天音が選んだ旅行先は、芸術の楽園と謳われる海外の小さな町だった。飛行機が到着したのは、既に夜の9時だった。一晩休んで翌日、カメラを持って外に出ようとした矢先、ポケットの中で携帯の着信音が鳴り響いた。まるで何かを予兆しているかのように。天音は着信表示を見て少し迷ったが、電話に出た。「おばさん」「天音」拓也の母親の声は、涙声に震えていた。「拓也が自殺未遂を起こして、今、一命は取り留めたんだけど、精神的に不安定なの。天音、来てくれないかしら?」天音は眉をひそめた。「何かあったの?」「ネットで拓也が叩かれてるの……」天音は拓也の母親に少し待つように言い、ツイッターを開いた。拓也の名前がトレンド上位に表示されていた。誰かが、拓也が他の女性に想いを寄せながらも天音と結婚し、公の場で何度も天音を貶めていた動画を投稿していた。さらに、彼が嘘をついて天音を騙し、ネットユーザーを利用して彼女を家に連れ戻そうとしたことも暴露されていた。最近何かと話題になっていた拓也。飛び降り騒動の後、彼に同情する声も多かったが、事態は一変した。非難の嵐が拓也のSNSアカウントに押し寄せた。【今日は珍しいことも見た。みんな見てごらん!一条家の御曹司が、妻を人前で罵倒した理由は、彼女が想いを寄せる女性からもらったネクタイをダメにしたからだって?】【ありえない。妻とパーティーに出席するのに、他の女からもらったブローチつけてるなんて、妻のこと人間扱いしてないでしょ?】【それだけじゃないわよ。この間、展覧会で火事があった時、この御曹司は想いを寄せる女性の絵を助けるのに必死で、妻の生死をまったく顧みなかった。おかげで神崎社長は死にかけたんだから】【一番むかつくのは、神崎社長がやっと目を覚ましたっていうのに、拓也がせがんで嘘の芝居を打って彼女を繋ぎ止めようとしたこと。同情を集めるためにわざとトレンド入りさせたんでしょ?心底むかつく。妻に逃げられて当然だ!】【復縁できないからって自殺未遂?本当に死ねばいいのに】ネットには様々な人がいる。悪意のある言葉はどんどんエスカレートしていった。ネットだけでなく、現実世界でも拓也は嫌がらせのメッセージや電話に悩まされ、自宅には怪文書などが送りつけられた。道を歩けば人々に指をさされ、ゴミを投げつけられた。あま
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