母は風真の戸惑った様子を見て、妙な違和感を覚えた。てっきり雪乃は風真と離婚の件をとっくに話したと思っていたが、風真の反応を見ると、まるで何も知らないかのようだ。もしかして、離婚したことも、すでに家を出てしまったことも、風真はまったく知らなかったのだろうか。「本当に何も知らなかったの?」母の問いに、風真のいつも涼やかで端正な表情が、初めて大きく崩れた。「俺が何を知ってるっていうんだよ?」彼は混乱していた。雪乃が遊学したいと口にしたのは覚えている。だが、それがまさか本当に彼のもとを離れることを意味しているとは、思いもしなかったのだ。雪乃は自分を命がけで愛しているはずじゃないのか?風真は理解できず、目の奥には茫然とした焦り、そしてどこか傲慢で身勝手な苛立ちが浮かんでいた。彼女は自分が好きだと言った。ならば一生、自分を好きでいるべきだ。少しでも離れることなど許されるはずがない。息子のその歪んだ執着を感じ取り、母はそっとなだめるように言った。「馬鹿な子ね、すべては終わったのよ。雪乃はもう出ていったわ。どうせ彼女のことを好きじゃなかったんだから、そこまで執着する必要ないでしょう?それに、綾音も帰ってきたじゃない。これであなたも願いが叶ったはずよ」母は息子が雪乃の離脱に気づきもしないだろうと思っていた。誰もが知っていたことだが、風真がずっと愛していたのは綾音ただ一人で、雪乃との結婚は表面的なものでしかなかった。だから雪乃がいなくなればむしろ好都合だろうと思っていたのだ。だが、風真の反応は予想を遥かに超えていた。風真自身もなぜこんなに動揺するのかわからなかった。自分が好きなのは綾音じゃないのか?なぜ今は雪乃のことで頭がいっぱいなんだ?「誰がそんなこと言った?勝手に俺の考えを決めつけるな!」風真は険しい顔をして、湧き上がる苛立ちを抑えつけるように言った。母までも雪乃が去ったと言うのだから、彼は完全に焦りを覚え、これまで感じたことのないほどの喪失感に支配されてしまっていた。三年間ずっとそばにいた雪乃を、彼はずっと「いてもいなくても同じ存在」だと思っていた。だが、彼女が突然消え去ったことで、自分が想像していた以上に雪乃の存在が大きかったことに初めて気付かされたのだ。雪乃がそばにいない生活は、ひどく不便で不
Magbasa pa