Semua Bab 愛、終わりて悔いなし: Bab 1 - Bab 8

私が目を覚ますと、樹は泣きながらひたすら許しを請い、自分が間違っていたと繰り返した。その必死な様子は、私が本気で彼を見限るのを心から恐れているかのようだった。私には潔癖なところがある。一度裏切られた相手を、二度と信用することはない。でも、相手が樹となると、どうしても心が揺らいでしまう。頭の中で、幼い頃の思い出の樹と、今の目の前の彼が言い争いを始める。結局、過去の思い出が勝ってしまった。「……あの子とは、きれいさっぱり縁を切って。樹、チャンスはこれが最後よ」樹は興奮したように何度も頷き、私の目の前で北川茉莉の連絡先をすべて削除してみせた。けれど、目の前に突きつけられたこの一枚の写真が、強烈な平手打ちのように私の現実を打ちのめした。樹はまた私を騙したのだ。写真に写る、無数のキスマーク。昨夜、彼らがどれほど激しく求め合ったのか、想像に難くない。私は深く息を吸い、久しぶりに、ある番号に電話をかけた。「中島先生、半年前にお話しいただいた海外研修の件ですが、今からでも参加することは可能でしょうか？」「ああ、詩織か。半年前のプログラムはもう終わってしまったんだ。だが、もし君にまだその気があるなら、F国での研修プログラムが一つある。三年間、全寮制になるがな。……ところで詩織、妊活に専念するためにデザインの仕事はしばらく休むと言っていなかったかい？」結婚二年目から、双方の両親に子供はまだかと急かされるようになった。私はあまり積極的ではなかったが、樹は私のために、数年間そのプレッシャーから私を守ってくれていた。半年前、恩師である中島先生が、海外で著名なチーフデザイナーに師事できるまたとない機会があると教えてくれた。私はその朗報を樹と分かち合いたくてたまらなかったが、ちょうどその時、子供の件で両親からの電話にうんざりした顔で応対している彼を見てしまったのだ。それで、私はこの機会を諦め、妊活を優先することに決めた。半年間努力しても妊娠の兆候はなく、樹は私を気遣ってか、何度も「俺のほうに問題があるんだ」と言ってくれた。それなのに、茉莉は妊娠している。私は乾いた唇を舐め、電話口で答えた。「妊活は、もういいんです。自然の流れに任せることにしました」すぐに、中島先生から研修の申請書類がメールで送られてき

なぜか、樹の胸に言いようのない不安がこみ上げていた。この感覚は、茉莉が詩織の前に現れて騒ぎ立てた日にも感じた、不吉な胸騒ぎだった。茉莉は彼の上の空に気づき、不満げに唇を尖らせる。「樹さん、こんな時にぼんやりして、奥さんのことでも考えてるの？そんなに会いたいなら、今すぐ会いに行けばいいじゃない。どうせ私は、あなたにとって重要じゃないんでしょうから」樹は我に返り、また自分が杞憂に陥っているだけだと思い直した。クルーズ船は広大な海の上だ。詩織が星に飽きて部屋に戻っただけだろう。彼女がここから去るはずがないし、去る方法もない。目の前の女の蠱惑的な肉体に、樹は再び理性を失い、快楽に身を委ねた。彼がようやく詩織を探しにデッキへ向かったのは、それから二時間も後のことだった。しかし、デッキには詩織の姿はどこにもなかった。樹は眉をひそめ、あの胸騒ぎが再び激しく込み上げてくるのを感じた。もしかしたら、詩織は本当に部屋に戻っただけかもしれない。樹は逸る心を抑え、部屋へ駆け戻った。部屋の隅々まで探したが、やはり詩織の影は見当たらない。心臓が激しく脈打ち、普段の冷静沈着さは見る影もなく、思考が完全に麻痺していく。彼は手当たり次第に船員を捕まえては詩織を見なかったかと尋ねて回ったが、手がかりは何もなかった。「詩織、詩織……っ」樹は狼狽し、声がかすれた。彼は突然、あの夜、詩織が彼に言った言葉を思い出す。『樹、私を騙しているのなら、今、正直に話して。もし嘘をつき通すなら、私は二度とあなたを許さない。永遠にあなたの元から去るから』そんなはずはない。ここは海上だ。詩織が独りで去る方法などあるはずがないのだ。樹の目に涙が滲んでも、胸のざわめきは一向に消えなかった。その時、一人の船員が彼を見つけ、駆け寄ってきた。「お客様。先ほどのお連れ様からのお預かりものです。また、ご伝言がございまして、『桜井詩織は、もうあなたを必要としていない』とのことでした」樹は呆然とそれを受け取った。その携帯は、間違いなく詩織のものだ。しかし、あの言葉はどういう意味だ？ 詩織が、俺を必要としない？彼は船員の腕を掴み、声を荒らげた。「詩織はどこだ！彼女は今、どこにいるんだ！」船員は怯えながら、一方を指さした。「あちらのお客様でした

三年後、私は研修を終えて帰国し、ある著名なデザインコンペに参加した。偶然にも、コンペの開催地は故郷の雲市だった。慣れ親しんだはずの土地に足を踏み入れた瞬間、まるで知らない場所に迷い込んだかのような、不思議な感覚に襲われた。私と樹は、この人生でもう二度と会うことはないと思っていた。それなのに、三年後の再会がこんなにも早く訪れるとは。彼は、このコンペの特別ゲストだった。私がステージに立ち、自分の作品を紹介している間、彼は客席の最前列に座っていた。その強烈な視線は、針のように私の背中に突き刺さっていた。ようやくコンペが終わり、彼を避けて足早に立ち去ろうとした瞬間、太い腕に掴まれ、人気のない階段の踊り場に引きずり込まれた。間髪入れず、大きな影が覆いかぶさってくる。樹は両手を壁につき、私を彼と壁の間に閉じ込めた。いわゆる「壁ドン」の体勢だ。彼の目は赤く充血し、頬の筋肉が微かに震えている。絞り出すような、しゃがれた声が響いた。「……詩織。よくも、俺の前に戻ってこられたな。三年だぞ。この三年間、俺がお前をどれだけ探し回ったと思ってるんだ。心がないのか、お前は。一度も連絡をよこさないなんて……俺が、どれだけお前を……」そう言うと、彼は私の首筋に顔を埋め、子供のように嗚咽を漏らし始めた。「詩織、すまない。俺が、俺が本当に悪かった。……三年間、お前がいない時間は、長すぎた……」彼の両腕は私の腰に固く回され、まるで私が一瞬で消えてしまうのを恐れているかのようだった。今の彼の姿は、三年前、茉莉が私の前に現れて騒ぎ立てた日のことを、否応なく思い出させる。あの時も、彼はこうして私をきつく抱きしめ、泣きながら自分が間違っていたと言い、二度と過ちを繰り返さないと膝まずいて誓った。しかし、結果はどうだった？ 彼は結局、茉莉を諦めきれなかったではないか。三年。彼の子供は、今頃もう二歳になっているのだろう。私は樹を押し返そうとしたが、抵抗する気力さえ湧いてこなかった。しばらくして、私は静かにため息をついた。「藤堂さん、放して」「いやだ」彼は泣きじゃくりながら首を横に振る。「放さない。詩織、もう二度とお前を放さない。あのクルーズ船の夜のような過ちを、二度と繰り返させないでくれ」私は目を閉じた。三年前の激しい

樹は大きな衝撃を受けたようで、「違う」と何度も繰り返したが、その声には力がなかった。なぜなら、それらはすべて紛れもない事実であり、彼自身、反論のしようがなかったからだ。「詩織、俺が……俺が馬鹿だった。でも、俺が愛しているのは、ずっとお前だけなんだ。ただ、魔が差して、あいつに誘惑されて……」「何もかもを他人のせいにしないで、藤堂さん。あなたは聖人君子じゃない。あなた自身の弱さが、誘惑に負けたのよ。弁護士には、もう一度離婚届を作成してもらいました。期日が来たら、サインしてください。円満に、終わりましょう」そう言い終えると、私は部屋に入り、二度と彼に視線を送ることはなかった。離婚届は、翌日私の手元に届いた。しかし、樹は書類を受け取るなり、私の目の前でそれを引き裂いた。「サインなんかするか。詩織、三年でお前を取り戻せないなら構わない。俺にはまだ三十年、いや、一生分の時間があるんだ。必ず、俺が変わったところを見せてやる。だから……詩織、俺のことを見ていてくれ。なあ、俺たち、昔はあんなに仲が良かったじゃないか。一生離れないって、そう誓っただろう？」樹は目を真っ赤にし、過去の思い出に縋るように訴えた。私たちは、共に黙り込んだ。私と樹は、奇妙な堂々巡りに陥っていた。私が求めるのは離婚、彼が求めるのは復縁。私たちは、決して交わることのない二本の平行線のように、ただそれぞれのゴールに向かって進んでいた。その日、ホテルの外に樹の姿はなく、私は彼がついに諦めたのかと、安堵のため息をついた。しかし、樹のお母さんから電話があり、樹が入院したと知らされた。私が病院に駆けつけた時、樹は点滴を受けていた。彼の執拗なまでのつきまといに心底うんざりしていたせいか、この数日、彼の顔をまともに見ていなかった。今改めて見ると、彼は驚くほど痩せ、頬はこけ、目の周りには深い隈が刻まれている。一体どれだけ無理をしていたのだろう。彼は私に気づくと、安心させるように、力なく微笑んだ。「詩織、来てくれたんだな。……朝飯、食ったか？お前に届けようと思ったんだが、階段で倒れちまってさ。心配かけて、ごめん。……そうだ。お前、ずっと俺と離婚したがってたよな……サイン、したよ。離婚しよう」離婚届は新しく作成されたもので、財産分与の欄には、彼の資