「藤堂さん、式の進行は変更なしで、当日、花嫁を別の人に変えるということでしょうか?」担当者の困惑した視線を受け、藤堂梨花(とうどう りか)はためらうことなく頷いた。「ええ、2週間後の式は予定通り行います。変更が必要な資料は、数日中にこちらからお渡しします」「かしこまりました。では、霧島様にもご連絡を……」「結構です!」言葉を遮るように梨花は強い口調で拒否した。担当者の驚いた表情を見て、彼女は努めて気持ちを落ち着かせ、説明を加えた。「彼は忙しいので、今後の結婚式に関することは全て、私を通して下さい」この結婚式は、霧島健吾(きりしま けんご)への最後の贈り物なのだ。贈り物は、最後の最後まで分からないからこそ、サプライズになるんだから……梨花はウェディング企画会社を出て、スマホでJ市からの切符を予約した。予約完了のメッセージが表示された途端、健吾から電話がかかってきた。電話に出ると、健吾の優しい声が聞こえてきた。「梨花、母さんが会いたいって言うから、夜、家に連れて帰って夕食を一緒にどうかって。それから、今晩、君に渡したいものがあるそうだ。何だと思う?」J市では誰もが知っていることだが、健吾は冷淡な性格で、常に他人と距離を置くような態度を取っていた。彼に言い寄る女性は後を絶たなかったが、彼は全ての優しさを梨花だけに注いでいた。今日まで、梨花もそう信じて疑わなかった。梨花の母親と健吾の母親は、非常に仲の良い親友同士だった。梨花と健吾は幼馴染として育ってきたのだ。しかし、梨花の母親が亡くなってから1ヶ月も経たないうちに、父親は継母を家に迎えた。継母の策略によって辺鄙な場所に送られた梨花は、気を失っていた状態から目を覚ますと、酔っ払った男に痴漢されていることに気づいた。慌てて、彼女は床に散らばっていた瓶を掴み、男の頭に叩きつけた。男は床で痙攣した後に動かなくなり、彼女が恐怖に怯えていると、健吾が軋むドアを蹴破って飛び込んできて、彼女を抱きしめた。その時の彼は、梨花にとって、まるで救世主のように現れた。救出された後も、梨花はその時の出来事が原因で、深刻なトラウマを抱えていた。健吾は毎日彼女に付き添い、有名な精神科医の診察を受けさせ、あの手この手で彼女を喜ばせようとして、ようやく梨花は
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