情事を終えた後、神宮寺景(じんぐうじ けい)は満足げに立ち上がり、力が抜けてぐったりとした神崎佳奈(かんざき かな)を優しく抱き上げて浴室へと運び、体を丁寧に洗ってあげた。そして再び彼女をベッドに戻し、そっと寝かせた。いつもなら、この時間には佳奈はもう目を閉じて眠っているはずだった。でも今夜は違う。景のために心を込めて用意した誕生日プレゼントを、まだ渡していなかったのだ。景がバルコニーで電話をしている間、佳奈はこっそりと隠しておいたプレゼント場所からプレゼントをそっと取り出した。赤いベルベットの小さな四角い箱。その中には、彼女がプロポーズに使おうと準備していた指輪が入っている。彼女は一歩ずつバルコニーへと歩み寄り、声をかけようとしたその時、突然そこで固まった。テーブルに無造作に置かれた景のスマホから、驚愕した男の声が響いた。「マジかよ!景、正気か!佳奈の心臓を詩織に移植するつもりなのか?」景は壁にもたれかかり、タバコをくわえたまま、落ち込んだ後ろ姿を見せていた。「詩織の病気はもう待ったなしだ。今のところ、佳奈の心臓だけが適合する。詩織が目の前で死んでいくのを黙って見ているわけにはいかない」佳奈が寝ていると思い込んでいるのか、彼は全く隠そうともしなかった。「お前、本気なのか?」電話の向こうから怒声が響いた。「景、俺たちは親友だろ?俺の話を聞いて冷静に考えてみろ。佳奈はお前と苦楽を共にした女だ。馬鹿な真似をするな、後で後悔しても手遅れになるだぞ!」景はタバコを消し、白い煙を吐きながら苛立ちを込めて言った。「俺が佳奈に死んでほしいと思っているとでも?一生共にいたいと願っている。だが、お前も知っているだろう、佳奈は肝臓癌の末期で、もう長くはない。どうせ遅かれ早かれ死ぬなら、死ぬ前に心臓を詩織に提供して、詩織を救う。命を一つ救うことに、何が悪いんだろう?」バルコニーに風が吹いていないはずなのに、佳奈は全身が冷え切っていくのを感じた。一週間前、結婚前の健康診断で、肝臓癌末期と診断された。このこと、彼女は誰にも言えなかった。幸い、その後病院の再検査で、診断書の誤りが判明し、自分は病気ではないことがわかった。だが景は、いつの間にかその誤診の報告書を見て、自分の余命が短い人間だと誤解していたのだった。
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