顔を上げた瞬間、不意に誠士の唇が重なった。 彼は満足げに笑っていた。 「絶対に、後悔させないから」 そのまま、彼は私を新居へと連れて帰った。 すでに婚礼用にきちんと整えられていた家。 玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは彼のスキャンダルで噂されていた女優だった。 「姉さん、どうして来た?披露宴は明日だよ。今日俺の幸せ邪魔しないでくれる?」 「だってさ、うちの弟が十年も想い続けたお嫁さんが、どんな人か見ておきたくて」 彼女が最後まで話すのを待たず、誠士は強引に彼女を外へ押し出した。 世間には「女優と遊んでいる」と誤解されたが、 実際は彼女が自分の素性を隠していたせいで、誠士が庇って何の釈明もしなかっただけだった。 事情を早口で説明する誠士を見ながら、私は静かにうなずいた。 彼の目には、すでに熱を帯びた光が浮かんでいた。 その夜、私たちは互いを求め合い、波のように満ち引きを繰り返しながら、朝を迎えた。 「朝霧さん、昨日……樅山さんの母親の遺骨が、海市に改葬されたそうです!」 仏堂の前で、颯真は思わず手から数珠を落とした。 結婚式の現場では、あの遺骨のペンダントは見つからなかった。 何かがおかしい。 調べを進めるうちに、爆発が人為的だったことが判明した。 颯真は急ぎ海市へ向かおうとしたが、途中で大事な数珠を忘れたことに気づき、再び家に戻ることにした。 ちょうどその頃、仏堂で祈っていた美苑は、彼の祈りが通じたと勘違いして、自分も願をかけていた。 だが、彼女の口から出たのは――呪いにも似た本音だった。 「昔はあの人の私生児って立場が嫌で国外に逃げたけど、今はこうしてまた私を愛してくれるなんて……菩薩様、お願い。これからもずっと、私に夢中でいてくれますように」 その一言一句が、ちょうど帰ってきた颯真の耳に、はっきりと届いた。 「仏様……どうかひよりに最期まで惨めな運命を与えてください。颯真の未練なんて消し去って、これからは私だけを見て、私だけの言うことを聞くように――」 そう呟きながら額を床につけようとした、その瞬間。 背後から、氷のように冷たい声が響いた。 「留学中は、学業に集中するために連絡を絶ったって、言ってたよな?」 びくりと美苑の肩が震えた。 あの
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