海市のみんなは知ってる。朝霧颯真(あさきり そうま)が私と結婚を決めたのは、仕方なく……だったって。この七年間、何度私が想いを伝えても、彼はいつも数珠を撫でてばかり。その瞳には、一度だって欲なんて浮かばなかった。でも、あの夜だった。彼が、心を寄せる女からの国際電話を受けたのを見てしまった。女の子の声を聞いた瞬間、あの冷静だったはずの彼が、明らかに動揺して……熱を帯びたその手には、欲望が溢れてた。次の日、小早川美苑(こばやかわ みその)が帰国。彼は躊躇いもなく私を車から突き落とし、自分は空港へ向かった。私は大橋から落ちて、記憶をなくした。その間に、彼があの女にプロポーズしたニュースが、街中を駆け巡った。そして、その翌日。彼はようやく現れた。病室で彼は言ったの。「結婚届は出してもいい、ただし――ふたり同時に妻にする」って。そのまま、三人の結婚式を発表してのけた。呆気にとられる私は、誠士の腕に抱かれながら、ぽかんと彼を見つめた。「……あんた、誰?」私の問いかけに、颯真は鼻で笑うように短く息を吐いた。 「また、何の茶番だ?」 そう言って私の手首を掴み、誠士の腕の中から無理やり引き離す。 突然の見知らぬ男からの接触に、私は思わず腕を引いた。 「誰よ、あんた。触らないで!」 その言葉を聞いた彼の目には、さらに冷たい色が浮かぶ。 「俺のことを知らない?七年も俺を追いかけてきたくせに? ひより、俺はお前と結婚するって決めた。美苑にもちゃんと式を挙げるってだけの話だ。 そこまで他人のふりをする必要があるのか?」 私は隣にいる「自称・彼氏」の御影誠士(みかげ せいじ)に視線を向けた。彼の目は嘲るように細められている。 「冗談もほどほどにしていただきたい。ひよりはあんたの妹よ?結婚なんて、ありえないでしょ」 颯真の目が鋭くなり、数珠を操る指先が早まる。 「まさか、こいつまで引っ張り出してくるとはな……でも、そんな手には乗らない。妹?それで結構。式には『妹』として出ればいい」 言い合いが続く中、美苑が病室に飛び込んできて、慌てて場を収めようとした。 「あんたの兄さん、また変なこと言って。家に帰ったら、私からきっちり言って聞かせるから。三日後の式には、妹として絶
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