンを逆さに握っていた。「うん、本当」電話の向こうで夏帆が声を上げる中、茂人はペンを持ち直し、書類にサインした。耳が、じんわり赤く染まっていた。「あの半月で晴樹がまたホテル取り直して、式場も決め直して、あなたが戻るのを待ってたんだよ?今さら遅いって。今日、病院に運ばれてようやく慌てて、あなたの情報を探してるけど、ほんとバカみたい。自分のものだって思い込んでたんだろうね。海外赴任の話も、たぶんもう隠しきれない。でも気にしないで。放っておけばいい。勝手にどうにかなればいい」その男の話を聞いても、葉月の感情はまったく揺れなかった。「うん、わかった」通話を切った瞬間、晴樹の章は、完全に終
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第15話

「そんな呼び方、やめて。気持ち悪い」葉月に突き飛ばされた晴樹は、数歩よろめいてようやく立ち直った。彼の目が、一瞬で赤く染まる。「結婚写真のこと、ちゃんと説明したよね?あれは嘘だって。あの日、出張だったって話したじゃないか。俺と寧音は何もない。ただの妹みたいな存在だよ。君が嫌なら、もう二度と会わない。君が俺に居場所を隠してるから、必死に調べて、やっとここまで来たんだ。十時間も飛行機に乗って。葉月、お願いだ。こんな仕打ち、俺、耐えられない。」声は震え、ひどく惨めな響きだった。葉月は唇をきつく結び、胸の奥から込み上げてくる吐き気を必死で抑えた。「晴樹、本当に恥ってもんがないの?」晴樹は呆然と葉月を見つめる。「どうして?俺、何を間違えた?五年も付き合って、結婚目前だったんだよ?どうして急に、俺を捨てるんだ?」葉月は無表情で彼を見返す。「結婚式当日、何したか、自分でわかってるでしょ」晴樹の瞳が、さっと縮まった。「俺はエレベーターに閉じ込められてたんだ。君との結婚、すごく楽しみにしてた。遅れるなんて絶対ありえなかった。助け出されてすぐ、ホテルに向かった。でもどこを探しても君がいなくて。君にブロックされて、俺は何度もアカウントを変えて連絡しようとした。でも、説明するチャンスさえもらえなかった」葉月は笑った。晴樹が何をしたのか、誰よりも本人がよく知っている。なのに、わかっていて、わからないふりをする。「演技しすぎて、自分でも信じちゃった?寧音が妹?一つ屋根の下で、顔を寄せ合って眠れる妹なんて聞いたことない」その言葉に、晴樹の身体がびくりと固まる。葉月は鼻で笑った。「プロポーズの前夜、寧音にメッセージ送ってたでしょ。葉月との結婚は仕方なくて、本当に結婚したいのは君だって。結婚前は恋人同士、しばらく会わないほうがいいって理由つけて、その間ずっと寧音の部屋で一緒に過ごしてたよね。それに、あなたは『急な出張で結婚写真に同行できない』って言ったわよね?私に気づかれないように、寧音を数日間遠ざけたってまで言って。でも結果はどうだった?その結婚写真が本物かどうか、あなたがよく知ってるでしょ。晴樹、私たちには、これから先もいくつもの五年がある。寧音が求めてるのは、あなたと結婚式を挙げるたった1日だけ
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第16話

今の晴樹は、まるで飼い主に捨てられた犬のようだった。だが、葉月の心には微塵の同情も湧かない。「想像してる通りよ。そもそも、気づいてたでしょ?」そう言い残して、葉月は視線を外すと、そのまま扉を閉めた。部屋の中では、茂人がダイニングテーブルで彼女を待っていた。葉月が近づくと、茂人はごく自然に箸を差し出す。その手を受け取った瞬間、葉月の指先がかすかに震えた。「さっき、なんで出てこなかったの?」それは、茂人らしくなかった。恋人関係になったばかりの頃、彼は積極的に彼女への宣言をしていた。今や支社の誰もが、茂人が葉月のために海外に来たことを知っている。「葉月、俺も怖かったんだ」茂人は穏やかに笑った。「でも今はもう、怖くない」「どうして?」「葉月、君のことはわかってる。君は絶対に振り返らない人だ」茂人の目は、まっすぐに彼女を捉えていた。「今、俺のことをそんなに好きじゃなくてもいい。でも君は責任感のある人だ。いずれきっとあいつより、俺のことを好きになる。俺は、その価値がある」その言葉は、ごく静かだったけれど、葉月の心に小さな波紋を残した。「なんで責任なんて話になるのよ?」「君に一度振られてからも、俺は君だけを好きでいた。君以外の誰にも目を向けなかった。その想いが、君の責任として返ってきたなら、それは、俺の勝利だ」茂人の笑顔があまりにまぶしくて、葉月は一瞬、視線を奪われた。ふと、昔どこかで読んだ言葉が、頭に浮かぶ。潔白さは、男の最高のものだ。葉月と茂人は、本当に相性が良かった。価値観も、その他のあらゆる面でも。彼女の心に誰かがいる限り、他の恋は芽生えない。晴樹を完全に手放せたからこそ、彼女は茂人を選んだのだ。「茂人」「ん?」「もう、彼のこと好きじゃない」茂人の瞳が、ほんの少し明るくなった。葉月は視線を伏せる。「今、私が好きなのはあなただよ」数秒後、茂人は低い声で言った。「まずは、食べよう」お腹を満たしてからじゃないと、やることもやれないから。その頃、外。晴樹は、何度もドアを叩こうとしては、手を引っ込めていた。ほんの数分だったが、そのやり取りで彼のすべての希望は粉々に砕かれた。いつからだろう。自分が、葉月にとって最も嫌いな人間になっていたなんて。彼はた
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第17話

晴樹はどこからか車を手に入れたらしく、葉月が出勤すれば会社の外で待ち伏せ、帰宅すればアパートの前に車を停めて一夜を明かしていた。朝昼晩の三食は、彼自身が準備して人に届けさせ、受け取る頃にはまだ温かいよう、時間まで計算していた。かつて葉月が好きだったお菓子も、彼は苦労して日本から取り寄せ、そっと彼女のドア前に置いていた。だが、すべて無駄だった。葉月はそれらを、すべて彼の目の前で通行人にあげてしまったのだ。たった一週間で、晴樹は目に見えてやつれた。頬はこけ、目の下に濃いクマができ、表情は沈み込んでいる。たまに視線が交差すると、晴樹の目は赤く潤み、そこには必死の懇願が込められていた。だが葉月はすぐに視線を逸らし、まるで赤の他人を見るような目つきを崩さなかった。もう彼と、何の関わりも持ちたくなかった。それに、彼のせいで、茂人に嫌な思いをさせることもしたくなかった。初雪が降り、気温が一気に下がる。寒がりな葉月のため、茂人は早めに暖房を入れていた。一方、外にいる晴樹は、車のエアコンだけで凍える寒さに耐えていた。その夜、葉月はまた、フレンド申請の通知を受け取った。【葉月、この数日、ずっと昔のことを考えてた。本当に、俺が間違ってた。やり直さないか?】【外はすごく寒い。もう限界かもしれない。お願いだ、無視しないでくれ】葉月は、茂人が淹れた茶を手に取り、視線を落としたまま窓の外を見つめる。庭には、一台の車がぽつんと停まっていた。雪に包まれて、ひときわ寂しく見えた。「もう氷点下だよ。車の暖房じゃ、耐えきれないだろうな」茂人が葉月の隣に来て言う。「俺の部屋、貸してあげようか?」葉月は顔を上げる。「そんなに寛大なの?」「だって、彼が倒れたら、君が自分を責めるだろ?」茂人は肩をすくめて笑った。「いいの。大丈夫」葉月はゆっくりと茶を口に含む。体の芯から、ぽかぽかと温まるようだった。「寧音って人のことを疑い始めた時、私は自分に言い聞かせたの。『葉月、相手があなたを愛してくれなくても、あなたは自分を愛さなきゃダメ。前に進めない道だとわかってるなら、引き返す勇気を持ちなさい』って。今も、それとまったく同じ」葉月は、そっとカーテンを引いた。もう、あの車を見ることもなかった。「自分の身すら大切にできない人に、ど
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第18話

しかし病室に入ってきたのは、寧音だった。「ようやく目を覚ましてくれた。ほんとに、死ぬかと思ったんだから!」寧音は駆け寄り、泣きながら喜びをあらわにした。だが、彼女が晴樹の手を握ろうとした瞬間彼はその手を力強く振り払った。「なんで君なんだ?」寧音は、彼の冷たい眼差しに心をえぐられ、笑顔を消した。「誰に来てほしかったの?葉月?三年間も準備して、もう少しで社長に昇進するところだったのに、葉月のために、全部投げ出したってわけね。そんなに捨てて、葉月は振り向いてくれた?」「黙れ!」晴樹のこめかみに青筋が浮かび上がった。「君がいなければ、全部うまくいってたんだ」寧音は、笑っていたのに、そのまま涙を流した。「晴樹、本当に人間なの?私に手を出したのはあんたでしょ?葉月に対しては責任があるだけ、本当に結婚したいのは君だけだって、そう言ったのは誰?」だが、晴樹はまったく動じなかった。「被害者ぶるな。最初から自分の立場がどういうものか、わかってただろ?今さらこんな状況になって、誰のせいにするつもりだ」雷に打たれたかのように、寧音はその場で固まった。病室は、息が詰まるほど静まり返った。長い沈黙の末、寧音が歯を食いしばって言った。「ビザも切れる頃でしょ。私と一緒に帰国しよう。葉月のいない国で、二人でちゃんとやり直せばいい」晴樹は黙ったまま。口の中には血の味が広がっていた。だが彼には、葉月を失うことなどできなかった。過去のあの美しい日々を、どうしてあっさり手放せるものか。晴樹の無事は、夏帆から葉月に伝わった。寧音がグループに参加してからというもの、しばらく静かだったグループがまた騒がしくなった。そして今度は、寧音が事実を歪め、被害者ヅラをしながら投稿したことで、葉月と茂人が一気に非難の的となった。葉月と茂人はほぼ同時期に海外で仕事を始め、その直後に交際を公表。それに対し、晴樹が入院していたという話が添えられ、コントラストはあまりにも鮮烈だった。まるで、葉月が晴樹を「裏切った」かのように。【二年前、浅田と八木は上下関係だったんだよね?今またすぐに付き合ってるってことは、ずっと繋がってたんじゃないの?】【杉浦が一番可哀想だわ。八木に5年間も踏み台にされたんでしょ?】【こんな女と結
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第19話

写真には、晴樹が寧音を腕に抱いている様子が映っていた。カメラマンは構図を探しながらシャッターを切っている。葉月は、ゆっくりとした動作でメッセージを送った。【この写真は私が撮ったの。ウェディングフォトのカメラマンも、私が手配した人だった】【後で寧音からわざわざメッセージが来たわ。あなたのおかげで素敵な写真が撮れた、って】【晴樹、まだ証拠を出し続けてほしいの?】チャット欄はこの三つのメッセージで静まり返った。あれほど雄弁だった口たちも、まるで封じられたように黙り込んだ。しばらくしてから、晴樹がようやく返信を打ち込む。【葉月に非はない。悪いのは俺だ】葉月は冷ややかな目で画面を見ていた。遅すぎる謝罪なんて、見飽きるとただの嫌悪感しか残らない。彼女は周囲の反応になど興味もなく、グループチャットを即座に退出した。「俺のも退会させて。夫婦は一心同体だから」そう言って茂人のアカウントも、彼女の手でグループから外した。スマホを放り出すと、その代わりに茂人の手が添えられる。指を絡めて、茂人は柔らかく微笑んだ。部屋の中のぬくもりが、じんわりと葉月の心に染み渡っていく。彼女はふと自分の手元を見下ろし、自然と笑みをこぼした。再び晴樹に会ったのは、翌日の夕暮れだった。茂人と散歩から戻ると、晴樹が車のそばに立っていた。どれだけ待っていたのかはわからない。「少しだけ話せないか?今夜の便で帰国する。もうすぐ空港に向かわないと」痩せこけ、目のくぼんだ晴樹の声音は、驚くほど卑屈だった。葉月は茂人の方を見た。茂人は彼女の頭を優しく撫でた。「俺は先に上で晩ご飯作ってるから。お客の話が終わったらおいで。寒いから、長居はしないようにな」「うん」茂人が「客」と呼んだことに、葉月は何も返さなかった。彼女と茂人の親密さと信頼は、何のためらいもなく、自然にそこにあった。その光景は、晴樹の胸をえぐるように痛めつけた。茂人が家に入るのを見届けてから、葉月はようやく晴樹に向き直った。距離をしっかりとったまま。「話して。時間がないの」「俺たち、丸五年も一緒にいたんだ。君がいないなんて無理だ。まだ本当に君のことを思ってる。葉月、もう俺のこと、少しも気にしてないのか?」葉月の表情は変わらない。沈黙のまま。晴樹
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第20話

考えれば、ちょうど晴樹と葉月の結婚式の前日だった。晴樹の全身が強張り、唇が震えている。恐怖が極限に達していた。「は……葉月……」葉月も笑った。「おめでとう」その言葉が、晴樹の心を生々しく切り裂いた。彼は震えが止まらない。この瞬間、はっきりと悟った。自分の手で、すべてを壊した。葉月が自分を愛することは、もう二度とない。「晴樹、行きましょう。飛行機に間に合わなくなるわ」寧音が晴樹の腕を取る。葉月はその姿を見つめ、ゆっくりと言った。「あなた、本当にもう逃げ道はないのね」寧音の落ち着きは、その言葉で崩れかけた。葉月は口角を少し上げ、もう一度繰り返した。「おめでとう」そう言って、彼女は背を向けて歩き出した。寧音が共に沈むことを選んだのなら、それは彼女の意志。選んだなら、その結果もすべて受け入れるべき。葉月は足を早めた。茂人をこれ以上待たせたくなかった。晴樹と寧音が帰国してから、葉月は二人のことを一切気に留めなくなった。夏帆も再び名前を出すことはなかった。葉月のキャリアは順調そのものだった。たった九ヶ月で、彼女の名前は大学の「優れた卒業生」の欄に載り、茂人と並んでいた。休暇を利用して、葉月は茂人と共に帰国し、両親に挨拶した。茂人がどれほど準備を重ねたのか知らないが、彼の両親は彼女の好みも苦手なものも完璧に把握しており、最初から非常に打ち解けた空気だった。大晦日、家族と一緒に食べ終えたあと、茂人が彼女を連れて外へ出た。そして、花火を打ち上げる中で、葉月はふと声がこぼれた。「茂人、結婚しない?」茂人はその場で固まってしまい、手に持っていたスパークラーで火傷しそうになってから、ようやく我に返り、駆け寄ってきた。「本気で言ってるの?」葉月自身も、なぜあんなことを言ったのか分からなかった。でも、口に出してしまったその言葉に、後悔はまったくなかった。わざとおどけて言ってみた。「本気……かもね?」「いや、違っても本気にする」茂人の目元が赤くなっていた。「ずっと待ってたんだ。君がまだ迷ってるかもしれないって、怖かった。でも、葉月、君に先に言わせるなんて、俺としては情けないよ」そう言うと、茂人は片膝をつき、本当に指輪を取り出した。「葉月、俺と結婚して」
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